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スザンナ・タマーロ"心のおもむくままに"

2013-04-29 00:16:58 | 本たち
なんと重いのか、人の心とは。
自分の本性を見つめることは、どれほど恐ろしいことか。
人と人は、度重なるすれ違いから生まれる誤解、それぞれの置かれた環境と立場を考慮できず、保身ゆえの自己欺瞞、それらの負のスパイルが止め処なく受け渡されていく。
個人だけの問題ではない、個人の集合体である家族、地域社会、国など、人がいるところでは大小変わりなくそれは起こっている。

救いはあるのだろうか。
人は過ちを犯すものとして、それを認め反省して正すべき道を探っていくこと。
知識を総動員して想像をめぐらせ、心を尽くし他を思いやること。
他者を理解する手がかり、自分自身を客観視するためにも、言葉を注意深く選択すること。
自分と他者の存在を大切にすること。
どれも現実には難しく、机上の空論、おとぎ話の世界かと思われるが、心を強くそれをあえてしなければ救いはやってこない。
引き返すことが不可能なのだから、どこで間違いが起こり、問題は何かを突き止めなくては、よりよい未来は得られない。

老女の日記のような手紙に託したのは、己が罪とそれを引き起こした原因と向き合う赤裸々な自己解剖によって、未来を持つ孫娘の歩みが同じ轍を踏まないための道しるべだった。
偽りのない歴史を知ることで得られる教訓とでも言おうか。

この本は、実に重かった。
読むごとに、ずしりと心が重くなっていく。
人の心の脆さが、丹念に書き綴られている。
負のスパイラルを断ち切ろうとする潔く気高い決心が、救いの一条となってこの本を貫いている。
果たして、この境地に辿り着ける人はどれほどいるのだろう。
しかし、それこそが、人の世を救う手立てなのだと思うのだ。
我々は、人がこの世にいる限り、先の人を思い生きていかねばならない。
今だけを取り繕っていては、よくなることはありえないのだから。







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