goo blog サービス終了のお知らせ 

ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

火山のふもとで

2025-07-15 18:54:52 | 読書
松家仁之『火山のふもとで』



 10代の頃に読んでさっぱり面白くなかった小説を、20代になって読み返したらじんわり心に染みてきた。そんな経験があります。

 歳を取って得たものが物語の理解を深めるのでしょうか。


 『火山のふもとで』は、そんな小説かもしれない。

 少し歳を重ねてから読む方が、たぶんより理解できる。


 この小説を美しいと感じるのは、若い頃を振り返った時に、キラキラ輝いていたかつての時間を美しいと感じるのと似ている。

 当時の自分が、いかに若さであらゆることを乗り切ってきたのか気づき、懐かしく切なくなるのだ。

 細かすぎる描写は、少しうるさく感じて読んでいたけれど、それは必要なことだったとわかる。細部をはっきり覚えているくらい、眩しかった頃の出来事は忘れられないのだから。


 物語は、設計事務所に勤め始めた坂西徹の視点で語られる。

 所員13人の事務所は夏の間、浅間山の麓にある別荘「夏の家」に事務所の機能を移し、半分ほどの所員が合宿をしながら仕事に専念する。

 国立図書館のコンペが大詰めになり、設計室には緊迫した雰囲気があるものの、山のゆったりした空気、当番で丁寧に準備される食事など、心地の良い空間のように感じられる。

 「台所仕事や洗濯、掃除をやらないような建築家に、少なくとも家の設計は頼めない」と語る先輩所員の言葉に、避暑だけではない「夏の家」へ来るもうひとつの理由を想像する。


 最年少で新入りの坂西は、少しずつ仕事に慣れ多くのことを学んでいく。そして恋をする。


 若いときの恋だけが美しいとは思わない。けれども、その後の人生で折りに触れ思い出し苦い気持ちになるのは、若い自分がいたからだ。

 カバーのイラストを見ながら、この森を散歩する坂西と彼女を想像しつつ、20代の自分を思い出す。


『火山のふもとで』
松家仁之[著] 
牡丹靖佳[装画] 新潮社装幀室[装丁] 
新潮文庫



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 原野の館 | トップ | 本と歩く人 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

読書」カテゴリの最新記事