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烏鷺鳩(うろく)

切手・鉱物・文学。好きな事楽しい事についてのブログ

メキシコの異極鉱:Hemimorphite

2018-07-06 | 鉱物


まだ踏まれる前の霜柱のようである。
透明なうすい板状の結晶。氷を思わせる。手を触れるだけで壊れてしまいそうな、繊細な標本である。


この「異極鉱」、変わった鉱物である。結晶の両端が異なる形になっているのである。
例えば水晶は、「ダブルポイント」と呼ばれる単独の結晶を見てみると、両端はそれぞれ同じ形をしている。
異極鉱の結晶は、一方が板状の長方形、もう一方がくさび形のようなとがった形をしているのだ。



ご覧頂けるだろうか。角の取れた板状の部分と、くさびのように先が△になっている部分が見受けられる。


それでは、異極鉱について詳しい情報を。



異極鉱(ヘミモルファイト)は米国でかつてカルミンと呼ばれた2つの鉱物のうちの1つである。結晶の形に因み、“半分”と“形”を意味するギリシャ語hemiとmorpheからとって命名された。異極鉱は異なる形状の両端面を持った結晶をつくる。このような結晶形態を持つ鉱物は少ない。異極鉱はぶどう状、塊状、粒状、繊維状、皮殻状の集合体としても産出する。通常は無色あるいは白色であるが、淡黄色、淡緑色、明るい青色の色調を示すこともある。亜鉛鉱床の酸化帯に二次鉱物として生成する。よく発達した結晶の産地に、アルジェリア、ナミビア、ドイツ、メキシコ、スペイン、米国がある。日本では岐阜県神岡鉱山、宮城県細倉鉱山、大分県木浦鉱山から産出する。(『岩石と宝石の大図鑑』p.294)


この標本、2017年の池袋ミネラルショーにて購入したもの。「蛍石」さんのブースで、
「異極鉱ありますか?」
と尋ねたのだ。するとご主人と奥さんが
「異極鉱!気をつけてね!」
と、ちょっと悲鳴に近い声をかけてくれたのだ。まさか、探している人がいるとは思わず、1つだけ箱に入れてきたのだそうだ。奥さんは、探している人がいたのでとても嬉しそうな表情をしていた。そして、ティッシュをたくさん詰めて、壊れないように丁寧に包んでくれた。
その後、やや混雑した電車の中を、私は異極鉱をぶつけないようにしっかり守りながら慎重に慎重に帰宅したのである。




無事に家へと辿り着いた異極鉱。その繊細な姿は、暑くなってきた最近、改めて見つめていると、遠い冬の日の記憶を思い起こさせてくれる。氷のような透き通ったその姿は、ほんの少し、体感温度を下げてくれるような気がしてくるのだ。



【引用文献】
・『岩石と宝石の大図鑑』 青木 正博 翻訳 (誠文堂新光社 2007年4月10日)

トルコのクリソプレーズ(Chrysoprase)

2018-04-24 | 鉱物


宇宙に浮かぶ星雲の周りに、無数の若い星々が煌めいている。


水晶をまとった「クリソプレーズ」である。ハッブル宇宙望遠鏡が遠く遠くの星雲を撮影した写真を思わせる。グリーンとオレンジの雲がぐるぐると混ざり合い、分離し、新しい光が産み出されているかのようだ。


埼玉ミネラルマルシェにて購入したこの石は、トルコからやってきた。





裏側はこんな感じである。よく見ると、緑色の部分も、濃い緑と薄い緑が混在している。


クリソプレーズは青リンゴ色で半透明の玉随である。色はニッケルに起因する。クリソプレーズの中には、太陽光にさらされたとき色が薄くなるものがある。緑の色が薄いものを研磨した場合、高品質のヒスイと見間違えられやすい。ギリシャ人にもローマ人にも用いられた。・・・
この鉱物名は、ギリシャ語で“金色の西洋ニラネギ”を意味する“chrysos”と“prase”という言葉に由来する。もともとは色調が薄く黄色みがかったクリソプレーズに対して用いられた名称だったと思われる。(p.227)



この鉱物は「珪酸塩鉱物」というグループに属していて、このグループの代表的な鉱物は水晶である。他にも、玉随(カルセドニー)、カーネリアン、アゲート、ジャスパーなど、色とりどりの美しい鉱物がある。これらの化学組成は”SiO2”で共通していて、ニッケルやクロムといった鉱物がわずかに含まれる事で色とりどり、多種多様な鉱物を産み出している。




拡大してみてみると、水晶の透明な層が、クリソプレーズを包んでいるのが見える。透明な水晶を通して、緑色が見える。とても細かい水晶が表面を覆って、その無数の結晶の小さなポイントが光を反射している。



抹茶餡と茶色い餡が混ざり合った練り切りを、寒天でくるんで細かな砂糖をまとわせたかのようにも見える。
美しい好物がまたもや美味しそうに見えてしまってしかたがない。



【引用文献】
・『岩石と宝石の大図鑑 岩石・鉱物・化石の決定版ガイドブック』 青木正博 翻訳 (誠文堂新光社 2007年4月10日)

スタンプショウ2018 & 埼玉ミネラルマルシェ(3)

2018-04-22 | 鉱物
電車に揺られて大宮へ。いよいよ鉱物の祭典である。
その前に、駅の西口を出たところで「石のベンチ」を発見。座って上野で買ったかわいいパンを食す。そのパンがこちら。



その名も「おにぎりパン」である。中にはツナマヨがぎっしり入っていた。おいしい。しょっぱいものを食べて元気復活である。ちなみに黒いところは恐らく炭か何かの練り込まれた生地であった。




エレベーターを降りてすぐ、会場からの熱気と興奮がだだ漏れである。こちらはとても賑やかだ。年齢層が若干低めで女性が多いせいかもしれない。もちろん若い男性も年配のおじ様も、色んな方々が石を探しにやってきている。
何というか、京都の葵祭を見た後に、岸和田のだんじりを見物に来たかのようなギャップである。どちらも見に行った事はないのだが。


今日のお目当てだった、トルコバザールさんに向かう。こちらの店主さんは、なんと、あの有名鉱物雑誌『ミネラ(No.51)』に寄稿されている。「特集②」の「シルクロードの国TURKIYEのトルコ石とアゲート」(p.34-37)という記事である。
こちらの記事では、主にトルコ産のアゲートを紹介している。ご存じと思うが、トルコでトルコ石は採れない。昔、トルコ経由でヨーロッパに紹介されたため、「トルコ石」と呼ばれるようになったのである。
面白かったのは、アゲートやカルセドニーなど、色によってどこが産地なのか詳しく書いていらっしゃるところだ。またトルコ国内の石事情も織り交ぜてある。なにより、写真のアゲート(瑪瑙・めのう)が美しい。緑とオレンジの層に半透明のカルセドニーが入り込んでいる。
私はアゲートが大好きなので、この号の『ミネラ』はとっても面白かった。
さてさて、何が目当てだったかというと、実はアゲートではない。こちらである。



左の緑色っぽい石である。これは何かというと、細かい水晶の結晶を身にまとった「クリソプレーズ」なのだ!表面がキラキラときらめいている。前回の浅草橋ミネラルマルシェで迷ったあげく、買いそびれ、その後思いが募った石である。まだ売られていたので良かった。こちらはまたの機会にじっくりご覧頂こう。
右側の白っぽい石は「デンドリティック・オパール」の原石だ。白い地に黒い模様が、まるで墨絵のように樹木や景色に見えてくる。カボションや磨き石の形で研磨されているのをよく目にするが、こういった原石の状態は初めて見た。面白い石が2つも見つかった。


ところで、この日、ほんとにツイていたのだ。石の方も大収穫だったのである。量ではない。質の話である。面白い石がこの後も続々と見つかったのである。


続いて、ふらふらと会場を周り始める。もうごった返しである。会場が狭くてクーラーが全然効いていないようだ。大汗かき子になりながら、順番にブースを見ていく。
ふと、日本産の鉱物を集めた店の前で、奇妙な形の水晶が目に入った。



左側の小さな水晶、「キャンドル・クォーツ」と呼ばれているそうである。大きめのポイントと呼ばれる結晶に、小さなポイントが肩を寄せ合うようにしてくっついているのだ。かわいい。お値段もかわいかった。これも結晶のでき方についてなど色々と興味がわいてくる標本である。
右側の宇宙ステーションのような石は「アラゴナイト(霰石)」である。特徴的な六角柱の結晶が大小寄り集まっている。「スタートレック」なんかに出てきてもおかしくないような形をしている。こちらはまた別のお店で発見した。


「ミネラルマルシェ」は「ミネラルショー」よりも規模は小さい。小さいながらもすごい熱気と活気である。押し合いへし合いの大騒ぎなのである。
展示即売されているのも、標本だけではない。きれいに磨き上げられた宝石の「ルース(裸石)」や、ブレスレットやネックレスに使うビーズ、ハートや卵の形に磨かれた石、様々な石で作られたアクセサリー・・・。そのままの石や加工された石が所狭しと並んでいるのである。


「鉱物女子」達がきれいでかわいい石を物色しているのを横目に、掘り出したばっかりのちょっと小汚くも見える石なんかを物色しているのが何を隠そう、この私である。
この日の埼玉ミネラルマルシェにおける漁獲をご覧頂こうか。



色が、なんというか地味に見える。しかし、である。ブログ記事一回分では語りきれない魅力をそれぞれの石が持っているのだ。


あ、ちなみに私は戦利品という言葉があまり好きではない。辞書を引いて頂ければ分かるが、なにも誰かと戦いに行くわけではないのである。同じ趣味を持つもの同士、好きなものに対面する喜びという暗黙の連帯感を味わいに、こうしたイベントに出かけるのであるから。だからあえて、「漁獲」という言葉を使わせて頂く。まだこっちの方が平和的であるから。魚にとっては穏やかではないと思うが、英語の”haul”の訳語である。
私はただの仏頂面した平和主義者なだけである。


閑話休題。続いて汗をふきふき、なじみの石屋さん・ CORO CORO STONEさんのブースへと向かう。店長のルンルンさん(ブログのHNである)は実に面白くて優しい人なのだ。見た目は厳つい、心の優しい人である。いつも石について色んなお話をさせてもらって長居をしてしまう。時間を忘れて石話に盛り上がるのである。
そして面白い石が必ず見つかる。



左側の標本、白い母岩(しまった!何の鉱物かお聞きするのを忘れた!)に赤いスピネルが見え隠れ。かわいい!しかもこれ、ブラックライトを当てると蛍光するのだ!!
いずれ「蛍光鉱物特集」でも組んでご紹介したいと思う。

そして右側が極めつけに変わっている。別のお店で、作業着を着たおっちゃんが売っていた。「ぬけがら水晶」と呼ばれる石である。専門的には「仮像」もしくは「仮晶」と呼ばれている。どんな鉱物かは今後をこうご期待。すごく興味深い標本なのだ。




最後に目にとまったのは「オーシャンジャスパー」。マダガスカルで採れる有名な鉱物である。濃い緑の地に白い小さな点々が浮かび上がる。夜桜を眺めているような感じである。割れ目にキラキラとドゥルージーが覗く。
この石も色々面白いいわれがあるので、是非ご紹介したいと思っている。


長いようで短かった一日であった。短いようで長かったのかもしれない。
切手の祝祭と鉱物の祝祭、同時に味わうというこの奇跡の一日は、お好み焼きとビールで締め括られることとなったのである。乾杯!

モロッコの褐鉛鉱(Vanadinite)

2018-04-16 | 鉱物


杏の砂糖がまぶしてある白と黒のマーブルチョコレートケーキ。


最初にこの標本を見た時に、見た目の美しさから味覚までが刺激されたようだ。なんだか、褐色の褐鉛鉱(バナジン鉛鉱とも)が、砂糖菓子がきらめいているように見えたのだ。つまり、美味しそうに見えたのである。鉱物だけど。ブルガリアの鉱物屋さんのブースで、色とりどりの標本の中、ひときわきらきらと輝いて見えた。




雪の降り積もった黒い枝に、紅梅がほころび始めた、というようにも見えてくる。梅の花の香りが漂ってきそうである。


褐鉛鉱の結晶自体はどれも小さい。けれど、ルーペで拡大すると、六角形の板状の結晶がはっきりと確認できる。白いところは重晶石。「砂漠のバラ」でおなじみの鉱物だ。黒い部分は鉄か何かだと思われる。





赤・白・黒。モロッコの大地からやってきたお菓子の様な鉱物だ。だが、思わずぺろっとなめてはいけない。鉛の鉱物だからよろしくない。でも、「美味しそう」と思わずにはいられない。美しいけれどちょっと危険な鉱物。見る度に私の味覚と嗅覚を刺激してくれる。



【参考文献】
・『岩石と宝石の大図鑑』 青木 正博 翻訳 (誠文堂新光社 2007年4月10日)

秩父鉱山の車骨鉱(Bournonite)

2018-04-11 | 鉱物
2017年の東京ミネラルショー(池袋)で、秩父鉱山のブーランジェ鉱と車骨鉱の共生標本を手に入れた。買ったのではない。なんと福引きで5等を当てたのだ。くじ運などあまり縁のなかった私が、よりによって秩父鉱山の鉱物を当てたのだ。これはすごい事である。「秩父鉱山の」というところが、2017年の「鉱物奇跡の年」(個人の感想)を象徴する。これが秩父鉱山に縁のあった出来事その2である。


ブーランジェ鉱と車骨鉱の組み合わせというのがやはり秩父鉱山らしい。何が言いたいかというと、単に自慢したいだけである。


ただしこの標本、車骨鉱が極小で、普段私はこれをルーペを使って観察しながら楽しんでいる。ルーペ無しではご覧になってもお気づきにはなるまい。



ほれ、この通り。緑色の矢印の先にその鉱物は存在する。(おそらく)方解石の白い谷間にちょこんと、遠慮深くくっついているのだ。ブーランジェ鉱はちょっとけばけばの立っている灰色の部分だから何となく肉眼でも確認できるのだが、車骨鉱の車骨具合をご紹介したいにも、スマートフォンのカメラでは限界がある。


というわけで、こんな物を買ってみた。



3コインショップにて5コインで購入。スマートフォンのカメラレンズにクリップで取り付ければ、接写、魚眼、ワイドの撮影が可能になるという優れものである。その優れ具合をさっそく試してみた。



なんと、車骨鉱の車骨たる所以である、歯車の刻みのような部分がはっきりと撮影できたのだ!ようやく私の自慢の車骨鉱が日の目を見たというものである。


それでは、車骨鉱について。
科学組成:CuPbSbS3
フランスの鉱物学者デ・ボーノン(J. L. de Bournon)にちなんで命名された。鉛、銅、アンチモン(Antimony)の硫化物で、重く黒い結晶の集合体や、十字形の透入双晶として産出する。特徴的な透入双晶の形から、歯車状の鉱石という意味の俗称を持つ。日本名はこの俗称の翻訳である(『岩石と宝石の大図鑑』p.144)


というわけで、上の写真は車骨鉱を真横から撮影した形になっている。歯車を横から見ているとご想像頂きたい。


おそらく、この辺りで、「車骨鉱」で画像検索をかけた方々がいらっしゃるであろう。


たとえ肉眼では捕らえられないほどの極小標本でも、私にとっては大事な宝物の一つである。今後もルーペ片手に観察を楽しむ事にしよう。



【参考文献】
・『岩石と宝石の大図鑑』 青木 正博 翻訳 (誠文堂新光社 2007年4月10日)