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烏鷺鳩(うろく)

切手・鉱物・文学。好きな事楽しい事についてのブログ

日本初の恐竜切手:「ふるさと切手 福井」1999年

2018-04-29 | 切手


肉食恐竜ドロマエオサウルスの群れが、一頭のイグアノドンをまさに襲おうとしている。
奥にはイグアノドンの群れが川を挟んだ左側にたたずんでいる。ドロマエオサウルス達は群れから離れた1頭のイグアノドンを見逃していない。数匹で襲おうとしている。
イグアノドンは果たしてドロマエオサウルスの餌食となってしまうのか?


緊迫した一瞬を捕らえた、躍動感溢れる図案である。
「世界初の恐竜切手」である「ルーフェンゴサウルス」を含む古生物切手「特22」が中国で発行されたのが1958年。遅れること41年にして日本でも恐竜切手が発行された。1999年という年は日本での恐竜発掘ブームが高まり始めた時期である。「ふるさと切手 福井」は恐竜王国・福井で発見された恐竜たちを図案化している。


日本郵政のHPには次のような説明が載っている。

イグアノドンは、全身9m、高さ5m、体重5tにも及ぶ草食恐竜であったとされています。肉食恐竜からの攻撃を防ぐため、群れで生活していたと考えられています。名前は、「イグアナに似た歯」の意味にちなんで命名されたものです。
ドロマエオサウルスは、長い尾、後足の2番目の指の大きな爪、長い腕と鋭い爪のある3本の指をもった小型の肉食恐竜であったとされています。走るときや獲物を襲うときには、長い尾でバランスをとって敏捷に動き、集団でも狩りをしていたと考えられています。名前は、「走るトカゲ」の意味にちなんで命名されたものです。
福井・石川・富山の北陸三県と岐阜県にかけて分布する手取層群は、日本の恐竜化石が最も多く産出されています。その中でも勝山市を中心として福井県は、国内で発見された恐竜化石の約8割を産出しています。
また、平成12(2000)年には、「恐竜エキスポふくい2000」が開催されるとともに、全国初となる恐竜博物館の開設も予定されています。


ここで、「なぜ有名なフクイサウルスとかフクイラプトルの切手にしなかったのか?」という疑問をお持ちになった恐竜ファンがいらっしゃるであろう。
切手には「イグアノドン」と「ドロマエオサウルス」と記されている。
しかしながら、実はこの切手、その「フクイサウルス」と「フクイラプトル」を図案化している可能性が非常に高いのではないかと思われるのだ。


どういうことかというと、まず、図案の「イグアノドン」に注目してみよう。
福井県によって、2017年までに4回の恐竜化石発掘調査が行われている。「第一次恐竜化石発掘調査」が行われたのが1989年~1993年である。この時の調査でイグアノドン類を初めとする300もの恐竜化石や足跡化石が発見された。
中国から専門家を招いて1年にわたるクリーニングや種の同定作業の結果、1995年、イグアノドンの全身骨格が復元された。
頭部の上顎骨の構造に特有生が見られたため、このイグアノドン類の化石は2003年に、新種の「フクイサウルス・テトリエンシス」という学名が記載されることとなる。
つまり、化石が発見されたのは1989年~1993年、学名「フクイサウルス・テトリエンシス」が記載されたのが2003年。切手が発行されたのは1999年であるから、イグアノドン類の化石を「フクイサウルス」と呼べるようになったのは、切手の発行の後なのである。
ちなみに福井県ではもう1種イグアノドン類・「コシサウルス・カツヤマ」が発見されているが、これは2008年発見なので図案のイグアノドンの候補からは除外できるだろう。
というわけで、切手のイグアノドンは正式には「フクイサウルス」である可能性があるのだ。


続いて「ドロマエオサウルス」である。こちらはやや複雑である。
その辺の説明が『世界に誇る!恐竜王国日本』に詳しく載っている。

1988年に初めて発見された化石はカギ爪部分だ。最初に見つかった露出部分は爪の一部だけだったが、クリーニングしていくうちに、長さ10cmもの大きさがあることが判明したのである。当初はこの湾曲した爪を、後肢のものと誤認したため、ヴェロキラプトルやデイノニクスなど、ドロマエオサウルス科の小型肉食恐竜の仲間と考えられ、地名にちなんで、「キタダニリュウ」の愛称がつけられた。その後、数々の部位の化石標本が揃うにつれ、カギ爪は前肢のものであることが分かり、上顎の歯が原始的なティラノサウルス類に似ていることや、大腿骨にジュラ紀型の食肉竜下目の特徴が見られることが判明。前期白亜紀とジュラ紀の獣脚類の特徴を併せ持つ、アロサウルス上科に属する新種と修正されたのだ。(p.48)

「フクイラプトル」という学名記載がなされたのが2000年である。こちらも学名記載は1999年の切手発行の後。さらにその後、実はドロマエオサウルスではないという説が出てきたということになる。

※ドロマエオサウルスはヴェロキラプトルやデイノニクスなどが属する「マニラプトラ類」というグループに属しているが、これらのグループとアロサウルスの含まれる「カルノサウリア類」というグループは全く別のグループである。
「マニラプトラ類」から「カルノサウリア類」への変更というのはかなり大きな変更となるのだ(『恐竜学入門』p.196)


整理してみると、イグアノドンとドロマエオサウルスともに、
・化石の発見
   ↓
・切手の発行
   ↓
・正式な学名の記載(新種としての認定)
という流れになっている。正式な学名を記載される前だから、「イグアノドン」類と「ドロマエオサウルス」科という、いわばざっくりした名前しか切手に記載できなかったのだろうと推測できる。


結果的に「ふるさと切手 福井」は「フクイサウルス」と「フクイラプトル」の切手であると言うことができるのである。
しかしそうなると、「ドロマエオサウルス」と図案に記載しているのは、実は「間違えだった」ということになってしまうのだが・・・。 ちなみに、日本郵政のHPにはこの切手の説明として、「ドロマエオサウルスは、長い尾、後足の2番目の指の大きな爪」と、カギ爪が前肢のものだと確認される前の記述が載っている。


恐竜切手のこのような「間違い」というかその後の研究による「実は○○でした」的な話は決して珍しいものではない。有名な「ブロントサウルス」で「実はアパトサウルスでした」というのはごろごろ転がっている話なので、福井の切手に関しても、なにも目くじらを立てるような事案では決してないのである。


恐竜研究は日進月歩である。
かつては「日本には恐竜はいなかった」、とする説が当たり前のように一般的だった。
それが全国から多種多様な恐竜の化石が次々に発見されている。こんなわくわくする発見が日本でなされるとは、少し前まで想像のつかなかったことなのだ。


この「ふるさと切手 福井」もそんな恐竜研究史の一端を垣間見られるという意味では、「日本最初の恐竜切手」という意味以上の物語が含まれているのである。



【参考サイト・文献】
・日本郵政 
http://www.post.japanpost.jp/kitte_hagaki/stamp/furusato/1999/0222/index.html 
・福井県立恐竜博物館 https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/dino/excavation/ 
・『恐竜学入門』 Fastovsky, Weishampel 著、真鍋真 監訳、藤原慎一・松本涼子 訳 (東京化学同人、2015年1月30日)
・『世界に誇る!恐竜王国日本』(宝島社 2017年2月28日)

日本初の古生物切手:「国立科学博物館100年」 1977年

2018-04-26 | 切手


「フタバスズキリュウの骨格復元図と星座に国立科学博物館」(「さくら日本切手カタログ」p.50)。
フタバスズキリュウで図案が斜めに区切られて、青とピンクで塗り分けられている。星座というのは、「カシオペア座」で、博物館のすぐ上の星は「北極星」だそうである(「塩屋天体観測所」)。デザインがとても素晴らしいと思う。ロマンを感じる。「国立科学博物館」を訪れた時に感じた、わくわく感、憧れやロマンといった印象が全てこの切手デザインに集約され表現されている、と言っても過言ではない。


ところでお気づきと思うが、タイトルは「日本初の古生物切手」としてある。わざわざ「古生物」としている。
フタバスズキリュウは日本で発見された「首長竜」という生物である。「竜」と付くけど、これ、恐竜ではない。
この切手を「日本初の恐竜切手」などと書いてあるサイトが散見されるが、私は声を大にして言いたい。

「日本初の恐竜切手」はこれ



じゃないからね!! 日本初の「古生物切手」だからね、これ!! フタバスズキリュウは首長竜で、恐竜じゃないからね!!

「日本初の恐竜切手」はこっち



だからね!! 「ふるさと切手 福井 1999年」だからね!! くれぐれも宜しくお願いしたい!!


幾分すっきりした。


そういうわけで、首長竜というのは何かというと、「絶滅した水生爬虫類」なのである。恐竜とは別の種なのだ。
ネッシーのモデルで有名な、あのプレシオサウルスもこの首長竜のグループに入る。よって恐竜ではない。「サウルス」と付くけど恐竜ではない。「サウルス」というのは「トカゲ」と言う意味である。
他にも、イクチオサウルスという、イルカをやさぐれた感じにした生き物がいた。「魚竜」というグループに属する。これも「水生爬虫類」であり、「サウルス」といえど恐竜ではない。
ちなみに「プテラノドン」という有名な古生物がいるが、これも「空飛ぶ爬虫類」である。ただ、こうした絶滅した爬虫類も含めて便宜上「恐竜」と呼んだりしている場合もあるから、さらにややこしい。
無難に「古生物」とした方が良いのかもしれない。


かくいう私も、恐竜でないものが含まれている切手シリーズを「恐竜切手」と呼んでいる。恐竜がほぼメインと考えられる場合には、やむなく「恐竜切手」と呼んでしまっているのだ。
私の信条として、三分の一以上が恐竜でないシリーズの場合は「古生物切手」と呼んでいる。一応、恐竜とそれ以外の生物達それぞれに対して気を遣っているのだ。彼らだって、それぞれ違った特徴があるのに「恐竜」という呼び名で十把一絡げにされたら、気分も良くないと思うのだ。メジャーなものに吸収合併されそうになるマイナーな存在達にも敬意を表したいのである。


フタバスズキリュウは全長7m。1968年、福島県「いわき市の大久川河岸に露出していた双葉層群入間沢部層から、当時高校生だった鈴木直氏が発見した大型の水生爬虫類」(『世界に誇る!恐竜王国日本』p.82)である。白亜紀後期に生息していた。ティラノサウルスやトリケラトプスとほぼ同時代の生物だ。
なんと、学名に正式に記載されたのは発見から38年後の2006年なのだそうだ。新属新種として「フタバサウルス・スズキイ」と記載された。

エラスモサウルス科のフタバスズキリュウは、他の種類と比べると目と鼻の間が離れていることや、頸骨が長いなどの特徴を持っている。共産化石として、大量のサメの歯が発見され、一部は鰭脚の付け根に刺さっていたことから、サメによる攻撃、あるいは死骸が捕食されたものと考えられている(p.82)。


首が胴体よりも長い、という個性的なフォルムで海の中を泳ぎ回っていた。主に魚やアンモナイト、オウムガイなどを食していたとされている。


切手の図案のフタバスズキリュウは優雅に空を舞っているかのようにも見える。どんな風に海の中を泳いでいたのか、想像がふくらむ。



【参考サイト・文献】
・「塩屋天体観測所」 http://stelo.sakura.ne.jp/stamp/museum.htm 
・『さくら日本切手カタログ2019』(公益財団法人 日本郵趣協会 2018年4月20日)
・『世界に誇る!恐竜王国日本』(宝島社 2017年2月28日)

スタンプショウ2018 & 埼玉ミネラルマルシェ (2)

2018-04-21 | 切手


ディーラーズ・ブースのある5階は結構独特な空気が流れている。皆さん、お目当ての郵趣品のつまったファイルや箱の中を黙々とチェックなさっている。
売られているのは切手ばかりではない。使用済みの封筒、葉書、風景印などもたくさん見受けられた。FDCという、初日印(切手の発行されたその日に押される消印)をご覧になっている方々もいらっしゃる。


ロータスフィラテリックセンターさんのブースが出ているのでご挨拶に。
「こんにちは」とお声をかけると、
「ああ、プルーストと恐竜の」
と、覚えて下さっていた。
「恐竜ありますか?」
と尋ねると、
「うちでは絶滅しちゃったんじゃないかな」
とのお答え(笑)。
この日は主に手彫りの切手(戦前のすごく古くて貴重な切手)を出していらっしゃっていた。玄人向けの出品である。私は隅っこの方の席で、外国切手のぎっしり入った箱を物色する。
様々な切手や、海外からの郵便物と思われる使用済み封筒、FDCなどが何百という数つまっている。これは探し出すのに時間がかかる。
でもそれが楽しいのである。「宝探しみたいだな」とうきうきしながら漁ってみる。お隣に座っていた紳士は、読み込んでぼろぼろになったカタログを片手に、なにやら玄人向けの品をご覧になっていた。そういうの、かっこいいなあ、と憧れてしまうのである。いつか私も、玄人っぽい趣味に移行する日があるのだろうか。いや、当分恐竜切手かもしれないな。でも、そういう玄人っぽい世界を機会があったら覗いてみよう。


と、未使用の小型シート発見!
衝撃!!植物食恐竜が襲われている図・・・。こちらも、ご紹介するのは後でのお楽しみにしよう。


この後5階の会場をぐるっと一周り。アメリカの作家切手を発見したり、格安の沖縄切手を発見したりと、もはや一人お祭り騒ぎである。

切手で満腹になったところで、再び4階の会場へ向かおう。
スタンプラリーをしていたので、思わずコンプリートしてみる。会場内をぐるっと見学すれば自然と8つのスタンプを集める事ができるという仕組みだ。
今年のキャラクターは「うちのタマ知りませんか?」。懐かしい。子どもの頃文房具などの関連グッズを集めた覚えがある。タマ&フレンズ8匹を捕獲。コンプリートの景品は、オリジナルシールである。



どこに貼ろうかなあ?などと思ったのもつかの間、これもストックブック行きになる。私の場合、死蔵が基本であるから。なんでもきれいな状態でとっておきたいのである。ちなみに左側のミルキーは福引きの5等を当てて頂いたものだ。5等にも縁があるのか?


切手の展示作品を拝見した。例えば「航空機の歴史」を、切手の図案を並べて説明したり、「稲作の工程」を切手で説明したり、切手とその図案を描いた葉書などと、その図案に関係のある場所などの記念品を一緒に飾ったりするのである。いわば、「切手を用いた芸術表現」である。どれも興味深い作品ばかりだった。私は特に「フクロウ」をテーマにした作品がいいなと思った。
いつかやってみたいなあ、と思っている。


地味に楽しいワークショップが開催されている。しかも、公式ガイドブックを購入すると、無料で体験できるワークショップが2つも用意されている。
まずは気になっていた「缶バッチ作り」を体験してみる。好きな切手を1~2枚選ぶと、缶バッチの機械にガッチャンと挟んでくれてできあがりである。なんと100円で体験できちゃう。静かに楽しい。



一番最初にぱっと目にとまったのが「蟹工船」切手だった。ちょっと前に作品を読んで大変興味深かったので、何かの縁だと思い、これにした。文学と切手の夢のコラボである。バッチになると結構存在感がある。デザイン的にもなかなか素敵にできたのではないだろうか。わーい、である。さっそくバッグにつけてみた。


無料体験の一つ目、帰宅してからが意外と盛り上がった「使用済み切手つかみ取り」コーナーである。ガイドブックを持っていると、100グラムまでごっそり頂けるというかなりお得感のあるイベントである。楽しい。ごっそり100グラムはこのぐらい。



結構な枚数である。あとで、ぬるま湯につけて延々と剥がす、というのをやってみよう。1日では絶対終わりそうもない量である。帰宅してから見てみると、結構古いものから最近のものまでバラエティー豊富であった。


「ピンセット体験」というのも無料でできた。切手専用の、先が平たくなっているピンセットを使って、好きな切手10枚(使用済み)を黒い台紙のシートの中に入れていく。「ああ、こんな切手もあるのだね」と、意外と盛り上がる。私は「変形切手」を中心に集めてみた。こんな感じである。



実は日本の切手はあまり詳しくないので、過去にこんな面白い形の切手が出ていたということを、全然知らなかったのだ。新しい発見である。後で「さくら日本切手カタログ」で発行年などを調べつつ、2倍楽しむ予定である。


公式記念グッズのうち、「タマ&フレンズ」のフレーム切手を購入し、開場を後にした。



こうして私は「スタンプショウ2018」を「味わい尽く」したであります!(byケロロ軍曹)


せっかく浅草に来たのだから、「神谷バー」で「電気ブラン」と「煮込み」でも頼んでお昼にしよう、と前日まで思っていたのだが、摩訶不思議な現象が起きた。お腹が空かないのである。この食いしん坊の私がである。
「切手で満腹に」なる、と先に述べたが、正にそれが事実となってしまった。気付けば4時間近くが経過している。実際の感覚ではその半分しか経っていない。


埼玉ミネラルマルシェは14時開場である。今日は祭のはしごであるし、別に急ぐ理由はないはずだ。煮込みだって頂けたはずなのだが。


上野駅に着いたところで、一休みしてコーヒーを頂く。この日は初夏の陽気だったため、「アイスカラメルコーヒー」が体に染み渡る。ちょっと苦めの甘さが歩き回った疲れを癒してくれたのか、心身共にすっきりしたようである。
と、小腹が空いてきた。「神谷バー」に寄らなかった事を後悔しつつ、美味しそうなパンを発見したので購入。


取り敢えずは大宮駅へと向かう。目指すは大宮ソニックシティである。鉱物の祝祭が待っている。というわけで、次回へ続く。

スタンプショウ2018&埼玉ミネラルマルシェ(1)

2018-04-21 | 切手


スタンプショウ2018へ行ってきた。それだけではない。同日、埼玉ミネラルマルシェにも行ってきたのだ。切手の祭典と鉱物の祭典が同期間(2018年4月20日~4月22日)に開催されたのだ。いわば「祭のはしご」である。盆と正月がいっぺんに来たのと同じである。すき焼きの後に最高級のステーキを出されたと想像して頂いても結構である。
何が言いたいかというと、私にとってすっごく幸せな一日だったということなのだ。


「切手趣味週間」の始まりである郵政記念日・4月20日に始まるというのは縁起が良い!と勝手に思い、この日を心待ちにしていたのである。というわけで、浅草まで出かけていった。産業貿易センター・台東館が会場である。
今日は夏日になるとの予報もあって、暑い。早くも日ざしがじりっとする。10時開始だが、早めに着いたので開場まで並んだ。
普段は飲食店の行列とか人がたくさん集まる所とか、全力で避けている私だが、スタンプショウとミネラルショウだけは早めに行って並ぶ。並んで何か良い事があるかというと、別にそこまでの良い事は無いのだが、並ぶ。列に静かに並んで気持ちを高める。ブースへ行く順番や何を探すかのイメージトレーニングを入念に行い、準備をするのである。


いよいよ開場である。ディーラーズ・ブース(切手屋さんの出店の事)のある5階へと急ぐ方々を見送り、義理を果たしに4階の展示スペースのある会場へと向かう。まずは主催者ブースでご挨拶である。本当にご挨拶したわけではない。公式ガイドブックを購入して4階会場をぐるっと一周してみたのだ。


様々な展示やイベント、ワークショップが開催されている。その中でちょっと楽しみにしていたのが、「外国郵政ブース」である。チェコ、スロベニア、カナダ、中国の郵政が、記念切手や郵趣品(葉書や郵便関連グッズの事)の販売を行ったり、押印サービスをしてくれるのである。しかも各国、3日間それぞれ異なる種類の消印を用意してくれているのだ。
私の目当てはチェコ郵政である。ミラン・クンデラの故郷でもあるチェコには、何だか憧れというか、ちょっと思い入れてしまうところがあるのだ。
というわけで、チェコのかわいい犬の切手を購入した。消印が犬だから、犬の切手にしてみた。



かわいい!切手の犬もだが、消印のデザインがかわいい!さすが芸術の都(勝手に私が呼んでいる)チェコである。ついでにミュシャが過去にデザインしたプラハ城の切手も買った。
ところで、中国も犬の消印を用意していたが、今年が戌年だからだろうか。


続いて楽しみにしていた「さくら日本切手カタログ」を購入。4月20日、発売日に購入である。日本で最初に発行された切手から、2018年4月20日に発行される切手までが掲載されている。価格の参考になると共に、眺めていて実に楽しい。



このカタログは毎年郵政記念日が発売日だ。何度も言うようだが、こいつは春から縁起が良い。郵政記念日は、郵趣家にとって誕生日の次に大事な記念日である。多分。


ある程度4階を満喫したところで、5階へと向かう。なんと32もの切手屋さんが全国から集まるのである。鼻息が上がっても致し方ないだろう。
しかしながら開場は至って落ち着いているかのように見える。各ブースの前にもうけられた机の上には、たくさんの切手が納められたファイルがずらっと並ぶ。椅子に腰をおろして物色である。どのようにして切手を購入するのかというと、ビニール袋に入った切手が貼り付けられたページがファイリングされているので、そこから欲しいものをページごと抜き取る。ストックブックに入っているものは、ピンセットで欲しい切手と値札を一緒に抜き取るのだ。
皆さん、静かに、だが熱心にファイルをご覧になっていらっしゃる。こういうシーンを写真に納めておけば面白いのだろうけれども、色々失礼になるかもしれないので撮影は控えた。あしからず。


ところで、スタンプショウに来ていらっしゃる方々をみると、平日という事もあるかもしれないが、かなり年齢層が高いようにお見受けした。要は、おじ様ばっかりなのである。熱心だけど、落ち着いた雰囲気である。ブースとブースの間も広くもうけられているので、それほど込み入った感じもなく、じっくり切手を選ぶ事ができる。
その中に、こぎれいな「切手女子」達がちらほら。「かわいい切手」ファイルがそこかしこに見かけられ、そういったファイルを熱心にご覧になっている。素敵だ。しかも彼女らは何か手作りの品にそういった「かわいい切手」を活用なさるとも聞いた。そういう使い方ができるなんて良いじゃないか。
その一方、そうしたファイルに目もくれず、ひたすら目をこらして「恐竜」、「古生物」、「先史時代の生物」ファイルを探していたのが何を隠そう、この私だ。
もうほんと、この日は「恐竜祭」である。大収穫だった。かねてより欲しかったクラシックな切手がどかどか出てきた。
最近、コレクションの方向性をもうちょっと大人びたものにしたいものだと思うようになった。それでちょっと古めで、発行に意味合いのあるものだったり、図鑑などに紹介されているようなものも探す事にしているのだ。
もちろん、見た事のないおもしろい恐竜切手も外せない。



恐竜関係の漁獲である。これは今後小出しに紹介していこうと思っているのでお楽しみに。


そんな中でこの日一番のおもしろ恐竜切手があったのでご紹介しよう。今回の恐竜切手漁獲のうち、まさに白眉とも言える一品である。それがこちらのスティラコサウルスの切手である。2002年にモザンビークで発行された切手である。



かわいい!どうだろう、このポーズ!襟飾りの裏側辺りがちょっとかいーので、後ろ足でカシカシと掻いたところの図案だ、と思う。犬やなんかが耳の後ろを掻く時にやる、あの仕草である。
ここで、「いや、これはきっと御不浄の直後だ」と思った方もいらっしゃるであろう。
私も最初、ファイルをめくっていて「なぜにこのポーズ?」と固まったのである。後ろに木が描かれているところといい、「ちょっといいの?この格好?!」と思ったのだ。まさかと思ってファイルから抜いたのである。「はばかり」ポーズなのか?いやいや、絶対「かいーのでカシカシ」の方に違いない。その方がかわいいのでそういう事にしておこう。



というわけで、この先はまだまだ続くので、次回へ。

サントメ・プリンシペの恐竜切手 (2)

2018-04-18 | 切手
何もサントメ・プリンシペの切手に限った事ではないが、恐竜切手に描かれる恐竜は、人気者に限られている。ティラノサウルス、ステゴサウルス、アパトサウルス(かつてのブロントサウルスのこと)・・・。割と似たり寄ったりの図案が並ぶ。


例えば、長い爪を持った食性不明の謎恐竜・テリジノサウルスだとか、長い首にとげのいっぱい生えたアマルガサウルスだとか、「卵泥棒」の濡れ衣を着せられた、本当はクチバシがかわいいだけのオビラプトルだとか、もっと色んな恐竜を登場させてほしいのだ。


最近(2000年代以降)は新種の恐竜を図案化した中国の切手など、比較的多様な種類の恐竜切手がようやく出始めているようだが、1970年~1990年代前半くらいまでの切手には、おなじみの常連恐竜たちが並ぶ。不満を漏らしているのかというと、そうでもない。人気者の恐竜は私だって好きだからだ。





このサントメ・プリンシペの切手、右の上から、ステゴサウルス、トリケラトプス、ティラノサウルス、ブロントサウルス(つまりアパトサウルスのこと)。左は上からディメトロドン、パラサウロロフス。どれもよく見かける切手常連恐竜たちだ。そして、生息していた時代がばらばらである。これがいつも気になってしょうがない。まあ、一緒の枠の中に描かれているわけではないので関係ないといえばそれまでなのだが。


ちなみに、ステゴサウルス(背中に板がたくさん付いているやつ)とブロントサウルス(首の長いやつ)はジュラ紀後期(1億6350万年~1億4500万年前)に生きていた。その他は全て白亜紀後期(1億50万年~6600万年前)に生きていた種類である。ディメトロドンに至ってはそれより遙か前のペルム紀(3億~2億5000万年前)に生きていたのだ。なんというか、あまりに時代がとびとびすぎているじゃないか。


さて、突然だがこの中で1種類だけ恐竜以外の生物が混じっているのだが、ご存じだろうか?




正解は、ディメトロドンである。コモドドラゴンの背中に大きな帆をくっつけたような生物である。これ、かつて「哺乳類型爬虫類」と呼ばれていた種類の生物で、単弓類と呼ばれるグループの仲間だ。恐竜のようで恐竜ではない。トカゲのようでトカゲでない。それでは何なのかというと、

単弓類:哺乳類を含む羊膜動物の中の大きなクレード(※互いに近縁な関係にある生物のグループ)のひとつで、側頭部に一対の窓が開く事で特徴付けられる(『恐竜学入門』p.352)。

要は、頭蓋骨の両脇に穴が空いているのである。恐竜は「双弓類」というグループになり、頭のてっぺんに左右一つずつ穴が空いているので、二組の窓を持っているのだ。


このディメトロドン、なんと我々人間の遠い遠い祖先なのである・・・。

かつて、“哺乳類型爬虫類”と呼ばれた多くの絶滅種と同じく、その子孫であるヒトを含む全ての哺乳類もまた単弓類の仲間である。初期の単弓類と、もう一方の大きな系統である恐竜を含む双弓類の分岐は、3億2000万~3億1000万年前の間に起こったようである。以来、単弓類の系統は独立して進化しており、他のどのグループとも遺伝的交流がない(『恐竜学入門』p.58)。

ディメトロドンと現代の哺乳類は、一見した所何の関連も無さそうな生物に見える。しかし、この両者の間に共通する特徴としては、その異歯性が挙げられる。ディメトロドンは、その学名の通り、突き刺し用の犬歯及び肉を切り裂く歯という異なった用途の二種の歯を持ち、捉えた獲物を効率的に咀嚼していたと考えられている。この形質は、後に哺乳類に受け継がれるものである(ウィキペディア)。


ディメトロドンの名前の意味は「2種類の歯」である。これが我々人間の祖先。背中に大きな帆を張っている。ちょっとかっこいい。いかにも恐竜みたいな姿だけど恐竜ではない。3億年の長い時間、「2種類の歯」という特徴が受け継がれてきたのだと思うと、遺伝とか進化というのは我々の計り知れないスケールを持っているのだなあと、畏敬の念を感じるのだ。たかだか数百年の近代科学の歴史が、数億年の生命の歴史に果たして太刀打ちできるものだろうか、ふとそんな事を思ってしまう。



【参考サイト・文献】
・ウィキペディア 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%A1%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%89%E3%83%B3
・『恐竜学入門』 Fastovsky, Weishampel 著、真鍋真 監訳、藤原慎一・松本涼子 訳 (東京化学同人、2015年1月30日)