『笑顔』
① にこにこと笑った顔。笑い顔。
② 女性に見せられたら、「気があるな!」と男は間違いなく勘違いする表情。
「…ふぅ、疲れたな…」
相変わらず仕事もなく、満腹感に浸った昼食後のゆるい時間帯。おれは迫り来る眠気を一掃する為に、そう一言呟きながらオフィスを出た。仕事をしていない?昼寝で寝すぎて疲れたって事だ。
目を覚ますために、新鮮な冷たい空気を吸う為におれが向かった先は、数ブロック先にあるアメリカが誇るコーヒー・チェーン、スターバックスだ。緑のエプロンをした店員さんと、そのエプロンと洋服の中身に興味があるおれは、プリペイドカードをチャージしながら持っているほどのスターバックス・ファンだった。
「…これの充電を、頼む…」
「はい。おいくら充電しますか?」
「…………三千円で、頼む…」
レジの女性店員の気を惹くための渾身のボケ、『充電』。そのボケを素のまま受け入れ、さらにそのまま返してきた美女の言動に意表を突かれたおれは、『お金は充電じゃなくてチャージか入金でしょ、電気じゃねーよ』というノリ突っ込みを披露するチャンスを逃してしまい、一人佇んでしまった。後ろに並ぶ列にプレッシャーを感じたおれは、さらなる店員さんの気を惹くトークを展開する事無く三千円を払うと、コーヒーもついでにオーダーして受け取りカウンターに移動した。
「ホットホワイトモカ~」
受け取りカウンターでは、これまた美女がおれのホワイトモカを心を込めて作っていた。その一生懸命さに、おれの心はレジに続いて揺れ動いた。これだから、スターバックスは好きだ。おれの友人も、学生時代に行きつけのスターバックスで、女性店員から電話番号を渡されたらしい。おれも電話番号もらったらどうしよう、とりあえず店外で会う時も緑のエプロン着けて来てもらおう…
ふと妄想から我に返ると、いつのまにか男性店員がコーヒー作りに勤しんでいた。おいさっきの彼女はどこいったんだよ、おれのコーヒー作ってたんじゃねーのかよ、という胸の内を隠しつつ、おれは涙がバレないように視線を外に向けた。
「…ん?」
「(ニコッ)♪」
おれはそこで、めちゃくちゃ可愛い笑顔に出会った。窓際のカウンターに佇むその子は、その子の顔をくしゃくしゃにするような笑顔は、緑のエプロンは着けていないながらも今日一番の可愛さだった。
「…」
「(ニコッ)♪」
「…」
「(ニコッ)♪」
その笑顔に魅了されたおれは、何度も振り向く。その度に、おれと目があったその子も、最高の笑顔を見せてくれる。おれとの相性は抜群じゃないか。少なくとも、ルックスは好まれたらしい。
しかし…至福の時は長くは続かないのが常だ。おれのコーヒーが、カウンターから出された。もう、店を出る時間だ。一期一会とは言え、もしこの出会いが運命なら、おれ達はまたどこかで出会えるだろう…
おれはコーヒーを手に取り、その子の横を通って店の外に出た。その子は、抱っこする母親の肩を一生懸命に噛みながら、おれの視線を追い最後まで笑顔を見せてくれていた…まだ喋れもしない、1歳そこそこの男の子。人見知りもせずに、わんぱくに育ちそうだ。おれももう、それくらいの息子がいてもおかしくないのだがな…
「…ふっ、子供が、欲しくなったな…」
縁の無いものには憧れてしまうものだ、おれはつい無意識に、自身の願望の言葉を発してしまっていた。その言葉を聞いて、近くにいた女性がビビッてドン引きしてしまったのは、言うまでもない。
オフィスに帰り同僚にその話をすると、養子を迎えるように助言されたのは、これまた言うまでもない。…いや、まだ結婚出来るかもしれないでしょ…自信無さげに発せられた俺の言葉は、力無くオフィスの雑音に溶けていった。
【続く】
Reo.
① にこにこと笑った顔。笑い顔。
② 女性に見せられたら、「気があるな!」と男は間違いなく勘違いする表情。
「…ふぅ、疲れたな…」
相変わらず仕事もなく、満腹感に浸った昼食後のゆるい時間帯。おれは迫り来る眠気を一掃する為に、そう一言呟きながらオフィスを出た。仕事をしていない?昼寝で寝すぎて疲れたって事だ。
目を覚ますために、新鮮な冷たい空気を吸う為におれが向かった先は、数ブロック先にあるアメリカが誇るコーヒー・チェーン、スターバックスだ。緑のエプロンをした店員さんと、そのエプロンと洋服の中身に興味があるおれは、プリペイドカードをチャージしながら持っているほどのスターバックス・ファンだった。
「…これの充電を、頼む…」
「はい。おいくら充電しますか?」
「…………三千円で、頼む…」
レジの女性店員の気を惹くための渾身のボケ、『充電』。そのボケを素のまま受け入れ、さらにそのまま返してきた美女の言動に意表を突かれたおれは、『お金は充電じゃなくてチャージか入金でしょ、電気じゃねーよ』というノリ突っ込みを披露するチャンスを逃してしまい、一人佇んでしまった。後ろに並ぶ列にプレッシャーを感じたおれは、さらなる店員さんの気を惹くトークを展開する事無く三千円を払うと、コーヒーもついでにオーダーして受け取りカウンターに移動した。
「ホットホワイトモカ~」
受け取りカウンターでは、これまた美女がおれのホワイトモカを心を込めて作っていた。その一生懸命さに、おれの心はレジに続いて揺れ動いた。これだから、スターバックスは好きだ。おれの友人も、学生時代に行きつけのスターバックスで、女性店員から電話番号を渡されたらしい。おれも電話番号もらったらどうしよう、とりあえず店外で会う時も緑のエプロン着けて来てもらおう…
ふと妄想から我に返ると、いつのまにか男性店員がコーヒー作りに勤しんでいた。おいさっきの彼女はどこいったんだよ、おれのコーヒー作ってたんじゃねーのかよ、という胸の内を隠しつつ、おれは涙がバレないように視線を外に向けた。
「…ん?」
「(ニコッ)♪」
おれはそこで、めちゃくちゃ可愛い笑顔に出会った。窓際のカウンターに佇むその子は、その子の顔をくしゃくしゃにするような笑顔は、緑のエプロンは着けていないながらも今日一番の可愛さだった。
「…」
「(ニコッ)♪」
「…」
「(ニコッ)♪」
その笑顔に魅了されたおれは、何度も振り向く。その度に、おれと目があったその子も、最高の笑顔を見せてくれる。おれとの相性は抜群じゃないか。少なくとも、ルックスは好まれたらしい。
しかし…至福の時は長くは続かないのが常だ。おれのコーヒーが、カウンターから出された。もう、店を出る時間だ。一期一会とは言え、もしこの出会いが運命なら、おれ達はまたどこかで出会えるだろう…
おれはコーヒーを手に取り、その子の横を通って店の外に出た。その子は、抱っこする母親の肩を一生懸命に噛みながら、おれの視線を追い最後まで笑顔を見せてくれていた…まだ喋れもしない、1歳そこそこの男の子。人見知りもせずに、わんぱくに育ちそうだ。おれももう、それくらいの息子がいてもおかしくないのだがな…
「…ふっ、子供が、欲しくなったな…」
縁の無いものには憧れてしまうものだ、おれはつい無意識に、自身の願望の言葉を発してしまっていた。その言葉を聞いて、近くにいた女性がビビッてドン引きしてしまったのは、言うまでもない。
オフィスに帰り同僚にその話をすると、養子を迎えるように助言されたのは、これまた言うまでもない。…いや、まだ結婚出来るかもしれないでしょ…自信無さげに発せられた俺の言葉は、力無くオフィスの雑音に溶けていった。
【続く】
Reo.