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Reoっちの駄文(ふつーの日常をハードボイルドに)

金融、サッカー、ボクシング、映画・・・そしてその他でふつーの日常を、楽しく読めるようにハードボイルドな読み物風に。

おれに向けての笑顔、を読み物風に

2010-03-08 17:15:04 | その他
『笑顔』
① にこにこと笑った顔。笑い顔。
② 女性に見せられたら、「気があるな!」と男は間違いなく勘違いする表情。


「…ふぅ、疲れたな…」


相変わらず仕事もなく、満腹感に浸った昼食後のゆるい時間帯。おれは迫り来る眠気を一掃する為に、そう一言呟きながらオフィスを出た。仕事をしていない?昼寝で寝すぎて疲れたって事だ。


目を覚ますために、新鮮な冷たい空気を吸う為におれが向かった先は、数ブロック先にあるアメリカが誇るコーヒー・チェーン、スターバックスだ。緑のエプロンをした店員さんと、そのエプロンと洋服の中身に興味があるおれは、プリペイドカードをチャージしながら持っているほどのスターバックス・ファンだった。


「…これの充電を、頼む…」
「はい。おいくら充電しますか?」
「…………三千円で、頼む…」


レジの女性店員の気を惹くための渾身のボケ、『充電』。そのボケを素のまま受け入れ、さらにそのまま返してきた美女の言動に意表を突かれたおれは、『お金は充電じゃなくてチャージか入金でしょ、電気じゃねーよ』というノリ突っ込みを披露するチャンスを逃してしまい、一人佇んでしまった。後ろに並ぶ列にプレッシャーを感じたおれは、さらなる店員さんの気を惹くトークを展開する事無く三千円を払うと、コーヒーもついでにオーダーして受け取りカウンターに移動した。


「ホットホワイトモカ~」


受け取りカウンターでは、これまた美女がおれのホワイトモカを心を込めて作っていた。その一生懸命さに、おれの心はレジに続いて揺れ動いた。これだから、スターバックスは好きだ。おれの友人も、学生時代に行きつけのスターバックスで、女性店員から電話番号を渡されたらしい。おれも電話番号もらったらどうしよう、とりあえず店外で会う時も緑のエプロン着けて来てもらおう…


ふと妄想から我に返ると、いつのまにか男性店員がコーヒー作りに勤しんでいた。おいさっきの彼女はどこいったんだよ、おれのコーヒー作ってたんじゃねーのかよ、という胸の内を隠しつつ、おれは涙がバレないように視線を外に向けた。


「…ん?」
「(ニコッ)♪」


おれはそこで、めちゃくちゃ可愛い笑顔に出会った。窓際のカウンターに佇むその子は、その子の顔をくしゃくしゃにするような笑顔は、緑のエプロンは着けていないながらも今日一番の可愛さだった。


「…」
「(ニコッ)♪」
「…」
「(ニコッ)♪」


その笑顔に魅了されたおれは、何度も振り向く。その度に、おれと目があったその子も、最高の笑顔を見せてくれる。おれとの相性は抜群じゃないか。少なくとも、ルックスは好まれたらしい。


しかし…至福の時は長くは続かないのが常だ。おれのコーヒーが、カウンターから出された。もう、店を出る時間だ。一期一会とは言え、もしこの出会いが運命なら、おれ達はまたどこかで出会えるだろう…


おれはコーヒーを手に取り、その子の横を通って店の外に出た。その子は、抱っこする母親の肩を一生懸命に噛みながら、おれの視線を追い最後まで笑顔を見せてくれていた…まだ喋れもしない、1歳そこそこの男の子。人見知りもせずに、わんぱくに育ちそうだ。おれももう、それくらいの息子がいてもおかしくないのだがな…


「…ふっ、子供が、欲しくなったな…」


縁の無いものには憧れてしまうものだ、おれはつい無意識に、自身の願望の言葉を発してしまっていた。その言葉を聞いて、近くにいた女性がビビッてドン引きしてしまったのは、言うまでもない。


オフィスに帰り同僚にその話をすると、養子を迎えるように助言されたのは、これまた言うまでもない。…いや、まだ結婚出来るかもしれないでしょ…自信無さげに発せられた俺の言葉は、力無くオフィスの雑音に溶けていった。


【続く】


Reo.

酸素でおれもベッカム、を読み物風に

2010-03-01 17:56:09 | その他
『酸素』
① 酸素族元素の一。単体は2原子分子からなる無色無臭の気体。地球上で最も多量に存在する元素で、空気中には体積で約21パーセント含まれる。生物の呼吸や燃料の燃焼に不可欠。反応性に富み、ほとんどの元素と化合して酸化物をつくる。その際に熱と光とを伴うことが多い。元素記号O。原子番号8。原子量16.00。
② 多く吸うと体に良いらしいもの。


「…くっ、また首が痛くなってきた…あっ!腰も…」


オフィスに着いて椅子に座ってから数時間後、デスクワークしかしていないおれの首と腰が悲鳴をあげはじめた。ここ最近、特に首の疲労が激しい。肩凝りとは無縁なおれは、数年前までは考えられなかった現象だが…年をとったと言う事か。おれは、早速行きつけの、いかがわしくない方の、マッサージ店に予約を入れた。



「…あぁ私だ。19時から、フット20の、ボディ40で頼む…」


説明しよう。フット20とは、フットマッサージ、つまり足裏マッサージ20分。そしてボディ40とは、普通のボディマッサージ40分の事だ。決して、リーブ21とかパーク24とかとは意味が違う。


「あ~胃が弱ってますかね~」
「…分かるか?最近揚げ物ばかり食べて、ちょっと胃が痛いんだ…」


おれの足裏を刺激するマッサージ師が、おれの診断を始める。フットサルでなぜか足裏が筋肉痛になっているおれは痛みに耐えながら、マッサージ師の話に耳を傾ける。


「ん~腸も悪いですかね~」
「…そうか?あまりピーにはならないが…」
「あ、目は疲れてないですかね」
「…あぁ、パソコンを使ってるからな…」
「おトイレは近いほうですか?膀胱もちょっと」
「…」


おれの体はガラクタか!調子の良いパーツは無いのか!?と言う思いを飲み込みながら、おれは寝たふりをして列挙される『調子の悪い』パーツを聞き流した。もうおれも、老体なのか…そんな悲しみを噛み締めながら。


「そうそう、最近『酸素カプセル』が入ってきたんですよ」
「…ほう…風邪薬か何かか…?」
「いや、カプセルって薬じゃなくて…酸素濃度の濃いカプセルに入るんです」
「…何が起こるんだ?」
「疲労回復や、怪我の早期治癒、そして美容に効果があるんですよ」
「…ほう、美容…」
「はい、あのベッカムとかも使ってたんですよ!」
「…なに!あのベッカムが…確かに美容に効果ありそうだな…」


ベッカムのかっこよさに憧れるおれは、その一言で早速『酸素カプセル』なるものを試してみる事にした。とりあえず疲労回復に効果があるとの事なので、フットサルの翌日に予約をした。初回は一時間2000円…素晴らしい安さだ。いや、相場は知らないが…


「お待ちしてました~♪」
「…うむ…」


フットサルの疲労と筋肉痛をしっかり持ち越した日曜日の昼下がり、おれはカプセルと人生初の対面を果たした。カプセルは…SF映画で遠くに行く時に人間を冷凍する、宇宙船に乗っかっている機械のようだった。そう、映画『エイリアン』に出てくるあれだ。


おれは、愛用のi-podを持って、ジャージ姿でカプセルに突入する。横になると、スライド式の透明の扉が閉まり、最後には密閉される。そして、空気が入り始め、気圧も上がり始める…気圧が上がりきる(1.3気圧)までに何回か耳抜きをし、落ち着くとおれは川嶋あいを聴きながら静かに目を閉じた…


『トントン、トントン』
「…はっ!」
「これから気圧を戻しますので、耳抜きをお願いします♪」
「…あ、あぁ…」


一時間は、あっと言う間だった。完全に熟睡していたからだが…そして、カプセルを出たおれの体は、一時間前と比べ格段に…変わっているところは無かった…


筋肉痛は、前と変わらない。疲労は…入る前からそれほど疲れは感じていなかった。特段、元気ハツラツになった感も、無い。そしてお肌も…別に変わっていないような…しかし、何かしら効果はあったのだろう。そうでなかったら、ベッカム様が使うはずがない。


「…まぁよう分からんが、良く眠れた…今度はフットサル直後にでもやるか…」
「今度は1.6気圧ぐらいにしますよ♪」
「…楽しみにしている…」


一回目を終えてでは効果の程は良く分からなかったが、癖になりそうだ、また来る事は確実だと確信しながら、おれは店を出た。ちょっと筋肉痛がいつもより軽く感じるのは、おそらく気のせいなのは、言うまでもない。


ちなみに『酸素カプセル』に癖になってまた店に行きたいのは、店員さんの可愛い笑顔に惹かれたからなのは、これまた言うまでもない。おっと、勤務時間を聞くのを忘れていた…


【続く】


Reo.


バレンタイン…告白の季節、を読み物風に

2010-02-24 15:34:59 | その他
『バレンタインデー』
① 2月14日。270年ごろローマで殉教したテルニーの主教聖バレンティヌスの記念日。ローマの異教の祭りと結びついて女性が男性に愛を告白する日とされるようになり、日本ではチョコレートを贈る風習がある。セントバレンタインデー。


2010年2月14日…おれは、朝からずっと、不貞寝していた。何回か郵便受けをチェックしにベッドから抜け出したが、何も入ってない事を確認すると、すぐさま枕のヘソを噛みながら不貞寝に戻っていた。今日は女性が意中の男性に対してチョコレートを贈って愛の告白をする日だと聞く…おれは、告白どころか義理チョコも貰えない切なさを噛み締め、とりあえず不貞寝を続けていた。


「…ふっ、今年もか…」


おれはベッドの温もりの中、過去に女性から告白された時の事を思い出していた…そんな事は、一度も無かった。仕方なくおれは、自身が最後に意中の女性に告白した時の事を、半分夢の中を漂いながら、思い出していた…






あれは、ちょうど今くらいの時期だったか。同じボランティア活動で知り合ってから一年の、何回か食事やデートを共にした事もある意中の女性から、新年度からはあまり活動に参加出来なくなると言う話を聞き、おれはかなり焦っていた。通常時、おれはほぼ確実な勝利が見えている状況ではないと、告白と言う勝負には出ない。しかし、いかんせん時間が無かった。やらないで後悔するより、やってみて失敗して後悔する方を選んだおれは、心密かに次に彼女に会う時に告白する事を決意していた。


これが最後の食事になるかもしれない…いや、そうなる可能性が高いと分かっていたおれは、涙ぐみそうになりながらも、最高の時間を彼女と過ごし、その表情を胸に刻み込んだ。そしてレストランを出るとき、おれは彼女を夜景の綺麗な高層ビルへと誘った。多少断られても、告白の為に強引にでも連れて行こう。そう思っていたおれの決意を知るはずも無いのに、仕事が残っているから少しだけと言いながらも、快く応じてくれた彼女…そう、おれはその優しさに惚れたんだ。おれは自身の決意を微塵も見せないように、彼女をエスコートした。


「わぁ~綺麗だね!やっぱり夜景は良いね!!」
「…あぁ…」


緊張から言葉少なくなっていく自身の弱さを憎みながら、おれはこの日の為に何回も頭の中で練習したフレイズを口に出すタイミングを計っていた。緊張に押し潰されそうになりながら、もうどうせダメなんだからしなくて良いんじゃねという気持ちに負けそうになりながら、それでも彼女への言葉を搾り出せたのは、もう彼女と会えなくなるという危機感からだった。


「…一緒に東京タワーに行った時の事、憶えてるか?」
「うん、憶えてるよ♪」
「…そうか…じゃあ、初めておれと会った時の事は、憶えてるか?」
「えぇーいつだったっけ?」
「…ふっ、3月だ…」
「あぁ、そうか」
「…おれははっきり憶えてる。暖かい3月の一日、イベントで一緒になったおれは…」


何回もイメージしてきたシナリオだ、おれの口から出る言葉は、もう止まらなかった。もう、止められなかった。


「…初めて会った時は、何とも思わなかった。正直、好みのタイプとは全然違うからな…だが、その頑張っている姿と優しさに触れたおれは、もう惹かれていた…そこからだ、おれの参加率が上がったのは…」


既におれの決意に気付いたからか、いつも元気に笑顔を浮かべている彼女は顔は、真剣な表情に変わっていた。


「うん。でも、イベントにはなかなか参加出来なくなるな。それに、参加しなくても…」
「…一つ聞かせてくれ…好きな人は、いるのか?」
「うーん、分からないなぁ」
「…好きな人が出来たから、来れなくなるんじゃないのか?」
「それは違うな」
「…そうか…イベントに参加しようが辞めようが、正直どうでも良いんだ…おれは、これからも一緒に色々なものを食べたり、色々なところに行ったり、観たり…一緒に感動したり、笑ったりしたいんだ…」
「うん…でも、今は恋愛とか全然考えられる時期じゃ無くて…」


もう、十分だった。理由は、どうでも良かった。おれの気持ちは通じた。そして、応えは分かった。その結果さえ分かれば、おれはもう何も求めていなかった。


「…困っちゃうよな。」
「いや、そんな事は…」
「…ダメだろうとは思ってたんだ。困らせちゃうんだろうとね。…でも、何もせずに会えなくなるのは、繰り返したくなかったんだ…」
「うん…」
「…ちきしょう、三日月だったからなぁ…満月だったら、うまくいったのにな!」
「え?何それ?」
「…満月だったら、願いが叶うだろ?あれ、アメリカだけか?」


重苦しい雰囲気を変えるには、三枚目、つまりピエロを演じるしかなかった。別に悲しんではいない、辛くもない、だから気にする事はないんだぞ…そう思ってもらえるように道化を演じるのが、おれが出来る最後の優しさだった。


『一緒にいて楽しいからこれからも良い友達でいたいし、落ち着いたらまた食事にでもいけると良いね♪』


駅で別れた後、彼女からメールが届いた。いい歳したおっさんが年下にフォローされるとは…そんな切なそうな顔をしていたか…と思いながらも、おれは彼女の優しさに惚れなおしそうになった。だが…例えメールの内容が本心だとしても、もう会う事はないだろう。


おれは、それほど強くは無い…彼女はこれから人を好きになり、恋をし、誰かに幸せにしてもらうだろう。彼女に幸せになってもらいたいおれも、心からそれを望んでいる。だが…そうやっておれとは違う誰かと幸せになっていく彼女を、友達として平常心で見守っていく強さは、残念ながらおれには無い。


「…さよならだ…」






街は、いつの間にか夕暮れに染まっていた。何時間不貞寝しているんだ、おれは不貞寝大魔王か!とセルフつっこみを口に出しながら、おれは再び郵便受けをチェックしに外に出た。


「…」


告白するのもされるのも、どうやら当分なさそうなのは、言うまでもない。


そして再び枕のヘソを噛み不貞寝に戻ったのは、これまた言うまでもない…不貞寝のギネス記録だ。


【続く】


Reo.

必要な資格、を読み物風に

2010-02-01 17:43:28 | その他
『資格』
① あることを行うのに必要な、また、ふさわしい地位や立場。「理事の―で出席する」
② あることを行うために必要とされる条件。「税理士の―を取る」
③ あると自慢出来るもの。「合コンで―をアピールする」


「この中で、どの資格を持ってる?」
「…」


オフィスの昼下がり、ヤフーでスポーツを見ているおれの横に、ボスは唐突に現れた。『Alt+Tab』で素早くウィンドウを変更すると、おれは自信満々な表情でボスと向き合った。あかん事をしている時は、自信満々な挙動をするに限る。


「…自動車の普通免許は、どれですか…?」
「それは無いね。」


ボスが提示するリストには、やけに長い漢字の羅列が並んでいた。全てが、技術的な資格のようだ。これが、エンジニアとして働く意味か…おれはふと、自身のキャリアが予期せぬ方向へと向かっている事を思い知った。アメリカでビジネス(経営学)を専攻していたおれは、『特殊無線』や『アマチュア無線』など、意味不明な言葉の羅列でしかなかった。


「じゃあ、今年取る予定の資格はある?」
「…いや、特には…」


ってか、リストにある資格の意味自体さっぱり分からないっすよ…という言葉を飲み込み、おれは必死に眉毛を八の字にして申し訳ない表情をアピールする。無線技術の資格?冗談じゃない、おれの将来はトレーダーもしくはトトビッグ当選者だ。そんな資格に時間を使う気は、毛頭無い。


「一陸特ぐらいとっときなさい。」
「…わ、分かりました、任せてください。」


また、安請負してしまった。日々女性をデート(に誘うの)に忙しいおれは、資格の勉強に時間を割く気は全く無いのに、上司へ良い顔をする為についつい了承してしまった。これだから出世争いそしておべんちゃらは辛い。これがもし『手品師一級』や『漫才ツッコミ一級』なら、合コンでも活躍出来そうなんだが…一陸特と言うのは、いったいなんなんだ…


兎にも角にも、この厳しい不況の中でリストラされずに生き残る、もしくは万が一転職が必要な時に書類選考で引っかかる為に、この一陸特は必要だとボスに説得されたおれは、とりあえずそれがどんな試験なのかを調べてみる事にした。『一陸特』とは、第一級陸上特殊無線技士が正式名称らしい。


第一級陸上特殊無線技士の試験項目:
・多重無線設備(空中線系を除く)の理論、構造及び機能の概要
・空中線系等の理論、構造及び機能の概要
・多重無線設備及び空中線系等のための測定機器の理論、構造及び機能の概要
・多重無線設備及び空中線系並びに多重無線設備及び空中線系等のための測定機器の保守及び運用の概要


「…????…」


おれは、目の前が真っ暗になった。多重無線?空中線?何を言ってるのかさっぱり分からない。『多重無線』って、無線に重さなんかあるのか?『空中線』って、トップガンとかか?大体、英語では何って言うんだ。元より、大学なり高校で工学を習っていなかったおれは、英語の単語を言われてもさっぱり分からないだろうが…


「…ZZZZZ…」


資格を既に取得した同僚から参考書を借り、さっそく電車内で読んでみる。意味不明で、『はじめに』を読んでいるところで早くも熟睡に突入してしまったのは、言うまでも無い。この不況下、出世争い…いや、リストラを逃れるのには苦痛を伴う事を思い知り、おれは暗澹たる思いで一杯になった。


資格を取る約束、この一年の間に忘れてくれないかな…と早くも星にお願いをしだしたのは、これまた言うまでも無い。


【続く】


Reo.

お土産は君にだけ…、を読み物風に

2010-01-25 17:05:44 | その他
『土産』
① 外出先や旅先で求め、家などに持ち帰る品物。
② 他人の家を訪問するときに持っていく贈り物。手みやげ。「―に酒を持参する」
③ 迷惑なもらい物を冗談めかしていう語。「伝染病という、とんだ―をもって帰国した」
④ ついつい忘れて、休みにどこかに行った事をひた隠しにする必要が出てしまうもの。


「…ちゃっぷいのぉ…なんでおれが、こんな冬に雪国に行かなければならんのだ…」


朝の寒さに身を縮めながら、おれはついつい愚痴を口走ってしまった。年末年始も過ぎ、寒空の中の連日の出社に辟易していたおれは、週末ぐらいは暖かい部屋でエロ本三昧という気持ちを抑える事が出来ずにいた。この日、おれは泊りでの新潟旅行へと出発する事になっていた。運転手として…


「…さぁみんな乗り込め。音楽はおれのアイポッドな。」


流行に乗り遅れた事を象徴するようなDJ OZMAを流しながら、おれは関越を通って新潟市を目指す。レンタカーで借りたスタッドレスタイヤのスバル・インプレッサは、雪に覆われる関越道を物ともせずにおれ達を新潟へと連れて行った。


新潟旅行は、あっという間だった。せんべいを作り、福島潟自然公園へ行き、そして鍋を楽しみ…そして、やはりお土産を買って帰るために、おれ達は新潟ふるさと村へと向かった。面々はそれぞれ解散し、思い思いのお土産を買いに広大なお土産売り場に散った。


「あ~これ美味しそう!やっぱり笹団子かなぁ。」
「へぇ~コシヒカリチーズケーキかぁ。」
「やっぱりせんべいでしょう!」


それぞれが、新潟の定番とも言える食べ物や、新潟ぽいお土産を購入する。そんな姿を観ていると、せっかく来たのでおれも何かを買うべきかと思えてきた。彼女どころか友人もほとんどいないと言えるだけに、お土産を渡す相手はいないのだが…


「…そうだ、上司に買っていくか…」


年功序列など皆無、実力主義の熾烈な出世争いに加え、最近では不況によりリストラからの生き残りもかかっている…得意の上司へのおべんちゃらを更に効果的にする為に、おれは職場へ菓子折りでも買っていくかと決心した。職場へのお土産など効果無い?いや、少しずつでも心象を良くする積み重ねが、重要な決断の際に違いが現れる事を、2回のリストラを経験していたおれは良く知っていた。


「…ほな、これお願いします。さすが新潟や、美味そうやのぅ。」


店番のおばちゃんにも得意技・おべんちゃらをかまし、おれはコシヒカリ・チーズケーキを購入した。元よりチーズケーキに米が入る余地など無いではないか…と言うツッコミは、あえて黙殺した。


「あれ、これだけ?」
「…当たり前だ、会社以外に渡す相手など、いない…」


箱一つしか持っていないおれに、みんなが疑問を投げかける。新潟土産を両手に抱える面々にとって、箱一つで足りてしまうおれの土産の量は驚きらしい。


「でも、家族の分は?」
「…あっ…しまった…出世の事しか、考えていなかった…」
「えぇ~最低~」
「腹黒いなぁ~分かってたけどな」
「優しさのかけらもないんだね!」
「…あ、いや…えっと…その…」


しまった。完全に家族の分を、忘れていた。家族愛や親への感謝の前に、おれは自身の出世を優先していた。…何よりショックなのは、これでまた高感度が大幅に低下した事だ。せっかく女性陣への高感度を上げる為に運転を立候補したのに、これで振り出しだ。演技でも、家族や友人へガンガンお土産を買う優しい好青年を演じるべきだった。すでにおっさんだが…


「…い、いやぁ、高速のサービスエリアで買おうと思っててな、ははは…」


サービスエリアで、せっせとお土産をかって好青年を演じたのは、言うまでもない。とりあえず、一番安くて量が多いものを…


しかしその努力もむなしく、おれは腹黒い男だと評判になり、女性からの高感度がより一層地に落ちたのは、これまた言うまでもない。


「…ふっ、大事なのは物じゃない、気持ちだ…」


【続く】


Reo.