『プレゼント』
① (スル)贈り物。進物。また、贈り物をすること。「指輪を―する」
② 女性が喜ぶ、と思って男性が頻繁に準備するが、気の無い相手からのプレゼントはゴミになるだけなので、食べ物などの消費物が良い。
時計の二つの針が、円の頂点を静かに指し示す。20日土曜日に入った事を確認したおれは一人、これからの長い冬休みに思いをはせた。
会社の業績悪化から、経費削減の為オフィスを閉めたいと20日から年明け4日まで、約2週間の冬休みをもらったおれは、旅行などの予定が全く無いまま、一足早いクリスマス休暇へと突入した。
遊びに行く?
友達がいない。
一人旅?
京都への一人旅で、その寂しさに耐えられない事を知った。
「…ふっ、久々にゆっくりする時間を持ったんだ、楽しむか…」
おれは静かに、埃にまみれたPS3に、先日購入したばかりの“ファイナルファンタジー13”を投入した。少なくとも出社するまでは、クリアする事がないよう祈りながら…
しかし…今年一年の行いが珍しく良かったからか、クリスマスを目前におれに幸運が巡って来た。今年は平日のクリスマス・イブとクリスマス当日、『おれは冬休みだ、どこにでも行ける。きみの仕事が終わった後、どこかで食事しないか?』と言う誘い文句が実を結び、おれは一人の美女を25日クリスマスの夕食に誘い出す事に成功した。
クリスマスとなると、当然レストランでは特別ディナー。否が応にも舞台は盛り上がり、気持ちは高ぶってしまう。おれはこの機会をより特別なものにしようと、一人テンションを高めていた。
「…よし、クリスマス・プレゼントを用意しよう…」
おれは、悩んだ。いくらクリスマスとは言え、初めての二人だけでの夕食、金に糸目はつけないとは言え高価な物を贈ったら、その本気度に逆にひいてしまうだろう。だが、後に残らないお菓子とかを贈るのも、ちょっとクリスマスの雰囲気に反している…おれは駅前の花屋に寄り、クリスマス用にデコレーションされた小さな鉢植えの植物を買った。いらなくなっても捨てるのにそれほど罪悪感を感じる事も無く、好みとかもあまり関係ないプレゼントの定番、それでいてお手ごろ価格。おれはそんな小物を小脇に抱え、カップルが闊歩する通りを一人心躍らせながら、待ち合わせ場所に急いだ。
少しの緊張と、大きな喜び…おれは6年ぶりの美女とのクリスマス・ディナーを、夢の中にいるように感じながらすごした。前菜から始まり、スープにメインにデザートのフルコース。夢の終わりが近づくのを感じたおれは、そっと用意していたクリスマス・プレゼントを差し出した。
「…せっかくのクリスマスだ、プレゼントを用意したよ。メリークリスマス…」
「あっ、わたしも」
「…えっ!?」
まさか貰えるとは思わなかったプレゼントに戸惑いながら、ゆっくりと手渡された袋を開けると、それはなんとシクラメンの鉢植えだった。それも、おれが用意したものの5倍くらいの大きさと豪華さ…おれは自身のプレゼントの情けなさに恥ずかしさを感じながらも、そのプレゼントを用意してくれた気持ちに、心から感動した。
シクラメンを持って、一人家路を歩く。冬の寒さも、中より火照っているおれの体の前では、全く厳しさを感じさせなかった。クリスマスのディナーを共にしてくれて、さらにプレゼントまで用意してくれた…これは、完全におれに惚れているではないか…!
「…ふっ、来年こそは、幸せな一年になりそうだ…」
…いつも通りの、勘違いの妄想だったのは、言うまでもない。
クリスマス・ディナー以降、めっちゃ長い冬休みを、その美女とは音信不通のまますごしたのは、これまた言うまでもない。おれのディナーの時の言動があまりにもキモかったからか、はたまた最初から別に気は無かったのかは、今となっては謎のまま明確になる事はないだろう。
「…ふっ、今年は雲一つ無い晴天続きだ…いい年になりそうじゃのぉ…」
2010年1月3日、長い引きこもり期間を終え、見事出社前にファイナルファンタジーをクリアしたおれは、晴天の空を眺めながら希望に願いを込めた。上空を見上げながらも、溢れる涙は頬を伝いこぼれ落ちたのは、またまた言うまでもないだろう。隣では、夢の残り香の如きシクラメンが、おれを元気付けるように咲き誇っていた…
明けましておめでとうございます。2010年も、よろしくお願いいたします。
【続く】
Reo.
① (スル)贈り物。進物。また、贈り物をすること。「指輪を―する」
② 女性が喜ぶ、と思って男性が頻繁に準備するが、気の無い相手からのプレゼントはゴミになるだけなので、食べ物などの消費物が良い。
時計の二つの針が、円の頂点を静かに指し示す。20日土曜日に入った事を確認したおれは一人、これからの長い冬休みに思いをはせた。
会社の業績悪化から、経費削減の為オフィスを閉めたいと20日から年明け4日まで、約2週間の冬休みをもらったおれは、旅行などの予定が全く無いまま、一足早いクリスマス休暇へと突入した。
遊びに行く?
友達がいない。
一人旅?
京都への一人旅で、その寂しさに耐えられない事を知った。
「…ふっ、久々にゆっくりする時間を持ったんだ、楽しむか…」
おれは静かに、埃にまみれたPS3に、先日購入したばかりの“ファイナルファンタジー13”を投入した。少なくとも出社するまでは、クリアする事がないよう祈りながら…
しかし…今年一年の行いが珍しく良かったからか、クリスマスを目前におれに幸運が巡って来た。今年は平日のクリスマス・イブとクリスマス当日、『おれは冬休みだ、どこにでも行ける。きみの仕事が終わった後、どこかで食事しないか?』と言う誘い文句が実を結び、おれは一人の美女を25日クリスマスの夕食に誘い出す事に成功した。
クリスマスとなると、当然レストランでは特別ディナー。否が応にも舞台は盛り上がり、気持ちは高ぶってしまう。おれはこの機会をより特別なものにしようと、一人テンションを高めていた。
「…よし、クリスマス・プレゼントを用意しよう…」
おれは、悩んだ。いくらクリスマスとは言え、初めての二人だけでの夕食、金に糸目はつけないとは言え高価な物を贈ったら、その本気度に逆にひいてしまうだろう。だが、後に残らないお菓子とかを贈るのも、ちょっとクリスマスの雰囲気に反している…おれは駅前の花屋に寄り、クリスマス用にデコレーションされた小さな鉢植えの植物を買った。いらなくなっても捨てるのにそれほど罪悪感を感じる事も無く、好みとかもあまり関係ないプレゼントの定番、それでいてお手ごろ価格。おれはそんな小物を小脇に抱え、カップルが闊歩する通りを一人心躍らせながら、待ち合わせ場所に急いだ。
少しの緊張と、大きな喜び…おれは6年ぶりの美女とのクリスマス・ディナーを、夢の中にいるように感じながらすごした。前菜から始まり、スープにメインにデザートのフルコース。夢の終わりが近づくのを感じたおれは、そっと用意していたクリスマス・プレゼントを差し出した。
「…せっかくのクリスマスだ、プレゼントを用意したよ。メリークリスマス…」
「あっ、わたしも」
「…えっ!?」
まさか貰えるとは思わなかったプレゼントに戸惑いながら、ゆっくりと手渡された袋を開けると、それはなんとシクラメンの鉢植えだった。それも、おれが用意したものの5倍くらいの大きさと豪華さ…おれは自身のプレゼントの情けなさに恥ずかしさを感じながらも、そのプレゼントを用意してくれた気持ちに、心から感動した。
シクラメンを持って、一人家路を歩く。冬の寒さも、中より火照っているおれの体の前では、全く厳しさを感じさせなかった。クリスマスのディナーを共にしてくれて、さらにプレゼントまで用意してくれた…これは、完全におれに惚れているではないか…!
「…ふっ、来年こそは、幸せな一年になりそうだ…」
…いつも通りの、勘違いの妄想だったのは、言うまでもない。
クリスマス・ディナー以降、めっちゃ長い冬休みを、その美女とは音信不通のまますごしたのは、これまた言うまでもない。おれのディナーの時の言動があまりにもキモかったからか、はたまた最初から別に気は無かったのかは、今となっては謎のまま明確になる事はないだろう。
「…ふっ、今年は雲一つ無い晴天続きだ…いい年になりそうじゃのぉ…」
2010年1月3日、長い引きこもり期間を終え、見事出社前にファイナルファンタジーをクリアしたおれは、晴天の空を眺めながら希望に願いを込めた。上空を見上げながらも、溢れる涙は頬を伝いこぼれ落ちたのは、またまた言うまでもないだろう。隣では、夢の残り香の如きシクラメンが、おれを元気付けるように咲き誇っていた…
明けましておめでとうございます。2010年も、よろしくお願いいたします。
【続く】
Reo.