その日、アラームで目を覚ますと、おれはなぜか、見知らぬ小さな部屋で横になっていた。隣には、一糸纏わぬ裸体の女性が・・・眠っている事は無かった。どうやら、酒に酔って、知らない場所で泊まってしまったわけではないらしい。なかなか映画のようにはいかないものだ。別に望んでいるわけではないが・・・
おれは、重たい瞼を無理に開け、ベッドから立ち上がり近くの机に向かうと、そこに朝食券が置いてあるのを見つけた。
「そうか・・・おれは、仕事で広島に来ていたんだ。確か、ここのホテルの朝食は食べ放題だった・・・」
おれは、全てを思い出した。食欲のおかげだ。全てを悟ったおれは、すぐに朝食へと急いだ。まずは、ブッフェで腹ごしらえ、だ。
食べ放題という事で、朝から無駄に食べたくも無いものを含め全てのメニューを食したおれは、今日の予定について考えた。当然、やらなければならない仕事はある。その為に、会社もおれの旅費を払っているのだから。しかし、だ。せっかくの初広島、おれには行きたい所があった。広島市民球場でも、広島ビッグアーチでもない。おれは、日本三景の一つ、『宮島』に行きたかった。
レンタカーで借りた車は、広島市内から宮島へと向かっていた。仕事?おれの口の巧さで、どうしても宮島に行かなければならないよう、仕向けた。それに、車なら宮島へは30分程度で着く。大きな問題は無いだろう。
JRの宮島口駅周辺に着くと、カーナビは唐突に案内を終了した。おれは宮島に着いたのか・・・?さっぱり分からない。土産物屋ばかりで、それほど景観は素晴らしいとは思わないが・・・
「ふっ・・・可愛い声でナビしてくれていたのに、終わりは突然、一方的に伝えてくるんだな。どの女性も同じだな・・・」
おれは今までの恋を思い出しながら、これからどうするか考えた。予定も下調べもせずに来てしまったので、全くの知識不足だったが、どうやら宮島へはフェリーで渡るしかないみたいだ。海の向こうに観える島、あれが宮島か。近くに見えるが、本土からの橋は無いみたいだ。
フェリーの所有時間は10分、さらに、約15分間隔で運行している。早速チケットを購入し、乗船一番乗りをしてやった。
10分の船の旅では、フェリーはわざと、あの厳島神社の大鳥居の前を通過してくれる。そんな事を知ったのは、下船後だ。おれは、船に同乗した女性に目を奪われていた。
「さて、どうやって声をかけようか・・・やはり宮島に着いてからだな。昼食でも誘うか・・・」
船が宮島に到着し、駅の外に出てさて女性に声をかけようとその時、おれは突然、鹿の集団に襲われた。角こそ生えてないが、バンビちゃんに全く似ていないごっつい鹿の集団が、おれに襲い掛かってきた。
「こ、これは・・・ここは奈良か!?鹿せんべいは無いが・・・」
そんなこんなで鹿達と戯れているうちに、女性観光客は見失ってしまった。仕方ない、会社の同僚と、男だけの昼食だ。観光地での男だけのグループは珍しいかもしれないが、おれは慣れている。いや、慣れたいわけではなかったのだが。
昼食は、牡蠣丼と穴子丼の2大名物から、穴子丼を選んだ。今は牡蠣の季節ではないはずだ。だからといって、穴子の季節がいつかは知らないが・・・ともかく、穴子丼は正解だった。1800円という観光地価格と、食費は経費で落とせないのは痛かったが・・・
腹ごしらえを終えると、早速メインの厳島神社だ。大鳥居を海に見据えて建てられた壮大な厳島神社、満潮の時は、大鳥居と一緒に、床下の部分を海の中に沈めるらしい。そんな写真が、厳島神社の300円入場券に描かれていた。残念ながら、今はもろ干潮、思いっきり海藻だらけの地面が表に出ている・・・
その日は、厳島神社で結婚式が行われていた。最後は、大鳥居を背に、家族揃って記念撮影らしい。通行人のふりをしてしっかり写真に紛れ込み、おれは神社を出た。これで、おれもあの写真と共に、誰かの厳島神社の記録に残るだろう。
神社を出ると、おれは、日本三景を観た事に満足し、帰宅の途に着いた。が、実は宮島はフェリーに車を乗せて上陸出来るほど広く、厳島神社以外にも弥山やその周りのハイキングコースなど、まだまだ多くの観光地があるらしい。さらに、日本三景に数えられる景色は、実は厳島神社の大鳥居ではなく、弥山山頂からの景観らしい。不覚、全然知らなかった・・・
宮島の名物はもみじ饅頭、その通り、弥山はもみじの紅葉が本当に綺麗らしい。是非また、今度は紅葉の季節にゆっくりと、出来れば彼女と一緒に来たいものだな・・・そんな事を考えながら、おれはフェリーの中でもみじ饅頭をかじっていた。お土産として買ったが、フェリーの中で完食してしまいそうだった・・・
【続く】
Reo.
おれは、重たい瞼を無理に開け、ベッドから立ち上がり近くの机に向かうと、そこに朝食券が置いてあるのを見つけた。
「そうか・・・おれは、仕事で広島に来ていたんだ。確か、ここのホテルの朝食は食べ放題だった・・・」
おれは、全てを思い出した。食欲のおかげだ。全てを悟ったおれは、すぐに朝食へと急いだ。まずは、ブッフェで腹ごしらえ、だ。
食べ放題という事で、朝から無駄に食べたくも無いものを含め全てのメニューを食したおれは、今日の予定について考えた。当然、やらなければならない仕事はある。その為に、会社もおれの旅費を払っているのだから。しかし、だ。せっかくの初広島、おれには行きたい所があった。広島市民球場でも、広島ビッグアーチでもない。おれは、日本三景の一つ、『宮島』に行きたかった。
レンタカーで借りた車は、広島市内から宮島へと向かっていた。仕事?おれの口の巧さで、どうしても宮島に行かなければならないよう、仕向けた。それに、車なら宮島へは30分程度で着く。大きな問題は無いだろう。
JRの宮島口駅周辺に着くと、カーナビは唐突に案内を終了した。おれは宮島に着いたのか・・・?さっぱり分からない。土産物屋ばかりで、それほど景観は素晴らしいとは思わないが・・・
「ふっ・・・可愛い声でナビしてくれていたのに、終わりは突然、一方的に伝えてくるんだな。どの女性も同じだな・・・」
おれは今までの恋を思い出しながら、これからどうするか考えた。予定も下調べもせずに来てしまったので、全くの知識不足だったが、どうやら宮島へはフェリーで渡るしかないみたいだ。海の向こうに観える島、あれが宮島か。近くに見えるが、本土からの橋は無いみたいだ。
フェリーの所有時間は10分、さらに、約15分間隔で運行している。早速チケットを購入し、乗船一番乗りをしてやった。
10分の船の旅では、フェリーはわざと、あの厳島神社の大鳥居の前を通過してくれる。そんな事を知ったのは、下船後だ。おれは、船に同乗した女性に目を奪われていた。
「さて、どうやって声をかけようか・・・やはり宮島に着いてからだな。昼食でも誘うか・・・」
船が宮島に到着し、駅の外に出てさて女性に声をかけようとその時、おれは突然、鹿の集団に襲われた。角こそ生えてないが、バンビちゃんに全く似ていないごっつい鹿の集団が、おれに襲い掛かってきた。
「こ、これは・・・ここは奈良か!?鹿せんべいは無いが・・・」
そんなこんなで鹿達と戯れているうちに、女性観光客は見失ってしまった。仕方ない、会社の同僚と、男だけの昼食だ。観光地での男だけのグループは珍しいかもしれないが、おれは慣れている。いや、慣れたいわけではなかったのだが。
昼食は、牡蠣丼と穴子丼の2大名物から、穴子丼を選んだ。今は牡蠣の季節ではないはずだ。だからといって、穴子の季節がいつかは知らないが・・・ともかく、穴子丼は正解だった。1800円という観光地価格と、食費は経費で落とせないのは痛かったが・・・
腹ごしらえを終えると、早速メインの厳島神社だ。大鳥居を海に見据えて建てられた壮大な厳島神社、満潮の時は、大鳥居と一緒に、床下の部分を海の中に沈めるらしい。そんな写真が、厳島神社の300円入場券に描かれていた。残念ながら、今はもろ干潮、思いっきり海藻だらけの地面が表に出ている・・・
その日は、厳島神社で結婚式が行われていた。最後は、大鳥居を背に、家族揃って記念撮影らしい。通行人のふりをしてしっかり写真に紛れ込み、おれは神社を出た。これで、おれもあの写真と共に、誰かの厳島神社の記録に残るだろう。
神社を出ると、おれは、日本三景を観た事に満足し、帰宅の途に着いた。が、実は宮島はフェリーに車を乗せて上陸出来るほど広く、厳島神社以外にも弥山やその周りのハイキングコースなど、まだまだ多くの観光地があるらしい。さらに、日本三景に数えられる景色は、実は厳島神社の大鳥居ではなく、弥山山頂からの景観らしい。不覚、全然知らなかった・・・
宮島の名物はもみじ饅頭、その通り、弥山はもみじの紅葉が本当に綺麗らしい。是非また、今度は紅葉の季節にゆっくりと、出来れば彼女と一緒に来たいものだな・・・そんな事を考えながら、おれはフェリーの中でもみじ饅頭をかじっていた。お土産として買ったが、フェリーの中で完食してしまいそうだった・・・
【続く】
Reo.