『アウェー』
① 《「アウェイ」とも》サッカーなどで、相手の本拠地。また、そこで戦うこと。→ホーム
② 自身の慣れ親しんだ分野や場所ではないところで勝負すること。「今日は歌舞伎町ではなくススキノで-戦だ。」
「…ヒマだ…」
愛するアメリカに出張に来てから1週間…シアトル郊外という場所柄もあり、買い物含む全ての事をやり尽くした感があるおれは、週末の過ごし方に悩んでいた。買い物は終わったし、映画はもう観たし、だからと言ってホテルにずっといるのも…
「…スポーツか!」
スポーツ専門チャンネルを観ながら、おれはふと閃いた。アメリカと言えばアメフトをはじめ野球やバスケットボールと言ったスポーツ、おれも昔住んでた頃はスポーツばかり観ていた。しかし…実際に現地に観に行った事はなかった。今回は社会人になって懐にも余裕がある。ひとつ、行ってみるか…
と言っても、バスケットボールはシーズンオフで、更にシアトルには現在プロチームが存在しない(オクラホマシティに移転してしまった…)。アメフトはプレシーズン中で、本気度の低い試合を高い金払って観るのは…となると、野球に決定だ。個人的には3大スポーツの中で一番興味が無いが、シーズン中だし、弱くてチケットを入手するのも簡単で、更にイチローはいなくなったが岩隈とムネリンという二人の日本人選手が所属しているらしい。すばらしい…ここは一つ、アメリカで日本人男性がどれほど人気あるか試すべく、ボールパークで隣のアメリカ人女性を口説き落とすとしましょうか。
ちなみに、サッカーというオプションも考え、シアトルには『サウンダーズ』(音を鳴らす連中!?)という意味不明なMLSチームがあるのだが、ベッカムや元イタリア代表ネスタがいる他のチームと違い知ってる選手が一人もいなかったので、止めといた。
さて、シアトル・マリナーズだ。土曜日の18時から始まるナイターのチケットをゲットしたので、昼間はシアトルの街を散策する事にした。しかしこのシアトル、夏だと言うのにクソ寒い…15℃くらいだろうか。週半ばが暖かくてT-シャツに短パンと言う格好だったおれは、夜のナイターに不安がよぎった。
適当にスペースニードル、マーケット、スターバックス1号店、そしてサイエンスミュージアムという子供向けでクソつまらない博物館で時間をつぶし、おれはシアトル・マリナーズの本拠地・セーフコ・フィールドへと向かった。
シアトルの中心から南へ2kmほどの好立地にあるセーフコ・フィールド、海沿いと言うこともあり、やはりクソ寒かった。こんな寒空の中、3時間もお外でおとなしく座っていられるはずがない。おれは仕方なく、マリナーズのパーカーを買うべく、まずはチームショップへと足を向けた。スタジアムに隣接し、直接スタジアム内に入れるチームショップ、試合前と言うことで良い感じに混雑していた。それぞれがキャップやシャツを購入し、レジも長蛇の列だ。しかしながら、全品50%オフのイチローグッズだけは、誰も手にとっていなかった…やはりここにいるのは大方が『マリナーズファン』であって『イチローファン』では無い。チーム愛の深さと、選手に対する眼はシビアだ。
おそらく昨シーズンからの品であろうセールのパーカーを購入し、おれは早速球場へ入場。中は思ったより広く、そして綺麗だった。通路は端に売店が並ぶに十分の幅があり、トイレも充実。比較的新しい球場であるのは知っていたが…すばらしい。
しかし残念だったのは、おれも席に先に誰か座っていて、さらに誰かがぶちまけたピーナッツの食べ屑が散乱していた事だ。さすがアメリカ、大雑把だ。先に座っていたおっさんに正しい席を教えて退散していただき、ピーナッツ屑を前の席に蹴り流す…おそらくこうやってアメリカ人達は徐々に正しい席に着き、ゴミを一番前の席に溜めていくのだろう。
さて、気を取り直して本日の本題だ。運の良い事に、両隣共に女性。スポーツ観戦に興味があるのはもっぱら男なアメリカで、野球場ではレアケースだと思うが、おそらく日ごろの行いの良さだろう。右側は二人組だが、典型的アメリカ人ぽくちょっと横幅があったので、今回はパスしよう。左側は三人組、ちょっと声を掛けづらいが、その中に可愛い娘もいるので、まとめて知り合いになるとしよう。
今回の作戦は、野球をあまり知らずに、色々と教えてもらう中で会話を広げて仲良くなる…日本では遂行経験があるも、アメリカ、ひいては海外では初の経験となる。アウェーでどれほど効果があるか…楽しみだ。
「…すまない、マリナーズに詳しくないのだが、このピッチャーは凄いのか…?」
「アラ、マリナーズ、知ラナイノニ、来タノ?」
「…あぁ、仕事でシアトルに来たから…あぁ失礼、Reoだ…」
「マァ、私ハレンチェル、始メマシテ」
「…良く野球を観に来るのか?こんな綺麗な女性がいるとは想像していなかった…」
「マァオ上手、タマタマ来タノヨ。アナタニ会エルナンテ、来テ良カッタワ」
「…おれもだ…どうだろう、この後、近くのバーにでも行かないか?」
イメージトレーニングも完璧だ。おれは意気揚々と、左隣の女性に声をかけた。
「…あ、あのぉ…このピッチャー…!?」
左隣の三人組、ずっとガールズトークをしていて、ほぼ全く野球を観ていない…!そういえば、三人組は到着してからもっぱら何かを食べて、ガールズトークで盛り上がっていた。女子会か!?というツッコミを入れるわけもいかず、おれは仕方なく右側も女性の方へ眼を向けた。せっかくのアウェーゲームという機会、不戦敗というわけにはいかない…
「…あ、あのぉ…!?」
右側の二人組は、なんと一心不乱にナチョスを食べていた。いや、体格の大きさは気付いていたが、まさかこちらも野球に興味が無いとは…アメリカのボールパークでは熱心なファン以外でも、ただ仲間と盛り上がって楽しむために来る観客が多いみたいだ。野球は3時間半近くもかけ、中断期間も比較的多く、のんびりと観るスポーツの為、そんな観客には向いているようだ。サッカーやバスケではこうはいかない。それは日本でも変わらなかもしれないが。
他にアメリカのベースボール観戦で気付いたことを幾つか…
‐売店の飲食物はアメリカでもクソ高い。通常の約2倍から3倍する。
‐それでもアメリカ人はみんな驚くほど食べ続けてる。
‐でもゴミの持ち帰りはしないから、試合後の席の下はゴミだらけ。
‐試合後はなぜか無料の土を配布していた。みんな家庭菜園してるのか?意味不明。
‐日本みたいに試合中ずっと揃って応援している応援団みたいなのは無い。
‐つまり外野席も他の席と変わらない。誰も歌ったり何かしら叩いたりしない。
‐つまりみんなのんびり観ているのだが、たまに起きるウェーブにはなぜか情熱を燃やしている。
‐イニング間やピッチャー交替時の中断期間は、クイズとか歌を唄うとか色々と楽しませる放送がバックスクリーンである。
‐そんな時によく観客席を映すため、ぜひ映りたいが為に中断期間の度にテンション高く踊る面々がいる。
‐でもテレビ中継ではどうせCM中であろう…と思うも、映った面々は大喜び。良い経験なのだろう。
‐ホームランボールはもとより、ファールボールも、スタンドに入らなかったファールボールも球拾いのお姉さんがくれる。
‐だから球場内はグローブ持った人達ばっかり。
‐一人でくる人もいるが、みな用意周到に端っこの席に座っている。一人でど真ん中はおれだけ。
‐イチロー効果がまだ続いているのか、ガイドに率いられた日本人ツアーの姿をまだ観る。
‐チケットは60ドル~20ドルくらいと色々だけど、30ドルの外野チケットでも十分楽しめた
‐試合前に国歌を唄って盛り上げる。
‐観客は白人男性が多い。
アメリカでも野球観戦の参考にでもしてくれ…
9回裏、マリナーズがサヨナラ犠牲フライで勝利し、試合は平和なうちに終わった。隣の女性達は、試合が終わる前に帰っていた…やはり熱狂的なファンってわけではないみたいだ。仕方なくおれも、一人寂しく帰宅の途へついた…寂しさはアウェーで不戦敗したからではなく、岩隈もムネリンも出番が無かったから、という事にしとこう。
【続く】
Reo.