「…ま、眩しい…」
冬の終わりを告げるかのように暖かく照りつける太陽に眼を細め、おれはゆっくりとベッドから身を起こした。ゴールデンウィークを祝うような好天に気分が向上するのを感じながら、おれはシャワーへと向かう。今日から待ちに待ったゴールデンウィーク、しっかり体を洗わなければならない。なぜなら、おれは連休の間に四国へと旅立つ…新しい場所に新しい出会い…新しい恋がおれを待っているのは、明らかだった。
旅慣れたおれは小振りのバッグだけを持つと、のんびりと羽田空港へと向かう。行き先は四国最大の都市、松山。そう、おれは愛する『坂の上の雲』の舞台である松山を、四国旅行の拠点にする事に決めていた。司馬遼太郎氏の小説で大河ドラマにもなっている『坂の上の雲』…『崖の上のポニョ』では、決して無い。
羽田空港に着くと、おれは早速お土産用の『東京ばなな』と、飛行機で食べる用の崎陽軒の『シウマイ弁当』を購入した。春になってよく公園で一人弁当を食うようになった最近のマイブームは、この『シウマイ弁当』。フライトの時間がお昼頃と決まった時点で、おれはこの弁当を楽しみにしていた。
定刻通りに飛行機への搭乗が始まると、おれは担当キャビン・アテンダントさんがどんな人かドキドキしながら、自分の席を探す。おれの席はCAさんの目の前、万が一の時は避難を手助けする必要があるが、恋の芽生えを感じさせる場所でもあった。
しかし…おれの目の前に座るCAさんは、ちょっとおれの好みとは違った…ガッカリと肩を落とし、おれは一人下を向いて弁当を要求し続ける自身の腹をなだめていた。すると、一人の女性がおれの目の前に立った。
「…?」
ふと顔を上げると、女性は大きなスーツケースを前に、少し困っていた。ほう、スーツケースを棚に上げたいのだな…そう気付いたおれは、立ち上がって自身のバッグをどかし、その重そうなスーツケースを棚に載せてあげた。
「あ、ありがとうございます♪」
「…あ、あぁ、全然かまわない…(か、かわいぃ…)」
その20代前半の女性は、輝かしい笑顔をおれに見せ、お礼を言う。おれの隣に座ったその女性を改めて見たおれの胸に、恋の矢が刺さった。新たな恋が、始まった。
「…(やばいな、どやって声かけようかな、これから1時間は隣だから、何とか話すきっかかけを作らないと…)」
おれは、ドキドキと脈打つ自身の胸の音を聞きながら、隣を微妙に意識し、それでいて平常心を装った。
「…(多分松山への里帰りだよな、って事は松山出身ですかって聞いて、それでおれは東京と言って…あ、まずは『シウマイが匂いますけど弁当食べても良いですか?』で場を和ませてから会話を始めよ!)」
飛行機が安定飛行に入ると、おれはゆっくりとナンパアイテム…いや、伝家の宝刀『シウマイ弁当』を取り出す。そして、少しの緊張感を感じながら、声をかけようと隣を見る…
「…あ、あのぉ…!!!」
「zzzzz」
その女性は、いつの間にか暴睡していた。かなり焦ったおれを尻目に、その女性は全く起きる気配を見せない。おれは、とりあえず弁当をテーブルに置いたまま、ちょっと起きるのを待ってみた。頭に描かれたのは完璧な作戦だ、簡単に諦めるわけにはいかない…
「…(起きろ!!)」
「zzzzz」
その女性は、完全に熟睡中だ。起こそうとわざと咳き込んでも、大きい声でCAさんにお茶を頼んでも、弁当を落としても、全く起きない…20分後、空腹感に負けたおれは諦め、『シウマイ弁当』を食す事にした。
「…あ、ちょっと匂うけど、良いかな…?」
「zzzzz」
一応聞いてみたけが、やっぱり起きなかった。おれは、涙風味のするシウマイを、一人黙々と食した。まぁ待て、松山に着くまでずっと寝てる事はないだろう、まだチャンスはある…そう信じながら。
『当機は、松山空港に到着いたしました…』
「…はっ!」
弁当を食べ終わった後、おれは完全にお昼寝の時間に入ってしまっていた。日々の習慣というものは怖い、おれは完全に熟睡していた。そして、隣の女性はパッチリと起きていた。おれは気付いた。お昼寝の間に、その女性に声をかけるチャンスを完全に逃してしまった事を…
「…(おれのバカバカバカ!)」
「あ、ありがとうございます♪」
自身の不甲斐なさを責めながら、おれは何も言わずに女性のスーツケースを下ろしてあげる。ナンパなど考えていなかったかのように、あくまでジェントルマン。イメージの良いまま別れるのが、おれの精一杯の敗戦処理だった。
「…(まぁでも、空港を出るまでにまだチャンスはあるかも…)」
一人考え事をしながら、その女性をしっかりと視界に納め、おれは出口への道を進む。すると、出口を目の前にしてその女性は、あれに話しかけてきた。
「本当にありがとうございました♪」
「…あ、あぁ…そうそう…」
おれの言葉が風に流されていくように、その女性も迎えに来ていた彼女の母親と一緒に、颯爽とおれの前から、そして空港から消えていった…おれの新たな恋は、終わってしまった…
その夜、一人枕のヘソを噛みながら泣いて眠りについたのは、言うまでも無い。だがしかし、翌日にまた新たな恋をしたのは、これまた言うまでも無い…
【続く】
Reo.
冬の終わりを告げるかのように暖かく照りつける太陽に眼を細め、おれはゆっくりとベッドから身を起こした。ゴールデンウィークを祝うような好天に気分が向上するのを感じながら、おれはシャワーへと向かう。今日から待ちに待ったゴールデンウィーク、しっかり体を洗わなければならない。なぜなら、おれは連休の間に四国へと旅立つ…新しい場所に新しい出会い…新しい恋がおれを待っているのは、明らかだった。
旅慣れたおれは小振りのバッグだけを持つと、のんびりと羽田空港へと向かう。行き先は四国最大の都市、松山。そう、おれは愛する『坂の上の雲』の舞台である松山を、四国旅行の拠点にする事に決めていた。司馬遼太郎氏の小説で大河ドラマにもなっている『坂の上の雲』…『崖の上のポニョ』では、決して無い。
羽田空港に着くと、おれは早速お土産用の『東京ばなな』と、飛行機で食べる用の崎陽軒の『シウマイ弁当』を購入した。春になってよく公園で一人弁当を食うようになった最近のマイブームは、この『シウマイ弁当』。フライトの時間がお昼頃と決まった時点で、おれはこの弁当を楽しみにしていた。
定刻通りに飛行機への搭乗が始まると、おれは担当キャビン・アテンダントさんがどんな人かドキドキしながら、自分の席を探す。おれの席はCAさんの目の前、万が一の時は避難を手助けする必要があるが、恋の芽生えを感じさせる場所でもあった。
しかし…おれの目の前に座るCAさんは、ちょっとおれの好みとは違った…ガッカリと肩を落とし、おれは一人下を向いて弁当を要求し続ける自身の腹をなだめていた。すると、一人の女性がおれの目の前に立った。
「…?」
ふと顔を上げると、女性は大きなスーツケースを前に、少し困っていた。ほう、スーツケースを棚に上げたいのだな…そう気付いたおれは、立ち上がって自身のバッグをどかし、その重そうなスーツケースを棚に載せてあげた。
「あ、ありがとうございます♪」
「…あ、あぁ、全然かまわない…(か、かわいぃ…)」
その20代前半の女性は、輝かしい笑顔をおれに見せ、お礼を言う。おれの隣に座ったその女性を改めて見たおれの胸に、恋の矢が刺さった。新たな恋が、始まった。
「…(やばいな、どやって声かけようかな、これから1時間は隣だから、何とか話すきっかかけを作らないと…)」
おれは、ドキドキと脈打つ自身の胸の音を聞きながら、隣を微妙に意識し、それでいて平常心を装った。
「…(多分松山への里帰りだよな、って事は松山出身ですかって聞いて、それでおれは東京と言って…あ、まずは『シウマイが匂いますけど弁当食べても良いですか?』で場を和ませてから会話を始めよ!)」
飛行機が安定飛行に入ると、おれはゆっくりとナンパアイテム…いや、伝家の宝刀『シウマイ弁当』を取り出す。そして、少しの緊張感を感じながら、声をかけようと隣を見る…
「…あ、あのぉ…!!!」
「zzzzz」
その女性は、いつの間にか暴睡していた。かなり焦ったおれを尻目に、その女性は全く起きる気配を見せない。おれは、とりあえず弁当をテーブルに置いたまま、ちょっと起きるのを待ってみた。頭に描かれたのは完璧な作戦だ、簡単に諦めるわけにはいかない…
「…(起きろ!!)」
「zzzzz」
その女性は、完全に熟睡中だ。起こそうとわざと咳き込んでも、大きい声でCAさんにお茶を頼んでも、弁当を落としても、全く起きない…20分後、空腹感に負けたおれは諦め、『シウマイ弁当』を食す事にした。
「…あ、ちょっと匂うけど、良いかな…?」
「zzzzz」
一応聞いてみたけが、やっぱり起きなかった。おれは、涙風味のするシウマイを、一人黙々と食した。まぁ待て、松山に着くまでずっと寝てる事はないだろう、まだチャンスはある…そう信じながら。
『当機は、松山空港に到着いたしました…』
「…はっ!」
弁当を食べ終わった後、おれは完全にお昼寝の時間に入ってしまっていた。日々の習慣というものは怖い、おれは完全に熟睡していた。そして、隣の女性はパッチリと起きていた。おれは気付いた。お昼寝の間に、その女性に声をかけるチャンスを完全に逃してしまった事を…
「…(おれのバカバカバカ!)」
「あ、ありがとうございます♪」
自身の不甲斐なさを責めながら、おれは何も言わずに女性のスーツケースを下ろしてあげる。ナンパなど考えていなかったかのように、あくまでジェントルマン。イメージの良いまま別れるのが、おれの精一杯の敗戦処理だった。
「…(まぁでも、空港を出るまでにまだチャンスはあるかも…)」
一人考え事をしながら、その女性をしっかりと視界に納め、おれは出口への道を進む。すると、出口を目の前にしてその女性は、あれに話しかけてきた。
「本当にありがとうございました♪」
「…あ、あぁ…そうそう…」
おれの言葉が風に流されていくように、その女性も迎えに来ていた彼女の母親と一緒に、颯爽とおれの前から、そして空港から消えていった…おれの新たな恋は、終わってしまった…
その夜、一人枕のヘソを噛みながら泣いて眠りについたのは、言うまでも無い。だがしかし、翌日にまた新たな恋をしたのは、これまた言うまでも無い…
【続く】
Reo.