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Reoっちの駄文(ふつーの日常をハードボイルドに)

金融、サッカー、ボクシング、映画・・・そしてその他でふつーの日常を、楽しく読めるようにハードボイルドな読み物風に。

ワールドカップ開幕からの悲しみ…、を読み物風に

2010-06-10 17:12:11 | その他
「…じゃあ、セルビアにするか…」


社内で展開さている、ワールドカップ優勝国を当てる賭け。仕事が暇な状況を有効活用し胴元になっていたおれは、巧く職権を乱用し、8人参加の中で3番目の指名権を得ていた。ブラジル、スペインと鉄板優勝候補が指名されていく中、おれは1巡目にイングランド、そして2巡目にセルビアを選択。生まれた日本と育ったアメリカの戦い含め、おれはワールドカップ開幕を興奮しながら待っていた。


「…待ち遠しいな…仕事が暇だから、毎日早く帰って2試合くらい観れるし…」
「あ、ちょっと来てくれる。」


ほぼ毎試合観ようという思惑を抱え、ワールドカップ開幕後の至福の時を夢想している時、おれは上司に呼び出しを喰らった。おい待て、今各国代表のメンバー表を見ていたんだ…と言う口から出掛かった文句を胸にしまい、おれは上司の元へ向かった。担当している仕事の都合上ここ数ヶ月ずっと暇だっただけに、もしかしたらまたリストラ…とも思ったが、まぁそれはそれだ。逆に来週からのワールドカップは、全試合堪能できる。


「…どうしました?」
「うん、ちょっと来週から出張行ってもらおうと思ってて。」
「…ん?」
「まずはドイツで、その次の週は中国で、で次の週にスウェーデン。」
「…え?」
「なんで来週から3週間なんだけど、お願いね。」
「…」


ここまで数ヶ月も放置プレーで暇を持て余していたのに、ワールドカップの開幕に合わせて海外出張とは…それも、約4週間のワールドカップ期間のうち、しっかりと3週間も被せて来るとは…その極悪非道さに、驚いた。


家族もいない。彼女もいない。友達もいない。趣味はなし。仕事後のCoCo壱カレーとサッカーだけが人生の唯一の楽しみのおれから、なんと4年に一度の待ちに待ったワールドカップ期間中に、両方とも奪い去るとは…その理不尽さに、おれは涙目になりながら、目の前の上司に訴えた。


「…はい、喜んで…」


…こんな時にも、おべんちゃらが無意識に出てしまうとは。おれは悔しさと悲しみを押し殺し、海外出張の準備に入った。良いさ、海外でナンパしまくってやる、と開き直ったのは、言うまでも無い。


とは言うものの、チキンハートで一回も女性に声を掛けられたためしが無いのは、これまた言うまでも無い…


来週から、海外出張だ。更新はうちのジュダー(カメ)に任せるので、あしからず。(ニータンにも出来るので、問題無いだろう)


【続く】


Reo.

GWの四国での恋…、を読み物風に ④

2010-06-07 15:36:34 | その他
GWの四国での恋・・・、を読み物風に ①
GWの四国での恋・・・、を読み物風に ②
GWの四国での恋・・・、を読み物風に ③


「寂しくなりますね…」


恒例の菓子パン朝食をかぶりつきながら、運転席で友人がふとつぶやく。四国旅行も4日目、今日が最終日だ。東京で数々の失恋を経験してきたおれも、地方ではその都会人ぽさからモテると思ったが…どうやらその思惑が間違いだったと、やっと気付いたゴールデンウィーク最終日だった。


「…もうしばらく、一人で生きていかなくてはな…」
「このクリームパン、美味いっすね!」


連日の晴天の中を、おれ達は松山空港へと車を走らせた。この時はまだ、数分後に「一人で生きていく」必要がなくなるとは、夢にも思わずにいた…


空港に着き、まずはお土産を物色する。坊ちゃん団子に、じゃこてん…とりあえずお土産を幾つか買ったが、この店に綺麗な店員さんはいない。ここでは、恋に落ちなかった。肩を落とし、おれは2階のゲートへと向かう。


2階のゲート前に向かうと、どこかのローカルテレビ局が、カメラで一般のお客さんにインタビューしていた。周りは、物珍しさからカメラクルーに好奇心の視線を浴びせる。


「何か、テレビのインタビューしてますね」
「…ふっ、おれはパンピーじゃないからな…興味無い…」


おれは、粋につぶやく。


「あの~すいません、ちょっとインタビューして良いですか?」
「…あ、はい、良いですよ~」


おれの変わりように驚愕の表情を浮かべる友人を横目に、おれはリポーターの質問に応える。


「どんなお休みでした?」
「どれくらいいたんですか?」
「どこに行ったんですか?」
「どんなところが良かったですか?」
「帰ったら仕事ですか?」
「休めました?」


ちょっとと言いつつ、予想しなかった長きに渡りインタビューを続けるリポーターに対し、得意のおべんちゃらを駆使し、飄々と四国を褒めるおれ。われながら、口八丁だなと思いながら、おれは見逃さなかった。インタビューの後、ディレクターが「今のカットね」と小声で言っている事を…それは良い。ともかく、リポーターもカメラマンも、全て男だった。ここでも、おれは恋に落ちなかった。


東京行きフライトの時間が近づく。おれの四国の恋のタイムリミットも、後僅かだ。オーバーブッキングのアナウンスを聞きながら、フライトを遅らせてもうちょっと恋を探そうかな…と思い始めたおれの目の前に、唐突にチラシを手渡す女性が現れた。


「『書道ガールズ』公開します、よろしくお願いします!」
「…あ、あぁ…」


おれは、その袴(?)を着て一生懸命な女性の健気さに、無意識に恋に落ちていくのを感じた。璃子ちゃんが好きなおれは映画『書道ガールズ』の事を事前に知っていたが、その女性と仲良くなる為に無知のフリをして色々と質問をした。


「…え、いつから公開なんだ?」
「15日からです♪」
「…ほう、愛媛が舞台なんだ?」
「そうなんです、中央市なんです♪」
「…君も愛媛出身なのか?」
「はい、中央市なんです♪」
「…好きな男性のタイプは?」
「え…?」
「…ま、まぁいい、東京帰ったら宣伝するから、一緒に写真とってくれ…」
「は、はぁ…」


快活な表情から徐々に引きつっていく彼女の表情を無視しながら、おれは強引に一緒に写真を撮ってもらった。フライトの時間が迫っている、ちんたらと恋をしているヒマは、おれにはなかった。



まだ劇場でやってるか分からないが、DVDの為に宣伝しておこう


この写真をもって、『松山で彼女が出来た!』と言いふらしているのは、言うまでも無い。ただ…そんな彼女の名前を知らないので、とりあえず都合の良い名前を考えようとしているのは、これまた言うまでも無い。


【続く】


Reo.

松山の恐怖、を読み物風に

2010-06-01 17:00:12 | その他
「…せっかく松山に来て可愛い四国っ娘に会ったのに、全然仲良くなれないな…」


今年のゴールデンウィーク、おれは友人と共に訪れた四国で、恋という形のない雲を追っていた。だが、幾度となく恋に遭遇するも、全く先に繋がらず、その雲に続く坂の厳しさに心折れそうになっていた。


だが…おれは諦めてはいなかった。運命の出会いを探し、おれは友人と共に松山の夜の繁華街へと繰り出した。人口では四国最大の都市、おれは焦りと共に、大きな期待を胸に秘めていた。そんな期待が、後の恐怖の出会いへと繋がると知らずに…


「…今日こそは、可愛い女性と知り合うぞっ…」


一人気合を入れながら、おれ達はホテルを出て夜の闇に体を溶け込ませる。繁華街はかなりの規模だが、松山市駅から少し離れているおれ達のホテルの周りは、店も少なく暗闇に包まれていた。とりあえず商店街を左手に見ながら、おれ達は繁華街の中心を目指し歩を進めた。


商店街からも繁華街からも離れた暗い通り、空腹を感じ早く飯を喰おうと早足に通り過ぎようとしていると、突然右手の闇が動き出した。悲鳴をどうにか抑えながら、驚きと共にその動きを凝視すると、それは小柄なおばあちゃん推定60歳だった。


「…お、おばあちゃんか…驚かすな。早く家に帰ったほうが良いぞ…」


紳士なおれは、お年寄りに優しい言葉をかけ、通り過ぎようとした。なんせ腹が減っている、おばあちゃんの世間話には付き合っていられない。


「おにいちゃん、遊んでいかない?」
「…え…?」


そのまま通り過ぎようとしたおれ達に、おばあちゃんが意味不明な言葉を投げかける。おばあちゃんと何を遊べと言うのだ?花札か?将棋か?まさかプレステなど出来まい…それとも、松山のおばあちゃんはハイテクに強くて、普通にオンラインゲームでもしちゃうのか…?呆然と佇んでいると、おれ達の周りの闇が更に動いた。なんと、おばあちゃんは一人きりではなかった。ジャージ姿のおばあちゃん、花柄のおばあちゃん、そして最初に話しかけてきたおばあちゃんの計3人がおれ達を囲んだ。


おばあちゃんが3体現れた
>たたかう
>まほう
>どうぐ
>にげる


高齢者を相手に戦うわけにはいかない。魔法は、コインマジックくらいしか出来ない。道具は、財布ぐらいしか持っていない。おれ達は、囲まれる前に逃げ出した。


「…おい、あれはなんだったんだろうな…?」


小走りに暗闇を抜け、明るい繁華街に出ておばあちゃんの恐怖から逃れたおれは、息が上がっている隣の連れに疑問をぶつけた。友人は四国出身だ、この辺のカルチャーにはおれより詳しいはずだ。


「やっぱり、客引きじゃないですかね?」
「…おばあちゃんがか…?いや、さすがにあの年齢じゃ客がいないだろ…」
「でも夜のお仕事ですからね、ありえますよ」
「…どんなプレイだ…」


おれ達二人の会話では、おばあちゃん達は何だったのか、結論は出なかった。


「…じゃあ、確かめなきゃいけんのぅ…」


だからこそ、好奇心旺盛なおれは、疑問に答えを見つける為、あの暗闇に戻る事を決意した。恐怖はある。しかし、潜入取材をしなければ、一生あれが何だったのかは分からないままだ。ちゃんとおばあちゃん達と会話しよう、そう二人で決め、おれ達はあの暗闇へと戻っていった。


「おにいちゃん達、遊んで行こうよ~」
「…」


やはり、先ほどの通りを歩いていると、おばあちゃんが闇から姿を現した。やけに色っぽい、それでいて年相応のかすれ声で話しかけてくる。怖い…しかし、もう逃げるわけにはいかない。と思っている隙に、やはりジャージ姿と花柄が現れ、3人に囲まれた。


「遊んで行こうよ」
「…いくらだ…?」
「ん~30分8千円♪」
「…場所はどこなんだ?」
「近くよ~すぐそこ」


おれは恐怖心を抑え、震える声で調査を続ける。なるほど、やはり夜のお仕事なのか。しかし…おばあちゃんだぞ…すると、おれの心の内を察したのか、連れがコメントを飛ばす。


「いや~おばあちゃんじゃ無理だよ~」


おれは、凍りついた。確かにおばあちゃん相手は無理だ。しかし、目の前のおばあちゃん達を怒らすのは、かなりマズい気が…


「いやだよ~私じゃないよ~もう♪」


…どうにか、穏便にすんだようだ。しかし、夜のお仕事のお相手は、このおばあちゃん達じゃないのか…?そんな新たな疑問を考えていると、連れがとんでも無い事を言い出した。


「でも、この先輩はおばあちゃんじゃなきゃダメなんですよ。おばあちゃんなら幾らですか?」
「…え…?」


おれは、凍りついた。おい、向こうは3人だ。もし拉致られたらどうする気だ。8千円払うとか払わないの問題じゃないぞ…色々な思いが、頭を駆け巡った。


「やだ~からかわないでよ~♪私じゃないって~♪」
「え?じゃあ誰が相手なんですか?」
「若い子よ~♪」


…話がかなり進んでしまいそうな気配を感じたおれは、調査を終了しこの場から逃れようと話を変えることにした。


「…すまん、今は金がないんだ…ホテルに帰らねば…」
「えぇ~いつまでもここにいないよ~」
「…すまん、すぐ帰ってくる…」
「ホテルどこよ~」
「…いや、道後温泉の…」
「そりゃ遠いよ~早く帰ってきてよ~」
「…あ、はい…」


おれ達は思わせぶりな態度で、どうにかおばあちゃん達3人の包囲網を潜り抜けた。背中は冷や汗で濡れ、寒気を感じていた。暗闇で顔の詳しい造形が見えないにも関わらず、おばあちゃん達はかなり怖かった。風俗の店があるにも関わらず、通りで破格の値段で客引きをしているおばあちゃん達…おそらく店で働けない中国人やらの女性を、客に案内しているのだろう。もしくは、本当におばあちゃん達自身が人肌脱いで…


難を逃れたおれ達は、別の通りを抜けて繁華街へと戻っていった。恐怖心から逃れ、やっと夕食を堪能出来る。もう夜はあの通りは歩かない…そう決意しながら、おれ達は細心の注意を払って夜の松山を堪能した。


食事を堪能し、温泉でゆっくりと体を休めた道後温泉周辺の通り。まだやっている店が無いかと歩いているおれ達に椅子に座っているおばあちゃんが声をかけてきた…


「おにいちゃん達、何探してんのぉ~」
「…!」


何も言わずに走って逃げたのは、言うまでも無い。おばあちゃん達が要所要所で牙を研いでいる夜の松山、恐るべし…


【続く】


Reo.

GWの四国での恋…、を読み物風に ③

2010-05-20 16:15:38 | その他
「…四国も3日目か…そろそろ現地の女性とあんな事やこんな事を…」


連日の晴天が強い日差しとなってビジネスホテルの部屋を照らす朝、おれは備え付けの目覚まし時計で眼を覚ますと、ふと自身の願望を呟いていた。覚醒する直前まで見ていた夢の中では、おれは四国っ娘とラブラブな関係になっていた。


しかし、眼を覚まし、ビジネスホテルの狭い部屋と小さなベッドで一人起きてみると、一人身の寂しさがおれの心を覆った。ここ二日は、夜は四国出身の友人と二人で飲み屋に行っていた。それも、悪くない。しかし…華が無い。今日こそは四国の女性と赤外線通信する!おれはそう決心し、何が起こっても良いようにシャワーで体を綺麗に洗い、下着を裏っ返しにして履き、ロビーへと向かった。


「…今日こそは…」


友人と合流し、おれたちは大歩危小歩危へと向かう。大歩危小歩危、それは徳島県は吉野川流域に存在する渓谷。その自然の迫力に触れる事で、心の中の寂しさを吹き飛ばそうという魂胆だ。愛媛っ娘には評判が良くなかったから、徳島っ娘を標的にしてナンパしよう…という理由では、決してない。


途中で休憩を入れながら、高速道路を使って約2時間。おれ達は吉野川流域に広がる岩場に足を踏み入れた。晴天が続き流れが緩やかな吉野川をバックに、切り立った岩場に立って男二人で写真の撮りあい…全く、心は晴れなかった。


大歩危では、吉野川を30分程度下る遊覧船が運航していた。ゴールデンウィークだからか恐ろしいほどの行列が出来ていたが、大歩危小歩危では渓谷をボーっと観ている以外に他にやる事がない以上、おれ達も列に並ばざるをえなかった。


「…」
「…」


船頭の説明を聞きながらボーっと吉野川を下る30分、晴天の下で眠りに誘われながらの旅に、やはりおれの心は晴れなかった。何より、遊覧船や大歩危小歩危観光に来ている面々はほとんどが家族連れもしくはカップルで、恋愛対称になる女性が全くいないのが致命的だった。


「…今日も、ダメか…」
「まぁまぁ、ナンパしに四国来たわけじゃないんだし、美味いもの食べて来ましょうよ」
「…そうだな」


いや、ナンパしに来たんだよ…という本心を隠し、おれ達は昼食をとりにパーキングエリアへと向かった。ここ大歩危小歩危では祖谷そば、もしくは徳島ラーメンが有名らしい。パーキングエリアでのオプションも、基本その2つしかなかった。


まずは、徳島ラーメンの店の前を通る。とは言え、ちょうど昨日は尾道まで足を伸ばして「尾道ラーメン」を食べていたので、ここは蕎麦で行くかな…と心の中で決めていた。そんな気持ちで客の入り具合を見ていると、店の中から一人の従業員が出てきた。


「二名様ですか?」
「…」


か、可愛い…髪をポニーテールに結び、店の赤色のエプロンをしたその女性従業員推定21歳、おれは一目惚れしていた。


そう、おれは恋に落ちていた…


「(ニコっ)♪」
「…は、はいっ!」


惚れてしまっていつもの調子のよさを失い、完全に硬直してしまったおれに見せる笑顔…おれは蕎麦もラーメンも忘れ、ただただ頷くしかなかった。もしその時20万円の壷を前にしてたとしても、その笑顔を見たおれは即決で購入していただろう…それぐらいの、輝くような笑顔だった。


おれ達は、ウキウキ気分でスキップしながら席へと案内される。希望を持った恋は、人を幸せにする。おれは彼女にどう声をかけようか策を練りながら、メニューを覗き込んだ。


「…あれ…?」


注文も決めて、さあ店員を呼ぼうと店を見回したとき、何十分も探してもおれはその意中の女性を見つける事が出来なかった。注文を取りに来る店員に「まだ決まっていない」と断りを繰り返しながら、おれは頑なに笑顔が綺麗なポニーテール推定21歳を探した。しかし…見つからなかった。


「もうオーダーしましょうよ」
「…計られたな…詐欺だ…」


おれは悔しさと悲しさを胸に、徳島ラーメンをかきこんだ。初めての徳島ラーメンは、涙の味がした…そう、おれの徳島の恋は、終わりを迎えようとしていた。


「…もう、終わりにしよう…」


食事の1時間後、おれ達はやっと重い腰をあげた。やはり、その輝く笑顔の女性とは、会う事はなかった。おれは二人の心通わぬ恋に終止符を打つ言葉を残し、店を後にした。でもやっぱり諦めきれずに、もう一回徳島ラーメン食おうと友人を説得しようとしたのは、言うまでも無い。


でもやっぱりその女性には会えずに、手元にはお土産用インスタント徳島ラーメンと寂しい心だけが残ったのは、これまた言うまでも無い。


【続く】


Reo.

GWの四国での恋…、を読み物風に ②

2010-05-14 16:51:04 | その他
四国到着から二日目、おれはホテルから路面電車で松山駅へと向かう。前日、電車を降りた途端に『お兄さん宿は決まってる?』と老婆に聞かれるほどのホスピタリティー溢れる道後温泉周辺から離れるのは名残惜しかったが、老婆のお宅に泊まるのも良かったなと思いながらも安いホテルを求め、おれは繁華街へと足を向けた。


ちなみに、その時の老婆には恋はしていない。


「あ!お久しぶりです!!」
「…おぉ、元気そうだな。」


松山駅の前で、おれは高知に住む友人と、約二年ぶりの再会を果たす。四国に来たのは『坂の上の雲』がけが目当てなのではなく、かつては同僚だったその友人と、四国を色々と廻る為だった。ハードボイルドの程は甘いながらも、その善い人そうな雰囲気を醸す出すその友人とは、キャラクター的には正反対ながらもなぜか相性は良かった。


「ほな、とりあえず駐車場行きましょう。」
「…そうだな。」


今回の四国旅行の足になる友人の新車、その車をとりに、おれ達は駅前から駐車場へと向かった。


「いや~懐かしいですねぇ…ん??」
「…あれ…??」


屋内駐車場を歩いている最中、おれ達は同時に足を止めた。なんと車が隙間なく並んでいる駐車スペースの脇に、面長の男性用の財布が落ちていたのだ。


「…!!」


おれは、早速右足でその財布を踏み、自身の方へと寄せた。そして、自然な素振りで、財布を拾い上げる。


「誰か困ってますね、早く届けなくちゃ。」
「…え?…い、いや、そうだな…」


前後を見渡し他人の目が無い事を確認し、そろりとポケットにその財布を入れようとしたその時、友人がつぶやいた。驚きの表情を隠し、おれはとりあえず肯定しておいた。もちろん、財布を拾ったら交番に届けるのが正しい。しかし…毎週TOTO BIGを購入して全くかすりもしていない、更には仕手株に手を出してまんまとハシゴを下ろされた(要は株で損した)おれは、その時若干の生活苦に陥っていた。


「…なんか交番混んでるし、もう帰ろう…」
「いやいや、直ぐに空きますって」


交番に着くまでには財布を拾った事を忘れてくれるだろうという思惑を持ちながら、ついつい交番に来てしまったおれは、最後の抵抗を試みる。しかし、善い人そうな見た目通りの善人振りをみせるその友人は、なかなかおれのオブラートに包んだ真意を分かってくれなかった。


「…いやしかしだな…ん…!?」


それでも交番の中に入ってしまう前にどうにかしようとしたおれは、しかし扉のガラス越しにとんでもない光景を見てしまった。ある親子の話を聞いている20代前半の若い婦警さん、かなり可愛かった。松山の炎天下の下、頭の中で『逮捕しちゃうぞ♪』プレイの妄想を繰り広げたおれは、その時すでに恋に落ちていた…


「…財布を、おれが、拾ったんだが…駐車場で、おれが、見つけたんだが…」
「あ、ありがとうございます♪」


調書を取り終わった親子が帰り、その美人婦警さんの手が空くと、おれは素早くその前に着席し、二人のうちおれが財布を拾って届けに来た善人だとアピールしながら、調書の記入の為に質問を一身に受けた。


「住所を教えてもらえますか?」
「…神奈川県だ…香川の香じゃないぞ、神という字だ…」


国家公務員試験をパスしているはずなのに、神奈川の漢字を間違えるとは…か、可愛ぃ…本気モードになったおれは、ついつい本音を口に出してしまった。


「…もっと、強く詰問して良いんだぞ…」
「は?いえ、取調べじゃないんですから。どこで拾いました?」
「…ふっ、口を割らせてみろ…叩いても良いぞ…」
「あはは♪駐車場ってさっき言いましたっけ?」
「…え(本気で叩いて欲しいんだが…)、そ、そうです…」


ドMなおれは、本気モードでその婦警さんに責められたかったが、後ろにいるガタイの良いおっさん警官の視線がこちらに向かいだしたのに気付き、その後はついつい普通の受け答えに終始してしまった。だが良いだろう、おれの目的は、この婦警さんと赤外線通信をする事なのだから。赤外線通信さえしてしまえば、あとはいくらでも制服プレイ出来るはずだ…


調書、というか遺失物なんとか届を滞りなく埋めると、最後に拾った財布に幾ら入っているか確認する段階に入った。届ける前に幾ら入っているか確認するのは、忘れていた。おれはいつその婦警さんに赤外線通信を聞くか計りながら、ボーっとお巡りさんが財布の中身を確認するのを聞いていた。


「1万円札が、一枚。5千円札が、一枚。千円札が、一枚…合計1万6千5百60円。」
「………い、いちまんろくせん…!?」


おれは、逃した魚の大きさに驚き、頭が朦朧としだした。1万6千円で買えた色々な物が、走馬灯のようにおれの頭をよぎる。TOTO BIGが500口、ipod nano、PSP…


「免許証も入ってるので、まぁ間違いなく持ち主は探せますけど、1割のお礼の権利はあるのでお礼の電話は欲しいと言う事で…」
「…いや、いらない…」
「本当ですか?じゃあ、善意の誰かが届けてくれたという事で良いですか?」
「…あぁ、それで頼む…」


免許証の男性がいかつそうだったのもあるが、手に入れられたはずのものの大きさにショックを受けたおれは、もうさっさと松山城に昇って、天守閣からの絶景で心を癒したかった。もう、何でも良かった。


「ありがとうございました~♪」
「…」


おれは友人と、手ぶらで交番を出た。また財布を拾って、綺麗な婦警さんと知り合うさ…そう信じて…


「…あ、赤外線通信忘れた…」


気付いたのは、松山城へと向かうリフトの上でだった。また、おれの恋は1時間足らずで終わったのは、言うまでも無い。


しかし、松山城で新たな恋を探したのは、これまた言うまでも無い。


【続く】


Reo.