『GTEC』
① GTEC(ジーテック)とは、ベネッセコーポレーションの子会社で英語学校のベルリッツが実施している英語検定の一種。正式名称は「Global Test of English Communication」であり、その頭文字をとっている。
② 個人的な印象では、TOEICより難しいが、TOEFLよりは簡単。
「・・・すまん、これからGTECなんだ・・・」
オフィスがこれから始まるクリスマス・パーティを前にしてざわめき始めた金曜日の夕方、おれは浮ついた気持ちの見える同僚達を尻目に、一人席を立った。みんながパーティで楽しんでいる時間、おれは一人試験に挑むことになっていた。自身の能力を知る為の、『GTEC』という英語力を測る試験を・・・周りが楽しんでいる時にも、一人試練に挑む。そんなストイックな自分が、かっこいい・・・と、思いながら。
おれは、高校と大学をアメリカで過ごした。だから、ビジネスレベルでも英語の能力に問題はないし、それは会社内でも知られている。それでも、おれは『GTEC』でより良いスコアを欲していた。これまで2回受けて、1000満点中800点以上はとっているが、おれの目標は900点だった。それくらいの圧倒的な点数をとらないと、この不況時に他を引き離す武器にはならない・・・より良い記録を履歴書に残すのに、会社が試験代を払ってくれるのなら、例えクリスマス・パーティを欠席してビンゴ大会に参加出来なくても、試験を受けないわけにはいかなかった。リストラを2回経験した心の傷が、より良い点数を欲していた。
おれは、めっきり冬らしくなった寒気の中、身を丸めて試験会場へと向かった。耳には、イヤホン。おれは試験の為に、自信過剰にはならず、しっかりとエミネムの音楽を聴いて万全の状況を整えていた。エミネムのハイスピードなラップを聴いていれば、確実に聞き取り能力は向上しているはず・・・そう、信じながら。
ベルリッツの校内にある個室に、一人パソコンを前に座った試験会場。おれは、「これで900点をとって最後にする」という決意を持って、試験に立ち向かった。まずは4択の聞き取り問題。つい数分前までエミネムを聞いてたおれには、問題文のナレーションがおじいちゃんおばあちゃんの会話に聞こえた。余裕だ。ナレーションを軽く自分でリピート出来るほどの余裕で、何の問題も無く聞き取り試験を終了した。
次に、文章問題に入った。やけに長い文章を読んで、問題に答える。アメリカの国語(つまり英語)の授業で、このような形の試験を数多くこなしてきたおれの事、こちらも何の問題もなかった。
続いて、画面に出た文章を読ませられた。まぁ発音のチェックなのだろう。発音の分からない単語も無い。ちょっとHip Hop調にリズムをもってしまったが、何の問題も無くこなした。
そして次は、画面に出る動画に応える形で、日常的に行われる会話の問題が出た。おれの相手は、クルーザーちっくな客船の乗務員との会話。そんな豪華客船に乗ったことのないおれにとっては、この状況は日常会話とは言い難かったが・・・まぁ問題ないだろうと、なんの緊張も無く問題に取り組んだ。
「Hi, how are you today?」
「・・・Hey what's up. I'm good man, how'bout you brother?」
・・・おっと、自然にHip Hopな、ラッパー的口調になってしまった・・・頭の片隅で後悔したが、動画はそのまま続いていく・・・
「・・・It's so fxxking hot out here, sxxt! Can't you do something about this mother fxxker!?」
「・・・Oh I don't give a sxxt about your fxxking excuse man, you fxxking axxhole.」
・・・流れに乗って、ついつい言ってはいけない言葉を、マイクに向かって連発してしまった・・・直前まで聞いていたエミネムの汚い言葉を満面につかったラップの影響なのは明らかだ・・・採点者が聞く前に、「ピーッ」音が入らないかと願いながら、おれはSpeakingの試験を終えた・・・
「・・・や、やってしまった・・・」
完全に、失敗だ。ビジネス・日常会話を試験するこのGTECで、無駄に到底公の場では使えない汚い言葉で喋ってしまった・・・エミネム、恐るべし・・・ネイティブレベルの会話としては問題なさそうだが(?)、GTECの評価はどうなるのか・・・試験後にも試験結果に戦々恐々としているのは、言うまでも無い・・・レディー・ガガくらいにしとけば良かった・・・
そしてSpeaking試験以外にも、Writing試験で無駄に数々の韻(rhyme)を踏んだ文章を書いてしまったのは、言うまでも無い。おそるべしアメリカンHip Hop・・・GTECやTOEICの前、ラップで勉強するのは、オススメしない。
【続く】
Reo.
① GTEC(ジーテック)とは、ベネッセコーポレーションの子会社で英語学校のベルリッツが実施している英語検定の一種。正式名称は「Global Test of English Communication」であり、その頭文字をとっている。
② 個人的な印象では、TOEICより難しいが、TOEFLよりは簡単。
「・・・すまん、これからGTECなんだ・・・」
オフィスがこれから始まるクリスマス・パーティを前にしてざわめき始めた金曜日の夕方、おれは浮ついた気持ちの見える同僚達を尻目に、一人席を立った。みんながパーティで楽しんでいる時間、おれは一人試験に挑むことになっていた。自身の能力を知る為の、『GTEC』という英語力を測る試験を・・・周りが楽しんでいる時にも、一人試練に挑む。そんなストイックな自分が、かっこいい・・・と、思いながら。
おれは、高校と大学をアメリカで過ごした。だから、ビジネスレベルでも英語の能力に問題はないし、それは会社内でも知られている。それでも、おれは『GTEC』でより良いスコアを欲していた。これまで2回受けて、1000満点中800点以上はとっているが、おれの目標は900点だった。それくらいの圧倒的な点数をとらないと、この不況時に他を引き離す武器にはならない・・・より良い記録を履歴書に残すのに、会社が試験代を払ってくれるのなら、例えクリスマス・パーティを欠席してビンゴ大会に参加出来なくても、試験を受けないわけにはいかなかった。リストラを2回経験した心の傷が、より良い点数を欲していた。
おれは、めっきり冬らしくなった寒気の中、身を丸めて試験会場へと向かった。耳には、イヤホン。おれは試験の為に、自信過剰にはならず、しっかりとエミネムの音楽を聴いて万全の状況を整えていた。エミネムのハイスピードなラップを聴いていれば、確実に聞き取り能力は向上しているはず・・・そう、信じながら。
ベルリッツの校内にある個室に、一人パソコンを前に座った試験会場。おれは、「これで900点をとって最後にする」という決意を持って、試験に立ち向かった。まずは4択の聞き取り問題。つい数分前までエミネムを聞いてたおれには、問題文のナレーションがおじいちゃんおばあちゃんの会話に聞こえた。余裕だ。ナレーションを軽く自分でリピート出来るほどの余裕で、何の問題も無く聞き取り試験を終了した。
次に、文章問題に入った。やけに長い文章を読んで、問題に答える。アメリカの国語(つまり英語)の授業で、このような形の試験を数多くこなしてきたおれの事、こちらも何の問題もなかった。
続いて、画面に出た文章を読ませられた。まぁ発音のチェックなのだろう。発音の分からない単語も無い。ちょっとHip Hop調にリズムをもってしまったが、何の問題も無くこなした。
そして次は、画面に出る動画に応える形で、日常的に行われる会話の問題が出た。おれの相手は、クルーザーちっくな客船の乗務員との会話。そんな豪華客船に乗ったことのないおれにとっては、この状況は日常会話とは言い難かったが・・・まぁ問題ないだろうと、なんの緊張も無く問題に取り組んだ。
「Hi, how are you today?」
「・・・Hey what's up. I'm good man, how'bout you brother?」
・・・おっと、自然にHip Hopな、ラッパー的口調になってしまった・・・頭の片隅で後悔したが、動画はそのまま続いていく・・・
「・・・It's so fxxking hot out here, sxxt! Can't you do something about this mother fxxker!?」
「・・・Oh I don't give a sxxt about your fxxking excuse man, you fxxking axxhole.」
・・・流れに乗って、ついつい言ってはいけない言葉を、マイクに向かって連発してしまった・・・直前まで聞いていたエミネムの汚い言葉を満面につかったラップの影響なのは明らかだ・・・採点者が聞く前に、「ピーッ」音が入らないかと願いながら、おれはSpeakingの試験を終えた・・・
「・・・や、やってしまった・・・」
完全に、失敗だ。ビジネス・日常会話を試験するこのGTECで、無駄に到底公の場では使えない汚い言葉で喋ってしまった・・・エミネム、恐るべし・・・ネイティブレベルの会話としては問題なさそうだが(?)、GTECの評価はどうなるのか・・・試験後にも試験結果に戦々恐々としているのは、言うまでも無い・・・レディー・ガガくらいにしとけば良かった・・・
そしてSpeaking試験以外にも、Writing試験で無駄に数々の韻(rhyme)を踏んだ文章を書いてしまったのは、言うまでも無い。おそるべしアメリカンHip Hop・・・GTECやTOEICの前、ラップで勉強するのは、オススメしない。
【続く】
Reo.