『ミュージカル』
① 米国で発達した、音楽・舞踊などの総合による演劇形式。19世紀後半にオペレッタなどの形式をもとに生まれ、20世紀前半に大きく発展した。
② みんなで歌って踊るが、盆踊りを「ミュージカル」とは呼ばない。
「・・・全員動くな!ここに爆弾が仕掛けられている!・・・CTUだ!!」
金曜日の夜、飲み会でジャック・バウアーのモノマネをしながら、歌って踊って参加者をエンターテインしていたおれのもとに、一通のメールが届いた。CTU、つまりCounter Terrorist Unitからのメールだと思ったおれは、すぐに携帯をチェックした。
「・・・ちょっと待て!遊びは終わりだ、ミッションが届いたようだ!!」
しかしメールは、友人からのミュージカルへの誘いだった。演目は『ウエスト・サイド・ストーリー』、アメリカが原作なだけに名前は知っていたが、あまりに古すぎてストーリーは知らない作品だった。海に行きたかったが天気が悪く予定変更を余儀なくされたおれは、ストーリーを知らないながらも二つ返事で誘いに乗った。
日曜日、おれは渋谷の駅に降り立った。尋常じゃない雑踏の中を、おれはミュージカルの会場であるオーチャードホールへと向かう。本場アメリカはブロードウェイの50周年記念ツアーと言う事で、なかなか立派な会場を用意していた。そして、値段もなかなか立派だった。タダで観る事になるおれの期待は、弥が上にも高まっていった。
会場に入る。さすが渋谷が誇るイベント会場、かなり綺麗で、かなり座り心地の良い座席が用意されている。おれは、座席に着くと同時に、不安が胸をよぎるのを感じた・・・常日頃、おれは映画館で映画を観る時、かなりの高確率で睡眠におちる。その座席の座り心地と、会場の暗さが、音の大きさを打ち消し睡魔を呼ぶ。一人2千円いかない映画なら多少寝ても良いが、このミュージカルは値段が桁違いだ・・・寝てしまうわけには、いかなかった。
アナウンスと共に、会場が暗くなる。プエルトリコ系アメリカ人と、ポーランド系アメリカ人が唐突に舞台の上で踊りだし、「ウエスト・サイド・ストーリー」が始まった。違う人種の二組のギャング団の抗争から、ストーリーは徐々にクライマックスへと向かっていった。
「・・・むっ、やばい・・・!」
おれは、一人呟いた。腹が痛くなったからでも、腹が減ったからでも無い。普通に、眠くなってきた。おれは、隣に座る友人の様子を気にしながら、モジモジし始めた。ここで眠ってしまうと、まず一人一万円以上するチケット代が、勿体無い。それにストーリーも分からなくなる。さらに、誘ってくれた人に申し訳がたたない。何より、この客層から言って途中で寝てしまうなどありえないだろう、恥ずかしい。
そんな事を考えながら、ボーっと舞台の横に立つ字幕を眺めていると、主人公二人のラブストーリーが始まった。
「・・・ま、まずい!・・・スローミュージックはやめてくれ・・・!」
舞台では、二人が囁きあい、そして緩いバラードの音楽の下で、踊りだす。我慢の限界だ。おれは、完全に意識を失った・・・
-熟睡中-
「さっき寝てたでしょ!!」
「・・・」
休憩時間、おれは友人から責められ、目を覚ました。『いや、さっきだけじゃなくて、今までずっと寝てたよ』などとは言えるはずも無く、おれは無言を貫いた。状況が悪いときは、無言が一番だ。だが、この休憩のおかげで、目は醒めた。さらに幸運な事に、ストーリーは『ロミオとジュリエット』とほぼ同じ、ストーリー展開に置いて行かれる事もなさそうだ。
「・・・もう大丈夫だ、第二幕は、しっかりと楽しむ。」
その後、第二幕が始まり、おれはしっかりとまた睡魔に負けてしまったのは、言うまでも無い。
しかし、なぜか、おれが第二幕も寝ていた事は、友人にはバレなかった。そして、その友人はしっかりとミュージカルを楽しみ、喜んでいた。
「・・・隣で寝ているだけで、こんなに喜んでくれるとは、こんな楽な事はない…ミュージカルや映画デート、良いかもな・・・」
その後、おれはデートで映画やミュージカルに行く際、寝ているのがバレないようにサングラスを購入したのは、言うまでも無い。
そして、色々な女性を映画やミュージカルに誘ったが、ことごとく断られたのは、これまた言うまでも無い。
【続く】
Reo.
① 米国で発達した、音楽・舞踊などの総合による演劇形式。19世紀後半にオペレッタなどの形式をもとに生まれ、20世紀前半に大きく発展した。
② みんなで歌って踊るが、盆踊りを「ミュージカル」とは呼ばない。
「・・・全員動くな!ここに爆弾が仕掛けられている!・・・CTUだ!!」
金曜日の夜、飲み会でジャック・バウアーのモノマネをしながら、歌って踊って参加者をエンターテインしていたおれのもとに、一通のメールが届いた。CTU、つまりCounter Terrorist Unitからのメールだと思ったおれは、すぐに携帯をチェックした。
「・・・ちょっと待て!遊びは終わりだ、ミッションが届いたようだ!!」
しかしメールは、友人からのミュージカルへの誘いだった。演目は『ウエスト・サイド・ストーリー』、アメリカが原作なだけに名前は知っていたが、あまりに古すぎてストーリーは知らない作品だった。海に行きたかったが天気が悪く予定変更を余儀なくされたおれは、ストーリーを知らないながらも二つ返事で誘いに乗った。
日曜日、おれは渋谷の駅に降り立った。尋常じゃない雑踏の中を、おれはミュージカルの会場であるオーチャードホールへと向かう。本場アメリカはブロードウェイの50周年記念ツアーと言う事で、なかなか立派な会場を用意していた。そして、値段もなかなか立派だった。タダで観る事になるおれの期待は、弥が上にも高まっていった。
会場に入る。さすが渋谷が誇るイベント会場、かなり綺麗で、かなり座り心地の良い座席が用意されている。おれは、座席に着くと同時に、不安が胸をよぎるのを感じた・・・常日頃、おれは映画館で映画を観る時、かなりの高確率で睡眠におちる。その座席の座り心地と、会場の暗さが、音の大きさを打ち消し睡魔を呼ぶ。一人2千円いかない映画なら多少寝ても良いが、このミュージカルは値段が桁違いだ・・・寝てしまうわけには、いかなかった。
アナウンスと共に、会場が暗くなる。プエルトリコ系アメリカ人と、ポーランド系アメリカ人が唐突に舞台の上で踊りだし、「ウエスト・サイド・ストーリー」が始まった。違う人種の二組のギャング団の抗争から、ストーリーは徐々にクライマックスへと向かっていった。
「・・・むっ、やばい・・・!」
おれは、一人呟いた。腹が痛くなったからでも、腹が減ったからでも無い。普通に、眠くなってきた。おれは、隣に座る友人の様子を気にしながら、モジモジし始めた。ここで眠ってしまうと、まず一人一万円以上するチケット代が、勿体無い。それにストーリーも分からなくなる。さらに、誘ってくれた人に申し訳がたたない。何より、この客層から言って途中で寝てしまうなどありえないだろう、恥ずかしい。
そんな事を考えながら、ボーっと舞台の横に立つ字幕を眺めていると、主人公二人のラブストーリーが始まった。
「・・・ま、まずい!・・・スローミュージックはやめてくれ・・・!」
舞台では、二人が囁きあい、そして緩いバラードの音楽の下で、踊りだす。我慢の限界だ。おれは、完全に意識を失った・・・
-熟睡中-
「さっき寝てたでしょ!!」
「・・・」
休憩時間、おれは友人から責められ、目を覚ました。『いや、さっきだけじゃなくて、今までずっと寝てたよ』などとは言えるはずも無く、おれは無言を貫いた。状況が悪いときは、無言が一番だ。だが、この休憩のおかげで、目は醒めた。さらに幸運な事に、ストーリーは『ロミオとジュリエット』とほぼ同じ、ストーリー展開に置いて行かれる事もなさそうだ。
「・・・もう大丈夫だ、第二幕は、しっかりと楽しむ。」
その後、第二幕が始まり、おれはしっかりとまた睡魔に負けてしまったのは、言うまでも無い。
しかし、なぜか、おれが第二幕も寝ていた事は、友人にはバレなかった。そして、その友人はしっかりとミュージカルを楽しみ、喜んでいた。
「・・・隣で寝ているだけで、こんなに喜んでくれるとは、こんな楽な事はない…ミュージカルや映画デート、良いかもな・・・」
その後、おれはデートで映画やミュージカルに行く際、寝ているのがバレないようにサングラスを購入したのは、言うまでも無い。
そして、色々な女性を映画やミュージカルに誘ったが、ことごとく断られたのは、これまた言うまでも無い。
【続く】
Reo.