『一人旅』
① 道連れなしに旅をすること。また、その旅。
② 男一人で実施すると、概ね暇すぎて、寂しすぎて、ついつい風俗に走ってしまう事。
携帯電話のアラームで目を覚ましたおれの目に映ったのは、いつもとは違う天井だった。おれの部屋の天井には、自慢の某化粧品CMの加藤あいちゃんポスターが貼られているはずだが、その日あいちゃんは見当たらなかった。『誰かにポスターぱくられたのか!?』と数秒うろたえた後に、おれは気づいた…おれは、この土曜日の朝を、ホテルの一室で迎えていた。
彼女と金曜日の夜からお泊りデート?否、そんな事は夢の中だけだ。おれは自身のボケに苦笑いを浮かべながら、この日の予定を思い浮かべた。おれは、ニュルンベルクと言うドイツの古都に、仕事で来ていた。中世の城壁に囲まれたこの小さな街に来たのは、これで二回目。前回は2006年ワールドカップの時に日本対クロアチアを観戦に訪れ、試合後に街を周らずに直ぐに仕事先のミュンヘンに戻っていた。今回こそは、少し城や古い街並みを歩いてみるか…ただでさえ友人など皆無なのに、海外に来て全く知り合いのいなくなったおれは、その暇さ加減に辟易しながらそう決断した。
週末でも平日と同じくらいの時間に起きるおれは、朝8時半のニュルンベルクの冷気に、声を失った。空気が乾いているからか、日本とは考えられないほどの朝と夜の寒さは、欧州の気候の厳しさを感じさせた。寒さに身をすくめながら、おれはホテルから峠にそびえ立つ城へ向けて、歩を進めた。古い石畳を一人歩くおれ、かなりハードボイルドだぜ…などと妄想しながら、まだ開店していない店舗に挟まれた通りを歩く。途中に古い教会や、広場のフリーマーケット、お菓子屋の前の行列に行き当たるが、当然ガイドブックなど持っていないおれには意味不明、完無視を決め込み城へと続く坂道を辿った。
城に辿り着く。丘から観る街並みは、なかなかの絶景だった。景色を楽しんだ後、満を持して城を周ろうとするが、思ったより小さく、約5分で終了する…気を取り直し、城の中に入ろうとするが、どうやらガイドのついたツアー客しか受け付けていないようだ。ハードな一人旅のおれは、踵を返し街に戻った。
ホテルを出て約2時間、おれは城と街の散策を、あらかた終了していた。その間に観た観光地ぽいところは、城一つ、教会三つ、噴水一つ、行列の出来るお菓子や一つ、ストリップバー二つ…街の店が開店する前に、おれのニュルンベルク観光は終了してしまった…もっとも、店が開店したとしても物価が高いヨーロッパでショッピングを楽しむつもりは毛頭なかったが。
おれは、仕方なく、映画館へと向かった。ドイツ語のガイドブックを必死に解読し、どうにか上映時間を調べる。とりあえずアメリカ映画、日本でも観たかった『G.I.ジョー』を観る事にする。
夜になり、おれは映画館へと向かった。すると、さすが他にやる事のない小さな街ニュルンベルク、映画館には長蛇の列が出来ていた。ビビリながらも、とりあえずドイツ人の巨体に紛れて列の最後尾に並ぶ…と思ったが、良く見るとちゃんとした列などない。謙虚な日本人を演じ次々と横から前に入られる中、遂にカウンターに辿り着いたが、その時には後ろに誰も並んでいなかった。
「…ふっ、さすがゲルマン魂だ…とりあえず、ワン・フォー・G.I.ジョーだ。」
英語は、通じた。だが、ドイツでは公開からもう1ヶ月くらい経っているのに、ほぼ完売。さすが何もやる事が無いニュルンベルク。おれは一人感心しながら、地下へと続く映画館の奥へと進んでいった。
「…!?」
映画が始まった。映画の中で、アメリカ人がことごとくドイツ語を喋っている…おれは支払った10ユーロと2時間と言う時間に大きく失望しながら、ストーリー展開に想像を膨らませた。上映中終始目が点だったのは、言うまでも無い。さっぱり、意味不明だったが、とりあえず他の人が笑っているシーンでは一緒に笑っておいたのは、これまた言うまでも無い。海外では吹き替えが当たり前なのか…おれは傷ついた心を抱え、映画館を後にした。

【続く】
Reo.
① 道連れなしに旅をすること。また、その旅。
② 男一人で実施すると、概ね暇すぎて、寂しすぎて、ついつい風俗に走ってしまう事。
携帯電話のアラームで目を覚ましたおれの目に映ったのは、いつもとは違う天井だった。おれの部屋の天井には、自慢の某化粧品CMの加藤あいちゃんポスターが貼られているはずだが、その日あいちゃんは見当たらなかった。『誰かにポスターぱくられたのか!?』と数秒うろたえた後に、おれは気づいた…おれは、この土曜日の朝を、ホテルの一室で迎えていた。
彼女と金曜日の夜からお泊りデート?否、そんな事は夢の中だけだ。おれは自身のボケに苦笑いを浮かべながら、この日の予定を思い浮かべた。おれは、ニュルンベルクと言うドイツの古都に、仕事で来ていた。中世の城壁に囲まれたこの小さな街に来たのは、これで二回目。前回は2006年ワールドカップの時に日本対クロアチアを観戦に訪れ、試合後に街を周らずに直ぐに仕事先のミュンヘンに戻っていた。今回こそは、少し城や古い街並みを歩いてみるか…ただでさえ友人など皆無なのに、海外に来て全く知り合いのいなくなったおれは、その暇さ加減に辟易しながらそう決断した。
週末でも平日と同じくらいの時間に起きるおれは、朝8時半のニュルンベルクの冷気に、声を失った。空気が乾いているからか、日本とは考えられないほどの朝と夜の寒さは、欧州の気候の厳しさを感じさせた。寒さに身をすくめながら、おれはホテルから峠にそびえ立つ城へ向けて、歩を進めた。古い石畳を一人歩くおれ、かなりハードボイルドだぜ…などと妄想しながら、まだ開店していない店舗に挟まれた通りを歩く。途中に古い教会や、広場のフリーマーケット、お菓子屋の前の行列に行き当たるが、当然ガイドブックなど持っていないおれには意味不明、完無視を決め込み城へと続く坂道を辿った。
城に辿り着く。丘から観る街並みは、なかなかの絶景だった。景色を楽しんだ後、満を持して城を周ろうとするが、思ったより小さく、約5分で終了する…気を取り直し、城の中に入ろうとするが、どうやらガイドのついたツアー客しか受け付けていないようだ。ハードな一人旅のおれは、踵を返し街に戻った。
ホテルを出て約2時間、おれは城と街の散策を、あらかた終了していた。その間に観た観光地ぽいところは、城一つ、教会三つ、噴水一つ、行列の出来るお菓子や一つ、ストリップバー二つ…街の店が開店する前に、おれのニュルンベルク観光は終了してしまった…もっとも、店が開店したとしても物価が高いヨーロッパでショッピングを楽しむつもりは毛頭なかったが。
おれは、仕方なく、映画館へと向かった。ドイツ語のガイドブックを必死に解読し、どうにか上映時間を調べる。とりあえずアメリカ映画、日本でも観たかった『G.I.ジョー』を観る事にする。
夜になり、おれは映画館へと向かった。すると、さすが他にやる事のない小さな街ニュルンベルク、映画館には長蛇の列が出来ていた。ビビリながらも、とりあえずドイツ人の巨体に紛れて列の最後尾に並ぶ…と思ったが、良く見るとちゃんとした列などない。謙虚な日本人を演じ次々と横から前に入られる中、遂にカウンターに辿り着いたが、その時には後ろに誰も並んでいなかった。
「…ふっ、さすがゲルマン魂だ…とりあえず、ワン・フォー・G.I.ジョーだ。」
英語は、通じた。だが、ドイツでは公開からもう1ヶ月くらい経っているのに、ほぼ完売。さすが何もやる事が無いニュルンベルク。おれは一人感心しながら、地下へと続く映画館の奥へと進んでいった。
「…!?」
映画が始まった。映画の中で、アメリカ人がことごとくドイツ語を喋っている…おれは支払った10ユーロと2時間と言う時間に大きく失望しながら、ストーリー展開に想像を膨らませた。上映中終始目が点だったのは、言うまでも無い。さっぱり、意味不明だったが、とりあえず他の人が笑っているシーンでは一緒に笑っておいたのは、これまた言うまでも無い。海外では吹き替えが当たり前なのか…おれは傷ついた心を抱え、映画館を後にした。

【続く】
Reo.