『競技場』
① 各種の運動競技ができる、整備された総合的施設。
② 観客席が概ね芝生でも、ほのぼの加減にびっくりするが問題は無い。
柔らかい日差しが、休日の惰眠をエンジョイするおれの横顔を暖かく包む。夢の中で意中(だがおれに全く興味の無い)の女性とチュッチュ♪していたおれは、その明かりを瞼に受け、徐々に覚醒していった。おれは必死に夢の中に戻ろうともがいたが、その余りにも現実味の無いストーリーに、夢の中とはいえ続きを見出す事は出来なかった。
「…ふっ、夢か…当たり前だが…」
最高に近い夢を記憶したまま目を覚まし、朝から気分上々なおれだったが、この晴れやかな週末の一日も、全くやる事が無い現実が徐々に頭に浸透し、おれは一気に暗澹たる気分に陥った。
朝から激しく上下するテンションを維持する為、おれは朝食をガッチシ摂る為にキッチンへと向かった。そこで、おれはあるチラシを目にした。
「…町田ゼルビア…」
そのチラシは、JFLに所属し、近々のJリーグ入りを目指す我らがホームチーム、町田ゼルビアの試合を宣伝していた。この日、フットサルチームのペスカドーラ町田は試合無し。そして、ゼルビアのホームスタジアムは、車で僅か15分の距離…何より、暇すぎて起きてから既に10回以上あくびをしている。おれの今日の予定が、決まった。
13時開始の試合の為、おれは11時半に車に乗り込む。向かう先は、野津田公園の中に位置する、町田市立陸上競技場。初めてのゼルビア観戦、当日券と良い席を確保する為に、おれは1時間前には入場するよう準備した。
特に渋滞に会うことも無く、おれは12時前には野津田公園の駐車場に入っていた。渋滞も無い、無料駐車場の混雑も無い、そして公園内には人も少ない…おれは、一縷の不安を感じながらも、競技場へと歩を進めた。
競技場の前には、カレーやら焼き鳥やらの出店が出ていた。そしてチラシを配るボランティアスタッフ達。観客の数より彼らスタッフや店員の数の方が多いのではないか…と言う思いを呑み込み、おれは2000円の当日券を購入し、早速競技場に入場した。
「…!?」
競技場に入ると、視界一面の芝生席が、おれの目に飛び込んできた。メインスタンド以外、残り3面は全て芝生席…ここは田舎の野球場の外野席か!…ピクニック場か!…レジャーシート必須のスタジアムか!…これでJ2を戦って良いのか…?数々のツッコミが頭を駆け抜ける中、おれは気を取り直して空いている席を探した。
スタンドとは言っても、所詮は自由席。おれは一人で来ている気まずさや気恥ずかしさもあり、がら空きの端のスタンドの2列目に腰を下ろした。その端のスタンドには、まだ一人で来たぽい寂しそうなおっさんが3人ほどしか座っていない。おれもここのおっさん達と同じように観られるんだろうな…と心で思いながら、実際に自身も寂しいおっさんである事に間違いない事を忘れながら、おれは試合開始を待った。
「…ん?」
席に座ってから10分後くらいだろうか。田舎のサッカー場には似合わない、ちょっと垢抜けている女性二人組みが、おれの目の前を通った。しかしこちらのスタンドはほぼ全て空いている、無駄な期待をしないよう一人鼻をほじっていると、なんとその二人はおれの列に座り、徐々におれの方に寄って来るではないか。ガラガラのスタンドの中、おれの隣にちょこんと座る、サッカー初心者そうな二人の乙女たち。これは、確実におれに興味がある、おれに声を掛けられたがっている…おれは、そう確信した。試合開始まで、まだ1時間近くある…
「…ここには、よく来るのか…?」
「あ、いえ、初めてなんです」
「…そうなのか?サッカーが好きだと言う事か。」
「あ、時間が会ったし、近くに住んでるしって感じです。良く来るんですか?」
「…いや、ここは初めてだが…サッカーは良く観る。私で良ければ、色々と教えるが?」
「あ、本当ですか♪嬉しいです、助かります♪」
「…いやぁ、サッカーファンが増えると、嬉しいしな。」
-試合後-
「…いやぁ良い試合だった。二人とも駅までバスかな?良かったら、車で送るが…」
「え!良いんですか?助かります♪」
「…いや、どうせ駅は通り道だ…そうだ、もし良かったら、コーヒーでもどうだ?」
「あ、行きたいです!」
…という展開を頭の中でシュミレーションしたおれは、ドキドキと高鳴る胸を必死に抑え、苦労しながらも最初の一言を口から搾り出した。
「…ん…あぁ…あの…ここには、良く来るんですか…?」
「…」
苦労の末に必死に搾り出したおれの一言は、答えを引き出せぬまま、虚しく風の中に消えていった。完無視、だった。無視される事に慣れているとはいえ、その気まずい雰囲気に居たたまれなくなったおれは、徐々に腰をずらし、二人から離れていったのは、言うまでも無い。
我らがゼルビアは、1-0で試合に勝ち、俺を含む1600人の観衆を熱狂させた。J2昇格には、JFLで4位以内に入る実力と、平均で3000人の観衆を集める必要があるらしい。スタジアムの問題と観衆面で残念ながら今年の昇格を諦めたゼルビア、女性には無視されるばかりで夢の中でチュッチュするのが精一杯の暇なおれは、まだまだ当分ゼルビアを応援していく事になりそうなのは、これまた言うまでも無い。
【続く】
Reo.
① 各種の運動競技ができる、整備された総合的施設。
② 観客席が概ね芝生でも、ほのぼの加減にびっくりするが問題は無い。
柔らかい日差しが、休日の惰眠をエンジョイするおれの横顔を暖かく包む。夢の中で意中(だがおれに全く興味の無い)の女性とチュッチュ♪していたおれは、その明かりを瞼に受け、徐々に覚醒していった。おれは必死に夢の中に戻ろうともがいたが、その余りにも現実味の無いストーリーに、夢の中とはいえ続きを見出す事は出来なかった。
「…ふっ、夢か…当たり前だが…」
最高に近い夢を記憶したまま目を覚まし、朝から気分上々なおれだったが、この晴れやかな週末の一日も、全くやる事が無い現実が徐々に頭に浸透し、おれは一気に暗澹たる気分に陥った。
朝から激しく上下するテンションを維持する為、おれは朝食をガッチシ摂る為にキッチンへと向かった。そこで、おれはあるチラシを目にした。
「…町田ゼルビア…」
そのチラシは、JFLに所属し、近々のJリーグ入りを目指す我らがホームチーム、町田ゼルビアの試合を宣伝していた。この日、フットサルチームのペスカドーラ町田は試合無し。そして、ゼルビアのホームスタジアムは、車で僅か15分の距離…何より、暇すぎて起きてから既に10回以上あくびをしている。おれの今日の予定が、決まった。
13時開始の試合の為、おれは11時半に車に乗り込む。向かう先は、野津田公園の中に位置する、町田市立陸上競技場。初めてのゼルビア観戦、当日券と良い席を確保する為に、おれは1時間前には入場するよう準備した。
特に渋滞に会うことも無く、おれは12時前には野津田公園の駐車場に入っていた。渋滞も無い、無料駐車場の混雑も無い、そして公園内には人も少ない…おれは、一縷の不安を感じながらも、競技場へと歩を進めた。
競技場の前には、カレーやら焼き鳥やらの出店が出ていた。そしてチラシを配るボランティアスタッフ達。観客の数より彼らスタッフや店員の数の方が多いのではないか…と言う思いを呑み込み、おれは2000円の当日券を購入し、早速競技場に入場した。
「…!?」
競技場に入ると、視界一面の芝生席が、おれの目に飛び込んできた。メインスタンド以外、残り3面は全て芝生席…ここは田舎の野球場の外野席か!…ピクニック場か!…レジャーシート必須のスタジアムか!…これでJ2を戦って良いのか…?数々のツッコミが頭を駆け抜ける中、おれは気を取り直して空いている席を探した。
スタンドとは言っても、所詮は自由席。おれは一人で来ている気まずさや気恥ずかしさもあり、がら空きの端のスタンドの2列目に腰を下ろした。その端のスタンドには、まだ一人で来たぽい寂しそうなおっさんが3人ほどしか座っていない。おれもここのおっさん達と同じように観られるんだろうな…と心で思いながら、実際に自身も寂しいおっさんである事に間違いない事を忘れながら、おれは試合開始を待った。
「…ん?」
席に座ってから10分後くらいだろうか。田舎のサッカー場には似合わない、ちょっと垢抜けている女性二人組みが、おれの目の前を通った。しかしこちらのスタンドはほぼ全て空いている、無駄な期待をしないよう一人鼻をほじっていると、なんとその二人はおれの列に座り、徐々におれの方に寄って来るではないか。ガラガラのスタンドの中、おれの隣にちょこんと座る、サッカー初心者そうな二人の乙女たち。これは、確実におれに興味がある、おれに声を掛けられたがっている…おれは、そう確信した。試合開始まで、まだ1時間近くある…
「…ここには、よく来るのか…?」
「あ、いえ、初めてなんです」
「…そうなのか?サッカーが好きだと言う事か。」
「あ、時間が会ったし、近くに住んでるしって感じです。良く来るんですか?」
「…いや、ここは初めてだが…サッカーは良く観る。私で良ければ、色々と教えるが?」
「あ、本当ですか♪嬉しいです、助かります♪」
「…いやぁ、サッカーファンが増えると、嬉しいしな。」
-試合後-
「…いやぁ良い試合だった。二人とも駅までバスかな?良かったら、車で送るが…」
「え!良いんですか?助かります♪」
「…いや、どうせ駅は通り道だ…そうだ、もし良かったら、コーヒーでもどうだ?」
「あ、行きたいです!」
…という展開を頭の中でシュミレーションしたおれは、ドキドキと高鳴る胸を必死に抑え、苦労しながらも最初の一言を口から搾り出した。
「…ん…あぁ…あの…ここには、良く来るんですか…?」
「…」
苦労の末に必死に搾り出したおれの一言は、答えを引き出せぬまま、虚しく風の中に消えていった。完無視、だった。無視される事に慣れているとはいえ、その気まずい雰囲気に居たたまれなくなったおれは、徐々に腰をずらし、二人から離れていったのは、言うまでも無い。
我らがゼルビアは、1-0で試合に勝ち、俺を含む1600人の観衆を熱狂させた。J2昇格には、JFLで4位以内に入る実力と、平均で3000人の観衆を集める必要があるらしい。スタジアムの問題と観衆面で残念ながら今年の昇格を諦めたゼルビア、女性には無視されるばかりで夢の中でチュッチュするのが精一杯の暇なおれは、まだまだ当分ゼルビアを応援していく事になりそうなのは、これまた言うまでも無い。
【続く】
Reo.