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Reoっちの駄文(ふつーの日常をハードボイルドに)

金融、サッカー、ボクシング、映画・・・そしてその他でふつーの日常を、楽しく読めるようにハードボイルドな読み物風に。

デートは練習場、を読み物風に

2009-11-05 15:55:48 | その他
『練習』
① (スル)技能・学問などが上達するように繰り返して習うこと。「英文タイプを―する」「バッティング―」「―問題」

② とは言え、習わなくても練習とは言う。「自主―」「ナンパを繰り返すのは、人見知りを克服する為の―だ」


小鳥のさえずりに爆弾型目覚まし時計の音が混ざり始め、おれは朧な意識が徐々に覚醒へと向かっていくのを夢の中で感じていた。早朝の日差しが部屋を明るく照らす中、めっきり冷たくなった空気に体を震わせながら、おれはベッドから身を起こした。有給休暇を取った月曜日、出社しないのにいつもと同じ時間に起きたおれには、平日にしか出来ない事をする予定がこの日にはあった。


平日にしか出来ない事…東京地裁に裁判の傍聴に行く事?いや、人間の愚かさに呆れるのは、もう十分だ。テレビで昼のドラマを観る?おれのテレビはスポーツしか映らない。割引された風俗に行く?…悪くはない。しかし、違う。おれは、一人で平日の休みを過ごす方法として、Jリーグのチームの練習を観に行く事を予定していた。


おれが練習を観に行くとしたら、当然横浜Fマリノス…練習場がみなとみらいにある事を確認すると、おれは10時からの練習に間に合うように、会社に行くのと同じ時間の電車に乗り込んだ。目的地は、みなとみらい線の新高島駅から徒歩10分、マリノスタウンだった。


9時30分、かなりのテンションの高さで移動したからか、かなり早く目的地に到着してしまった。おれは電車から降りると、他に練習の見学に来た人はいないか、周囲を見回す。小中学生くらいの3人組と、女性が2人くらい。かなり寂しい駅だった。しかし、まず間違いなく彼らも練習見学だろうと踏んだおれは、初めて見る景色に戸惑いながらも、彼等の後に続いた。


マップを確認し、地下から地上に出る。マリノスタウンを左前方に確認しながら歩き始めると、前を歩いていた面々は全員、左に曲がってなんちゃらモールへと向かって行った。


「…」


一抹の寂しさと不安を感じながら、おれは一人、無人の通りを練習場に向かって歩いた。周りが更地の中に忽然と建つ練習場『マリノスタウン』、カフェとレストランとグッズショップとローソンが連なるその建物に辿り着くと、おれは心の中で不安が更に増していくのを感じていた。ギャラリーらしき人は、誰もいなかった…


「…海でも、観に行くか…」


気を取り直し、みなとみらいに来たのを良い事に、おれは大好きな海を観に行く事にした。秋も深まり海風がめちゃくちゃ寒かったのは、この際無視した。パシフィコ横浜を横目に見ながら、おれは裏から臨港パークに入っていった。平日の朝、週末はカップルのデートスポットであるこの場所も、今はカップルはおろか誰もいなかった。海辺には、寒さに身を屈めながら釣りをするおっさん達…おれは曇り空の東京湾を眺めながら、マリノスの練習が始まるまでの15分間、物思いに耽っていた。冷たい海風が、無意識に流れた涙を吹き飛ばす…零れ落ちた滴の理由は、二人でここに夜景を観に来た過去を思い出したからか、全然釣れないでいるおっさん連中の切なさからか…


「…よし、行くか…」


時計が10時を指したのを確認し、おれは自身の掛け声を合図に、腰を上げた。デートスポットみなとみらいに一人で来てしまった事に少しの後悔を持ちながら、おれはマリノスタウンへと戻った。


朝食をまだ摂っていなかったおれは、客が一人もいないカフェに入った。客はいない…が、窓際のカウンター席からマリノスの練習が観え、さらに全メニュうーが期間限定で100円引きという、なかなかのカフェだった。ホットドックとコーヒーをオーダーし席に着くと、おれはガラス越しにちんたらと練習をするマリノスの面々を、何気なしに眺めた。


練習は、かなりユルかった。だが、それもそのはず、マリノスは前日に公式戦を戦っていた。つまり、レギュラー組みは軽い練習のみ、そして試合に出場していなかった面々には、90分の練習試合が組まれていた。この日の相手は東京ヴェルディ。練習試合とは言え無料で観れる事にお得感を感じながら、おれはホットドックを相手にしながら練習試合を黙々と待った。


おれの目当ては、小学生の頃から好きだった水沼貴史…は引退しているので、その息子の水沼宏太。いつの間にか買っていた、在庫数トップだった20番のタオルマフラーを首に巻き、おれは宏太のプレーに集中した。一方のヴェルディ、当然サブの面々が来ていたので、平本と船越の2トップ以外は、誰も分からなかった。


注目の宏太が得点し、前日の公式戦に途中出場していた影響から早々に引っ込んだ後半、おれはカフェからフィールド横のスタンドに場所を移した。1時間以上居座ったカフェに居辛かったのもある。だが一番の理由は、カフェから眺めていたスタンドに、一人で来ている女性の姿がちらほら観えたからだった。寒さに身を震わせながらも、おれは一人でいる若い女性の一人に目をつけ、隣に座る…


「…よく、ここには来るのか…?」


などと声をかける事など出来ず、おれは隣に座る女性とデートでここにいると夢想しながら、フィールドを見守った。無意識に、危うく手を繋ぎそうになったのは、言うまでもない。


また、冷たい滴が頬を伝っているのに、おれは気づく。この涙は、デートでみなとみらいと練習見学に来れなかった寂しさからか、はたまた山瀬功治が全然元気なのに公式戦に出させてもらえない事を知ったからか…いや、隣に座る女性が、徐々におれとの間のスペースを広げている事に気付いたからなのは、これまた言うまでもない。


【続く】


Reo.

チケットの価値、を読み物風に

2009-11-04 15:53:56 | その他
『チケット』
① 切符。入場券・乗車券・食券など。
② 異性をデート誘う時の餌。経験上、ボクシングのチケットはあまり効果が無い。


おれのデスクには、会社ロゴの入ったカレンダーが置かれている。仕事をしているフリの合間、おれはそのカレンダーに5分ぶりに目を向けた。世間では『飛び石連休』と言われている、有給を取得しての4連休…相変わらず、空白のままだった。


全く予定がないまま4連休の前日を迎えていたおれは、かなり焦っていた。早速、携帯電話の電話帳を開く。ざっと見てみるが、返信が来そうな名前は一つもなかった。むしろ、大半は数ヶ月に渡って音信不通な事に、おれは愕然とした。


じゃあ一人でどこか行こうと考えたが、こんな週末にかぎり、Jリーグはナビスコカップ決勝の為にお休み、フットサルのペスカドーラ町田は岩手で試合、JFLの町田ゼルビアは試合無し、そして後楽園ホールのボクシングはあまり興味のない新人戦…おれは、行くところが無く途方に暮れていた。4日間、プチ引きこもりか?それだけは、どうにか回避したかった。


「…ん?」


仕事をサボりついでにgooスポーツを見ていると、おれはサッカーの天皇杯が週末に開催される事を知った。横浜Fマリノスの試合がホームであるようにと願いながら、おれは試合のスケジュールを調べた…マリノスの試合は日曜日、日産スタジアムでJFLの福島FCと予定されていた。


半分アマチュアの福島FCとの試合で、ニッパツ(三ツ沢)ではなく日産スタジアムを使うとは大きくでたな…と感じながらも、おれはすがる様にその試合を観に行く事を即決した。3部リーグ相手の試合で、どうせマリノスも主力を出さないだろうが、暇すぎるおれにはありがたいカードだった。


日曜日…新横浜に降り立ったおれは、さっそく当日券を買いにチケットブースへと向かう。試合開始1時間前ながら、駅から降りるマリノスサポーターが皆無、さらにスタジアムへと向かう道もガラガラなのは気になったが、逆に良い席が手に入るぜと期待しながら、おれは歩き慣れた道を一人歩んだ。


「…メインスタンドの一番良い席、大人一枚…」
「はい、ありがとうございます。5500円になります♪」
「…なに…?」


おい、ちょっと待て、公式戦とは言え半分アマチュアのチーム相手、それもマリノスも飛車角落ち濃厚の試合に、普通のリーグ戦より高い値段(リーグ戦は一番高くて5000円)ってなんだよ、♪じゃねーよ…という頭に行き交う思いを喉元で押し留め、おれは返答した。


「…あ、じゃ、じゃあ、次に安いチケットを…」
「はい、4500円です♪」
「…本気か…?」


一人のおれは良いが、カップルや家族がペアで買うと1万円近くだぞ、だれがこのマッチアップに1万円を出すんだ、血迷ったか…という思いを喉元で押し留め、おれは返答した。


「…い、いや、次の…」
「はい、3500円になります♪」
「…大人一枚…」


おれは、妥協した。これ以上安くなると、スタジアムの真ん中では観れなくなる。それに、このくらいのランクのチケットでも、この人混みなら良い席に座れるだろう…予想以上の高さにビビリながらも、スタジアムに来てしまった以上後には引けないおれは、自身を一生懸命説得しながら、そのチケットを購入した。指定席ではなくゾーン指定なのには、驚いたが…


全く行列が出来ていないチケットブースを離れ、おれはメインスタンドへと向かう。入場口は、ガラガラだ。入場しふと横を見ると、連なる売店もついでにガラガラだ。珍しい光景に驚きながらも、おれは指定されたゾーンに入り、席を探す。探すどころか、ガラガラで選り取り見取りだった…





試合は、主力を全員投入したマリノスが普通に大差で勝利した。マリノス主力陣を見れたのは収穫だったが、この日の客の入りは5600人…日産スタジアムは元より、ニッパツでも半分の入りの集客、そして価格設定や開催地設定のアホさ加減に驚きながら、おれはボーっと秋の週末を堪能した。ちなみに、天皇杯の運営団体はマリノスではなく、日本サッカー協会だ。


高いチケット代、ガラガラのスタジアム…そんな中にも、良い事は一つあった。客が少ないにも関わらずビールの売り子の数は通常並みで、可愛い娘が頻繁に廻って来る状況だった。大差が付いた試合を横目に、おれは売り子さん達をガン見しながら物色していたのは、言うまでもない。


とはいえ、ビールを飲めないおれは、可愛い娘に声をかけるチャンスを得る事が出来ずに悔しい思いをしなのは、これまた言うまでもない。


【続く】


Reo.

好意の対象、を読み物風に

2009-10-27 16:38:24 | その他
『好意』
① その人にいだく親しみや好ましく思う気持ち。愛情の婉曲的な表現としても用いられる。「誰もが―をもつ人柄」「ひそかに―を寄せる」
② その人のためになりたいと思う気持ち。親切な気持ち。「―を無にする」「ご―に甘えてお借りします」
③ 男性がカレーに対して抱く気持ち。


暗闇が、おれの周りを支配する。目が闇に慣れてくると、徐々に隣の人形や、目の前の壁に貼られた写真が、認識可能な形をおびてくる。ここは、どこだ…?真っ暗な廊下で佇むおれは、頭の中で自分自身に問いかけた。


「きゃーっ!!」


遠くで聞こえる叫び声に、マスクを着けマントを羽織ったおれは、迫り来る眠気から我に返った。日曜日の午後、おれは今年も、児童館の秋祭りに出展していたお化け屋敷で、お化け役に精を出していた。なぜお化け役なのか?なぜ受付とかの子供対応はやらせて貰えないのか?おれの顔はそれほどお化けに適しているのか?そんな難しい事を考えているうちに、周りの晴れる事のない暗闇に誘われ、おれは少し居眠りしていたらしい。


「…早く進めぇぇぇぇ!!」
「きゃーっっ!!!」


いちいち対応するのが面倒になっていたおれは、本日12人目の子供を受け持ちポイントからさっさと通過させ、またボーっとする自分の時間に戻った。子供たちが通り過ぎた後の数分の空き時間…おれは、今日何回目かの妄想に入った。おれは、この日の昼食時の出来事を忘れる事が出来なかった。





「…カレーは、好きか?…よく作ったりするのか…?」


児童館で用意された昼食のカレーを食べている時、おれは同席していた女性に話をふった。困った時の会話の法則を持つおれは、女性だろうと誰だろうと、会話を繋げるのが得意だ。とりあえず、目の前のものに対して質問すれば良いのだ。「ここにはよく来るのか?」、「この電車は好きか?」、「この芝生はよく食べるのか?」、「このお化けはよく見るのか?」…何にでも、応用が効く。その法則を、おれは目の前の劇団で働いているらしいメガネっ娘にも、間を持たせるために使った。


「いえ、実はカレー屋さんで働いているので。」
「…なに?…という事は…まさかインド人か!?」
「い、いえ、違いますけど。」
「…となると、ココイチで働いているのか?」
「あ、はい。」
「…おかしいな、おれはココイチに毎日行っているが、会った事ないぞ…」
「え、い、いや、店舗が違うんじゃ…」


そのメガネっ娘は、どうやら劇団で働く傍ら、ココイチでバイトもしているらしい…どうやら、おれは恋に落ちたようだ。おれが愛してやまないココイチで働いている女性と、プライベートで会えるなど…アイ・ラブ・ココイチなおれは、無条件でココイチで働いている女性も同時に愛していた。


顔、スタイル、経済力、性格…人は色々な条件によって恋に落ちる。例え顔は好みのタイプでは無くても、性格や言動に惹かれて好きになってしまう事もある…そんな当たり前な事に、おれは改めて気付かされた。


「…しかし、大変だな…劇団にバイトに、そしてボランティア…」
「えぇ、でも、適度に休みを入れてますから。」
「…そうか…なら、その休みに今度一緒に…」
「休みは平日ですけどね。」
「…え…」





体良く断られた心の痛みをお化けに扮している間も感じながら、おれは暗闇で他の人には悟られる心配の無い涙を流しながら、せっせと子供たちを脅かし続けた。カレーを食した後、気まずい雰囲気のまま、一言もメガネっ娘と会話を交わせなかったのは、言うまでもない。


お化け屋敷が捌けた後、この日の鬱憤を晴らすように地元のココイチでチキンカツカレーにチーズのトッピングを完食してやったのは、これまた言うまでもない。


「…そういえば、昼もカレーだったな…」


【続く】


Reo.

ギラギラに弾ける、を読み物風に

2009-10-22 17:17:51 | その他
『ギラギラ』
① [副](スル)強烈にまた、どぎつく光り輝くさま。「真夏の太陽が―(と)照りつける」「―した目」
② 歌舞伎町に行けばおれの目がギラギラ


地上18階のビルの最上階、眼下に広がる地上の星を眺めながら、おれはコーラ・ゼロを片手に仕事をサボっていた。窓際のデスクに置かれたカレンダーには、週末の予定もゼロ。定時退社時間を過ぎているのにも関わらず、おれを飲みに誘う同僚もゼロ。ちなみに、ここ3ヶ月で女性と話した回数も、当然ゼロ。何も無いおれの人生、慰めてくれるのは、汚いものも全て多い尽くし輝きを魅せてくれる、この眼下の夜景だけだった。


『プルルッ、プルルッ…』
「…ん!?」


デスクの上の、3年落ちの携帯電話が唐突に静寂を切り裂く。ここ最近、もっぱら過去の良かった頃のメールを読み返す事にしか使っていない、『鳴らずのケータイ』と呼ばれている愛機を手に取り、おれは着信したばかりのメールに目を落とした。


『久しぶりに飲みに行こうぜ!人肌が恋しいし!!』
「…」


人肌が恋しいと、なぜ飲みに行くのかが良く理解出来なかったが、手元のカレンダーを確認するまでも無く全く予定の無いおれは、その誘いに二つ返事で乗る事にした。参加者は、前の同僚3人とおれ。1年ぶりの4人での再会に選ばれた場所は、新宿・歌舞伎町…4人の独身男性が行くには、あまりにも適している歓楽街だった。


19時、不況など微塵も感じさせない人だかりの新宿東口で集合したおれ達は、数分で夕食を済ますと、早速バーへと向かう事にした。


「そういえば、彼女出来たの?」
「…おれがここにいる事が、その答えになっているはずだが…」
「そうか、じゃあ大丈夫だ。」
「…どういう事だ?」
「いやぁここのバーが凄いんだよ、ギラギラしちゃうよ!!」
「…ギラギラ…?」


風林会館の近くのそのバーに着くと、入り口になぜか26歳以下は入店禁止の張り紙があった。その意味不明さに困惑しながらも、おれは自身の容姿が26歳以下に見えるだろうと気付き、運転免許証を用意した。


「では初めてですので、60分飲み放題で4000円になります。」
「…ほら、免許証だ…」
「は?では、4名様、ご案内しまーす!」
「…」


張り紙はただの抑止用か、おれはノーチェックのまま、テンション上がる3人の連れに続き入店した。


「…!!…こ、これは…」


全面ガラス張りの店内、そこに展開されていたのは、カウンターやテーブルに座るいい歳をしたおっさん達と、彼等一人につき一人ずつ付く、何故かビキニ姿の女性達とのパーティーだった。おれ達は導かれるがままにテーブル席に着くと、やはりビキニ姿の女性が2人、おれ達おっさん連中の間に座った。


「はじめましてだよね~?モカでーす♪」
「…漢字はどう書くんだ…?」


一人の女性が、おれに話しかける。ウソこけ、と思いながらも、会話を繋げる為に大人の対応で、おれは素朴な質問を投げかける。


「どうもー!ココで~す♪」
「…イタリア人か…」


もう一人の女性が、自己紹介してくる。とりあえずビキニに覆われた胸をガン見しつつ、おれはソツなく対応する。ここは何だ?新手のキャバクラか?そんな疑問を、この店におれ達を誘った男に視線で問いかけた。すると…


「ショータイムでーす!!」
「…は…?」


店を、大音量のテクノが覆う。女性たちが、一斉に立ち上がる。目の前のステージに10人くらいの女性が上がり、残り20人ほどの女性陣は、ミュージックに合わせて踊りながら客達の間を周る。ステージでは、ヴォーカルが何か歌い、ギターやサックスをビキニで演奏する面々が控え、繋がりは不明だがポールダンスも展開されている。店内では、残りの面々が客達をダンスで誘惑し、アゲアゲのテンションで踊る…


「…」


誰かビキニを脱がないのか…おれを誘惑して来ないのか…?そんな願望が頭を過ぎる中、ただ呆然としている間に、ショータイムは終了した。30分近いショーの間、おれは全く絡まれなかった…


隣に座っていた二人が、おれ達の席に帰ってくる。何故かビキニ女性が増え、おれ達4人に合計4人が付いてくる。無言を貫けないと悟ったおれは、一人の胸をガン見しながら、会話を盛り上げようと努力する事にした。


「…ダンス、凄いな…」
「ありがとう~、ダンスが好きで、朝は子供達に教えてるんだ~♪」
「…いつから、始めたんだ…?」
「ん~と、小学生の頃から好きだったんだけど、(以下略)」
「…そうか。…しかし、ポールダンスはまた違うだろう…」
「うん、でもね~(以下略)」



数分すると、黒服がテーブルに訪れた。60分は終了、延長はどうだと言う。4人の女性にせがまれる中、若干2名の延長希望者をなだめ、おれは下から2番目の年齢ながらも一番の強面である職権を使用し、延長無しで店を出る事を黒服に通達した。清純派が好みのおれには、ビキニっ娘は荷が重すぎた。


「えぇ~じゃあさぁ、ケータイ貸して!」
「…は…?」
「私、今ケータイ持ってないから、メール送ってよ。またメールするから。」
「…なに…?」


会って数分で、おれの連絡先が欲しいだと?どれだけイケメンなんだ、おれは…営業メールが飛んでくる事を薄々感じながらも、もしかしたら、万が一、まぢでおれに惚れちゃったか?と言う期待感と一緒に、おれは一切の躊躇もなしに自慢の『鳴らずのケータイ』を手渡した。


「今日は夜中まで仕事で、明日は朝はダンス教えてるから、1時くらいにメールするね♪」
「…あ、あぁ、大丈夫だ…」


おいおい、まぢでおれに惚れてんじゃねーの…とアドレナリンが上がりながらも、あくまでも冷静に、ハードボイルドに店を出たおれは、期待を胸に翌日の午後を待った。





午後一時、ケータイは鳴らなかった。
午後二時、ケータイは鳴らなかった。
午後三時、ケータイは鳴らなかった。
午後四時、ケータイは鳴らなかった。
午後(以下略)


営業メールでさえも来ないのか…どれだけイケてないんだ、おれ…と切なさが込み上げたのは、言うまでもない。


しかし…それでもまだメールを待ち続けて、ケータイを肌身離さず持ち歩いているのは、これまた言うまでもない。


【続く】


Reo.

すれちがいのデート、を読み物風に

2009-10-20 15:39:33 | その他
『すれちがい』
① 触れ合うほど近くを反対方向に通りすぎること。「―に呼びとめられる」
② 時間や位置などがずれて、会えるはずが会えないこと。「共働きで―の夫婦」
③ 議論などで、論点がかみあわないこと。「会談は―に終始した」
④ ニンテンドーDSを使えば、誰でも可能。と思ってやってはみたものの、ドラクエを持っていなくてウンともスンとも言わなかったのは、言うまでもない。


『♪今年の秋はどこに行こうか?今年の冬はどこにいこうか?♪』
「…ふっ、今年の秋も冬も、おれは歌舞伎町だ…」


夜中、いつも通り一人鼻をほじりながらボーっとテレビを眺めていたおれは、画面に流れる今流行の歌に対し、無意識にツッコミを入れていた。通り過ぎた20代の10回のクリスマスのうち、8回は一人で過ごしている打率8割のロンリーさを誇るおれの事だ、どんなに流行ろうとこんな歌はおれの心に染みないぜ…そう、強がりながら。


「…はっ!…クリスマス…!!」


おれは、突如思い出した。例年は海外に行って寂しさを紛らわせていたクリスマス(海外では恋人同士で祝う日ではない)、今年は世界的不況の影響から、おれは日本に残る事にしていた。更に、おれへの当てつけのためか、会社は経費削減のために、今年はしっかり冬休みを取れと宣告してきていた。…無駄に残業して会社に残るのも、今年のクリスマスには出来ない状況に陥った。


おれは、焦った。クリスマスまであと約2ヶ月、おれは彼女作りに乗り出す事に決めた。ターゲットは、半年くらい前に一度デートに行ったが、その後は3回くらい断られて諦めていた、意中の相手。もしかしたら、ここ数ヶ月のおれの日頃の行いが良く、今度誘ったらのってくれるかもしれない…そんな希望的観測を胸に、おれはよだれをたらしながらデートプランを練った。


昼から公園でお散歩、そして腹を空かせてスウィーツとフルーツの食べ放題…おれの練ったプラン、完璧だった。優しい女性が好きそうなコースでありつつ、アウトドアなおれも楽しめる、シンプルかつ素晴らしいアイディア。更に、おれが熟睡してしまう可能性が高い映画やプラネタリウムと言った定番コースは除外してある。素晴らしい、とても1日がかりで考え付いたとは思えない、非の付け所の無い完璧なデートコースだった。


当日、ドキドキしながら、おれは待ち合わせ場所へと向かった。まだ緊張する事があるのかと、自身の若い部分を再発見しながら、おれはバシッとデート用のちょびっと高い服を着て出かけた。加齢臭チェックも、当然怠らなかった。


「…や、やぁ、待った…?」


良く晴れた絶好のデート日和の秋空の下、おれはしっかりと5分以上遅刻し、白々しく定番の第一声を発した。そして、おれの隣で輝いている女性を、しっかりと公園までエスコートする。彼女は、言葉少なく、静かについてくる。想定内だ。おれは、得意の漫談を、せっせと披露した。


「…そうそう、昨日フットサル行ってさぁ…」
「…おれがアメリカにいた頃、食事はなぁ…」
「…子供の頃はどんなだった?…おれはハードボイルドだった…」



ふと、おれは気づいた。おれの隣でマイナスイオンを発するような癒しの笑顔を魅せているその女性は、それでもかなりテンションは低めだった…おれの漫談がスベッているのか…?疲れているのか…?


デートも終盤に差し掛かり、二人でケーキを食べている時に、おれはやっと気がついた。付き合っていようとなかろうと、普通はデートの際は女性はテンションが高く、嬉しさと好意がにじむものだ。二人っきりで出掛けるのに了承する分、ある程度以上の好意を男性に対して持っているのだから。だが、おれの目の前に座る女性は、テンション低く、静かに、そして眠そうに、おれに笑顔を向けていた。


「…帰ろうか…」


おれが何回も誘ったからのったのか、はたまたおれのダメさを再確認したのか、楽しそうじゃないその女性の表情を見ていると、申し訳なさがおれの心を覆った。貴重な休日に、面白くも楽しくも無いデートに付き合ってもらってしまった後悔を噛み締める中、おれが言えたのは、その一言だけだった。何より、好きな女性が、おれが原因で退屈そうな表情をしているのを見続けるのが、耐えられなかった。


優しい女性だった。そんな優しさにつけこんだおれは、最悪だった。乗り気ではないのにおれの誘いに乗ってくれたのが彼女の優しさなら、しっかりと察してもう二度と誘わない事にするのが、おれが見せられる最後の優しさだった。


と言いつつ、その後彼女から音信不通になり、誘うも誘わないも関係無くなったのは、言うまでもない。


気を取り直し、クリスマスはしっかり歌舞伎町と決心したのは、これまた言うまでもない。


【続く】


Reo.