日立製作所の送配電設備
日立製作所が株式時価総額で日本2位を競っている。
2023年末の2倍となり、先週末にかけて一時2位(昨年は14位)に浮上した。
事業再編や送配電、デジタル事業の成長性が評価され、海外投資家の買いを一身に集めた。
成長期待を示唆するPER(株価収益率)は米巨大テック「マグニフィセント・セブン(M7)」の一角に迫りつつある。
8月、来日した英運用会社ウェイバートン・インベストメントマネジメントの株式リサーチヘッド、ステファン・ラインヴァルト氏は日立の投資家向け広報(IR)担当者と議論を交わした。
事業再編などを通じた「資本効率向上への意欲と実行力を強く感じた」とし、継続保有を決めた。今後は21年に買収した米IT(情報技術)企業などとの相乗効果が出る局面に入り送配電や鉄道、デジタルの稼ぐ力が伸びると読む。
今、日立買いが鮮明だ。
5月に買い増した仏コムジェスト・アセットマネジメントのリチャード・ケイ氏は「エヌビディアなど米株を買ってきた海外投資家が他地域に資金を振り向ける際、半導体やAI(人工知能)と異なる成長性を持つ日立が買われやすかった」と話す。
日立の時価総額は26日に約18兆5000億円となり、三菱UFJフィナンシャル・グループを抜き、トヨタ自動車に次ぐ2位になった。
足元は石破茂新総裁の誕生やイスラエル情勢悪化などで下がったが、グロース株としての評価は不変だ。
「日本の大企業でこれほど構造改革に成功した銘柄は見当たらない」(PGIMジャパンの鴨下健株式運用部長)として、海外投資家による消去法的な買いも集まる。
コムジェストのケイ氏は「成長性は十分に評価されておらず、まだ割安感がある」とみる。
背景には、環境対応やデジタルトランスフォーメーション(DX)など、今の投資テーマに合致する中核事業を抱えていることがある。
例えば、発電所で作った電気を家庭や企業などへ運ぶ設備などを手掛ける送配電。24年3月期の調整後EBITA(利払い・税引き・一部償却前利益)は前の期比56%増の1573億円と全事業で最大だった。
風力など再生可能エネルギーの普及で送配電網の整備が進む中、受注残は同6月末で5.5兆円で3年前の3倍程度に積み上がった。
運用ファンドで日立株を上位に組み入れるアセットマネジメントOneの関口智信氏は「海外で進める電力インフラ事業は短期のマクロ要因の影響を受けづらい。国内が基盤のシステム開発も為替影響が小さく、業績の安心感がある」と話す。
さらなる市場評価の向上には、DX支援事業「ルマーダ」を中心としたデジタル戦略がカギになる。
グループ横断で顧客のデジタル化や生産性向上の支援を強めており、日立は「デジタル銘柄」への脱皮を掲げる。
小島啓二社長によれば、今の日立のセクターはコングロマリット(複合企業)を卒業し、資本財とテクノロジーの間という。
資本財では独シーメンス、テクノロジーでは仏シュナイダーエレクトリックなどを市場評価の目安とする。小島社長はもう一歩進み、「ルマーダの強化を通じてデジタル銘柄のPERを狙う」と明言する。
デジタル銘柄で想定するのは米アクセンチュアや、米マイクロソフトなどM7の一角だ。
日立の今期の予想PERは、市場の利益予想を反映したQUICK・ファクトセットベースで約27倍で、アクセンチュアの約27倍と並び、マイクロソフトの32倍弱に迫る。
来期ベースのPERでは日立は23倍弱で、アクセンチュアの25倍、マイクロソフトの27倍強に届かない。5年平均は日立12倍、アクセンチュア26倍、マイクロソフト28倍とさらに開くが、事業構造を一変させた日立の姿を踏まえれば勝ち筋はある。
「ITも電力関連もインフラも持つ会社は珍しい。シナジーを考慮すると、専業より市場評価のプレミアムがつく潜在力がある」(ゴールドマン・サックス証券の原田亮アナリスト)からだ。例えば鉄道。デジタル空間に車両を再現し、保守作業の効率化や熟練者の技術継承をするシステムを開発している。送配電設備向けでも遠隔保守などDXを支援する。
「ルマーダは内訳がよく分からず業績予想に使いづらい」(国内証券)と情報開示の工夫を求める声は多いが、ウェイバートンのラインヴァルト氏は「小島社長は通訳無しの1対1で対話してくれる」と話す。
デジタル戦略の実績を示し、投資家目線の丁寧なIRを続けることは、日本を代表する企業の地位固めだけでなく、海外からの日本株への評価を変える後押しにもなる。
(堤健太郎、ロンドン=大西康平、今堀祥和、大久保希美)