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トヨタの産業構造改革 AI時代、554万人の行方は 本社コメンテーター 中山淳史

2024-05-20 16:32:28 | エレクトロニクス・自動車・通信・半導体・電子部品・素材産業



 

トヨタ自動車の工場は主要なもので国内に14カ所ある。それらを、ドローンを使って上空からみると「無駄といえそうな部分が多いのに驚く」とかつて関係者から聞いたことがある。

工場内には部品や完成車の在庫置き場、物流の倉庫や設備が並ぶ。完成車の組み立てラインはそれらに交じり、巨大なスペースではあるものの、全体からみればほんの一部でしかないのだそうだ。

 

「工場の景色を変える」の真意

8日の決算発表で、佐藤恒治社長は「工場の景色を変えたい」と語った。そうしたスペースの使い方を抜本的に見直したい、という狙いもあるだろう。

在庫置き場や物流施設は長い歴史を経て今の形になっており、無駄というのはやや言い過ぎだが、効率生産で世界に知られるトヨタでさえ、肥大化を許した部分はあった。

 

例えば、開発や生産、部品調達、販売の4部門はそれぞれ情報システムが分かれ、一貫したデータ管理ができていなかった。組織や施設が大きくなりすぎた要因の一つともいえ、佐藤氏はそこにまずメスを入れたいらしい。

さらに電気自動車(EV)時代への対応だろう。EVは部品点数が内燃機関の車の3分の2程度であり、新規参入が増えやすい。当然、価格競争が起こるから、ものづくりのあり方を抜本的に変えないといけない。

 


トヨタ自動車九州・宮田工場のレクサス生産ライン(福岡県宮若市)

 

どう変えるかというと、例えば工場内のスペースのやりくりだ。新しい大型工場は建てず、既存工場に空きをつくって必要な設備を入れ、生産できるようにする。

アイデアとして浮上しているのが「自走する車」だ。巨大なベルトコンベヤーに車を流すのではなく、空いたスペースに車をゆっくり走らせ、部品を取り付けていく。すべての工場がそうなるわけではないが、「一部のEV生産からコンベヤーが消える」のは劇的な転換といえるだろう。

 

 

生産や開発の現場を一変するAI

米マサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授らが近著「技術革新と不平等の1000年史」で興味深い指摘をしている。

「工場の風景」という視点で歴史をたどると、大きく変わった局面は過去に2度あった。最初は18世紀の産業革命をけん引した蒸気機関の発明、次に20世紀初めの電気の普及だという。

 

家内的な手工業の機械化をもたらした蒸気機関は画期的な発明だった。だが、工場のレイアウトは蒸気を作る巨大な設備を中心に決定づけられ、かなり非効率なものだったらしい。

一方、自動車産業の勃興と同期して進んだのが電気の普及である。米フォード・モーターは世界初の大量生産車として著名な「T型」の販売を1908年に始めた。量産を実現できたのは電気という動力源のおかげだ。工場にベルトコンベヤーや、そこから分岐した電動機械を多数かつ自由に配置できるようになり、生産効率がぐっと上がった。

 

では、電気の次にくる技術革新とは何だろう。アセモグル氏は人工知能(AI)ではないか、と読む。

AIはデータ解析や微細世界の検査工程などで人間の能力と認知機能が及ばない領域において力を発揮する。また、現実と仮想空間を融合しつつ、工場や開発現場を一変させる可能性を秘める。

 

 

 

工程数や部品、敷地を大幅削減

トヨタもそうした方向を目指そうとしている。現在進んでいるのが、現実を仮想空間に再現する「デジタルツイン」を使った車開発や生産のためのシミュレーション技術の導入だ。試作や試験操業を大幅に簡略化でき、文字通り景色を変える可能性がある。

テスラや中国勢と競う上で重要な方策の一つだろう。トヨタには内燃機関の製造資産を抱えつつ戦うハンディがあり、EVで「新トヨタ式」ともいえる特別な方策を編み出すことが求められる。

 

問題は工場の景色が変わる中で、人間の役割をどう考えていくか、かもしれない。1900年代のフォードでは生産現場が大幅に効率化されても、人が余ることはなかった。もともと熟練労働力が足りなかったところに、非熟練者でも効率的に働かせられるような、生産性革命を起こしたということだった。

一方、AIが浸透する時代は、他の産業と同様、雇用問題を心配せざるを得ない。すでに「工程数や部品点数、製造に使う敷地を大幅に減らす」とのスローガンもトヨタから聞こえてくる。人材の再配置という面で、リスキリングや受け皿となる新しい産業の創造が並行して必要になる。

 


米テスラはヒト型ロボットの工場導入に取り組んでいる(過去に公開したAIデーの映像より転載)

 

 

ハードウエア以外の事業創造へ

景色を変える、とは突き詰めれば産業領域を広げることにほかならない。トヨタには車を「1.0」「2.0」「3.0」の3段階で進化させていくロードマップが存在する。

2.0ではソフトウエアやサービスで稼ぐ経営モデルを確立し、3.0では車を社会インフラの中に位置づけ、モビリティー(移動)産業として稼げるようにする、という構想だ。

 

最大のライバルと比較すると、テスラは株価が停滞気味でも株式時価総額でトヨタの1.6倍ある。仮に中国勢との競争でEVメーカーとして魅力が薄れても、エネルギーやAIのプラットフォーマーとしての期待は大きい。

トヨタにもハードウエア以外での事業創造力が問われている。であれば、工場も収益モデルも劇的に変わるしかあるまい。日本の自動車産業には輸送業などを含め、約554万人の就業者がいる。トヨタが変身できれば、産業全体の景色も変わる。

 

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

 

小野亮のアバター
小野亮
みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 プリンシパル

分析・考察

「工場の景色を変えたい」という言葉は大変印象的です。例えば、テスラのギガファクトリーは、まるでそれ自体が車載用バッテリーのような一つの箱として設計されています。

一方、EV事業に参入したシャオミの工場は、スマートフォンの内部構造のように効率的に配置されているようです(シャオミの工場の衛星画像:https://autonews.autoua.net/en/44544-xiaomis-first-car-factory-revealed-satellite-image.html

これを見て思ったのは、作られているモノが工場の形を決めるのか、それとも、ものづくりや経営の思想が工場の形を決めるのかということです。

実際には、両者の要素が重なり合いながら、新たなデザインーー工場のみならず広く産業までーーを生み出すのでしょう。

 
 
 
日経記事2024.05.20より引用
 
 
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