技能実習中に失踪した外国人が2023年は9753人で過去最多だったことが2日、出入国在留管理庁への取材で分かった。
入管庁は人権侵害を受けた実習生が職場を嫌って失踪した例が一定数あるとみて、パワハラやセクハラに遭った場合などに転職しやすくなるよう制度の運用を変える。
技能実習に代わり27年にも導入される新制度「育成就労」は2年超働けば本人の意思で転職できるようになる。
入管庁はこれに先立ち、現行制度についても失踪者の増加を放置できないと判断し、対策を打ち出す。
入管庁によると23年の失踪者は9753人で前年より747人増えた。
22年末時点の在留実習生と23年の資格取得者を合計した約50万9千人に対し、失踪者の割合は1.9%だった。
19〜23年の失踪者4万607人のうち75%に当たる3万631人は既に出国したり摘発されたりして所在が判明している。
それ以外の9976人はどこにいるか分かっていない。
計画的・効率的に技能を習得するには同一の職場で働くべきだとの考えから、技能実習生は原則3年間、就労先を変えられない。
職場に不満があっても我慢して残るか失踪し違法就労するかの二択になりがちで、人権侵害を生むと批判されてきた。
入管庁などは技能実習法に基づいて制度の運用ルールを定め、「運用要領」に明記している。
転職は「やむを得ない事情」で実習継続が困難な場合に認めると記すが、どんなケースが該当するか不明確と指摘されていた。
入管庁は秋にも要領を改定し、転職を認めるケースとして、暴行、暴言、脅迫・強要、セクハラ、妊娠・出産した女性へのマタニティーハラスメント、パワハラがあった場合などと明確化する。
直接の被害者だけでなく、同じ職場で働く実習生にも適用する。
これまで転職手続き中はアルバイトができないため、一定期間は無収入となる覚悟がないと移籍しにくかった。
生活費を得るため違法就労する場合もあった。新たな運用では週28時間までは職種を問わずアルバイトを認める。
人手不足対策の在留資格「特定技能」への移行を希望する場合は、試験に合格するまでの間、「特定活動」の資格での在留・就労を可能とする。
多くの実習生を支援してきたNPO法人「日越ともいき支援会」(東京)の吉水慈豊代表理事は「やむを得ない事情を抱えた実習生の転職をしやすくすれば、失踪防止に一定の効果があるだろう」と評価する。
一方で「日本語力が不十分な実習生が自分で次の就労先を探すのは困難」と指摘。
「(法務省などが所管する)外国人技能実習機構や受け入れ窓口の監理団体が責任をもって転職先を探すなど、それぞれの関係機関が役割を果たすことが重要」と話している。
(覧具雄人)
ミャンマー人の失踪が急増
2023年に失踪した技能実習生を国別に見ると、最多はベトナムで5481人。ミャンマー1765人、中国816人、カンボジア694人が続く。
ベトナムは前年の6016人から減少したが、ミャンマーが前年の2.9倍と急増した。
21年2月に国軍によるクーデターが起きたミャンマーについて、入管庁はミャンマー人を保護するため緊急避難措置として就労制限のない在留資格「特定活動」での滞在を認めている。
このため技能実習期間中に、より自由度の高い特定活動へ移ろうと失踪する例が少なくないとみられる。
入管庁は今後、資格の切り替えを希望するミャンマー人については理由などを詳しく聞き、実習困難な事情がない場合は継続を促す方針。