他の加盟国は警戒を強める(6月27日、EU首脳会議の出席のためにブリュッセルを訪れたハンガリーのオルバン首相㊧)=AP
欧州連合(EU)の加盟国で構成する欧州理事会の議長国が1日、ベルギーからハンガリーに引き継がれた。
輪番制で任期は半年のポストだが、中国やロシア、トランプ前米大統領への接近を図るハンガリーの就任に他の加盟国からは懸念の声も出ている。
議長国は加盟27カ国が半年ごとに持ち回りで務める。議題設定など理事会の議事運営や、加盟国間の意見調整を担う。
理事会を代表して行政機関の欧州委員会やEUの国会に当たる欧州議会と議論する役割も持つ。
過去に儀礼的とみられてきた議長国の役割に注目が集まっているのは、中国やロシアに接近を図る強権的なハンガリーのオルバン政権が理事会の調整を乱してきた経緯があるためだ。
同国は2023年12月、親ロシアの立場からウクライナへのEUの財政支援に拒否権を行使して阻止した。年明けに同意に転じるまでの過程で、民主化後退の懸念から凍結されてきたハンガリーへの一部のEU補助金の支給を見返りとして勝ち取った。
他の加盟国や欧州議会ではハンガリーの拒否権乱用による「ごね得」を許したとの不満が強まり、全会一致の意思決定の見直しを求める意見も出た。
主要加盟国の高官は「オルバン首相はロシアのために何をしでかすかわからない」と警戒する。
オルバン政権が親中姿勢を鮮明にしていることも、EUの対中政策にとってリスクになる。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は5月の訪欧時にハンガリーを訪れてオルバン氏と会談。同国の鉄道建設など経済協力の強化で合意した。
欧州委員会は中国政府の補助金を受けた安価な電気自動車(EV)がEU市場に流入し、競争を不当に阻害していることを問題視している。6月12日には中国製の電気自動車(EV)の輸入に関し最大38.1%の追加関税を課すと発表した。
6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)の首脳宣言でも中国を念頭にした過剰生産問題への対応が明記された。
ただ議長国となったハンガリーが議事運営の権限を利用して、中国に対するEUの措置を妨げようとする可能性も否定できない。
オルバン氏が今秋の米大統領選でトランプ氏への支持を打ち出していることも懸念材料だ。両氏は蜜月関係で知られ、3月には米フロリダ州のトランプ氏の私邸で会談。バイデン政権が反発した経緯がある。
その後もオルバン氏はバイデン政権を敵視する姿勢を変えず、6月中旬にはハンガリーを訪問したトランプ氏の長男と会った。
6月には議長国就任に当たってトランプ氏の選挙スローガンを模した「欧州を再び偉大に(MEGA)」との標語も掲げた。
トランプ氏が自らがEUの議長国の支持を受けていると主張し、選挙戦で利用することをオルバン氏が容認する可能性は高い。EUの指導者が米大統領選に影響を及ぼすという悪例をつくることになりかねない。
欧州委員会は6月までに当面の主要政策の方向性を定め、ハンガリーの政策面での裁量を最小限に抑えるように手を打ってきた。同月25日にはハンガリーが反対してきたウクライナのEU加盟交渉も正式に開始した。
ハンガリーが議長国の年後半は、長い夏休みや欧州委の新体制発足への移行期間と重なる。活発な立法作業は予定されておらず、ハンガリーにEUの政策を乱す余地は乏しいとの見方もある。
それでもスタンドプレーが多いオルバン氏に対する加盟国の不安は払拭されていない。上半期の議長を務めたベルギーのデクロー首相は6月28日の記者会見で「このポストに就いたからといって、EUのボスになるわけではない」と指摘。オルバン氏に自重を促した。
(ウィーン=田中孝幸、ブリュッセル=辻隆史)
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日経記事2024.07.01より引用