宇宙ステーション㊧と補給線が結合するための「ドッキング機構」を納品する(画像はイメージ)
米国の民間宇宙ステーションの基幹部に初めて日本の製品が採用される。
兼松が出資するスタートアップの米シエラ・スペースにIHI子会社が開発した宇宙ステーションと補給機の結合部「ドッキング機構」を納品する。
2030年ごろを予定する国際宇宙ステーション(ISS)の退役が迫るなか、国境を越えた開発競争が本格化してきた。
シエラ社は21年に設立された宇宙ステーション開発を手がける企業だ。独自開発の民間宇宙ステーションを20年代後半に運用開始することを目指している。
兼松は23年、三菱UFJフィナンシャル・グループや東京海上グループと共にシエラ社に出資参画した。
今回は兼松が仲介する形で、26年からIHI子会社のIHIエアロスペース(IA)が開発した宇宙ステーション側の「ドッキング機構」を納品する。
宇宙飛行士や研究者、物資を届ける補給機が宇宙ステーションと結合する際に必要となる。
秒速8キロメートルで移動する宇宙ステーションと補給機をつなぐため、高い耐久性と精緻な設計が求められる。
IAはこれまでにドッキング機構の納品実績はないが、日本が開発を担当したISSの実験棟「きぼう」の実験プラットフォームや実験装置などの開発に携わってきた。
21年からは宇宙航空研究開発機構(JAXA)と、補給機側のドッキング機構の開発に着手しており、技術力を磨いている。
米国内での知名度は高くないものの、デブリ(宇宙ごみ)の衝撃に耐えるための設計など、IAの高い提案力が評価され、採用に至ったという。
宇宙ステーションは各国の技術力の集大成であり、安全保障の観点からも各国が自国内の技術で賄うのが一般的だ。兼松は「民間ステーションではほとんど初めての事例と言える。
シエラ社以外も含めた日本製品の輸出の機会を広げる可能性がある」と期待する。
兼松は27年3月期までの3カ年中期経営計画で、宇宙事業を成長の柱の一つに据える。今回シエラに納品するIAの基地側のドッキング機構と、対になる補給機側のドッキング機構の納品もシエラ社に提案している。
シエラ・スペースは民間宇宙ステーションだけでなく、基地への輸送を担う宇宙船「ドリームチェイサー」を開発中だ。
24年に無人での飛行試験を計画する。将来は人を乗せ、宇宙旅行ビジネスなどを展開したい考えだ。着陸のアジア拠点として大分空港を活用することも検討しており、22年に兼松や大分県とパートナーシップを結んだ。
1998年から建設が始まったISSは老朽化が進んでおり、2030年での退役を予定する。米国はポストISSの運用を民間事業者が担う方針を表明し、米航空宇宙局(NASA)は企業の開発を支援するプログラムを実施している。
26年ごろに支援先として1陣営以上を選定し、29年ごろに新ステーションの運用開始を見込む。シエラ社は別のプロジェクトでも同プログラムに参画している。
三菱商事は4月、NASAのプログラムの候補の1社、米ナノラックスのプロジェクトに参画する企業に出資した。宇宙関連設備のメーカーや宇宙ステーションを使いたい日本や各国・地域企業の仲介事業を想定する。
三井物産も21年、別の候補の米アクシオム・スペースと資本提携した。
日本勢の活動場所となる区画を打ち上げ、アクシオムの宇宙ステーションに設置することを検討している。今年4月にはISS船長を務めた宇宙飛行士の若田光一さんがアクシオムのアジア・太平洋地域の最高技術責任者(CTO)に就くなど日米の連携が進む。
民間の宇宙ステーションではエンタメ領域や創薬、半導体などの先端物質の開発などに利用領域が拡大することが期待されている。
米シティグループの予測では2040年の宇宙関連産業の市場規模は1兆ドル(約157兆円)と20年の3500億ドルから3倍近くに成長する。この成長の半分程度を民間宇宙ステーションを含む新たな技術や産業が担う見通しだ。(吉田啓悟、川原聡史)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が手掛ける大型ロケット「H2A」や新型ロケット「H3」、イーロン・マスク氏が率いるスペースXなど、世界中で官民が宇宙開発競争を繰り広げています。
ロケット開発や実験、衛星など最新ニュースをまとめました。
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日経記事2024.05.30より引用