ままちゃんのアメリカ

結婚42年目のAZ生まれと東京生まれの空の巣夫婦の思い出/アメリカ事情と家族や社会について。

こんなこと

2020-02-16 | 不思議

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先週の日曜日朝、教会へ行く仕度をしていると、突如動悸が激しく、鼓動数があっという間に100台から200まで昇りつめた私は、フロリダの長男に電話し、医師である息子の一声で夫は私をERに連れていった。女性は特に初期の段階で心臓麻痺の症状を軽くとりがちで、手遅れになることも多い、と怖ろしいことを言う。鼓動の速さと息切れは辛いが、胸の痛みはなく、ERに着くと、夫は、60人はいた救急手当の必要な患者を見て、「これは心臓麻痺の傾向、と言ったほうがいいかもしれない」とトリアージュでそう申告した。結局すべての検査を受け、終わったのは、夕方5時過ぎであった。子供の何人かは我が家で待機していて、帰宅するや否や心配気に結果を尋ねた。血液検査、EKG, X-線、そしてキャットスキャンの検査を受けたが、異常なし。医師は結局、過度の脱水症状か、心因だろう、という診断。脱水症状?それは二週間砂漠をさまよえば陥っていただろうが、水は、しごく飲む方だから、あたらない。そうすると心因性なのかもしれない。早速翌日かかりつけの内科医の許を訪れた。

 

二年前心臓の詳細な検査はしていて、その時心臓超音波検査、心電図から、ストレステストを含めてすべて行い、その結果は95%良好で、残りの5%は、加齢によるもの、と言われた。加齢、ね。”脱水症状”という診断と似て、大概はそれで片づけられるそうだが、それでも決して心臓に疾患があるわけでもなく、また、飲酒も喫煙もせず、オピオイドだのの怖~い薬も常習せず、その5%は加齢というよりも、心当たりのある遺伝かもしれない。母は心臓が弱かったし、父も結局は心臓関係で眠るように亡くなった。母方の叔母もひとりそうだった。

 

かかりつけの内科医は、話を聞いてから、ごく少量の抗不安薬を気持ち程度の感じで処方してくれた。薬瓶にはDaily(毎日摂取)とあるが、何時とは書いていないので、朝服用した私は、そのままオフィスへ行った。まあ、その眠たいことと言ったら。同僚の何人かは抗不安剤を自身や家族の誰かが使用したことがあるという。「それは夜摂取するもの」と言われてしまったが、眠気を払って頑張ったオフィスの一日。このような薬剤は一度も使用したことがないのだもの。で、不安症状は?と言うと、もともと一体なにに不安があったのか思い出せないし、心当たりもなくて、まるで宇宙遊泳をしているような一日を過ごした。

 

ところが、夜床についてハッと気づいたことがあった。あれだ!あれが原因に違いない!!と夫を揺り動かした。寝付きを妨げられた夫が、「だから~、言ったでしょう?」とつぶやいた。「あれ、あれに決まっているでしょう?」

 

丁度一年前のこと。知り合いがそのまた知り合いの系図調査を依頼してきた。私はいままでよほどのことがない限り、調査依頼を断ったことがない。通常頼まれた調査は、3,4か月でリポートに仕上げ、依頼者にお渡ししてきた。ケーキの箱のような高さ10㎝の11インチX8.5インチの、通常卒業論文を入れる箱に一杯のリポートにしてお渡しする。系図調査で最低限のやるべきことは人の生、結婚、死亡などの記録を探し、国勢調査から家族構成を知り、移民記録・渡航記録から海外移住者の事情を見つける。その他学校書類や軍役、社会保障番号を出願した時の書類、死亡後の公的・私的遺書はその人の最後の居住地区の裁判所に保管されているから、そうした書類も調べる。また欧米の教会記録や墓所の情報はすでにデータ化され、オンラインで調べることができるので、そうした情報も貴重である。手間はかかるが、ある程度切りの良いところまで調べてから、結果をお渡しするのだ。(ちなみに私はお代はいただかない。)

 

それが、一年前の3月に受けた依頼は、ひと月調査してから、突然、困ったことが生じた。それはそのファイルを開くたび、私が、やる気をすっかり失くしてしまったことだった。系図調査に対する興味や情熱を失ったのではなく、なんとも説明しがたいが、やる気がなくなってしまったのだ。その人の調査だけ。ちなみに依頼は一件だけ、というわけではなく、時には4,5件の依頼を同時に受ける。それなのに、その特定のファイルを開くだけで、もう気持ちはそぞろで、一体どうしたものか。それを脇に置いておいて、あとでやろうと思っても、いつもそのままである。その間に受けた他の依頼はすべて完了したというのに。そのうちにその系図調査のファイルのことは、だんだんと胸にのしかかってきて、その懸念の大きさ・重さは増すばかり。気に病むと言っていいほどであった。私はほとんど毎日のように、そのことを夫に何気なく言い、どうしたのかなあと独り言ちていたのだ。

 

たとえば二つに分かれた山道の起点で、一つは先がほの暗く水木しげるの描くところの妖怪が出そうだが、もう片方は、陽が燦々と照っていて、見るからに道中楽しそうな道がある。どちらの道を行くか、おそらく大抵は明るい道を行くだろう。何故なら片方は見るからに不安を抱かせ、怖ささえあるからだ。そういう暗い道のようなファイル、というわけである。4,5世代遡ってみたところで、決しておどろおどろしい事実が見つかった、というわけではないし、世紀最大の非情なガンマン先祖もいず、毒婦といわれるような女性もいない。一見見るからにごく普通のアメリカのどこにでもいるような市井の人々の系図なのである。それなのに、何故こうも私は抵抗を感じるのか理解できない。。。ほとんど一年経ったが、私が思うに至ったことは、これはもう私ではなく、別の調査者にお渡しすべきファイルなのではないか、ということ。

 

そんなことが気にかかっていると言えば、気にかかっていることなんです、それにその気がかりがだんだん胸の上でずんずんと重みをましてきまして。。。と医師に話すと、彼女はスパッと言った。「おやめなさい。それ以上調査をせず、他のどなたかに託した方がよろしいです。」と。ああ、よかった、科学者の医師が、この話を「そんな馬鹿な!」と切り捨てずに、「そういうことは世の中あります!」と受けてくれたのだった。それだけで、気が楽になった私は相当単純だが、だが、その時、ふわっと楽になったのだ。

 

早速調べた期間の短い、けれど几帳面に記録してきた調査録をきちんとまとめて、その中途半端な系図調査につけて、郵送することにした。すると知り合いから、メイルが入り、その依頼をした人が先週金曜日に心臓麻痺を起こし、即手術をして、今日あたり退院する、とあった。え?!その依頼者が?この人は知人から依頼されてそれを私に依頼したのだった。同じ心臓関係で?そして再び別の友人から、もう一人系図調査に関わることをする仲間の方が、少し前に行なった心臓手術の折使ったステントに血栓が見つかり、即時に手術をしたと言う。え?! そんなことって。。。

 

とにかく、この調査ファイルは早速お返ししなければ。なんだかこの系図に関わった人々に心臓関係の不具合が見つかって、二人は手術まで。私のケースは、それではムシの報せ的ではないか。こんなところで神懸ることは書きたくないのだが、考えれば、系図調査というのは、つまり死人と話をするようなものである。中にはゆがんだ精神や気持ちを持って亡くなった人もいるのかもしれない、と、独断気味な私は、大きな封筒にそのファイルを入れ、封をし、切手を貼って投函するばかりにした。もしかしたら、肩越しに一握りの清めの塩を投げた方がよいのかもしれない。

 

 

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