ちぎれ雲

熊野取材中民俗写真家/田舎医者 栂嶺レイのフォトエッセイや医療への思いなど

太地町の古い町並み、イルカ漁のことなど

2013-09-06 | 熊野
 今日は和歌山県の太地町に来ました。久しぶりの病院勤務復活、ということで、PCのある場所で書いています。
 
 太地町は本当に小さな小さな漁村です。リアス式海岸の入り江と、熊野沿岸地方で「平見」と呼ぶ、入り江と入り江の間の小高い丘で出来ている町です。
 が、その小さな町の中に、入りくんだ崖が醸し出す不思議な光景や、古い神社や寺の数々、遣唐使船(!?)の吉備真備の史跡など、「あっあれは何!?」と思わず立ち止まりたくなる諸々がぎっしり詰まっていて、いつも町を通り過ぎるだけで心が踊ります。

 特に、漁協の裏辺りの一番古くからある町の一角は、迷路のような路地に、太地の昔ながらの白亜の木造住宅が並んで、はっとする美しさです。いや、美しいと言っても、もうペンキは剥げて、とにかく古い家々なのですけどね。
 2階建ての1階部分は凝った格子窓で飾られ、それが真っ白な(時には部分的にピンク色の)ペンキで塗られているのです。
 太地町の漁師の家の粋というんですかね、家々を綺麗に丁寧に暮らしてきていることがわかって、いいなあと思います。



 通りかかった方が、
「ほら、アメリカに移民していたでしょう。だから、ペンキで塗る文化があるのよ」と。
「ハイカラですね」と私が言うと、「そう、ハイカラ」と笑いながら行ってしまいました。

 1つ1つは小さな純和風の町家なのに、洋風でもある、いかにも太地町が今まで過ごした歴史を体現した町並みだと思いました。

 イルカやクジラ観光で訪れる人にも、ぜひ太地町の古い町並みを散策していただきたいと思いました。






 ところで、私が行った昼間、ちょうどイルカ追い込み漁をやっていました。話には聞いていましたが、初めて見る追い込み漁は、(またこういう風に書くと変なことを言ってくる人がいるかもしれないけれど)私は感動しました。青い海いっぱいに、10隻ほどの白い船で、イルカの群れを追っていく。イルカが海面に塊になって逃げていくのが見えます。
 私の感動とは、水族館のショーで飼いならされたイルカでもなく、人々がセラビーで訪れる入り江にいる野生イルカでもなく、いわゆる(イワシやサンマと同じく)漁で追われる存在としてのイルカと、それを漁の相手として真剣に追う人間という、今まで見知ってきたものとは全く異なる、イルカと人間のやりとりを目の当たりにした感動でした。

 水族館の可愛いイルカのイメージをイルカ漁に投影して「可哀相!」と言うことは世の中にありふれていても、逆の「漁業」のイメージからイルカを見るということは、一般にはしにくいのではないかと思います。でも、実際に漁業の目で、イルカと人の関係性を目の前に見た、新鮮な体験でした。

 (またしても、変なことを言って来る人がいるかもしれないけど)私個人の感情を言えば、水族館でより高く、もっと高く、と必死に飛び跳ねているイルカの姿や、「イルカに餌やり体験 一回○円」とかいう生け簀で、人の姿を見るなり鳴き声をあげながら口を開けている姿を見る方が「可哀相だな~」「なんか耐えられんなあ」という気持ちになるんですけどね。
 あっ「可哀相」とか「耐えられん」というのは、あくまで私個人の感情の投影なので(おそらく、自分がその立場だったらイヤだなあという感情をイルカに投影しているだけで、実際にイルカがどう思ってるかわからないので)言い方を改めると、ピョンピョン飛び跳ねているイルカや、餌やり体験場でずっと口を開けて待っているイルカの姿に、より人間の側のエゴや(生物に対する)驕りのようなものを感じます。私だけかもしれないけれど、人間の願望の枠の中にイルカを当てはめ、それで人間は歓声をあげて喜ぶというのは、何かすっきりしないものを感じるのです。
(イルカも一緒に喜んでいるんだからいいじゃんとか、殺されて食べられるよりマシって言う人もいるだろうけれど)

 それを思えば、あくまで食物連鎖の「食べる/食べられる」関係としてイルカと向き合う方が、私個人的にはすっきりさっぱりシンプルに思えるんですけどね。


 また、水族館のショーのイルカ可愛い!大好き!だからこんな可愛いイルカさんを獲るなんて太地町ヒドイ、と言うのもヘンだと私は思っています。全国の水族館や遊園地のショーイルカは多くが太地町で捕獲されたものなので。

(補足を付け加えます。↑これを書いた時頭にあったのは、札幌市の円山動物園にはゾウがいないんですね。以前飼っていた花子が亡くなってから、「絶滅危惧種になっているゾウを新たに動物園に導入しない」という、円山動物園の覚悟なんです。空のオリを見て、「ゾウがいない動物園なんて駄目じゃん!」とお客さんが文句を言ってるのも聞きましたけど、でも円山動物園の覚悟はすごいぜと思いませんか?
 同様に、太地町がイルカを捕獲して水族館に出荷することを批判するのなら、全国の水族館にイルカがいないことを覚悟しないといけないのでは?水族館で可愛いイルカのショーは見たい、でもイルカを獲るのはやめさせたい、というのは矛盾してないか?と思ったのでした。極端な話、全国の水族館や遊園地でも、太地町でやってるのと同じデモをやってもいいんじゃないのか???と思うんですけどね、違うのかな。)

 シーシェパードは来てましたよ。黒い磯の上で保護色の黒い服でパシャパシャ写真を撮ってる人がいたので、地元の人と「あれシーシェパードかしらね」と言っていたら、ほんとにシーシェパードでした(^^;
 シーシェパードの写真を撮ろうかしらんとも思ったけれど、やめました……

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