ちぎれ雲

熊野取材中民俗写真家/田舎医者 栂嶺レイのフォトエッセイや医療への思いなど

水族館からイルカがいなくなる日

2014-01-21 | 雑記
 雑誌「GRAPHICATION」に熊野の連載を書いている自分。夏から太地町の取材も続けているんですが、今日はまた米大使の発言で太地町がニュースで大騒ぎに……(汗)

 ここではあんまりあれこれ書くつもりはないのですが、一言だけ、一言だけどうしても言いたいことが……!!

 全国の水族館やテーマパークのイルカは太地町で捕獲したものだっ!!(ほぼ100%)

 (ごく一部、日本海側で定置網にかかったイルカが水族館に送られることがある他は、すべて太地町で生体捕獲されたもの)

 現在、水族館にイルカを供給できるのは太地だけです。

 どうしてマスコミはこれを言わないんでしょう。

 水族館で見る可愛いイルカがどこから来たか?とか、考えたことないでしょうか。

 殺して食べることばっかり言うので、「こんなに可愛いイルカちゃんを殺すなんて、太地町ひどい!!」という、矛盾いっぱいの意見が出てくるわけで。

 その可愛いイルカちゃんを見られるのは、太地町で捕ってるからだ!!

 私はべつに全面的に太地町側だけを擁護するつもりはありません。が、太地町で捕獲されたイルカを愛でながら、こんなに可愛いんだから、太地町ひどい!とか言う意見にだけは、ものすごく、ものすごくもの申したくなるのです。

 追い込み漁という漁法を行うのは、水族館に送るためです(生け捕りするには追い込み漁しかないから)

 追い込み漁というのは、生け捕りするために行う漁法なので(水族館の要望があるからなので)、殺して食料にするだけなら、獲物に逃げられるリスク&沿岸から丸見えで反捕鯨団体・イルカ保護団体の矢面に立つリスクをおかしてまで追い込み漁をやる必要はないんです。沖に出て突き棒で捕ればよい。(太地町の追い込み漁自体、もともと、飼うためのイルカを生け捕りにする目的で昭和40年代になってから開始されたもの)

 実際、岩手県では太地町の3倍近くのイルカを捕獲(すべて捕殺して食料)しているのに、沖での突き棒だから見えないし、海岸が血に染まることもないし、水揚げされる時はすでにお肉に近い状態だから絵にならないし、全然話題にならない&見られにくいからコーヴみたいに撮影されることもない&妨害行為を仕掛けられることもありません。
(全国のイルカ(小型鯨類)の捕獲数は、例えば2010年で6581頭、そのうち太地町を含む和歌山県全体での捕獲数は1547頭(23.5%)で、70%以上が岩手県沿岸での捕獲。岩手県のものも含めて、すべてが国が正式に決めた捕獲基準枠内での頭数)

 でも、こうやって攻撃される時は、水族館にイルカを供給している太地町だけなのね~。
 変な話だと思うわけですよ。

 太地のイルカ漁をやめさせるのはいいですが、それがすなわち、私たち自身がイルカを水族館で見られなくなることだ、と、ちゃんとみんなわかって言っているのだろうか?

 イルカが可愛いから、捕獲するのをやめようと言うのなら、私たち自身が、水族館やテーマパークで、もうイルカを見られないことを覚悟しないといけないわけです。(そういう選択はあってもいいと、それはそれでいいと、私は思う)

 「可愛いイルカさんのいない水族館なんてイヤ、でも、太地町はイルカを捕らないで!」っていうのは、矛盾の極みなのだ。

 現在の水族館ではまだ、イルカの繁殖に成功していないため(各地の動物園がやっているように)繁殖させて各地の園とやりとりすることもできないし、水族館ではイルカは短命のため、結局短いスパンで何度でも太地町から買入れてくるしかないのです。

 太地町のイルカ追い込み漁の問題は、突き詰めると全国の水族館問題になっていくと私は思っています。

 イルカのいない水族館、あなたはYES派ですか?NO派ですか?

 遠い太地町で起こっていると思われる事件も、実は私たちの身近な問題なのだ。
 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

沼津市江浦(えのうら)の水祝儀

2014-01-20 | 民俗・信仰
 寒中お見舞い申し上げます。
 今年は喪中なので、寒中お見舞いからご挨拶申し上げます。

 …といういきさつもあって、お正月はめずらしく実家のある静岡に帰りました。
 生まれ育った土地の民俗や行事は意外に知らないとかよく聞きますが、私も例外ではなく、成人した後、実家に寄りつかなかったのもあって、静岡の民俗行事にはほとほと縁がありませんでした。

 というわけで、せっかくなので静岡のお正月行事を見てみよう~。

 1月2日は、朝は熱海市下多賀・下多賀神社の「水浴びせ式」を、晩は沼津市江浦・住吉神社の「水祝儀」を見学してきました。どちらも、昨年結婚した新婚男子に清めの海水をかける行事です。伊豆半島のくびれの東側と西側に残っているという位置関係も面白い。

 熱海市下多賀の方が、本当にササにつけた海水をチョンチョンと新郎にふりかけて「清める」という感じなのに対して、沼津市江浦の方は、文字通り「ぶっかけ」ます、樽ごと宙を舞い(!)ます。新郎はびしょぬれの濡れねずみ。(↑上の写真)

 この沼津の水祝儀、試練を与えることで成人の仲間入りをさせるという成人式の意味合いで説明されていることもあるのですが、取材してみると実際は、結婚した男性が、所帯を持ったことで、昔から集落の男性が必ず所属した青年団(10代をメインとした男だけの集団)から脱退し、新たに集落の成人の団体に入会する祝いの式なのでした。
 なので、一般的には水をかける所が有名ですが、祭事自体は、新郎に後見人(添婿)がついて集落の成人に迎え入れる「レイ酒」と呼ばれる儀式がメインでした。
(男性のみ参加と聞かされて「?」と思っていたのですが、これも青年団の入退会の儀式とわかれば理解しやすいですね)

 だから、青年団の男子たちからすれば、友が結婚して仲間から抜けて行く淋しさもあるし、所帯を持ったことや成人の仲間入りをしたことへの盛大な祝福とともに、羨ましさややっかみが入り交じっているわけです。

 まさに、
「このヤロー、幸せになりやがれ、この幸せもの!!」(と実際に言ってるわけじゃないですが)
 (写真の上の方で、水をかけた人たちがみんな、祝福の喝采を送っているのが見えるかと思います)

 昔は青年団がすべて取り仕切っていたそうです。

 この後20時半から、青年団がふんどし姿で松明を掲げ、集落内の祠を参拝してまわる裸参りが行われたはずですが、そんな時間に小さい子供を連れて追いかけるのは無理なので断念しました。昔はたくさんの祠をまわったそうですが、今は8カ所ほどに減ったとのこと。

 見学できなかった所は、また改めてじっくり見に来たいと思いました。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする