ちぎれ雲

熊野取材中民俗写真家/田舎医者 栂嶺レイのフォトエッセイや医療への思いなど

台風12号災害から知ったこと 5)災害後の地形は簡単には変わらない(追跡調査より)

2013-11-05 | 危機管理と災害

 2011年9月に紀伊半島を襲った台風12号大災害を体験してわかったことをシリーズで書いています。

5)災害後の地形は簡単には変わらない

 那智勝浦町金山の土石流跡を追跡調査してわかったことです。

 那智の滝のある那智川の支流、金山谷の上流では、台風12号による豪雨で4カ所の深層崩壊が起こり、それらが土石流となって金山集落、西山集落(前投稿の場所)を押し潰しました。土石流はさらに那智川まで流れ下って那智川をせき止め、そのせいで那智川が氾濫し、市野々、井関を始め、那智浜に至るまで大水害となりました。

 台風12号についての詳しい報告は、地盤工学会関西支部が出しているので参照してみて下さい。(私の写真に写っていた調査の人々は、たぶんこの人たち)
平成23年台風12号による地盤災害調査報告書


 それで、私の当時のブログでも書きましたが、
 災害前の(土石流で流れる前の)金山集落の写真がこちら。(2010年7月撮影)


 同じ場所から撮った、土石流直後の写真がこちら。(2011年9月撮影)


 上記の報告書によれば、金山集落の上に堆積した土砂の厚さは、およそ40mだそうです。

 この写真を撮った時、土石流の堆積土砂の上は、まるでホイップクリームのようにふかふかと柔らかく、ズブズブ足が沈んで、ものすごく歩きにくかったです。

 崖崩れって言ったら、ただ単に土砂がガバッと落ちてくるイメージでしょう?

 それが実際には、大量の豪雨と土砂が、周囲の土や岩や木だけでなく、空気も巻き込みながら、すごいエネルギーで流れ下るわけですから、水と空気とガレキのミキサー状態なのだ。
 土砂はものすごく水を含み、さらに空気も含んで、本当にホイップクリームのようになっている。

 この中に埋まっている人を探して掘り返すのは至難の業だ……と暗澹とした気持ちになりました。


 それで、年月が経過したら、土砂に含まれていた水や空気が抜けて、このホイップクリーム状態も少々は締まってくるんじゃないか? この40mという分厚い堆積土砂も、ちょっとは圧縮されて低くなるんじゃ……?また、沢の流れや雨で浸食されて、柔らかい土砂はかなり流されるんじゃないか?などと思っていました。

 が、災害からおよそ2年経ち、先日8月に金山に再調査に行くと、堆積土砂とその地形はまったく変化していないことがわかりました。ショックでした。

これが、約2年後に同じ場所から撮った写真です。(2013年8月撮影)


 上の災害直後(2011年9月)の写真と比べてみて下さい。

 堆積土砂の厚さはまったく変化していない。
 どころか、散乱している岩石や、倒木の位置もまったく同じでした。

 歩いた感じは、確かにホイップクリームのようにふかふかと足が沈む柔らかさはなくなっていましたが、とにかく崩れる……。1歩ごとに、ザラメのように足もとが崩れ、災害直後よりももっと歩きにくい(泣) 私は何度も足をとられて転び、2年前に来た時よりももっと擦り傷だらけになりました。
 ホイップクリーム状態から水分だけが抜けて、すごく脆い土壌になっているんです。
(言わばメレンゲのクッキー状態???)

 じゃあ、そんなにやわらかく脆いんだったら、雨ですぐ浸食されるんでは?って思うじゃないですか。

 ところがところがです。写真を拡大してよく見ると、沢の流れに面した、水面までほんの1~2メートルほどの斜面でさえ、そこに存在している石の位置が変わってないんです。斜面に露出した石が、雨水などで浸食されて沢に落ちるってことが起こってない。倒木も流れてない。

 ここで私がわかったことは、
(もちろん地域によって地質の違いや、天候条件の違いなどがあるだろうから、一概に決めつけてはいけないけれど)
 土石流災害でできた地形は、次に再び土石流などの大規模災害が起こるまで維持される。
 一度できた地形はそう簡単には変わらない……。

 ………ということでした。

 逆に言えば、扇状地の所でも書いたけれど、災害でできた地形かどうかを見分けることで、そこが災害が起きやすい地形かどうかを判断することが可能なのではないかと。そこが崩れてできた土地なのかどうか知っておくだけでも、暮らし方や避難のしやすさが変わってくると思うのです。


 ちなみにこの辺りの調査結果その他は、海の熊野地名研究会の10周年記念出版「災害と地名」(仮題)の原稿で書いていますので、ご興味のある人は出版されたら見てみて下さい(原稿締切やぶっていてすみません……)

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台風12号災害から知ったこと 4)土石流は真っすぐ流れる(ようとする)

2013-11-05 | 危機管理と災害

 2011年9月に紀伊半島を襲った台風12号大災害を体験してわかったことをシリーズで書いています。

4)土石流は真っすぐ流れる(ようとする)

 当たり前、と言えば、当たり前。
 その地形にもよるでしょうが、基本的に落下エネルギーはシンプルに重力の方向へ。

 ………でも、実際に土石流被害の跡を見て、「ああ。真っすぐ流れ下ってきたら、ここを直撃か……!」と気づいてがっくりするような光景が、台風12号後のあちこちでありました。

 例えば上の写真。
 左に見えている家は無傷でしたが、そのすぐ右の隣家は土石流の直撃を受けて写真の通り跡形もなくなり、人も亡くなられました。

 災害が起こる前、いつもここを通る時見たのは、この家に突き当たる感じで小さな沢が流れてきていて、それで、家の横を沢がぐるりとまわるようによけて、それから車道に橋がある、……という位置関係でした。上の写真の土石流の流路のもうちょっと右側に、小さな沢の流れと橋があったんです。

 でも、災害が起こってしまった今、家をよけるように流れていた小さな沢を思い出しても「ああー(嘆)」としか思えません。土石流はよけてなんてくれない、当たり前のことなんですが、今更わかっても遅いんです。

 もう少し言えば、今更ながらこの写真の土石流の場所を地形図で確認すると、この沢の上流は枝分かれもせず、かなりの距離にわたって真っすぐ下り続ける沢であることがわかります。沢の流れは小さく見えたんですけどね、実際は山頂直下から来る長い谷でした。たくさん枝分かれしたり流路の短い谷に比べて、流下するエネルギーが大きいことが伺われます。

 ただ、地形図だけでは、この家のみが直撃されるような、細かい沢の位置関係はわかりませんでした。
 地図だけでなく、自分の家と周囲の沢や尾根、谷、との位置関係を、ふだんからよく見ておかなくてはと戦慄しました。


 もう1例あげてみます。
 那智勝浦町を襲った大規模土石流の一つで、西山集落の半分を押し流し、人的被害も大きかった所です。
 国際航業ホールディングス株式会社が公開している西山の災害直後の写真をリンクしてみます(下記をクリック)


http://www.kk-grp.jp/csr/disaster/201109_kii/n/n05.html

 土石流は写真の左から右へ向かって流れ下っています。
 ほとんど真っすぐなのがわかるでしょうか……?

 西山集落は、ちょうど県道が谷を横切る所に、谷沿いに家々が並ぶ集落でした。谷に沿って……というよりも、県道から見上げると、谷床に家が建っているように見えました。西山集落の上方には昔、鉱山があって、西山の人々はこの沢を道にして、働きに通っていたそうです。
 それで、真っすぐ流れ下ろうとする土石流は、写真で見ての通り、流路の家を押し流し、山を背にしていた家だけ助かりました。

 自分が住んでいる土地が、どっち側からどんなエネルギーを受けるか(受ける可能性があるか)、よく見ておかなくてはと思った次第です。


 ちなみにこの会社は、数々の災害後の上空からの写真を公開しているので、防災に関心のある人には大変ためになります。災害後何年経っても公開を続けてくださっていてありがたい。
2011年台風12号の被害状況はこちら↓
国際航業ホールディングス株式会社:平成23年9月 台風12号による紀伊半島豪雨災害
その他の災害(3.11東日本大震災や、今回の大島町の災害も含む)のリストはこちら↓
国際航業ホールディングス株式会社:災害調査活動への取り組み


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今しか食べられない「生ししゃも」

2013-11-03 | 北海道の美味しいもの

 自分が見つけた、絶対美味しいと思うもの(独断)も、少しづつブログにアップしていこうと思っています。

 第一弾は、ししゃも!ししゃも!それも、生のししゃもです。
 今この季節しか、それも北海道の太平洋沿岸地域でしか、食べられない鮮魚のししゃも。

 私はたぶん、この世で一番おいしい魚は、この生のししゃもじゃないかと思っている。

 干したししゃもも、焼いたり、お吸い物にしたり、いろいろおいしいけれど、干すことで旨味とともに独特のイガイガした感じも出て来て、いっぺんにたくさん食べられないのです。
 が、生のししゃもの刺身は、とろーりつるりんとやわらかく、脂がのって、上品でやさしく爽やかな味がして、いくらでも食べられてしまう。生ししゃも丼にするもよし、寿司にするもよし。

 毎年すごく楽しみにしているのですが、とにかく手に入れるのが大変。

 漁期が10月~11月中旬と限られている上、鵡川などししゃもが有名な地元では、ほとんどのししゃもが漁協から加工店(生干し)にまわされてしまうからです。

 なので、有名産地から少し外れた方が、鮮魚ししゃもを見つけやすいようです。
 静内の病院で勤務していた時は、普通に町内のスーパーの鮮魚コーナーにありました。
 今回は、苫小牧の市場で発見しました。(広尾産でした……遠い(^^;)

 生のししゃもはほんのりピンク色、すごく綺麗な色をしていて、うっすら果物のような良い匂いがします。
 

 ワタを出して、指で皮を剥いた所です。
 捌いてみたら、約半数がメスでした。向こう側の皿は、取り出した卵巣です。
 この後、親指と人差し指で骨をしごくような感じで、一気に2枚におろします。


 手前左から、ししゃもの卵巣を塩で炙ったもの、ししゃものお刺身、市場で一緒に買って来た助子(生たらこ)のあえもの(こんにゃく、小揚げ、大根と一緒に、シンプルにみりんとだしで炊いたもの)。旨いぜよ~~~。


 至福~~(笑)


 ちなみに、鮮魚で買えなくても、お店でししゃも寿司を食べることができます。
 一番おいしいと思ったのは、鵡川の大豊寿司。ここはししゃも寿司だけでなく、単純にどのネタも美味しいのですが、難点は、割と早く閉店してしまうのと、寿司屋で食べるから懐が苦しくなることでしょうか。


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台風12号災害から知ったこと 3)途中で止まった土石流

2013-11-03 | 危機管理と災害

 2011年9月に紀伊半島を襲った台風12号大災害を体験してわかったことをシリーズで書いています。

3)途中で止まった土石流

 災害発生間もなく、Googleの衛生写真を使った災害情報マップが設置されました。
 これは今でも見ることができ、紀伊半島各地の災害直後の衛生写真や報道写真を見ることができます。

台風 12 号災害情報 http://www.google.org/crisismap/japan_typhoon

 とても便利でよかったのですが、衛生写真をじーーっと見て、「ぎょえ………」と思うことがありました。
 実際に被害を起した土石流だけでなく、下まで到達しないで途中で止まっている土石流がたくさんある………!

 土石流と言えば、一番下の平坦な所に出るとか、川の本流まで達するとか、最後まで流れ切って被害を起すというイメージがあったのですが、衛生写真を見ると、全然流れ切ってないものがたくさんあるのです。

 いや、地形によって土砂の流れが阻まれることもあるでしょうから、当たり前と言えば当たり前?

 で、私が「怖ぇ……」と思ったのは、それらが集落の上流で止まっていることでした。

 一旦止まった土砂が、次の荒天で再び流れる確率がどのくらいかは、私は知りません。止まったのだから、次はもう流れないのかもしれない??
(途中で止まった土石流というものを、どう考えていいのか?どう扱っていいのか?知りたいと思うのですが)

 でも、集落の上流にそういうものがあるということは、「上流の山域は土石流を起す場所なのだ」ということを示していて、次には同じ谷の別のところが崩れるかもしれない、次には人家まで来てしまうかもしれない、と考えられるのです。

 上の写真は那智勝浦町の色川地区の例ですが、南紀の衛生写真を見ていたら、こんなのたくさんあります。

 例えば、熊野川河口から国道168号を川沿いに熊野川町に向かって遡っていくと、途中に白見の滝というのがあって、この滝も台風12号で派手に崩れたんですが、その滝の上流の山塊でたくさんの土石流が発生している(でも途中で止まっている)のが、衛星写真で見えます。
 この山塊は崩壊しやすいんだな?……と思うので、私は大雨の時は、白見の滝付近にはよう近付きません。
(下流の檜杖集落周囲でも多数の土石流が発生し、たくさん人も亡くなってしまったので、白見の滝周辺だけというより、荒天時には国道168を通らないようにしています)

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台風12号災害から知ったこと 2)山に存在する亀裂

2013-11-02 | 危機管理と災害

 2011年9月に紀伊半島を襲った台風12号大災害を体験してわかったことなどの続きです。
 被害は大きく分けて「土石流(主に深層崩壊による山崩れ)」と「水害(河川の氾濫)」なので、前半は土石流のこと、後半は水害のことを書いてきたいと思います。


2)山に存在する亀裂

 熊野新聞にも書いた「自宅が土石流に呑まれながらも、自主的に避難していて助かった人」が、ふだんから雨が降るとこまめに避難していたのは、山仕事や農作業で付近を歩き回って、山に亀裂があることを知っていたからでした。
 「いつか来る」と思っていたそうです。

 その人が指さす方向を見やると、たーしーかーにーあるではないですか!!亀裂が!!(上の写真)
 山にこんなにあからさまに亀裂があるなんて知らなかったので、びっくりしました。

 これだけでなく、他にもたくさんあるそうです。

 …………
 …………というのを聞いて、唸ってしまいました。

 何故なら、亀裂があるということが周知されているかどうか、亀裂の情報が皆で共有されているかどうかで、避難への意識や、実際の人的被害の大きさに大きな影響があるのではないかと思ったからでした。

 地域に1軒しかない雑貨店にたむろしている地元の人々に話を伺うと、けっこう皆さん、亀裂や、地形がおかしくなっている所などを知っていました。が、それが防災に結びついているかと言うと、……「?」です。

 地域には子供たちもたくさん住んでいるので、ぜひ亀裂や地形のことなどは、小学校や中学校で話題にして、避難に結びつけていってほしいです。
 那智勝浦町役場にも、亀裂のことを連絡したのだけれど、その後何かなったかしら………。


那智勝浦町金山の土石流の、崩壊頭の1つ。
2011年台風12号で紀伊半島各地を襲った土石流のほとんどが、例えで言えば、プリンに直角にスプーンを突き刺して、真下に向かって崩したような、そんな崩れ方をしていました。いわゆる深層崩壊です。
写真では沢の真中より少し下くらいに、調査の人たちが写っているのですがわかりますでしょうか? 人と比べると、崩壊の大きさが実感できます



 ところで、ふだんから「亀裂」や「地形崩壊」がある場所を把握しておくことも大事ですが、他にも土石流の前兆となるものがいくつかあります。

 例えば同じく和歌山県熊野川町では、
「斜面から出ている水が濁ったら、山崩れが来る」と、口を酸っぱくして言っていたそうです。その家の人は、土石流で自宅が流されましたが、避難していて助かりました。

 「地すべりの前兆」については、農林水産省に、写真つきの詳細なページがあります。
 すごくためになります。

「地すべりの前兆現象の種類と観測方法」
「平常時、大雨時、大雨後・融雪期・地震後における留意事項」
「地すべり地での農業・生活の工夫を行う」
「地すべり災害を予防・軽減するための工夫」(すべて同一ページです)


 その他、地すべりに対する様々な報告・手引き一覧(農林水産省)
http://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/tyotei/t_zisuberi/

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台風12号災害から知ったこと 1)の付記画像

2013-11-01 | 危機管理と災害
 昨日投稿した2011年9月の台風12号の、那智谷(和歌山県那智勝浦町)の土石流被害について、「何本もの土石流が起きていて、(登山用語で例えれば)まるで"雪崩の巣"のよう」と書きましたが、よくわかる画像があったので引用しておきます。

 Google earth ゼンリンによる、2011年9月8日(災害の4日後)の那智川流域の航空写真です。
 大きく見るには(もとのGoogleマップは)下記のURL

http://maps.google.co.jp/maps?client=safari&q=33%A1%EB40'15.99%22+N+135%A1%EB54'23.30%22+E&oe=UTF-8&ie=UTF-8&ei=vAVzUue5FIXDkQXUxYDoDw&ved=0CAoQ_AUoAg
(すみません、どうしてもうまく表示されないので、GoogleマップかGoogle Earthで、下記の緯度経度を検索してみて下さい。
33°40'14.69" N 135°54'21.08" E )

 扇状地地形は、写真の一番右下の土石流がわかりやすいでしょうか?

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