2011年9月に紀伊半島を襲った台風12号大災害を体験してわかったことをシリーズで書いています。
5)災害後の地形は簡単には変わらない
那智勝浦町金山の土石流跡を追跡調査してわかったことです。
那智の滝のある那智川の支流、金山谷の上流では、台風12号による豪雨で4カ所の深層崩壊が起こり、それらが土石流となって金山集落、西山集落(前投稿の場所)を押し潰しました。土石流はさらに那智川まで流れ下って那智川をせき止め、そのせいで那智川が氾濫し、市野々、井関を始め、那智浜に至るまで大水害となりました。
台風12号についての詳しい報告は、地盤工学会関西支部が出しているので参照してみて下さい。(私の写真に写っていた調査の人々は、たぶんこの人たち)
平成23年台風12号による地盤災害調査報告書
それで、私の当時のブログでも書きましたが、
災害前の(土石流で流れる前の)金山集落の写真がこちら。(2010年7月撮影)
同じ場所から撮った、土石流直後の写真がこちら。(2011年9月撮影)
上記の報告書によれば、金山集落の上に堆積した土砂の厚さは、およそ40mだそうです。
この写真を撮った時、土石流の堆積土砂の上は、まるでホイップクリームのようにふかふかと柔らかく、ズブズブ足が沈んで、ものすごく歩きにくかったです。
崖崩れって言ったら、ただ単に土砂がガバッと落ちてくるイメージでしょう?
それが実際には、大量の豪雨と土砂が、周囲の土や岩や木だけでなく、空気も巻き込みながら、すごいエネルギーで流れ下るわけですから、水と空気とガレキのミキサー状態なのだ。
土砂はものすごく水を含み、さらに空気も含んで、本当にホイップクリームのようになっている。
この中に埋まっている人を探して掘り返すのは至難の業だ……と暗澹とした気持ちになりました。
それで、年月が経過したら、土砂に含まれていた水や空気が抜けて、このホイップクリーム状態も少々は締まってくるんじゃないか? この40mという分厚い堆積土砂も、ちょっとは圧縮されて低くなるんじゃ……?また、沢の流れや雨で浸食されて、柔らかい土砂はかなり流されるんじゃないか?などと思っていました。
が、災害からおよそ2年経ち、先日8月に金山に再調査に行くと、堆積土砂とその地形はまったく変化していないことがわかりました。ショックでした。
これが、約2年後に同じ場所から撮った写真です。(2013年8月撮影)
上の災害直後(2011年9月)の写真と比べてみて下さい。
堆積土砂の厚さはまったく変化していない。
どころか、散乱している岩石や、倒木の位置もまったく同じでした。
歩いた感じは、確かにホイップクリームのようにふかふかと足が沈む柔らかさはなくなっていましたが、とにかく崩れる……。1歩ごとに、ザラメのように足もとが崩れ、災害直後よりももっと歩きにくい(泣) 私は何度も足をとられて転び、2年前に来た時よりももっと擦り傷だらけになりました。
ホイップクリーム状態から水分だけが抜けて、すごく脆い土壌になっているんです。
(言わばメレンゲのクッキー状態???)
じゃあ、そんなにやわらかく脆いんだったら、雨ですぐ浸食されるんでは?って思うじゃないですか。
ところがところがです。写真を拡大してよく見ると、沢の流れに面した、水面までほんの1~2メートルほどの斜面でさえ、そこに存在している石の位置が変わってないんです。斜面に露出した石が、雨水などで浸食されて沢に落ちるってことが起こってない。倒木も流れてない。
ここで私がわかったことは、
(もちろん地域によって地質の違いや、天候条件の違いなどがあるだろうから、一概に決めつけてはいけないけれど)
土石流災害でできた地形は、次に再び土石流などの大規模災害が起こるまで維持される。
一度できた地形はそう簡単には変わらない……。
………ということでした。
逆に言えば、扇状地の所でも書いたけれど、災害でできた地形かどうかを見分けることで、そこが災害が起きやすい地形かどうかを判断することが可能なのではないかと。そこが崩れてできた土地なのかどうか知っておくだけでも、暮らし方や避難のしやすさが変わってくると思うのです。
ちなみにこの辺りの調査結果その他は、海の熊野地名研究会の10周年記念出版「災害と地名」(仮題)の原稿で書いていますので、ご興味のある人は出版されたら見てみて下さい(原稿締切やぶっていてすみません……)