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(映画「ギルバート・グレイプ」より、障害のある弟レオナルド・ディカプリオを気遣う兄ジョニー・デップ)
最重度とされる知的障害があった少年が死亡した事故を巡る裁判で、2012年3月30日、将来働いて得たと予想される「逸失利益」を賠償金に盛り込んだ和解が名古屋地方裁判所で成立しました。
この裁判は、2007年12月、重度の知的障害などがあった名古屋市の15歳の少年が、短期入所施設で階段から転落して死亡した事故を巡るものでした。
逸失利益とは本来得られたはずの利益が得られなくなったことをいいます。この事件のような死亡事故では、生きて平均寿命まで達していれば、どの程度の収入を得られたかを計算し、そこから生きていれば支出することになったであろう生活費などを差し引いて計算します。
すでに実社会に出て働いている人は今得ている収入が基準になりますが、まだ働いていない未成年の場合には、国民の平均的な収入が基準となります。
しかし、この少年のように重い障害がある人の「逸失利益」については、「働くことが難しかった」としてゼロとされることが多かったのです。
本件でも、この施設と損害保険会社は、賠償として慰謝料や葬儀費用など計1700万円を提示する一方、「将来、就労の可能性はない」として逸失利益をゼロと算出しました。
これに対して遺族側は「障害者でも健常者でも命の価値は平等だ」と訴え、全労働者の平均賃金を基準にして少年の逸失利益を約4000万円と算定し、慰謝料3000万円を合わせ、計約7600万円の支払いを求めていました。
名古屋地方裁判所で話し合いが行われた結果、少年が将来、仕事に就けた可能性を認めたうえで、逸失利益の額を障害年金の受給額を基準に770万円余りとすることなどで和解が成立しました。
和解を勧告した倉田慎也裁判長は、最後の法廷で「生命の平等を訴える遺族の主張を踏まえ、公平な分担をすべきと考えた」と述べたそうです。
重度知的障害者の逸失利益が認められるケースは少なく、2009年12月に札幌地裁で最低賃金を基準にした和解が成立したのが国内初で、青森地裁でも同月に同じように逸失利益600万円を認める判決があり、今回が3例目になります。
障害者が将来仕事に就く可能性を広く捉えた今回の和解は、同じような裁判にも今後、影響を与えることでしょう。
記者会見した少年のおかあさんは
「息子は『全く働けない』と断言されてきましたが、きょうの和解で将来働ける可能性が認められ、満足しています。息子にもいい報告ができます」
「息子が仕事に就けるよう、学校や家族もずっと支援してきた。可能性が認められ、満足している。働ける可能性が全くない人なんて、この社会にいない」
と話しておられたそうです。
また、記者会見した遺族側代理人の岩月浩二弁護士は
「不十分ながら障害者差別の是正を図ることができた。大きな意義がある。障害児の逸失利益を巡って、同じように苦しんでいる人たちに今回の和解がいい影響を与えてほしい」
と話しました。
障害者が社会で活躍できる場が広がり、それぞれの能力に応じて働けることが当たり前になれば、このような裁判の結果も当たり前になっていくのでしょう。
この和解について施設側は
「1日も早い解決を望んでいました。遺族の方には心からおわびを申し上げるとともに、ご冥福をお祈りしています」
と話しています。
この福祉施設は障害者の可能性を引き出すことこそが存在意義だったはずです。
死亡事故を起こしてしまった施設の責任は重大ですが、当初は逸失利益はゼロだと主張していたこの施設が、障害者の可能性を認め、和解してくれたのがせめてものことで、本当に良かったです。
重度の障害がある息子さんに、生きていれば働ける可能性があったことが認められた。この社会に居場所があったのだと思えた。そのことはご両親にとってどんなにか嬉しいことだったでしょう。
だからこそ、失われた命を余計に惜しむお気持ち、もう戻らないものを想う哀しみも押し寄せておられるかもしれません。
でも、それでも、裁判制度が少しでも遺族の方々の気持ちを癒やすことに役立てたようで、本当に良かったです。
誰もが支え合って自分の居場所が見つけられる社会にしたいですね。
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障害児の逸失利益770万円
2012年3月30日 13時45分 中日新聞
和解成立後「晃平も満足していると思う」と、遺影を手にしながら話す伊藤啓子さん(左)=名古屋市中区の愛知県弁護士会館で |
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重い知的障害のある次男を事故で失った遺族が、損害賠償額で「将来得られたはずの収入(逸失利益)はゼロ」と算定されたのは「命の差別だ」と訴えた裁判は30日、逸失利益として施設側が770万円を支払うことなどを条件に、名古屋地裁で和解が成立した。
施設側が逸失利益770万円を含む慰謝料など計3700万円を支払うほか、「心から謝罪する」ことなどで和解した。
訴えたのは、名古屋市守山区の特別支援学校高等部1年、伊藤晃平さん=当時(15)=の母啓子さん(54)ら。晃平さんは2007年12月、市内の短期入所施設に宿泊中、階段から転落し亡くなった。
施設側は管理体制の過失を認めたが、重度の知的障害があるため「逸失利益」はゼロと算定。啓子さんらは「将来できる仕事はあったはず。障害の有無で賠償額に差をつけるのはおかしい」として逸失利益4千万円を含む7600万円の損害賠償を求め、提訴していた。
和解を勧告した倉田慎也裁判長は、啓子さんらが主張した将来の就労の可能性に「十分に予測できるとまでは言えないが、可能性は認められる」と述べた。770万円は、障害年金の受給額を基準に算定したと説明した。
和解後の会見で、啓子さんは「晃平が仕事に就けるよう、学校や家族もずっと支援してきた。可能性が認められ、満足している。働ける可能性が全く無い人なんて、この社会にいない」と話した。
重度の知的障害者の逸失利益は、青森地裁が09年に600万円を認める判決を言い渡すなど、障害者の社会進出などを背景に、認められる傾向にある。
(中日新聞)
素晴らしい裁判長です。敬意を表します。「法の下の平等」と「人間の尊厳」という精神が裁判所業界から完全に死んではいないことを示してくれた和解指揮だと思います。和解に応じた施設側も、とても良かったと思います。
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記事に書かれた裁判官達の情報や、村野さんの理想を夢中になって読みました。
いつも貴重な情報ありがとうございます!
今回の記事、ほっとして暖かくなりました。
障害を負っても、歳をとっても、安心して生きていける社会、のために、自分は税金の一部を払っているつもりです。ピンハネされてますが。
障害を負った方の存在はこの社会の証明で、つまり、存在自体が社会への貢献、働いている証と思っています。遺伝子やミームからも証明できるでしょう(元生態屋として)。
君が代日の丸や選挙権の価値ではガッカリすることも多い裁判所ですが、
こういう判決は僕らに「勇気」を与えますっ。
やはり、裁判所は最終的には「理想」や「理念」を語って欲しいと思いますっ。
先生、この映画見ましたっ。とてもカンドウ的な作品でしたよね。
ただ、重度障害者の事故を恐れ施設側が委縮することはありませんでしょうか。
軽い障害者は受け入れるが重度障害者の受け入れは拒否する施設の増加を危惧しています
(公平、はあると思いますが)
少なくとも経営者として重度の知的障害者を雇うことはあり得ませんが(軽度の精神、身体、知的障害者は雇用していますが)、親さえ養育できないほど施設に入る必要にあった障害者に、何らかの価値を認めてあげることは良いことです。
ただ、親さえ施設を必要とする重度障害者を、受け入れる施設の減少が心配されるなとは感じました。
よい問題提起の記事をありがとうございます。