単独取材に応じる石破氏=16日、小松市内

単独取材に応じる石破氏=16日、小松市内

 自民党の新総裁に決まった石破茂氏は16日、候補者の公開討論会で石川を訪れていた。ダメ元で単独取材を申し込んだところ快く応じ、「一歩ずつ前に進んでいきましょう。そうすると大海原のように未来が開けていきますよ、という意味らしいです」と言い添え、色紙に「着々寸進(ちゃくちゃくすんしん) 洋々万里(ようようばんり)」と能登復興への思いをしたためた。地方の苦悩や、自ら「最後の挑戦」とした総裁選出馬の理由についても、初対面の記者に約20分にわたって熱く、ざっくばらんに語った。(政治部・若村俊)

 1986年の衆院選に当時最年少の29歳で初当選した石破氏。銀行員から政界に身を投じるきっかけとなったのは田中角栄元首相の誘いだった。その際、角栄氏からもらった「末ついに海となるべき山水もしばし木の葉の下くぐるなり」の言葉を大切にしており、同じような意味を持つ「着々寸進 洋々万里」を座右の銘にしているそうだ。

  ●真っ先に「防災」

 当選前ながら新総裁として真っ先に取り組みたい政策を問うと、迷わず「防災」を挙げた。ここ20年ほど訴え続けているという「防災省」の創設に意欲を示すと「過疎地で被災したから救われないとか、財政の豊かな自治体なら救われるというのはおかしい。立候補した9人の中で日本海側の候補は私だけだ」と地方重視の姿勢をアピールした。

 鳥取出身だけに、同じ日本海側の石川には親近感もあるのだろう。「私は昔から『裏日本』という表現が大っ嫌い。日本海側の持っている可能性を最大限生かし、太平洋側で有事の際は国の機能も担えるようにしたい」と記者の目を真っすぐ見据えて語り掛けた。

  ●気取らず連絡先交換

 シリアスな表情がふっと緩んだのは「連日お疲れですよね」と水を向けたとき。「ほんとになあ~」と相好を崩すさまに、気取らない等身大の姿がのぞいた気がした。

 「地元鳥取でもそうだけど、地域に根付いた地方紙は影響力があるからね。しっかり対応しないと」との言葉に甘え、すかさずスマホを取り出すと、「あいあい、どうぞ」と連絡先を教えてくれた。国会議員には記者に対してガードの堅い人も多いが、懐の深さに一気にファンになった。

 軍事や鉄道に詳しいオタク気質で知られる石破氏は、自民党の国会議員でつくる「ラーメン文化振興議連」の会長でもある。今回の取材場所は「石破茂先生を総理へ!激励の集い」が開かれた小松商工会議所。後のあいさつでは周辺のローカルラーメン店の名前を次々と挙げ、「そんなことまで知ってるの」と集まった地元の約300人を引き込んだ。その上で、麺の原材料となる小麦粉を自国で賄い、食糧自給率を高める大切さを説いてみせる話術にうなった。

 自ら「最後の戦い」と強調する5回目の総裁選挑戦にかける覚悟を聞くと、本音なのか「何度もやるもんじゃないよ。もう前回でやめようと思ったんだけど」と苦笑い。「でも、ここ3年間に震災は起こる、人口減少は止まらん、政治不信は高まる…。若いころ、政治改革に没頭した結果がこの有様か」と、考えを改めたそうだ。

 「しょうがねえな、もう1回やらないと。そういう思いですよ」。最後まで穏やかで落ち着いた物腰ながら、芯に秘めた熱い思いで5回目の挑戦を実らせた。