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鍵穴ラビュリントス

狭く深く(?)オタク
内容は日々の戯言
イギリス、日本、リヒテンシュタイン、大好きです
プラトニックlove好き

ケイトの15

2015-08-04 07:30:28 | オリジナル小説
 ニーナ嬢と二人目の来客ショーンは応接間で世間話をしております。もちろん、ジルだけは幼いお姫様を補助すべく立って付き添っていました。あとは数人のメイドたちがお部屋の中にいるだけです。
「さようですか」
「え、ええ……」
言葉が煮詰まったとき、ヨウツベ夫人に教育された一流のメイドが、もう出されている紅茶と一緒に食べると美味しいお菓子の皿をさっとお姫様とショーンの御前に置きました。
「レモンパイとガトーショコラと、紅茶をつかいましたゼリーでございます」
「お紅茶のおかわりはいかがいたしましょう?」
 そっと様子をドア越しにうかがっている若いメイドとケイトとローザは、お姫様が真っ赤な顔をして右を向いたり、左を向いたり、ジルに小声で何か命令していたりするのを、何かくすぐったそうに見ていました――そしてやはり、美少年ショーンのことも見て、頬を染めたりしていたのであります。
「オレンジジュースはありませんか?」
そのショーンの言葉に、お姫様が怒った顔をして――実際は照れているだけですけども――ジルに何か囁きます。ジルが
「オレンジジュースも用意させますね。ここの庭のオレンジから採れたての」
と言い、皆がつどっているドアにやってきました。
 皆、慌ててどきます。
「ぷっ」
ジルがその様子を目にして吹き出して、ケイトの腕をつかみました。
「お願い。貴女の出番よ、ケイト。クリスからオレンジもらってオレンジジュース作ってくれないかしら?」
「……そしたらどうすんですか?」
「貴女もメイドの格好をしているわけだし、この応接間に入ってきてくれればいいわ」
「は、はい……」
「あら? いや?」
「いいえ、そんなことはねえですけど」
ケイトはお姫様と同じくらい真っ赤になった顔を隠して、庭へと、クリスかクリスの爺やをさがしに向かいました。



ケイトの14

2015-07-13 19:18:20 | オリジナル小説
たいへんお待たせしました…………、万梨羅さん、本当にごめんなさい。
続きができました。
皆さま、ケイトの番外編を読んでから、ケイトの14(これ)をお読みください。









 ロラがやってきた翌朝、またもや馬車がジオライ家の前に止まり、門の鐘を鳴らしました。
「ジル。こんどはなあに?」
ジルは苦虫を食い潰したような顔をして、
「分かりかねます」
と答えました。お姫様のお遊び相手としては一番偉いジルとしては、2日連続でハプニングが起きているのは、舌うちしたいところだったでしょう。
「ケイト、私、下を見てくるわ。お姫様のこと、よろしくね」
「へい、わかりました」
 寝起きで機嫌が悪いお姫様をふかふかのソファに座らせて、ケイトはにっこり笑いました。自分の妹と弟たちのことを考えたのです。お姫様は、顔を紅く染めて、ぷいと横を向きました。
 客室のドアが開く音が聞こえ、ロラがそっとお姫様の部屋に顔をのぞかせました。
「ねえねえ、ニーナ。あれ、古ぼけた馬車に見えるけど、どっかの貴族のお忍びに違いないわ。だって、馬の毛並みが相当いいんですもの」
お姫様はムッとした表情をしました。馬の知識にかけては、お姫様はロラに負けている様子です。
 ジルが戻ってきて、ロラに目くばせをすると、ロラは客室に帰りました。
 お姫様は上目遣いでジルに何が起きたのかと尋ねました。
 ジルは真剣な表情をしていて、ケイトは怖くなりました。
「貴女に用みたいよ、ケイト」
「ほえ?!」
窓から下を急ぎ見てみると、ヨウツベ夫人がお客様を応接間へ案内しているところでした。ロラの言っていたとおり、相当の貴族らしいです。
 古ぼけたマントを羽織りながらちょうどお屋敷に目を向けたその人物と、ケイトはまっすぐに瞳をとらえられてしまいました。
「ショーン……??」
ケイトは心臓が跳ねっかえりました。――それほどショーンの眼には、恋慕が映っていたのです。

ケイトのまとめ①

2014-06-14 13:24:08 | オリジナル小説
ニーナ・ジオライ:
伯爵令嬢だが、「お姫様」と屋敷の者には呼ばれる。10歳。ねこを自室で飼っている。オレンジジュースが好物で毎日飲む。父と母は外国にバカンス中。ボルドー色が好き。ギリシャ神話が好き。ふわふわの金髪で、瞳の色は黒。

ケイト・トートス:
この物語の主人公。妹が4人、弟が2人いる。ミスランドウ地方という田舎から奉公にでてきた14歳。お姫様のことを「おひい様」と言ってしまうほど発音が田舎くさいが、そこが愛らしいところ。レース編みと刺繍なら得意中の得意。乗馬もできる。お姫様の苦手なレース編みを手伝ってあげたことから、お姫様の計らいでオレンジジュース作り係から、お姫様のお遊び相手の侍女にとなる。

ショーン・ガーティ:
ミスランドウ地方に住んでいた、ケイトの同い年の幼馴染。ケイトのことを愛している。父が賭けで大儲けをしたので、別荘にと田舎の家はとっておいたが、家族みな遠い港町に引っ越していってしまった。ケイトが奉公に出たのもその引っ越しの直後だった。成金で王室の開催する舞踏会にも出るほどの金持ちになり、ベラリナ王女に恋されている。

ジル:
ニーナ嬢のお遊び相手の侍女。23歳。実家に帰ることが多いが、頼りになる、ケイトにしてみればお姉様。

ローザ:
16歳。氷のような声色をしているが、心は温かい少女である。一階の物置部屋の掃除係。ケイトの親友。

クリス:
16歳。ローザに恋している。人をよく上手にからかうが、心は温かい少年。祖父から引き継いで、現在、庭師。

ロラ:
お姫様と同い年の10歳。お姫様の数少ない大切な友人。金髪翠眼、ゆるやかにうねった髪は腰の下まである。色白でもあり、かなりの美少女。

サラ:
ロラの侍女。

ヨウツベ夫人:
ニーナ嬢の厳しい侍女長。夫人の下の、侍女にはいろんな役目があるので、それを統べる。

マリー:
ケイトの2歳下の妹。ショーンに淡い恋心を抱く。

庭師のお爺さん:
ケイトに優しく接してくれる。クリスの祖父。昔、娘もいたが6歳で亡くなった。オレンジジュースのオレンジの実をくれる意外と大切な役割のひと。しかし、今はもう隠居している。

アダム:
ガーティ家に仕える65歳を超えた老執事。ショーンがケイトに恋心を抱いていることをちゃんと知っている。

ケイトの13

2014-06-14 13:18:00 | オリジナル小説
「あ、そろったわ」
 サラが小さな声をあげて、2枚のカードをテーブルの真ん中に差し出しました。

 オールドメイドの勝負の頂点に輝いたのは、ロラでした。
 続いて、ジルがあがりました。
 そして今、サラがあがりました。
 ケイトの思ったことです。
(わたしは8と10の2枚。おひい様は3枚、ってことはおひい様が8と10とハズレのクイーンをもっているはず)
お姫様はというと、顔を紅潮させてぎらぎらとケイトの顔を凝視しています。
(困る……)
率直な感想でした。
「おひい様、では」
ケイトが真剣にカードを引くと、なんとそれはクイーンでした!
(きたー、きてしまったー)
お姫様の顔がパッと明るくなり、ケイトは、ため息を呑みこんで目線を横にずらしました。
 テーブルの下でカードを混ぜると、ケイトは目を瞑って下を向き、お姫様にずいっとカードを差し出しました。おそるおそる目をあけてみてみると……、まだ8と10がありました。お姫様は肩を落とします。
 次はケイトのとる番です。
(10きたー)
ケイトの残りの枚数は1枚。
 ぷいと横を向いていたお姫様は口をあんぐりあけて、ケイトの8をとり、8を2枚とクイーンをテーブルの上にほうり投げました。
「わー……い?」

 ねこを抱いてお姫様がベッドの毛布にくるまってしまうと、残りの4人は目配せしながらも何も言えませんでした。
 お姫様がやっと寝返りを打ったとき、
「すみませんでした……おひい様」
ケイトのかぼそい声はお姫様に届いたでしょうか。






――――
☆万梨羅さんへ☆
やっと書けました……!
いろいろ実験しながらやってみました。
これからもちゃんと書いていけるよう、精進します。
これまでの登場人物たちのまとめも載せるので、万梨羅さんどなたとどなたの組み合わせが欲しいかよろしければコメントくださいませ!
お願いします!


ケイトの番外編1

2014-03-13 20:24:39 | オリジナル小説
 夕方、陽がオレンジ色に染まるそんなとき。
 ケイトの幼馴染、ショーンは嫌そうな顔をして父の書斎から出てきました。
 厳かに渡されたのは一通の手紙。


 ――前略 ショーン・ガーティ様
 貴方にお目にかかりたいとベラリナ王女様自らの仰せです。
 来たる明後日の土曜日、王宮に参られるよう、通知いたします。
 
  追伸
   おめかしをしてこられるよう、王女様付き侍女より忠告が届いております。


「いかがなされました、ショーン様」
 屋敷のしもべ、もう65歳を超えたアダムがショーンの隣に来て、言いました。
「ああ、アダム。ぼくは庭を散歩するよ、この手紙を部屋に置いてきてくれ」
「かしこまりました。……もしや、これはケイト様からでございますか?」
「違う、なんでそうなるんだ? ベラリナ王女から」
「なんと!」
しかし、ショーンの頭の中に浮かぶのは過去の幼馴染・ケイトの笑顔ばかり。
「ベラリナ王女様は先日の舞踏会では熱烈にショーン様を見つめられておりましたとのこと、噂に聞いております」
アダムはそんなショーンを複雑な瞳で、けれどもあたたかく見つめていました。
「くそ、なんでケイトからは手紙来ないの?」
大理石の壁を拳で叩くショーンは、少し俯いて、顔を前髪で隠します。そして、そのまま歩いて庭へとふらふら出ていきました。手紙をもったアダムもあとに続きます。
「ショーン様。一つ申し上げたいことが爺にはございます」
「言ってみろ。くそ、なんて言うなってか?」
「いいえ。――そんなにケイト様のことをお慕いなさるのであれば、ご自分から手紙を出してはいかがでしょう」
「――バカ。こんな地位になって、ぼくがどうしてジオライ家のオレンジジュース搾り係に手紙が出せるんだよ?!」
「ショーン様。アダムは調べつくしております。ケイト様はジオライ家の令嬢ニーナ・ジオライ様付きの侍女になられたということです」
「え? は? えええっ?」
「ニーナ様ご自身がケイト様のことをお気に召して侍女にとりたてた、とのことです」
ショーンはぽかんとアダムを見つめました。
「はい」
アダムは優しく微笑みます。



 その一時ほどあとの頃。
「ショーン元気かなあ?」
ケイトは檸檬形にふくらんだ月を見上げて呟きました。
「誰、ショーンって」
「おひい様、おひい様は恋をしたことがおありですか?」
「恋?!」
「おっとおひい様」
夜の庭で転びそうになった10歳のお姫様を支えて、ケイトは少し顔を紅く染めたのでありました。
 そんなケイトを月明かりの中、ちらり見上げたお姫様がムッと頬をふくらませたことには、ケイトは気づきません。
 そして、夜が更けていきました。



――――
☆万梨羅さんへ☆
長い間お待たせして申し訳ございませんm(__)m
やっと今日書けました。
もし読んでくださいましたら、感想いただけると嬉しいです。

ケイトの12

2013-12-22 20:54:30 | オリジナル小説
 ロラは友情のしるしに、小さなピンクダイヤモンドが埋め込まれた指輪をお姫様に渡しました。
「ふふ。似合うといいな~」
「ま、まあ、お礼を言ってあげてもよくてよ。あ、ありがと!」
お姫様は顔を真っ赤にして、ぷいと横を向きました。
「ハーブティーを入れてまいりました。お熱いのでお気をつけてくださいね」
 ジルはことんとカップ&ソーサーを置きます。レモングラスの強い芳香がたちこめます。
「オールドメイドをやりましょうよ」
お姫様は席について一口飲んでから言います。ケイトは慌てて、トランプを取りに一階の物置部屋まで行きました。
「どうしたのケイト」
鋭い声が飛んだと思ったら、それはローザでした。
「おひい様がいきなりオールドメイドをおやりになりたいとおっしゃるので……」
「トランプならここよ」
ローザが渡してくれたトランプの箱を持って、ケイトは二階へと急ぎます。
「ケイト。これ花束。お姫様にプレゼント」
途中、クリスがくれた可愛らしい小さな花束も持って、ケイトはお部屋に着きました。
 さて、ゆったりとした空間の中で勝負が始まろうとしていました。
 お姫様は慣れたようにクイーンを一枚抜きます。
「配るのはケイトがやって」
「へい……」
一生懸命ケイトが配り終わったところで、
「勝負は時の運。ケイトも本気出しておやりなさいよ」
と、ジルが言い、何故かその表情はいきいきとしていました。ロラの侍女・サラと、ケイトも交じって、オールドメイドを5人で始めました。




――――
オールドメイドとは「ジジ抜き」のことです。昔はトランプにJOKERがなかったので、「ババ抜き」ではなく、クイーンを一枚抜いて行われたそうです。


☆万梨羅さんへ☆
そうですね^^;
ケイト、大変だ……。
ロラが1週間もいるので、どうしたらいいと思いますか?
↑自分で考えろですよね……m(__)mあーどうしよう……。


ケイトの11

2013-11-24 10:25:02 | オリジナル小説
 ある日、お姫様のお屋敷の前に立派な馬車が到着しました。家来たちの騒ぎがお姫様の部屋にまで聞こえてきます。
「ジル、誰なの?」
「分かりかねます。ケイト、下に様子を見に行ってくるから、お姫様のことよろしく頼むわ」
「分かりました」
そう言ってジルは部屋を出ていきました。
 来訪者は、お姫様のご友人、ロラでした。
「ニーナ!」
豊かな金髪をふりふり、駆けてきたロラはさっそくロラの教育係に叱られていました。
「はい。――ニーナ、久しぶりいいい」
お姫様の部屋のドアを少し開けて、するりと滑り込んできたロラは、金髪翠眼、ゆるやかにうねった髪は腰の下までありました。白皙の頬には紅が射し、そう、かなりの美少女です。そして、同い年でした。
 ソファに座っていたお姫様が怒ったような表情で立ち上がると、ロラはお姫様に抱きつきました。
「ニーナぁ」
「な、なんで来たのよ! このあいだはよくも……よくも、夢で侮辱してくれたわね。う、嬉しいなんてこれっぽっちも思ってないんだからっ」
「――ん? なんのこと?」
ロラは純粋に首を傾げます。そばに追いついたジルは、深くため息をつきました。
「だから! なんで来たのよ!」
「ニーナに会いたくて、てへ。父様と母様が1週間居ていい、って許可をくれたの」
「そ、そんなに?」
「うん! だからいっぱい遊ぼうね!」
お姫様は真っ赤になった顔で、うん、とうなずきました。
「わ、わたくしの父様と母様はまだ外国に行っているの。……知ってて?」
「もちろん」
ロラはにっこり微笑みました。
(ずいぶんいいおひい様の友だちだわ)
とケイトは思いました。
 騒がしい1週間が始まりそうです。


――――
お姫様の名前がようやく決まりました❤
ニーナ嬢です。



☆万梨羅さんへ☆
感想ありがとうございます(*^-^*)
はいっ♪


ケイトの9

2013-10-19 19:53:59 | オリジナル小説
 庭師のおじいさんが相当な歳になったため、そのおじいさんの孫息子であるクリスが後を引き継ぎました。クリスはローザと同じ16歳です。時々、手伝いにお屋敷に来ていましたから、皆に素直に受け入れられました。
 クリスはいい意味でも悪い意味でも人をからかうことが上手でした。
 ある日、
「ジル~、あそこの箱をとりたいのよ」
とお姫様が言いました。ずいぶんと高いところにある箱です。
「物置にいって踏み台をとってまいります」
そう言ってジルは一階に下りていきました。ジルを見送ったあと、ケイトは勇気をふりしぼって
「あの……」
と呟きました。
「ん? なあにケイト?」
「その一階の物置に蟻んこが出ても、もうローザを怒らないであげてほしいんです」
「ローザって?」
「一階の物置の掃除係です」
「ああ、そうだったわね」
お姫様はうなずきました。
「蟻んこ、仕方ないです。そうお思いになりませんか? あの物置は古いのですし――」
「駄目よ。掃除係なんだから」
お姫様はぴしゃりとケイトの言葉をはねのけるように言いました。ケイトはうな垂れました。
「じゃ、じゃあおひい様……、次に蟻んこで大騒ぎになったときには、わたしを呼んでください。ローザと二人で協力して退治しますから」
ふてくされた様子でお姫様はケイトを見遣ったあと、
「ま、まあ、そのくらい許してあげないこともないわよ」
と言いました。
 踏み台を持ったジルが帰ってきました。驚いたことに、ローザも一緒です。
「ローザ!」
ケイトは親友のところに駆け寄りました。
「蟻んこかしら?」
お姫様の問いに、ジルは苦笑交じりにうなずきました。
「ケイト。あなたも行ってきて退治して頂戴」
「は、はいっ」
ケイトは急いで返事をしました。
 ケイトとローザが蟻んこを退治している最中、窓を開けっ放しにしていたので、中をみた、庭の手入れをしていたクリスが近づいてきました。
「二人してどうしたの?」
「蟻んこを潰しているのです……」
ケイトはそう答えましたが、ローザは口をつむったままでした。よほど悔しかったのでしょう。
「僕も手伝おうか?」
「いいの?」
ようやくローザは顔をあげました。
「うん。君たちのひきずっているスカートに蟻がたかるといけないからね。スカートのところにいる蟻を僕は退治するよ」
「あっちいって」
氷のようなローザの声におびえることもなく、クリスは靴を脱いで庭の道具は外に置いて、物置に入ってきました。
「ローザ」
クリスはそう言って、ローザの髪の毛を手に取り口づけしました。
「な、なにするの」
怒ったローザでしたが、
「元気だしてね」
クリスの次の言葉には小さく、うん、とうなすきました。
 夕方までにはだいたいの蟻んこを退治できました。
 ローザに優しいクリスの言動は、ケイトを暖かな気持ちにさせてくれました。

ヴィスの7

2013-10-18 06:17:08 | オリジナル小説
 ウンディーネ大公園は二人が思っていたより大きくて広々としていました。小道を行き交う人々は穏やかな表情でいて、そしてセラとアイ自身はまったく気付かなかったのですが、二人とすれ違うたびに老若男女関係なくみなが振り返り、セラとアイに見惚れていました。
「セラ姉さま、みて。フリージアが綺麗よ」
「そうね。いい匂い」
 歩いているうちに、アイの靴が大きすぎて踵(かかと)に靴擦れができてしまいました。
「痛いわ。姉さま」
「しょうがないわよ。我慢しなさい」
「血が出てきたわ。痛くて歩けない」
「もう。しょうがないわね。わたくしの靴と交換しましょう。わたくしの靴のほうが小さいはずだから」
そこで、ベンチに座って、靴を交換しました。
「ありがとう姉さま」
「伯母様に言って靴を貸してもらうか買ってもらうかしましょうね、あとで」
「ええ」
 二人は噴水のところにやってきました。
「伯母様にもらったこの金貨、これを噴水に投げるのよ。ふふっ」
アイは右手に金貨をもち、太陽に翳(かざ)しました。
――と、そのときです。若い男が、アイの左手にもっていた財布をひったくっていきました。セラのハンドバッグも一緒にすられました。
「きゃ」
大変です、なんたってセラの金貨はそのハンドバッグに入っていたのですから!
「アイ!追いかけるわよ!はやく!」
「はいセラ姉さま!」
セラは駆けだしました。しかし、返事はしたものの、アイは血が出て痛くて走れそうにありません。
「姉さま……。わたくし…」
「待ってなさい。取り返してくるわ、わたくしの足にかけて」
「はい。待っています姉さま」
 セラは足が速いのですが、さすがに男の人には追いつけません。それに履きなれない靴なものですから、ついていくのがやっとです。もうウンディーネ大公園を出て、街に入りました。見失わないで飛び込んだ狭い裏路地にいたのは、男の胸ぐらを掴んでいるフード付きマントをかぶった前髪の長い少年でした。



ヴィスの6

2013-10-06 07:17:07 | オリジナル小説
 お父様は重々しく口を開きました。
「スチュアート氏から聞いた。おまえたちはどうしても都に行って舞踏会に出たいそうだな」
スチュアート氏というのはロビンのことです。
「はい、お父様」
二人の声が重なります。
「そうか……」
セラが訊きました。
「お父様はどうして舞踏会に行かせてくださらないのですか?」
「――……舞踏会は女性の身では、危険が伴う。接吻なんてただのご挨拶であるし、うぶな少女をうまく誘って休憩部屋に連れて行って手籠めにしようとする奴もいる。わたしはそれを憂えておまえたちを行かせたくなかったんだ」
「そんな……」
アイが言い返します。
「うぶな少女じゃありませんわ。立派なレディのつもりです」
「そうですわ、お父様。それに、舞踏会にでないで大人になってしまったら、それこそ、恥ずかしいほどのうぶな女性ではありませんか」
セラがため息をつきました。
「まあそれもそうだな……」
「大舞踏会は社交界デビューの入口と言われておりますわ」
セラが言えば、
「大舞踏会ほど、安全な舞踏会はないのではないですか。なにせ王族が主催しているのですもの」
アイがたたみかけるように言います。
「――わかった。しかし大舞踏会の行われる城についたら、気を引き締めること。それを守れるなら行ってよろしい」
「わあっ」
二人は手をとりあって喜びました。いよいよ念願の舞踏会に行けるのです。


 大舞踏会の前日の朝、出立の馬車が用意されました。
 二人は着飾って馬車に乗り込みました。
 セラは白い生地に濃いピンク色の薔薇の花が散りばめられているロココ調のドレスに、髪の毛には真珠の鎖つきのボルドー色の薔薇の髪飾りをつけました。
 アイは薄黄色の生地に濃い黄色の薔薇の花が散りばめられたロココ調のドレスを着て、髪にはボルドー色の白レース付きカチューシャをつけました。
 ちなみに、セラもアイの薄いピンク色のふわふわした髪は、当日の朝、流行りの形に結い上げるつもりです。
 今日は都についたらウンディーネ大公園のすぐそばの伯母の家に泊まる手はずになっていました。お父様も体の弱いお母様を気遣ってついてきません。二人と家の者だけの、ちょっとした旅気分です。
「お父様、お母様、行ってまいります」
「楽しんでおいで」
「いろんな男の方とご挨拶なさいね」
「はいっ」
セラとアイは馬車から身を乗り出して、見えなくなるまで手を振りつづけました。
 何事もなく、夕がた過ぎに伯母の家に着きました。
 少し休んだら、さっそくウンディーネ大公園に遊びにいく予定です。