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鍵穴ラビュリントス

狭く深く(?)オタク
内容は日々の戯言
イギリス、日本、リヒテンシュタイン、大好きです
プラトニックlove好き

ケイトの24

2016-06-12 19:40:13 | オリジナル小説
「今日は俺自身の為に来た。今日は一日中お暇をもらったからな。ケイトとかいう女に興味はない。ジルという女を出してもらおうか」
 応接間の扉がひらかれた途端――もちろん、ショーンが来たときと同じく仕えているみなが野次馬で近くに集まっておりました――、アーサーが凛とした声で言い放ちました。
「ジルなら姫様ともう応接間におりますよ。どうぞ」
執事のロバートが言いました。


「ジル……、それが君の本名か?」
 どっかり座ってからアーサーが尋ねます。
「は、はい。あの、ケイトから聞いたのですが……、あなたはアーサー……?」
「はっきりしてくれ。リリアンと名乗っていたあの人はおまえか?」
「――――私はジルと申します。リリアンなど名乗ったことは聖書に……うっ、聖書に誓って……うっ、ちょっと待ってください」
なんていうことでしょう! あの気丈なジルが涙で頬を濡らしているではありませんか!
「ジル……!」
ケイトが扉の隙間から応援していました。すると、応接間でも、お姫様が、
「ジル。いいのよ、本当のことを言っても」
と優しく言いました。


 ジルはしばらくの間、両手を使って泣いていましたが、
「アーサー、会いたかったです!」
ただその一言、それだけ言って、アーサーに飛びつきました。
「私は女騎士になりたかった。夢を叶えたあなたが羨ましかった!――それでもずっとあなたのことを愛していた! もう会えないと思って、はとこのニーナ嬢の侍女になった……」
アーサーはジルを抱き受けて髪をなでました。
「そうか。リリアン、いや、ジル。頑張って騎士を目指していた君のことを忘れられなかった。一緒に旅をして楽しかった。こんなところで出会えたなんて。まさに天使が降臨して、祝福の歌をうたっているような気分だ。リリアンと名乗っていたあの人のことを想って、俺はまだ結婚してない。婚期が遅れてしまった俺たちだが、君と結婚したい――君のことばかり任務中も考えていた。どうだろう。駄目か?」
ジルはまだ涙が止まらない様子でしたが、嬉しそうに微笑みました。
「お姫様の許しがでたら、私もあなたと結婚したい」
「今すぐ出すわ。でも、ジル。結婚してもここにいてもいいのよ」
 ジルは嬉しそうにうなずき、アーサーと見つめ合いました。








ケイトの23

2016-05-15 19:16:48 | オリジナル小説
久しぶりにケイトちゃんのお話を書きました!
Wordで2頁とちょっとのお話になったので、4,5月分、まとめてこれでもいいでしょうか?m(__)m すみません……。万梨羅さんが読んでくださると嬉しいのですが……。随分、お待たせしました。どしどし感想待っています。
――――
まず、これ(ケイトの番外編1)を読んでからだと、お話がスムーズに読めると思います。





 お姫様つまりニーナ嬢のお父様はパーシー、お母様はエリーといいました。世界一周旅行をしているのであります。
 さて、ニーナ嬢のお館からいったんはなれましょう、ショーンのここ数日の出来事を話したいと思います。
 ショーンは、王室直々の申し出に拒めるはずもなく――というのはショーンの父が、ショーンとベラリナ王女とのご結婚を望んでいるということもあり――、ケイトとお互いの気持ちをたしかめあったその翌日、王宮にいました。そして言い渡されたのは、
「一か月、宮廷貴族とも触れ合い、王宮での生活を楽しめ」
ということでした。つまり、一か月だけとの約束ですけれども、いわゆる軟禁状態です。
 ショーンは、お金に目がない父を恨みました。
 来る日も来る日もベラリナ王女との噂が、いやおうなしに耳にはいってきます。


「ショーン様」
 ある日のことです。王宮での生活も慣れてきた、二十日間くらい過ぎた頃。
「なんだアダム」
「明日のご予定ですが……、国王様によれば、王女様は、ショーン様のお館のある地方へ、つまりテンビローチェ港におもむき、世界一周クルーズを終えたベーゼ号をご見学なさるということです。ショーン様も気晴らしに行ってみては?」
「うーん」
「王女様を邪険に扱ってはいけません。友好を築いた上で、ケイト様のことをお話になられたほうが、アダムはいいと思いますよ」
「それもそうだな。うん、分かってる」
――そして、ショーンはその申し出をしたのでありました。


 朝のテンビローチェ港は、霧に煙っていました。
 ショーンは、久しぶりに自分の、ミスランドウ地方から引っ越してきたテンビローチェ港に近い館(やかた)に戻ってきて、バルコニーで大きく背伸びをしました。
 確か、ベーゼ号は一昨日、無事、港に到着し、今日の九時から王女が見学する、という話でした。ショーンも同行します。
「アダム」
「はい、ショーン様、ここに」
「ちょっと朝の散歩をしてくる。七時になったら戻ってくるから。ちょっと呑気に、この港町を歩いてみたいんだ」
「はっ」
 ショーンが歩いていくと、足が自然に大型客船が泊まるクスノキ大公園にと向かいました。そこで、燕が一匹、教会の一階の凹んだ空間に巣を作っているのを発見しました。
「クスッ」
自然に笑みが零れましたが、ひょいと巣を覗くと、びっくりしたことに、貴婦人用の麦わら帽子まで使われているではありませんか! 燕が、つまんで持って行った残りの帽子は、巣の下に落っこちています。ショーンが不思議に思って歩いていくと、霧がかった向こうに、二人のきちんとした恋人のように仲睦まじい夫婦が歩いてくるのが見えました。
「おはようございます」
「まあ、丁寧な子ね。おはようございます」
 挨拶をしました。そして貴婦人は白い肘の上まである手袋をしていまして、ショーンに手の甲を差し出してきました。ショーンは身分が高いのだろうと察し、その手の甲をとって接吻いたしました。
「おやおや。帽子もなくして君はもうまた浮気かね?」
からかったようなおどけた男性の声がしました。
「まさか。ふふ、あなた」
「なんだい?」
「呼んでみただけ」
「そうかい。ははは」
ショーンは尋ねてみました。
「帽子って、どんな帽子ですか?」
「あら、ふふ、私ったら、南の島で買ったストローハットをついさっき、風に飛ばされて、まだ見つけられないのよ」
ストローハットとは麦わら帽子のことです。ショーンはもしかして、燕の巣に使われているものではないかと思い、その旨を話しました。
 クスノキ大公園の教会の燕の巣に使われていた帽子は確かに、そのレディのものでした。
「くすくす。燕の巣になったのなら、本望よ。うれしいわ、ねえあなた」
「そうだね。君は物事を楽しく考える女性(ひと)だから、ぼくも嬉しいよ」
なんといちゃいちゃしている夫婦でしょう!
「あなたにお礼がしたいわ」
貴婦人が言います。
「いえいえとんでもありません、あなた方のおかげで、僕も楽しい散歩になりました」
「なんというお名前?」
「ショーン・ガーティと申します」
「わたくしはエリー・ジオライ。ねえパーシー、いいでしょ? 館にご招待しましょうよ」
「ジ、ジオライ!?」
「あら?」
「いや……、なんでもありません」
最後のほうは声が小さくなってしまったショーンでした。
「いいよ、君さえよければね」
パーシーが言います。
「じゃあ決まりね」
ふとした拍子にニーナ嬢の父上と母上に出会ってしまったショーンでした。

ケイトの22

2016-03-29 08:34:46 | オリジナル小説
 お姫様はベッドに寝っ転がって、ロラが自分の子猫と遊んでいるのを見ていました。
「もう! ケイトはわたくしの! わたくしの!」
「もうニーナ! 足バタバタしないの」
と、扉を叩かれ、ジルとケイトが一緒に部屋に入ってきました。いつになくボォーとしているジルを、お姫様はしげしげと見つめました。
「どうしたの?」
ケイトがくしゅんとくしゃみをして、
「失礼しました、おひい様」
と言いました。
「ジル? 顔真っ赤よ」
「ジルの昔の恋人がみつかったんです、おひい様」
「ケ、ケイト!」
「え……?」
「ま、まだ分からないわよ! あれがアーサーだなんて。……だなんて」
最後は消えいりそうな声でジルは言いました。
 子猫はロラのもとを離れ、ジルに寄り添いました。ジルに懐いているのです。


 それから数日。平穏に時は流れていきました。
――と、門に誰か訪れたようです。呼び鈴が鳴りました。
 執事のロバートが案内して応接間に通しました。
 と、ローザが駆け上がってきて、二階のメイドたちに何か言っている声が聞こえました。メイドたち曰く、クリスが先日のくせ者がまたやってきたと言っている、ということです。
 ジルは口を手でおさえました。
 アーサーという王室直属の騎士がまたやってきたのです。

ケイトの21

2016-02-21 19:36:38 | オリジナル小説
お待たせしました❤
感想お寄せください!
(ニーナ嬢はツンデレです。)
――――――


 ジルとケイトとショーンがお姫様のお屋敷に戻って、お屋敷は平穏を取り戻しました。
「ケイト、またね」
ショーンがそうにっこり微笑みました。
「う、うん……」
「ケイト、馬車のところまで見送っていけば? いいわよ」
お姫様――ニーナ嬢が不服そうに言います。ニーナ嬢はケイトのことが好きですからね。少し、やきもちをやいていらっしゃったのです。それに立て続けにいろんな出来事が起こっていくものですから、苛々していたのであります。
「は、はい!」
 ショーンが馬車に乗り込むまえ、二人はキスをしました。ケイトは初めての長いキスに息も詰まりそうなほどでした。
「もしかしたら、お城のひとたちが厳しくなって、ここにもう来られないかもしれない。でも、僕はケイトのものだから。だから安心して。手紙を書くよ」
「わ、分かった……」
最後に、
「ケイト、可愛い」
小さな口づけをして、ショーンは馬車に乗りました。
 馬車が見えなくなるまで、ケイトはお屋敷の門のところに立っていました。そっとジルが来て、ケイト、と名前を呼びました。
「ジル!」
「優しい彼氏ね。羨ましいわ」
「ジルには男の子の友だちはいなかったんですか?」
「昔ね、私、女騎士になりたくて旅に出たのよ。そしたら旅で知り合った男の方と仲良くなったわ。まあお屋敷に帰りながら話しましょ」
 どうしてジルは女騎士になる夢を諦めてしまったのだろう、とケイトは思いました。それを察したのか、ジルは懐かしそうに話し始めました。もう、夕暮れ時で、雁の群れが晩秋のオレンジ色の空に飛んでいました。
「私の母は公爵家の娘だったけれども、恋愛結婚をしたのよ。それで、家から勘当されたの。でも、ある日、男爵家だった父が麻薬に手を出してしまって。父は母が美しすぎるといつも言っていて。敵が多かったのね、たぶん。そのストレスのせいだと思うわ。麻薬がばれて父は捕まり、母は父のことを想うばかりでだんだんと痩せていき、私は一人娘だったから病弱になった母を看病しなければならなくなったのよ。彼はときどき薬草をもって私に会いに来てくれたけど、お城に勤めてお城の騎士として正式に働くことになってから縁は切れたわ」
「いま、お母様は?」
「父方の男爵家にお世話になっているわ。私も働いて稼がないといけなかったし。そして、ニーナお姫様は、私のはとこにあたるのよ」
「そうなんだすか……。ジルも恋愛結婚をしたい?」
「そうね。私も女だし、恋愛結婚をしたいわ。でもね……」
 つらそうな瞳から、ジルには忘れられない男性(ひと)がいるのだとケイトは察しました。もうこの話題は終わりにしたほうがよさそうです。
「あ!」
「うん?」
「さっきのアーサーっていう騎士さんからもらった薔薇は?」
「――――え……?」
ジルの顔が固まりました。
「ほら、薔薇の花束です。まるでマジシャンみたいでしたね、ふふ」
「――アーサー?」
「ん? そうどすけど」
「そ、そう名乗っていたの?!」
激しい問いつめに、ケイトはたじたじして、うなずきました。
「そう名乗ってたです」






ケイトの20

2016-01-17 10:28:27 | オリジナル小説
 クリスが庭に戻ってくると、見慣れない顔の騎士がそこにいて、何やら険悪な雰囲気を察知したクリスはジルに言いつけに行きました。
「不審者が庭に。ガーティ子爵とケイトが危ないです」
ジルはそれを聞くと、てきぱきと下っ端のメイドたちにニーナ嬢とロラ嬢を2階に上げさせ、ヨウツベ夫人もどの階段も封鎖させました。
「ジル」
ヨウツベ夫人が命令を出しました。
「見てきなさい、剣はここに。さあ」

 一方、ショーンはもちろん護身用の剣を身につけていましたが、相手アーサーが襲ってくる気配がないのを見て、様子を窺(うかが)っていました。
「アーサー? あ、たしか、王女の護衛騎士の一人だったか」
「覚えていてくれて光栄だよ。ベラリナ王女はきみよりも年上だ。王も早く結婚させたいと願っている。きみさえオッケーしてくれれば、ガーティ家は安泰。きみのお父上もそのほうが嬉しいのではないのかな?」
「父は父、僕は僕だ。僕は父の言うことはきかない。早くベラリナ王女に諦めさせてもらえないだろうか。僕の将来の妻はこの彼女だ」
「ふーん……。そういえば、ケイトって呼んでいたかな? ケイト、彼のことは諦めろ。彼はいずれ、王族になる身だ」
「――いや」
ケイトの声はおそろしいほど震えていました。ショーンはケイトの手をぎゅっと握りしめました。
「へえ。可愛らしいお嬢さんだね。ベラリナ王女は、本当は隣国の王子と婚約されていたが、婚約は先週破棄された。このショーン・ガーティの登場によって、ベラリナ王女の気持ちが変わってしまったのだよ」
「ケイト!」
「……? ジル」
 と、途端、アーサーは惚けた顔になりました。
「くせ者! どこの遣(つか)いだ!」
アーサーは形勢不利とみたのか、樹に飛び上がりました。
「美しい女性(ひと)。今度からは門から参りますのでお許しください」
「……え?」
ショーンがケイトの身の安全を考えているあいだにも、アーサーは口でぶつぶつ言っていました。実は、ジルのことを何回も歯噛みしてつぶやいていたのです。
 アーサーはどこからかとり出した大きな真っ赤な薔薇の花束をジルに放りました。
「ジルのことが好きなの?」
ケイトが尋ねると、アーサーはぽんと煙玉を投げ、樹の上からいなくなりました。
ケイトがジルを見ると、
「あのひとは……?」
と、ジルもまた赤くなっているではありませんか!
「ジル……」
ケイトの言葉に、ジルは、はっとして、
「ケイト、ガーティ子爵さま、お怪我は?!」
しかし、それはやはり、どこか上の空でした。



――――
ケイトの話も20まできました。。。


ケイトの19

2015-12-20 09:19:04 | オリジナル小説
 お姫様は、じぃと窓からお庭を眺めていらっしゃいました。今日は小春日和、散歩にはもってこいです。
「ジル」
「なんでしょう、お姫様」
「恋ってなんなのかしら?」
「まあ……」
ジルはくすっと笑いました。
「わたくしはちょっとだけだけど、あのガーティ子爵にイライラする」
「まあ……! ふふ、たぶんそれはお姫様がケイトのことを好きなんですね」
「ど、どうしたの、急に! そ、それほどでもないわ!」
「ふふ、お姫様可愛らしい」
お姫様――ニーナ嬢はプッと頬を膨らませました。

 ローザが箒で床をはいていると、クリスが窓ガラスをトントンと叩く音がしました。今日のクリスは何か違うと思ったローザは、首を窓から出して、なあに、と尋ねました。
「いや、たいした用じゃないんだけど、俺みてらんねー」
「――何を?」
「貴族の奴とケイトだよ! お姫様の庭で……あんなことして」
「あんなこと? どんなこと?」
「抱き合ってるんだよ!」
ローザとクリスは目を合わせたまま、固まりました。と思いきや、ローザはぴしゃっと窓を閉じてしまいました。
「おい!」
ガラス越しに聞こえる声を無視して、ローザもまたほんのり頬を染めるのでした。

「夢ってなに? ケイト」
 ショーンの腕をひしっと持って、ケイトは話し始めました。
「私……、私ね、綿菓子のように口の中に入れたらとけてしまうほどの漠然とした夢でしかないんだけど、おひいさまの侍女の仕事もとっても楽しいんだけど、田舎に、ミスランドウ地方に帰って、お母さんとお父さんに自慢できるような、小物屋さんを作りたいの。レース編みとか編み物とか得意だから……、だから、ミシンを買うのが夢なの」
「ケイトらしいね」
「――それでね、おひいさまのところへたまに行って、ボルドー色の小物をさしあげるの。生地はどこで買うといいのか……それは分からないんだけど……」
「…………ケイトが田舎に帰るなら、僕もミスランドウ地方に帰らないとね。葡萄を育ててお祭りにあげないと。僕が葡萄の世話をするからケイトは……。って、嬉しい夢だね」
ケイトは驚きました。えっ、と言ってショーンの顔をまじまじと見ました。
「どうしたの、ケイト」
「ショーンは家を継がないの?」
「継ぐより、ケイトのほうが大事」
「あ、あの……、それはどういう意味で……」
「ふふ。ケイト。僕と結婚してください」
 ケイトは顔から火がでるほどで、指先もかたかた震えました。ケイトの正面にはショーンが居て、ひざまずいてケイトの手の甲に接吻しているではありませんか!
「ショ、ショーン」
ケイトが再び口を開こうとしたとき、
「なんとまあ。ベラリナ王女が聞いたとき、ガーティ家はどうなるだろうね? くすくす。追ってきて正解だったよ、ショーン・ガーティ」
庭の木に、覆面した男が腰掛けていました。ショーンの眼つきが一気に変わって鋭くなります。
「誰だ」
「俺はアーサー。ベラリナ王女の護衛騎士兼、密偵さ」
 覆面を外して、男は木からしゅっと飛び降り、ケイトとショーンの前に立ちました。ショーンがケイトを自分の背後に隠します。20代だろうと思われる、自信満々の顔つきの騎士がそこにいました。



ケイトの18

2015-12-14 08:21:23 | オリジナル小説
 ジルがニーナ嬢に、ケイトとショーンを二人きりにしてあげたらどうか、と耳打ちしました。ニーナ嬢はまだ心では動揺していたものの、うなずきました。
「あの。ショーン・ガーティ様、ケイトとお庭でも歩きます?」
「え! よいのですか???」
「も、もちろんよ!」
「お姫様」
ジルがたしなめます。
「あ、も、もちろんですよ!」
ニーナ嬢はくらくらしながら言いました。

 ではこちらに、とジルが応接間のドアを開けようとして、野次馬たちはヒューと自分の持ち場に散ってゆきました。
「知らなかったわ……。ケイトに貴族のお友だち、いや彼氏がいるなんて」
ローザは独りごちました。

 ケイトはショーンの隣を歩いていました。クリスや、クリスのお爺さんに見つかることは当然予想していて、なんて言おうと必死に考えていました。
「ケイト、秋の薔薇も終わって、だんだん寒くなってきたね」
「そ、そうね」
「ケイト、見て。空が綺麗だよ」
「そ、そうね」
「ケイト、上の空じゃない?――ぼ、僕が来ては何かまずかった?」
「そ、じゃなくて、まずくないけど、は、は、恥ずかしいのよ!!」
「ケイト……」
「うん?」
「僕のこと、好き?」
ケイトは真っ赤になりました。
「――はい」
「like じゃなくて、love で好き?――って訊いているんだよ」
「は、はい」
「ケイト。ケイトのこと僕も好き。Love でね」
ショーンは少し止まって、ケイトのことを後ろから抱きしめました。それは、もう特別あつかいでした。恥ずかしさと温かさがあいまって、ケイトはそっと涙をつぃと流してしまいました。もう、クリスに見られたって構いません。
「ショーン、あのね……私の夢、聞いてくれる?」


ケイトの17

2015-10-25 08:17:56 | オリジナル小説
「ショーン?!」
 ケイトはあたふたして、ぐるぐる辺りを見回しました。そこには、ぼーっと見ているお姫様。そして呆気にとられているメイドたちの姿でいっぱいでした。ジルでさえ、目をぱちくりぱちくりさせていました。
「やあ久しぶりだね、ケイト。すごく会いたかった……」
ショーンはあたかも熱にうかされたように、
「ずっとずっときみのことばかり考えていた」
と喋るのをやめません。
 ケイトは腹をくくりました。
「ショーン? いい? ここ、ニーナおひいさまの応接間よ。分かっているの?」
「え?」
ショーンは辺りを見回しました。ショーンは頬を少し赤らめたあと、
「分かってなかった。ごめん」
と謝りました。
「ただ、ケイトに会えた喜びで」
「……ん~!」
「すまなかった。この通り」
ショーンは歩いていってお姫様の手をとってひざまづきました。
「ご無礼を。お許しください」
そしてお姫様の手の甲にキスして、
「僕とケイトは昔からの幼馴染なんです」
とにっこり言いました。その無垢な微笑みに誰も彼もうっとりしました。
「おひいさま、失礼をごめんなさい」
「――え? あ、し、失礼ではないわよ」
ケイトはジルに背中を押されてその場を退出しましたが、その恥ずかしさといったら!

ケイトの16

2015-09-29 19:36:30 | オリジナル小説
 ケイトはふるふる震えながら庭へとやってきました。クリスは庭の生け垣に水やりをしているところでした。
「どうしたの? ケイト、悩んでいる様子だけど」
クリスから尋ねてきます。
「いや、ものすごく緊張しているだけど、ほんとに」
「ケイト、大丈夫? いま訪ねてきた若い貴族さんのこと?」
ケイトは頬を赤らめました。
「オレンジください」
クリスはまじまじとケイトの顔を見つめたあと、ぷっ、と吹き出してオレンジのなっている樹の下でオレンジを3つケイトにわたしました。
「ふふふ。あとでローザに言ってやろ。なんかあんだろ」
今日は見事に的中しているクリスでした。
「な! なんにも!」
「お姫様によろしくな!」
手を振りかえすのもしんどいケイトでした。

 ケイトは昔のオレンジジュース係だった頃と同じように、オレンジをしぼっていました。これを幼馴染のショーンに出すのです、どんな顔をして持っていけばいいのか分かりませんし、ショーンが何故いきなり「オレンジジュース」と言ったのかも分かりません。
 自分のことなど、もうこれっぽっちも想ってないかもしれません。
「わたしは、まだショーンのことを……」
――それだけは、確かに分かることでした。


 ぎいと野次馬で控えているメイドたちに扉を開けてもらい、ケイトはどうともなれと思ってお部屋に足を踏み入れました。会話は止まっているようです。
 近づいてくるケイトに、ショーンはゆっくり顔をもたげました。ケイトは急にどきどきしだしました。なんたって、ショーンの瞳には、昔と同じ、かすかな微笑みがあったのです。それは、幼いころから変わらない優しさがこもっていました。
「ケイト」
 ショーンの唇が、かすかにケイトの名を呟きました。
 ケイトはオレンジジュースを持ったまま、凍りつきました。
「ただいま」
ショーンの一言一言が胸にじんじんと沁みていきます。
「っ……」
ケイトはうれしくてうれしくて何を言えばいいのか分かりませんでした。ショーンは立ち上がり、俯いたケイトの手のお盆を取って応接間のテーブルの上に置いて、ケイトを抱きしめ、ケイトの頬にキスを落としました――。



――――
うっわぁギリギリの投稿……。
9月分です❤