有名な「木の花は」の段では、清少納言の色の好みが分かります。
以下、参照。
古文が苦手な方は、1~6のところの解説を楽しんでくださればいいです。
木の花は(計7種類)、
濃きも薄きも
紅梅。……1
桜は、花びら大きに、
葉の色濃きが、枝細くて咲きたる。……2
藤の花は、しなひ[=花房]長く、色
濃く咲きたる、いとめでたし。
四月のつごもり、五月のついたちのころほひ、
橘の葉の
濃く青きに、花のいと白う咲きたるが、雨うち降りたるつとめてなどは、世になう心あるさまにをかし。花の中より黄金の玉かと見えて、いみじうあざやかに見えたるなど、朝露にぬれたるあさぼらけの桜に劣らず。ほととぎすのよすがとさへ思へばにや、なほさらに言ふべうもあらず。
梨の花、よにすさまじき[=つまらない]ものにして、近うもてなさず、はかなき文つけなどだにせず。……3 愛敬おくれたる人の顔などを見ては、たとひに言ふも、げに、葉の色よりはじめて、あいなく見ゆるを、唐土には限りなきものにて、文にも作る、なほさりともやうあらむと、せめて見れば、花びらの端に、をかしきにほひ こそ、心もとなうつきためれ。 楊貴妃の、帝の御使ひに会ひて泣きける顔に似せて、
「梨花一枝、春、雨を帯びたり。」
など言ひたるは、おぼろけならじと思ふに、なほいみじうめでたきことは、たぐひあら じとおぼえたり。
桐の木の花、
紫に咲きたるはなほをかしきに、葉の広ごりざまぞ、うたてこちたけれど、異木どもとひとしう言ふべきにもあらず。唐土にことごとしき名つきたる鳥の、えりてこれにのみゐるらむ、いみじう心ことなり。まいて琴に作りて、さまざまなる音のいでくるなどは、をかしなど世の常に言ふべくやはある。いみじうこそめでたけれ。
木のさまにくげなれど、
楝の花……4 いとをかし。かれがれ[=離れ離れ]にさまことに咲きて、必ず五月五日にあふもをかし。
解説
1……『万葉集』ではすべて白梅(参照:
古典とウメ 2)
『古今和歌集』905年(『枕草子』より前)ではウメ(白梅)<サクラ
『枕草子』でやっと紅梅がでてきた。
2……葉の濃き→ヤマザクラonly
3……白くて、葉の色もあわい→すさまじ but 楊貴妃の手紙にも。
4……紫色
⇒清少納言の好み・・・紅 or 紫
花の木ならぬは(計20種類)かへで[カエデ]。……5
かつら[カツラ]、
五葉(ごえう)[ゴヨウマツ]。
たそばの木[カナメモチ]、しななき心地すれど、花の木ども散り果てて、おしなべて緑になりにたる中に、時もわかず[=季節を問わず]濃き紅葉のつやめきて、思ひもかけぬ青葉の中よりさし出でたる、めづらし。
まゆみ[マユミ]、さらにもいはず。その物となけれど、
やどり木[ヤドリギ]といふ名、いとあはれなり。
さか木[サカキ]、臨時の祭の御神楽(みかぐら)の折など、いとをかし。世に木どもこそあれ、神の御前のものと生ひはじめけむも、とり分きてをかし。
楠の木[クス]は、こだち多かる所にも、ことにまじらひたてらず、おどろおどろしき思やりなどうとましきを、千枝にわかれて恋する人のためしに言はれたるこそ、誰かは数をしりていひはじめけむと思ふに、をかしけれ。
檜の木[ヒノキ]、また気近からぬ物なれど、三葉四葉(みつばよつば)の殿づくりもをかし。五月に雨の声をまなぶらむもあはれなり。
かへで(鶏冠木)[モミジ]……6
の木の、ささやかなるに、もへいでたる葉末(はずゑ)のあかみて、おなじかたに広ごりたる葉のさま、
花もいとものはかなげに、虫などの枯れたるに似て、をかし。
あすは檜の木[アスナロ]、この世に近くも見え聞こへず、御獄(みたけ)に詣でて帰りたる人などの、持て来める。枝さしなどは、いと手ふれにくげに、あらくましけれど、何の心ありて、あすは檜の木となづけけむ。あぢきなきかねごとなりや。誰にたのめたるにか、と思ふに、聞かまほしくをかし。
ねずもちの木[イヌツゲ]、人なみなみになるべきにもあらねど、葉のいみじう細かに小さきがをかしきなり。
楝(あふち)の木[センダン]。
山たち花[ヤマタチバナ]。
山なしの木[ヤマナシノキ]。
椎(しひ)の木[シイ]。常磐木はいづれもあるを、それしも葉がへせぬためしに言はれたるもをかし。
白樫(しらかし)[イチイガシ]といふ物は、まいて深山木の中にもいと気どをくて、三位二位の上の衣そむる折ばかりこそ、葉をだに人の見るめれば、をかしき事めでたき事にとりいづべくもあらねど、いづくともなく雪の降り置きたるに見まがへられ、素戔嗚尊(すさのおのみこと)出雲の国におはしける御事こと思ひて、人丸(人麿)が詠みたる歌などを思ふに、いみじくあはれなり。折につけても、一ふしあはれともをかしとも聞きおきつるものは、草木鳥虫もおろかにこそおぼえね。
ゆづり葉[ユズリハ]の、いみじう房やかにつやめきたるは、青うきよげなるに、おもひかけず似るべくもあらぬ茎は、いと赤くきらきらしく見えたるこそ、あやしけれどをかし。なべての月には見えぬものの、師走のつごもりのみ時めきて、なき人の食ひ物に敷く物にや、とあはれなるに、また、よはひをのぶる歯固めの具にも、もてつかひためるは。いかなる世にかは、「紅葉せむ世や」といひたるもたのもし。
かしは木[カシハ]、いとをかし。葉守りの神のいますらむもかしこし。兵衛の、督(かみ)、 佐(すけ)、尉(ぞう)など言ふもをかし。姿なけれど、
棕櫚(すろ)の木[シュロ]、唐めきてわるき家の物とは見えず。
解説
5……
三巻本(=最も古態を留めた文体であると考えられている写本)には冒頭の「楓」が書かれていない。
6……この10番目に出てきた「かえで」はカエデではない。赤い字のところより、
モミジのこと。オレンジ色の字のところの「花」は
果実のこと。
草は・・・・・・
草の花は・・・・・・
以上、
「源氏物語の花」シリーズの続き、「枕草子の植物・花」シリーズはこの第二弾で終わります。
第一弾は
こちら。
このシリーズも湯浅先生に習ったものですよ♪
お付き合いくださりありがとうございました。