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ベテラン営業マンたちが新規開拓に行かない

2006年10月19日 12時35分03秒 | CPD
ベテラン営業マンたちが新規開拓に行かない

トークでは成績は伸びない 学習するチームを編成せよ

2006年10月17日 火曜日 松丘 啓司
  組織営業  問題解決  営業マン  学習チーム 



 私はある機械部品メーカーの営業部門です。数カ月に部長職につきました。
実はそれまで、ずっと製品事業部側で技術畑を歩んできたので営業の専門家ではありません。会社がもともと技術職の私に営業を担当させたのは、技術に通じた視点から新しい製品需要を開拓することを期待しているからだと思います。
 当社の主な顧客は20年以上も取引をいただいている数社の大手機械メーカーと卸業者で、10社ほどの得意先で売り上げの8割以上を占めています。安定した事業ではありますが、昨今の原材料価格の高騰もあって、既存の得意先との関係を維持するだけでは利益が薄くなっていくばかりです。
 そのため、新たな販路や用途の開発は当社にとって緊急の経営課題と考えられています。
 ところが、営業部門に来て驚いたのは、ベテラン揃いの営業担当者が新しい市場の開拓にまったく熱心でないことです。はじめは目の前の仕事に忙殺されて、新規先に割く時間がないことが原因と考えていましたが、だんだんと新規の人間関係を作ることに不慣れなことが最大の理由であることに気づき始めました。
 営業担当者は往々にして、訪問しやすい先に行きがちになると、営業関連の本に書かれているのを読んだことがありますが、当社も同じ状況だったわけです。
 これまで営業教育もほとんど行われていないので、手始めに新規開拓に必要な、アポ取りや営業トークなどの基本的な営業教育から開始しようと考えているところですが、他に有効な解決策はないでしょうか?


 テクニック論に頼る前に、顧客をよく理解し、問題意識を高めなければなりません。そのために、学習と実践を繰り返す顧客チームを作りましょう。

▼営業トークの教育でだけでは続かない

 アポ取りや営業トークの教育に意味がない、とは言いませんが、それだけでは、仮にうまくアポが取れたとしてもその先が続かないでしょう。質問者の会社が製造しているような商材は、一度きりの商談で成約するような性質のものではないため、アポをたくさん取って、数を打てば当るわけではありません。

 また、いったん契約すれば、顧客側も簡単に取引を変更することができない製品であるため、十分な信頼関係ができていないと契約には至らないでしょう。信頼関係を作るには、最初のコンタクト以降、顧客と何度もコミュニケーションを繰り返す必要があります。

 既に関係ができている得意先であれば、仕事の話のネタには事欠かないでしょうし、雑談であっても付き合ってくれる人もいるかもしれません。しかし、新規顧客の場合は、雑談はもとより、よほどの特色がなければ、製品説明ですらなかなか時間を作って聞いてはもらえません。恐らく、質問者の会社の営業担当者も、何度か新規開拓に挑戦してみたものの、話のネタが続かないことに嫌気がさして、話しやすい既存の得意先にばかり時間を使っている可能性があります。

 顧客との信頼関係を作るのに、コミュニケーションを重ねることは不可欠ですが、営業トークの教育だけで、それを達成するのは困難です。筆者の知人に、顧客のキーパーソンの誕生日や趣味などをうまく調べあげ、絶妙の話術で関係を作っていく営業の達人がいますが、そのような達人の技を普通の営業担当者に身に付けさせようとするのには無理があります。

 一般的な営業担当者であっても新規開拓ができる力を身につけられるようにするには、テクニックだけに頼るのではなく、営業活動の中身自体をしっかりと見直すべきです。


▼話のネタとはビジネスで役立つネタ

 普通の営業担当者に新規開拓力を身に付けさせるための近道は、提案型営業をきちんと実践することです。

 これは当たり前の話のように聞こえますが、特に質問者の会社のような、技術力主導でビジネスを確立してきた伝統的な製造業では、「提案=製品提案」と誤解されているケースもしばしば見受けられます。立派な「提案書」を作って、格好よくプレゼンテーションを行ったとしても、内容が製品の紹介であれば、それは提案ではなく製品説明です。

 新規顧客とのコミュニケーションを深めるためには、継続的な「対話」ができるだけの話のネタが必要です。話のネタといっても、ビジネス上の関係構築のためには、顧客のビジネスにとって役立つネタでなければなりません。

 それはつまり、顧客の問題意識に合ったネタです。問題意識を理解しないまま、人間関係のできていない相手に対して一方的な製品説明を行ったりすると、忙しい顧客には「無駄な時間だった」と思われてしまう恐れがあります。そうなると、その顧客には、二度と時間を作って営業担当者の話を聞いてもらえなくなるでしょう。結果として、営業担当者は新規開拓に億劫になり、会社としては見込み顧客の芽を摘んでしまうことになってしまいます。

 したがって、営業担当者には何よりも顧客の問題意識を理解する能力が求められます。顧客の問題意識を理解したうえで、それを解決するために役立つ案を提供することが、文字通りの「提案」です。つまり、顧客との継続的に「対話」できる関係を作るためには、本来の意味での提案の繰り返しが必要なのです。新規開拓においては、話術が対話を生み出すのではなく、提案が対話そのものであると言ってよいでしょう。

▼問題意識がなければ何が問題か理解できない

 ところで、顧客の問題意識を理解するためには、「話す力」よりも「聞き出す力」が求められます。質問者は幸いにも技術の専門家ですから、営業担当者が最初の面談で顧客の問題意識を聞き出すことに成功すれば、その解決に役立つアイディアや情報をアドバイスできるものと思われます。もし、質問者一人では回答できないようなテーマであったとしても、技術部門の誰が答えられるかはわかるはずです。質問者が営業部長に任命された背景には、営業と技術を橋渡しし、組織力を生み出すことへの期待があったのではないでしょうか。

 したがって、問題は営業担当者が顧客の問題意識を聞き出せるかどうかにかかっています。質問者の会社で、ただ単に問題意識を聞いてくるようにと指示しても、おそらく何を聞けばよいかよくわからない営業担当者が大半だと思われます。聞いた話をメモにとってくるように命じても、重要なポイントを書き落とすことがしばしばあるでしょう。

 それはなぜかというと、営業担当者自身の問題意識が不足しているからです。聞く側に問題意識がなければ、相手の問題意識も理解できないのは当然のことです。

 営業担当者が問題意識を持てるかどうかは、どれだけ顧客の業界や事業や業務について理解しているかにかかっています。相手の置かれている状況がわからなければ、顧客の発言の意図を理解し、問題を感知することができないからです。したがって、質問者のケースにおいて、何よりも求められることは、「相手を知る」ことです。すなわち、顧客のことを勉強するというきわめて基本的なことが、提案型営業に転換するための要諦といえます。

▼チームで学習する

 個々の営業担当者に対して、顧客のことを勉強して問題意識を持つように指示しても、簡単に動かないのは明白です。そのため、この取り組みは、担当者任せにするのではなく、組織的な活動として行う必要があります。その活動の一例をご紹介しましょう。

 まず、顧客のことを勉強するためには、対象となる顧客が決まっていなければなりません。つまり、顧客や業界がターゲティングされていることが前提となります。したがって、第一に取り組むべき作業はターゲット顧客の選定です。

 ターゲット顧客の選定は全員参加で行うのが効果的でしょう。上から割り当てられた顧客よりも、自分自身が主体的に選んだ顧客に対するほうが、顧客のことを知ろうという意識を持ちやすいからです。

 ただし、顧客選定の基準はあらかじめ定めておく必要があります。そうしないと、ここでも訪問のしやすさや商談までのハードルの低さでターゲットを決めてしまう恐れがあります。ターゲット顧客の開拓活動には少なからぬ投資が必要となるため、大きな需要が見込める先や成長可能性の高い先でなければ成約できたとしても割に合わなくなってしまいます。部長はチームメンバーと、選定された顧客が基準を満たしているかどうか、しっかりと議論する必要があります。

 ターゲット顧客が選定されたら、顧客ごとにチームを作ります。それぞれの顧客チームには営業だけでなく、できれば技術部門のメンバーにも参加してもらうと発想の幅がより広がるでしょう。チームメンバーは分担して顧客の事業や製品や業務の課題を調べ、定期的に持ち寄ってディスカッションを行います。顧客や業界のことに詳しい外部の人にヒアリングしたりするのも効果的でしょう。この勉強会はたとえば毎週、決まった曜日の夕方1時間といった無理のない時間設定にして、部長も参加して途絶えないように続けることが重要です。

 チームでの勉強の結果は、顧客課題レポートとしてまとめます。このレポートは専門のアナリストが作るような立派なものである必要はありません。チームメンバーの問題意識が込められていることが重要です。紙に書くことによってメンバーの問題意識が整理される効果があります。

 この勉強会の進み具合に応じて、実際に顧客との対話も始めます。顧客に対して、チームを作って顧客の研究を行っていることを伝えてしまってもよいでしょう。特別扱いしてもらっていることに対して、悪い気がする顧客はいないと思います。チームの問題意識が高まっていると、顧客の問題意識を聞き出すことができるようになってきます。それに対して提案をぶつけ、より深い問題意識を引き出すという対話を繰り返すことで、いつしか成功事例が生まれてくるでしょう。

▼アドバイスの要約
・ 提案型営業のポイントは顧客を知ることにあるという認識を部内で共有化してください。
・ 全員参加でターゲット顧客を決め、顧客チームを作りましょう。
・ チームで顧客の学習を続けながら、実際に顧客との対話を深めていく活動を継続的に行ってください。