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営業先に持っていく提案書作成に時間がかり悩んでます

2007年01月10日 20時48分34秒 | CPD
営業先に持っていく提案書作成に時間がかり悩んでます
2007年1月10日 水曜日 松丘 啓司
  ナレッジマネジメント  提案営業  組織営業  提案書 


 私はリース会社の営業企画課長です。当社の顧客は設備投資を行う必要のある、あらゆる法人ユーザーを対象としています。リースの営業においては、ユーザーが設備調達を決めた後に、複数のリース会社に対してコンペをかけてしまうと、必ず価格競争に巻き込まれてしまいます。そうなると、成約の確度は低くなりますし、成約できたとしても、あまり儲からない利益率の低い案件になってしまいます。

 そのため、ユーザーが設備計画を行おうとしている早い段階から情報をキャッチし、他社に先駆けて提案活動を行うことが営業の成功のポイントです。それによって、コンペに持ち込まれないように顧客をグリップする必要があるのです。

 このような理由から当社は長年、提案営業に取り組んできました。しかし、実態は十分に定着しているとは言いがたい状況です。何年かごとに、提案営業の大号令がかかるのですが、数カ月としないうちに元の状態に戻ってしまう、ということを繰り返してきました。その結果、提案営業は当社にとって永遠の課題のようになってしまっています。

 提案営業が定着しない最大の原因は明らかで、提案書作成に時間がかかることです。当社の営業担当者は普段でもたいへん多忙ですが、そこに提案書作成の負荷が加わるわけです。過去には、提案書作りに時間がとられた結果、顧客訪問時間が減少し、業績が低下してしまったこともありました。そのため、提案営業にアレルギーを持っているベテラン担当者もいるほどです。

 そうはいっても、昨今の業界内での競争はますます激しくなっており、コンペではまともな利益が得られません。そのため、営業企画課では再度、提案営業力の強化に向けた施策を打ち出そうとしていますが、今回、失敗すると、二度と当社には提案営業が定着しない恐れがあります。提案書作成に時間がかかることが失敗の原因なのであれば、提案書を書かない提案営業のやり方も検討してみようと考えていますが、そのような方法は可能でしょうか?

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 非常に難しいでしょう。提案書を書かないのではなく、作成時間を大幅に短縮するための方法を検討すべきです。

 
提案書を「書く」ことに、本当に時間がかかっているか?

 質問者の会社のケースでは、提案書を「書く」ことに時間がかかっているのかどうかを検証してみることをお勧めします。ある会社の事例では、提案書を「書く」ことに要する時間は提案書作成全体の10%程度で、残りは情報を集めたり、提案のシナリオを考えたりするための時間でした。

 情報収集や提案シナリオの検討は、仮に提案書を書かなかったとしても、提案営業を行うためには不可欠な業務です。したがって、質問者の会社にも同じ状況が当てはまるとするなら、提案書を書かないことは本質的な解決策には繋がりません。それどころか、むしろ次のようなマイナス効果をもたらしてしまうデメリットが大きいと考えられます。


・書くことによる思考の機会を失ってしまう。

 顧客に対する提案シナリオをしっかりと考え抜かれていなければ、それを紙に書くことはできません。そのため、書くという作業は、提案内容を深く考えるうえでたいへん意味がある行為といえます。その機会をなくしてしまうということによって、かえって提案力の低下を招いてしまうリスクがあります。

・紙に働かせるというメリットを活かせない。

 提案書を顧客に渡すことによって、内容を正確に理解してもらう、読み返してもらう、他の人に伝えてもらう、といった効果が得られます。つまり紙自体が勝手に働いてくれるわけです。提案書なしに、営業担当者が同じことをやろうとすると、多大な顧客対応時間がかかってしまいます。

・提案内容を自社内で共有できない。

 紙に書かれていない提案を、他の営業担当者に知らせるのはたいへん困難です。この後に述べますが、提案書の共有こそが、提案書作成時間の短縮のための近道なのです。したがって、提案書を書かない限り、作成時間を短縮することはできません。


ナレッジマネジメントは営業責任者の使命

 提案営業には提案書の作成が不可欠であるといっても、時間がかかるのは必要悪で仕方のないことである、というわけでないことはいうまでもありません。提案書作成の生産性向上は、提案営業を推進する営業部門のマネジメントの使命であるといっても過言ではありません。

 提案書作成の時間短縮のための解決策は、オーソドックスな「ナレッジマネジメント」(ノウハウの共有)にあります。つまり、それぞれの営業担当者が作成した提案書を、サーバー上などで共有化し、全員が他人の提案書を参照できるようにすることです。それによって、各人がゼロから提案書を作らなくてもよい環境を整え、提案書作成の生産性を高めることを目的とします。

 つまり、提案営業とナレッジマネジメントは同時に推進されなければなりません。しかし、提案営業がなかなかうまくいかないのと同様に、ナレッジマネジメントも一筋縄ではいきません。おそらく質問者の会社でも、過去にナレッジマネジメントに取り組まれたものの定着しなかった経験があるかもしれません。ナレッジマネジメントがうまくいかないケースには、一般的に以下のような原因が挙げられます。

【1】営業担当者が多忙のため登録作業が後回しになり、いつの間にか形骸化する。
【2】さまざまな内容・品質の提案書が乱雑に保管され、ゴミ箱のようになってしまう。
【3】営業担当者が自分のノウハウを公開しようとしない。

 営業部門のマネジメントは、これらの原因を解決する打ち手を積極的に施していかなければなりません。

数100%の生産性向上の可能性がある

 原因【1】に対する打ち手は、提案書の登録を借金取りのように催促する担当者(ナレッジマネジャー)を設置することです。営業部門の人数が少なければ兼任でも結構ですが、大組織になれば専任担当者が必要な場合もあります。言うまでもなく、それには少なからぬコストがかかりますが、そのコストを補って余りある効果が期待できます。

 ナレッジマネジメントがうまくいった場合、生産性向上の効果は10%、20%というようなレベルではなく、数100%以上という桁で現れてきます。筆者の知っている事例では、最初は2~3日かかっていた提案書作成時間が、2~3時間に短縮されたようなケースもあります。書くことに要する時間だけではなく、思考のプロセスが大幅に短縮された結果です。

 原因【2】に対する打ち手は、登録された提案書を分類するためのインデックス(顧客の業種や提案したソリューションのタイプなど)を付けることと、陳腐化したナレッジや価値の低いナレッジを整理することです。この打ち手はきわめて当たり前のように思われるかもしれませんが、実際に行うにためには、内容をよく理解している営業担当者の協力が不可欠です。そのため、組織立った取り組みが必要になります。

 登録された提案書にインデックスを付け、常に最新の状態にしておくことによって、営業部門の中で、どのような営業ノウハウが豊富に存在するか、または不足しているかが、一目でわかるようになります。これまでは漠然としかわからなかった自社の営業ノウハウ面での強み、弱みが定量的に把握できることによって、ターゲット顧客の選定や人材育成などに活かすことが可能になります。そのことがさらに、提案営業力の向上に大きく寄与します。

 原因【3】に対する打ち手は特に重要です。なぜなら、他人に公開したくないような価値のあるナレッジを持っているのは、たいていの場合は優秀な営業担当者だからです。優秀な担当者の積極的な参加が得られなければ、ナレッジマネジメントの取り組みは成功するわけがありません。

 優秀な担当者が有益なナレッジを公開すれば、それに「ただ乗り」する営業担当者が現れます。そのこと自体は組織全体にとっては悪くないことですが、優秀な担当者からすれば、一方的にノウハウを出すのは割に合わないことと感じてしまうでしょう。そこで、ナレッジマネジメントに貢献することは、自分自身にとってもメリットがあることを実感してもらう必要があります。

 ノウハウの提供に貢献した担当者をきちんと評価する制度を整えることも必要でしょう。また、活動の最初の段階では、ナレッジの提供に貢献できるような担当者だけで構成した少人数のパイロットチームを作り、そのチーム内での提案書の共有から始める方法も効果的です。たとえば、5人のチームで1人が1つずつナレッジを提供したとすると、各人にとって、提供するナレッジと受け取るナレッジの比は1対4となります。つまり、出す(ギブ)よりも受け取る(テイク)ものの方が明らかに多いため、すぐにメリットに気づくはずです。パイロットチームがうまくまわり始めた後、営業部門全体に展開していけば成功確率は高まるでしょう。


アドバイスの要約

・提案書を書かないのではなく、提案書作成の生産性向上を目指すべきです。

・そのために営業部門のマネジメントが主導して、ナレッジマネジメントを行わなければなりません。

・ナレッジマネジメントの成功のためには、想定される3つの障害を回避する打ち手を積極的に施していく必要があります。