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急がれるインフラの老朽化対策

2012年12月11日 09時38分28秒 | 下水熱利用
中央自動車道・笹子トンネルの天井板崩落事故は、高度成長期に造られた建造物の老朽化対策が緊急課題であることを図らずも浮き彫りにした。

 株式市場では政権返り咲きが濃厚な自民党が掲げる政策に関心が集まっているが、自民党が6月に国会に提出した「国土強靱化基本法案」が改めて注目される。東日本大震災などを踏まえ、災害に強い国土づくりをめざして、10年間で総額200兆円をインフラ整備などに集中投資するというのがその骨子である。インフラの老朽化という問題も重なり、建設業界で得意分野を持つ企業群にとっては収益拡大が期待されよう。

1.社会問題として意識され始めた「インフラ老朽化」

 高速道路などのインフラ整備において、世界的に先行した米国の事例をもとに考慮して、適切な維持管理なしではインフラの寿命はおおむね50年といわれる。日本では、1960年代の高度成長期に社会資本が集中的に整備された。現在、これらのストックは寿命の50年に近づきつつある。東日本大震災前から、インフラの老朽化対策の必要性が高まっていたが、震災を機に近い将来発生が予想される首都直下地震や南海トラフ巨大地震などの被害想定が、大幅に見直されたのに伴い、防災対策の観点からも一層取り組みが強化されることになった。

 2010年度の調査では、橋長15メートル超の道路橋は全国に15.5 万橋あり、建設後50年以上を経過した道路橋は全体の8%であった。しかし、調査から20 年後の2030年には、建設後50年を越す道路橋が全体の約53%に達すると試算される。同様に、排水機場、港湾岸壁など重要なインフラも、2030年には50%以上が建設後50年以上を経過すると推計される。
 

図表1 2020年、2030年時点の建設後50年以上経過したインフラの割合
 

 老朽化の進行に伴い、維持管理・更新費の拡大ペースは加速した。特に、建設投資の漸減傾向が強まった2000年以降、元請完成工事高に占める維持管理・更新費のウエートが25%を超す水準で推移している。2011年度の維持管理費と更新費の合計額は4.3兆円(推計)である。現状通りの維持管理・更新を続けた場合、20年後の2031年度には維持管理費+更新費が7.0兆円を突破すると試算される。

 将来的には維持管理・更新需要の増大によって、新設投資が皆無になることも予見され、現状より早い時期に対策を講じることで将来の負担軽減を図る長寿命化修繕計画(橋梁)への着手と同時に、社会資本整備政策の見直し論につながっている。10年間で総額200兆円をインフラ整備に集中投資する「国土強靭化基本法案」(自民党)は、2012年6月に国会に提出された。
 

図表2 従来通りの維持管理・更新した場合の維持管理費+更新費の推計
 

2.インフラ投資は復興需要が一段落後も拡大トレンドが期待

 復興事業の進展に伴い、公共投資の重要な目的として次第にインフラ老朽化対策のウエートが増大することが予想される。日本より30年余り早く社会資本整備が進んだ米国では、1980年代にマイヤナスブリッジ(コネチカット州、1983年)などの落橋が頻発し、予防的安全対策を強化せざるを得なくなった。その結果、道路投資は漸減から増加へとトレンドが一転した。

 1983年のマイヤナスブリッジ落橋事故以前は、1966 年が米国の道路投資のピーク(478.24億ドル)であったが、1983年の道路投資はピーク比62.6%の299.67億ドルに落ち込んでいた。その後、ISTEA(陸上交通効率化法)、TEA-21(21世紀に向けた道路最適化法)、SAFETEA-LU(次期道路整備事業法)など相次いで道路および道路橋の再整備策が出され、道路投資は過去のピークを大きく上回る水準が続いている。
 

図表3 米国の道路建設投資額(実質値)の推移(~2012年7月)


 1960年代に高速道路などの社会資本整備が進んだ日本では、米国と同様に直近まで道路事業費の減少が続いた。インフラ老朽化問題が高まった2008年から、道路橋の整備計画(長寿命化修繕計画)の策定が始まり、国の直轄国道や高速道路については修繕計画の策定が完了した。

 地方公共団体管理道路は、自治体の財源不足などがネックとなり、計画策定率は69%にとどまっており、今後、長寿命化修繕計画に基づく補修・補強工事の着工は、道路事業費および公共投資の底上げに寄与するとみられる。1983年の道路投資底打ちが公共投資の再拡大につながった米国と同様に、日本の公共投資も復興事業が一段落した後も拡大トレンドを維持する可能性があるといえよう。


3.主なインフラ投資関連企業一覧

鈴木東陽(すずき・とうよう) 日本証券アナリスト協会検定会員。証券専門紙や経済誌、三洋経済研究所、いちよし経済研究所などを経て、現在、いちよし証券シニアアナリストとして、投資セミナーや経済講演などに従事。

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(2012年12月5日 読売新聞)