皆川博子『倒立する塔の殺人』Murder of the Upside-Down Tower
2007年11月第1刷発行
理論社
≪カバーより≫
戦時中のミッションスクール。
図書館の本の中にまぎれて、
ひっそり置かれた美しいノート。
蔓薔薇模様の囲みの中には、
タイトルだけが記されている。
『倒立する塔の殺人』。
少女たちの間では、
小説の回し書きが流行していた。
ノートに出会った者は続きを書き継ぐ。
手から手へと、物語はめぐり、想いもめぐる。
やがてひとりの少女の不思議な死をきっかけに、
物語は驚くべき結末を迎える……。
物語が物語を生み、
秘められた思惑が絡み合う。
万華鏡のように美しい幻想的な物語。
***************************************
2008年、初めの1冊は、
甘美な毒を持つ幻想的な物語を書かせたら右に出る者はいない
作家・皆川博子の最新作『倒立する塔の殺人』。
皆川博子女史は、私が最も敬愛する作家である。
御歳76であるが、精力的に小説を発表し続けている。
直木賞作家でもあるのに、今いちメジャーな存在ではない。
しかし、一部のファンには熱狂的に愛されている人でもある。
「わかる人だけが読めばいい」と読者に“選民思想”を
抱かせてしまうような、中毒性を与える。
昔(70年代)に発表していたような、
あからさまに倒錯してエロティックな設定や描写が
潜まったかわりに、より洗練された透明な幻想世界が広がり、
その筆力に、陶酔しながら驚くばかりである。
さて。
『倒立する塔の殺人』の読後の感想はさておき。
この本は、対象が小学校6年生以上ということで、
文字も大きく、漢字のルビも多い。
内容(表現)も、皆川女史の他の作品と比べれば平易ではあるが、
倒錯的な中毒性は何ら減ることはない。
皆川ファンの大人だけでなく、小中学生の若い人にも広く読んでもらいたい。
表紙も、珍しく少女マンガのようなタッチの絵で、文中にも
折々に挿絵が入るので、とっつきやすいだろう。
戦中・戦後を舞台にしていて、政府が敏感になるような思想的な文章も多々
出てくるので、文部(科学)省の「夏の課題図書」にすることは無理だと
思うけれど、いちファンとしては、読書好きの少女がいたら薦めたい!と
強く思える本であった。
話は少し逸れるが、私が中学生のとき、学校の図書館の司書さんが
「本当に本が好きな子だけに、教えてあげてるのよ」と
私に薦めてくれたのが、荻原規子の古代ファンタジー『空色勾玉』だった。
幻想的で美しい物語世界に、夢中で読んだ覚えがある。
当時の私は、三島由紀夫に傾倒するような小生意気な子どもだったが、
梶井基次郎や堀辰雄のような、清廉かつ幻想的な物語にも惹かれていた。
司書の先生は、私の芽生えつつある読書の嗜好を、見抜いたのだろう。
級友に人気だった現代ミステリーやオカルト、もしくは、一般的に人気の恋愛小説でもなく、
幻想的な世界を持った物語を好むようになると。
≪皆川博子≫という作家の作品と出会う数年前の話だ。
(荻原規子『空色勾玉』福武書店1988年初版、徳間書店1996年初版/2005年新装版)
携帯・インターネットの普及で、読書離れがますます激しくなり、
「小説」とも言い難いようなレベルの「ケータイ小説」が人気を博し、
映画化までされるような異常な状況の現在、
道しるべとなってくれる本を的確に薦めてくれる≪大人≫が
子どもたちの身近にいないことは憂うべき事態だが、
稀にそういう人と出遭えた少年・少女がいたなら、彼・彼女は
とても幸福である。
そういうわけで、幻想小説ファンが少しでも増えてほしいと思う私は、
まさにこれから様々な世界を知っていく≪中学生≫にこそ、
『倒立…』を読んでほしいと思う。
(かといって、文中のキーである<倒立>や<黄色いジャスミン>に興味を持たれても責任は負えないけれど…笑)
また、この作家が、これからも長く健康に生きて、
もっともっと新作を届け続けてくれることを
切に願う。
2007年11月第1刷発行
理論社
≪カバーより≫
戦時中のミッションスクール。
図書館の本の中にまぎれて、
ひっそり置かれた美しいノート。
蔓薔薇模様の囲みの中には、
タイトルだけが記されている。
『倒立する塔の殺人』。
少女たちの間では、
小説の回し書きが流行していた。
ノートに出会った者は続きを書き継ぐ。
手から手へと、物語はめぐり、想いもめぐる。
やがてひとりの少女の不思議な死をきっかけに、
物語は驚くべき結末を迎える……。
物語が物語を生み、
秘められた思惑が絡み合う。
万華鏡のように美しい幻想的な物語。
***************************************
2008年、初めの1冊は、
甘美な毒を持つ幻想的な物語を書かせたら右に出る者はいない
作家・皆川博子の最新作『倒立する塔の殺人』。
皆川博子女史は、私が最も敬愛する作家である。
御歳76であるが、精力的に小説を発表し続けている。
直木賞作家でもあるのに、今いちメジャーな存在ではない。
しかし、一部のファンには熱狂的に愛されている人でもある。
「わかる人だけが読めばいい」と読者に“選民思想”を
抱かせてしまうような、中毒性を与える。
昔(70年代)に発表していたような、
あからさまに倒錯してエロティックな設定や描写が
潜まったかわりに、より洗練された透明な幻想世界が広がり、
その筆力に、陶酔しながら驚くばかりである。
さて。
『倒立する塔の殺人』の読後の感想はさておき。
この本は、対象が小学校6年生以上ということで、
文字も大きく、漢字のルビも多い。
内容(表現)も、皆川女史の他の作品と比べれば平易ではあるが、
倒錯的な中毒性は何ら減ることはない。
皆川ファンの大人だけでなく、小中学生の若い人にも広く読んでもらいたい。
表紙も、珍しく少女マンガのようなタッチの絵で、文中にも
折々に挿絵が入るので、とっつきやすいだろう。
戦中・戦後を舞台にしていて、政府が敏感になるような思想的な文章も多々
出てくるので、文部(科学)省の「夏の課題図書」にすることは無理だと
思うけれど、いちファンとしては、読書好きの少女がいたら薦めたい!と
強く思える本であった。
話は少し逸れるが、私が中学生のとき、学校の図書館の司書さんが
「本当に本が好きな子だけに、教えてあげてるのよ」と
私に薦めてくれたのが、荻原規子の古代ファンタジー『空色勾玉』だった。
幻想的で美しい物語世界に、夢中で読んだ覚えがある。
当時の私は、三島由紀夫に傾倒するような小生意気な子どもだったが、
梶井基次郎や堀辰雄のような、清廉かつ幻想的な物語にも惹かれていた。
司書の先生は、私の芽生えつつある読書の嗜好を、見抜いたのだろう。
級友に人気だった現代ミステリーやオカルト、もしくは、一般的に人気の恋愛小説でもなく、
幻想的な世界を持った物語を好むようになると。
≪皆川博子≫という作家の作品と出会う数年前の話だ。
(荻原規子『空色勾玉』福武書店1988年初版、徳間書店1996年初版/2005年新装版)
携帯・インターネットの普及で、読書離れがますます激しくなり、
「小説」とも言い難いようなレベルの「ケータイ小説」が人気を博し、
映画化までされるような異常な状況の現在、
道しるべとなってくれる本を的確に薦めてくれる≪大人≫が
子どもたちの身近にいないことは憂うべき事態だが、
稀にそういう人と出遭えた少年・少女がいたなら、彼・彼女は
とても幸福である。
そういうわけで、幻想小説ファンが少しでも増えてほしいと思う私は、
まさにこれから様々な世界を知っていく≪中学生≫にこそ、
『倒立…』を読んでほしいと思う。
(かといって、文中のキーである<倒立>や<黄色いジャスミン>に興味を持たれても責任は負えないけれど…笑)
また、この作家が、これからも長く健康に生きて、
もっともっと新作を届け続けてくれることを
切に願う。