路傍の露草 ~徒然なる儘、読書日記。時々、映画。~

“夏の朝の野に咲く、清廉な縹色の小花”
そう言うに値する小説や映画等の作品評。
及び生活の単なる備忘録。

溝口健二『祇園囃子』(1953年)

2008年02月03日 | Movie[映画]
出演:木暮実千代、若尾文子、浪花千栄子ほか
公開:1953年/モノクロ
時間:85分


【パッケージあらすじより】
「赤線地帯」など、女性が中心の特殊な社会を題材にした映画を得意にした溝口健二監督が、
京都の花街・祇園を舞台に、そこで暮らす人々を描いた人間ドラマ。

母を亡くし舞妓志願で頼ってきた娘(若尾文子)を引き受けた売れっ子芸者(木暮実千代)は、
特定の旦那も持たずに祇園の中で頑張っていたが、置屋の女将(浪花千栄子)に背いたため、
お座敷に呼ばれることもなくなってしまう。

木暮の色香と若尾の初々しさと浪花の貫録、それを取り巻く進藤英太郎らの脇役陣。
宮川一夫の花街を切り取った素晴らしい映像。

女の悲しさと図太さを描いた溝口健二の演出力。
日本映画の魅力を堪能できる作品である。


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最近では、故・黒川紀章氏の都知事選出馬で露出の多かった若尾文子さんは現在御年74。
しかし、この映画の彼女は、デビュー翌年、まだ初々しい19歳!

そんな若尾文子目当てで見ようと思ったら、姐さん芸者役の小暮実千代のあまりの色気にノックアウト(笑)
表情、仕草、声色、すべてが色っぽい。素敵…



ストーリー的には、好きな男以外に体を許すまいと毅然を生きようと頑張っても、結局、二進も三進もいかなくなって、身を任すしかなくなってしまうという水商売の哀しい現実を描きつつ、美しき師弟愛を組み込ませていて、またその師弟愛がちょっとレスビアン的なものも感じさせられ、この時代の花街の女性たちの匂い立つ美しさとやるせない哀しさを、見事に書ききっている。


公開の1953年は、戦後8年。昭和28年。
まだ、高度成長による日本文化崩壊が起こる前の、最後の『古き良き日本』を保ち得ていた時代である。
そして、明治、大正という時代の流れとしての昭和初期の伝統や風習が、良くも悪くも続いていた時代といっていいだろう。

といっても、今の舞妓・芸妓業も、水揚げだの旦那だの、客に体を渡さなくてもよい…と雑誌のインタビューで現役芸妓が話したりしているが、実際はそうではない…と思うのだが。。。

おしなべて、廃れずに継続されている文化は大抵、深部(精神的な部分)が消えて、表層(形式)だけ残るものだけど、花街における“深部”というのは、結局のところ、三味線や踊りではなく、男たちの下心なのだから、綺麗さっぱりなくなるはずがない。と思う。


それにしても、溝口健二という人は、女性を本当に美しく撮る。
しばしば、蚊帳、暖簾、掛けられた帯、などの隙間や影に女優を置く。
そういった物ごしに垣間見る横顔には、思わずうっとりと見とれてしまう。

この映画に関して、溝口健二は「会社のいうことをきいた間に合わせの仕事」と言っていたらしいが、今の日本映画のレベルと比べたら、この完成度、奥の深さは素晴らしい。そして何より、【品】が良い。


祇園の花街を舞台とした氏の映画といえば、浅田次郎氏の小説『活動寫眞の女』のカバーにもなっている、『祇園の姉妹』、これを前から観たいとずっと思っている。前に、京都のどこかの博物館で連日溝口映画の上映をやっていたときがあったが、もちろん平日に行けるはずもなく断念した。このDVDは1000円で販売していたものである。過去の名作が、廉価でどんどん見られるのは嬉しい。このシリーズでは、他に小津安二郎の『晩春』、成瀬巳喜男の『銀座化粧』を購入した。



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