ビルト＆デストロイ（破壊と再生）：私の幸福論

年始の願掛けはいつも、「今年が幸せな年であります様に」だった私。しかし幸せとはなんだろう。自分でも判らないのに、そんな曖昧な事を頼まれる神様も困るに違いない。幸せ感を与えてくれる薬が存在する様に、幸せとは私たちの脳が作り出す感情・感覚で、個人で基準が違うもの。だから他人から見ればすべてを持っている人が己を不幸と感じ、他人から見ればひどい状況の人が幸せだったりする。歩き疲れた日に温泉に入って「あー幸せだなぁ」と感じるのは神経伝達物質ドーパミンのおかげ。これは「幸せ」というより快感。脳内麻薬とよばれるエンドルフィンだって出る。人それぞれ違う幸福の基準は、それぞれの神経伝達物質が作用して作り出す感情のカクテル。

だれにでも譲れない"大事な物"があると思う。"大事な物"、つまり何か「執着」する物を見つけた時、それがその人の幸福感を左右する・・・それを手にするために努力し、手に入れたときを夢想する事も幸せな時間。それはマイホームや子供の笑顔かもしれないし、平凡な日常かもしれないし、友人や恋人、健康かもしれないし、地位や名誉、お金かもしれない。その基準が達成された時、幸福感に包まれる。私たちは常により高度な目的を持つ様に出来ているから、一つの目的を達成すればさらに高度な次の目的を目指す。でも幸福を与えてくれる物を持った時、同時にそれを失う恐怖も持つ事になる。与えてくれる喜びが大きければ大きいほど、恐怖は大きい。
もし何も執着しないで生きる事が出来たら、悩みはないはずだし、同時に何かを得る喜びも無いはずである。何にも執着しない生き方、なんて修行でもしなきゃ無理だろうけど、何も執着しないという意志自体一種の「執着」とも考えられる。

一体何が自分にとって譲れない"大事な物"がなんなのか判らない私には、自分の「幸せ」がなんなのかを見極める事が出来ないのかもしれない。それは一度持っている執着物を捨てて初めて判る物なのかもしれない。失う事で、破壊する事で初めて判る事実。破壊し、無になった時初めて自分に必要な物が見えるような気がする。自分が必要としている物つまり「幸福の元」を探す旅は、人生の目的を探す旅でもある。幸運にもそれが何かを見つける事が出来た時、人はどんな状況からも再生できるのだと思う。たとえ失った物が２度と戻らなくても。

トップ画像は森山大道「凶区Erotica」より。