地獄を体験した者の果実ほど甘いものはない：ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ(2009)

Nowhere Boy(2009)

伝記映画は事実に基づいて作られてる前提だから、ストーリーの優秀さはあまり求めないつもり。にもかかわらず伝記映画が作られるような人物の人生ってフィクションよりずっと面白かったりする。この映画もジョン・レノンの青春時代の最も濃厚な数年を切り取った、音楽ファンなら見ておいて損はない一本。ミュージシャンの伝記映画としては「コントロール」が一番好きだけど、あれはストーリーの重さが違う。

叔母夫婦に育てられかなりやんちゃなガキだったジョン。しかし生みの母に会ったことから人生が大きく変わっていく。この映画で感心したのが厳格な叔母役のクリスティン・スコット・トーマスと精神に悩みを抱える生みの母役アンヌ＝マリー・ダフ、この2人演技バトルしてんのか？てほど熱演。主役食われてます。監督が女性だって聞いて、なんとなく頷けた。もちろん主役のアーロン・ジョンソンも良いんだけど、どう見てもティーンに見えないしリバプール訛りがなんだか上品。てかジョン・レノンの訛りがそうなのか。


アーロン・ジョンソンはKICK ASSの主役の彼だったんだな、映画を見るまで知らなかった。

素晴らしい作品を世に出す芸術家って皆、私達凡人には想像のつかない悲惨な人生をどこかで経験しているのだと思う。何不自由なく暮らし、深く悩むことも傷つくこともなく育った人間には彼らのような表現力や想像力は与えられない。地獄を体験した者の果実ほど甘いものはない。限られた者のみ、地獄を見ることでしか与えられない通行証。