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ORGANIC STONE

私達は地球を構成する生命を持った石に過ぎないのですから。

空のいちばん透明なところで:ベルリン天使の詩(1987)

2007-03-22 22:28:12 | 映画:ミニシアター系
Himmel ?ber Berlin, Der (1987)
Wings of Desire(1987)

ヴィム・ベンダース。この監督の名を知ったのはこの映画でした。当時まだ東西を隔てる壁があったころのベルリンを舞台にしたこの映画は、外国映画といえばアメリカが舞台という私の典型的イメージを覆した映画でもあったかも。なにしろ20年近く前に見た映画でその後見た記憶は無い、なのに、強烈に印象に残りました。美しいモノクロの透明感ある映像と、天使って存在するのかも?と思わせるようなベルリンの雰囲気、存在感ある役者たち、単純だけど力強いメッセージ、全てが当時私の精神のどこかにあった埋めるべき「溝」にぴったり収まったといいましょうか、そのまま吸収されて取り込まれて私の一部になってしまったわけです。そして私の感覚を形成する要素となって現在に至ります。

←天使ダニエル(ブルーノ・ガンツ)。
←相棒カシエル(オットー・サンダー)。

天使ってなんだ?なんで鳥の羽根が生えている?なんで虫の羽じゃダメなのか?キリスト教に留まらず、イスラム教でも他宗教でも存在する「天使」。その宗教的意味は別の機会に、ということで(本当かよ)、この映画では正統派の神の使いである彼らが主人公。子供や動物、一部の人々には見ることが出来るが、普通は見えない存在。彼らは黒いコートを着て高いビルの上に佇んでいたりします。彼らの仕事は、人間の心の言葉を聞いてあげること。孤独や絶望、心の痛みを抱えた未熟な存在であるMOTAL(限られた生命を持つ者。天使たちは対照的にINMOTAL、永遠の生命を持つ者と呼ばれます)たちの声を聞き、必要ならば寄り添い、彼らの痛みを理解し、痛みを分かち合う。君たちは決して一人じゃないんだよ、と。しかし勿論、天使は万能ではなく、実際の人間の行動に影響を与えることは出来ません。飛び降り自殺をしようとひさしの上にいる青年に寄り添う一人の天使。青年は自分は孤独ではなく、彼を理解し、救いたいと思っている天使が側にいることに気付かない。そして青年は飛び降りる。そのエピソードは今にして思えば、天使の無力さの表現と言うより、人間の悲しい本質、負の部分を象徴するためのものであったのかも知れません。完璧である天使たちに比べ、陽気で生命に満ちた存在である人間は、その反面絶望や苦悩による苦しみも深い。

←老詩人の心の声を聞くカシエル(オットー・サンダー)。続編では彼が主役。

主人公は一人の疲れた天使ダニエル(ブルーノ・ガンツ)。天使は人間に寄り添うだけ、傍観者でしかない。何のために自分は存在しているのか?彼らの視覚はモノクロで、実際に物に触ったり、味わったりすることは出来ない。彼は自分の生きてきた永遠の人生に疲れ、短いながらも生命と感覚や感情に溢れた人間になりたいと夢見ていました。そしてサーカスのブランコ乗りのマリオンに出会ったことで、彼は本気で人間になる決心をするのでした。ダニエルが人間になったとき、ガッシャーンと空から鎧が降ってくる。年季の入った天使の鎧。「ほら、持っていけ!退職金だ」みたいな。この鎧を売って、現金を得るんですね(それは続編の話?)。また、ダニエルが人間になった喜びは、今まで天使の視点であったモノクロ画像がカラーになることで表現されます。

←マリオン(Solveig Dommartin)。

モノクロ映像の美しさは、映画最初の方のベルリンの空や風景、図書館のシーンが印象に残っています。光の束が差し込む薄暗い図書館は、人間たちの心の声で充満しています。ドイツ語や英語や、いろいろな言語が混ざり合った声が音楽のように充満した、不思議な空間。この映画はハリウッド版リメイク「シティ・オブ・エンジェルス」がニコラス・ケイジ主演で作成されましたが、原作と比べちゃうと辛い。別物と思ってみればいいかもね。

気付いていないだけで、私たちの人生は私たちが思っているより素晴らしく、美しい。そのストレートで力強いメッセージを人間の側から伝えるのではなく、傍観者としての天使(間)から見た視点から伝えているのがこの映画の特徴だと思うのです。ミリオンダラー・ホテルでも同じメッセージでしたね。こちらは天使ではなく、天使のような純粋な存在に近い人間の青年が主人公でした。私たちが一人苦しんでいる時、目に見えないだけで何かの存在が側に寄り添ってくれているかもしれない、それはもちろん非現実的夢物語かも知れませんが、そう思うことで救われる気がしませんか?

そうそう、この映画には私の大好きだったアインシュツルツェンデ・ノイバウテン(崩壊する新建築)のBlixa Bargeldが出ているんですよね!このときはNick Cave And The Bad Seedsのギタリストだったから、ライブシーンでちょっとだけ・・
←おまけノイバウテンのブリクサ。今でも美形ですねぇぇ~半分人間だから。

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7 コメント

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これは… (白くじら)
2007-03-25 01:11:08
こんばんは。

これは劇場で観たものの…当時よく判らなかった作品でした。
とにかくなんだか物悲しかったことだけ覚えています。

pointdpoさんの記事を読んで、これはもう一度観直さなければと思っております。
これは続編もあったんですねぇ。
返信する
どうなんでしょうね (pointdpo)
2007-03-25 11:47:52
白くじらさまこんにちは。

>これは劇場で観たものの…当時よく判らなかった作品でした。
>とにかくなんだか物悲しかったことだけ覚えています。
単純明快ではなくて、見る人に考えさせるタイプの映画ですよね。はっきりいって退屈、て思う人もいる(多分多数!)。静かな静かなファンタジー映画、ですか。続編はもう少し起伏があります。

私も今見たら、また全然違う解釈をするかもしれないな、って思います。
返信する
こんにちは (髭ダルマLOVE)
2007-03-25 11:59:38
そうですよね。
そうなんですよ。

拝読させていただきました。
この愛情ある力強いレビューを読んでたらもう一度観たくなりました。

私、ヴィム・ヴェンダース監督の作品一応ひとしきり観てるんですよ。大体同時期に。でも、観た当時はどうも合わなくて。でも、こないだたまたま観た「ミリオンダラー・ホテル」が、最初観たときの印象とは違う気がして。

映画って観ているときのコンディションや、そのときの自分の精神的成熟度でかなり捉え方が変わりますよね。なのでヴィム・ヴェンダース関係、再度挑戦してみます。

そのときはまたご報告いたします^^
TBさせていただきますね!


返信する
すみませんっ (髭ダルマLOVE)
2007-03-25 12:03:58
パソコンの調子が相変わらず悪くて、TBが大変なことになってしまいました。すみません!どうぞ、削除してください。
返信する
消しておきました! (pointdpo)
2007-03-25 12:31:17
髭ダルマLOVEさまいっらしゃいませ
TB、消しておきました~

>私、ヴィム・ヴェンダース監督の作品一応ひとしきり観てるんですよ。大体同時期に。でも、観た当時はどうも合わなくて。
ありますよね、そういうこと。何年かあとでみたら「この映画いいじゃないの?!」ってこと。反対はあまりないですね。私難解なフランス映画(「髪結いの亭主」とか)と、文学系英国映画「日の名残り」とか、ジャームッシュはいまだよく分からないですが・・・

>愛情ある力強いレビューを読んでたらもう一度観たくなりました。
思い入れたっぷりの記事ですねえ・・なんか自分の中で勝手につくちゃってないか心配です。
返信する
こんばんは! (ラルフ)
2008-11-15 00:07:12
映画も素晴らしいけど、
レビューも素晴らしいです!!
みなさん思い入れが深い作品なんですね。
ptdさんもそういうところ(どういうところかはご想像におまかせ)
に到達していそうな感じがします!

オムニバス以外でのヴィム・ベンダースは
これが初めてだったので、
見る気満々でコンディションもよかったせいか、
私に寄り添ってくれる天使の気配はしませんよ…w

美しい映像に出会えただけでも、
この作品を見る価値があるかな?
何回でも見たいですね~!


返信する
到達してますか (ptd)
2008-11-15 20:08:21
ラルラル様
お元気ですか~!
もうあっという間に師走ですね。うわ~!

思い入れたっぷりの記事で、読んでてあきれますよねぇ、自分で。
でもドイツ映画って意識したのは「ブリキの太鼓」のほうが早かったかもしれません。
ヴェンダースは難解な作品もあるけど、これとミリオンダラーホテルは好きです。

>美しい映像に出会えただけでも、
>この作品を見る価値があるかな?
そうですよ。
続編もなかなか面白いんでぜひ。

TBありがとうございます!
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