たしたりひいたり

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の店主が綴る日々の出来事、コラム

梅次郎と春子その2

2006年03月14日 | たしたりひいたり
文庫本を熱心に読んでいる彼女の横顔は、下を向いている為に落ちる髪に隠され
表情も窺い知れない。ほんの少し見え隠れする鼻の先が、少し赤い気がして
梅次郎は「花粉症に違いない」と推理する。
列車が動き出して9分、そろそろ次の停車駅に滑り込む・・・見慣れた駅前の
看板が見えてき、もう一度梅次郎は彼女の横顔に目をやる。

ドキン!急に耳元で名前を呼ばれた時のように、一つだけ心臓の鼓動が高くなる。

あっ、春子、気が付いた時には、彼女は文庫本を閉じ、開いた扉からホームへ
降り立つ。

一瞬、梅次郎の体が硬直したように動けなくなる。
何かに抗うように、もつれそうな足を前に出し、降りるはずではない駅のホームに
飛び出そうとした時、非情にも閉じかける列車の扉
間に合わない、と感じたが降りたいと念じたまま体をねじ込むように進める梅次郎。

ガコッ

痛~   半身を扉に挟まれた梅次郎

開いた扉から、前に進むつもりが後退し体勢を立て直そうとするうち、
再度閉じた扉はもう開かなかった。動き始めた列車の窓から慌てて
ホーム上の春子を探す。
春子は誰かに呼び止められたように、身動きせぬまま離れていく梅次郎を見つめていた。

再会・・・

久しぶりの再会は列車の扉越しだった。


つづく  (つづけていいのか・・・)


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