ボーイズライク

あの・・・秋野さん？
そう後ろから声をかけられ振り向くと、見覚えのある顔の女性が、
ホーム上の自販機から、今落ちてきたばかりの缶コーヒーを
取り出そうと屈み込んだ僕の顔を覗き込むようにしている。

咄嗟にその女性が誰なのか分からなかったのは、彼女の制服姿しか
知らなかったせいもあるに違いない。

３年程前、広報課に在籍していた頃、取引先に出向く度、気持ちの良い
応対をしてくれた確か名前は・・・装追秋子。

お久しぶりです　微笑みつつ軽く会釈する彼女に僕も頭を下げ、今は
転勤し、会議の為本社にきた帰りでと、ハンカチで額の汗を拭いつつ
話したのだった。

向かう方向が反対なので、列車の到着までの１０分程会話を交わした
だけだったが、仕事の時と変わらぬ笑顔と落ち着いた口調に少なからず
好意を抱いた。以前より短くした髪型もよく似合っていると感じたし、
何より自分でも着たいと思うようなブルーグレイの半袖スウェットと
ゆったりめのメンズライクな生成りのパンツを少しロールアップした
着こなしも、バレエシューズも。

男物のようなスウェットもジャストサイズで、それにストールを巻いた
彼女らしい着こなしにも、確かにヤラレたと感じたものだった。

彼女が乗り込んだ列車のドアの窓から小さく振られる手に、思わず上げた
手の中のコーヒーはすっかりぬるくなっていた。



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