1、皿川堤防かさ上げの話
信濃毎日新聞の6月上旬の記事に皿川堤防かさ上げの記事が載っていました。
それによれば「現状より90センチ、皿川堤防をかさ上げすると千曲川本堤防と同じ高さになる」と長野県は説明しています。
そうして「かさ上げして本堤防と同じ高さにしてくれ」と長野県に頼んだのは、飯山市であり、足立さんでしたね。
さて、本堤防の高さと同じ高さにすれば皿川樋門は開きっぱなしでも皿川は樽川のようになり、樽川が氾濫しないように皿川もまた2度と氾濫する事はない、と言うのが飯山市の「単純な読み」ですね。
でもねえ飯山市さん、支流が本流に合流する所に「樋門構造があるのかないのか」、その事が樽川と皿川の大きな違いであり、その事を無視して「樽川が大丈夫なんだから、皿川もまた大丈夫になるさ」というのは「浅はかな考え方」「バカな考え方そのもの」でありますよ。
そうしてまた飯山市のその様な「意味のない浅はかな提案を受け入れて皿川堤防をかさ上げしようとする長野県」もまた、「相当に愚かである」という事になってしまいます。
まあそういう議論も出来るのですが、ここはいったんその話は置いておいて「90センチの堤防かさ上げで皿川堤防の高さは本堤防の高さと同じになるのか」という話をしていきます。
2、90センチの堤防かさ上げで皿川堤防の高さは本堤防の高さと同じになるのか
まずは皿川樋門のあるあたりの千曲川本堤防の高さを知らなくてはなりません。
電子地図によればその標高は319.5m。
皿川左岸道路の一番低いところ、M建設前の標高が317.5m。
そうして右岸堤防、公称で318.0m。
それだけ見てやっても「右岸堤防を本堤防と同等にするには1.5mのかさ上げが必要である」という事が分かってしまいます。
さてこの1.5m不足している堤防高さを長野県は「90センチかさ上げすれば本堤防と同じになる」といっているのですね。
一体どういう計算をすると「60センチも低い堤防」が「同じ高さの堤防になるのか」、これが一つ目の疑問点です。
3、皿川右岸堤防の一番低い場所の事
二つ目の疑問点は、現状の皿川右岸堤防の一番標高が低い場所の事を忘れている、という事です。
その場所は右岸堤防とJRの線路の接続部分であり、今回の台風19号でも右岸はそこから越水がはじまり、堤防決壊にまで至りました。(注4)
そうして「堤防高さの事」を言うならば、もちろん「堤防の一番低い場所の標高」で言うべきでしょう。
なんといっても「その場所から最初に水はあふれ出す」のですからね。(注2)
そうなりますと、その場所の標高を知る事が必要になってきます。
そうして、その事は千曲川河川事務所がやってくれています。
河川事務所は今回、皿川に「危機管理水位計」を付けました。(注1)
その水位計は堤防高さの標高と水面の標高を比較し、「堤防高さを超えるまでにはあと何メートルあるのか」を表示してくれる「すぐれもの」であります。
そうしてその事は又、「水位計が示している水面の標高の値」に「その時に堤防を超えるまでに残っている数値」を加えてやれば、堤防の一番低い場所の標高の値に「常になっている」という事でもあります。
さてそうやって計算した皿川堤防の一番低い場所の標高の値は317.1m。
この値は確かに「右岸堤防とJR線路との接合部分の標高である」と確認できます。
さてこの値が右岸堤防の一番低い場所ですから、この場所を本堤防の高さまで持ち上げる必要があります。
本堤防の高さは319.5mでした。
319.5-317.1=2.4m
90センチでは到底足りません。
2.4m持ち上げなくてはならないのですよ、長野県さん。
そうしてこの数字は「JRの線路を現状から2.4m程持ち上げろ」と言っている事と同じです。
さて、その様な提案をJRが受け入れるのでしょうか?
前回の皿川堤防かさ上げの時にもJRは線路を持ち上げる事に同意せず、その場所は皿川右岸堤防の公称高さ318.0mから0.9mも低いままで残されました。(注3)
そうしてその事が今回の皿川右岸堤防決壊の重要な、無視できない一つの要因になったのでした。
追記(2021/5/17):今回、長野県が提示してきた皿川改修計画詳細については「その30-2」で内容の検討をしていますので、そちらでご確認願います。
注1:危機管理型水位計
あるいは
まずは「千曲川河川事務所」でググってくれ。
左上の「防災/災害情報」をクリック。
↓
防災情報の一番上にある「河川情報(水位、雨量)」をクリック
↓
上から3つ目「危機管理型水位計」をクリック
↓
日本地図が表示されるー>拡大、移動して飯山まで行く事。
↓
そうするとライブカメラマークと水位計マークがある事がわかる。
あとはそれをクリックすればOK。
注3:この件詳細については以下の記事で確認願います。
M建設前市道よりも50cmも低い標高317m程度の場所から市街地への越水は始まった~台風19号
注4:JRとの接続部が一番低くなっている理由については以下の記事を参照願います。
追記の2:「危機管理型水位計」の「河川横断図」から堤防の標高を知る手順
左上の「河川断面図」を選んでください。
その表示の下部にスライダーがついていて、一番右端まで動かしますと水位の標高値が読めます。
スライダーを真ん中にもどしますと「堤防天端から水面までの距離が分かります。」
さてそうなりますと、「その距離」に「水面の標高」を加えますと「堤防天端の標高になる事」になります。
そうやって計算しますと「河川事務所が右岸堤防の高さを317.12mである」と認識している事がわかります。
それで、この標高値は右岸堤防の一般的な標高値318.0m~317.7mとは別物であって、まさに堤防とJR線路との接合部分、一番標高がひくく、今度越水するならばその部分からであろうと思われる場所の標高である事がわかります。
河川事務所はそうやって右岸堤防の標高を測定し、一番低い場所の標高を「皿川堤防の高さである」と公表している事になります。
追記の3(2020/11/08):「フルバック方式」について
上記2、で述べたように「90センチのかさ上げ」では皿川堤防は千曲川本堤防と同等の高さにはならず、従って飯山市長希望の「フルバック方式」にはならない、という事になります。
しかしながら「皿川堤防をかさ上げする事」はいずれにせよ「皿川増水時に皿川氾濫までの時間を稼ぐ効果はある」のですから、「やらないよりはやった方がマシ」という事になります。
ちなみに「フルバック方式についての説明」は以下の記事を参照願います。
皿川堤防は「フルバック方式」による整備で~早期事業着手を県へ要望中~台風19号水害を受け~ https://archive.fo/8dghA
上記事にて紹介されている「フルバック方式」で整備された斑尾川についての考察は、皿川の堤防かさ上げに関して大いに参考になりますので、ページをあらためて「その30-3」で行っています。