臨床心理士の第一歩

2015年に臨床心理士(CP)試験に,2018年に公認心理師試験に合格しました。もうすぐ68歳。CP5年目の更新年です。

「慰安婦問題をめぐり日韓両国が合意」したことについて

2016-01-08 10:58:46 | 女性の人権
今回の合意は,戦時に性的被害を受け続けた,元「慰安婦」の人たちのためだろうか。
彼女たちとその支援者の人々が,長年訴え続けているのだから,
普通の感覚で考えると,
被害者の方々への心からの謝罪と名誉を回復しようとの気持ちがあるのなら,
被害者が納得できるように考慮し,話しあい,できるだけ近づける努力をするだろう。
また,首相自ら,直接謝罪に行くだろう。

そういうことがなされたのか。
なされたとは言い難いから,元「慰安婦」と支援者の皆さんは反発しているのだろう。

国連の人権分野の活動などを研究している,
青山大学教授で国際法学者の申 惠丰(しん へぼん)さんは,次のように述べているという。

以下のご意見にまったく同感する。
あらためて,「慰安婦」問題を,それが自分自身だったら,
自分の子ども,孫,親,姉妹だったらとの気持ちで考えたい。

心理臨床では,PTSD(※)からの回復は大きな課題だが,
戦時中の性的奴隷がいかに深刻なPTSDとなっているか,察するに余りある。


※PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害。米国精神医学会診断統計マニュアル第5版(DSM-5)の基準によれば、実際にまたは危うく死ぬ、深刻な怪我を負う、性的暴力など、精神的衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されたことで生じる、特徴的なストレス症状群のことをさします。
出来事の例としては、災害、暴力、深刻な性被害、重度事故、戦闘、虐待などが挙げられます。そのような出来事に他人が巻き込まれるのを目撃することや、家族や親しい者が巻き込まれたのを知ることもトラウマ体験となります。また災害救援者の体験もトラウマと成り得ます。)
(日本トラウマティック・ストレス学会より)


“日本軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた、という部分は1993年の河野談話と同様だが、日本政府が「責任を痛感している」ということを新たに盛り込んだ点と、民間でなく日本政府の資金拠出によって財団を設置するとした点について、踏み込んだ内容の合意になったという評価もある。しかし、今回の合意には、以下のように問題も多い。”

“まず、事実に関する大前提として、「軍の関与の下に」という表現がそれ自体あいまいであること。

多数の公文書のほか、裁判における事実認定、また、河野談話当時に政府自ら行った調査の結果
(アジア女性基金デジタル記念館「政府調査『従軍慰安婦』関連資料集成」)
によっても、慰安所は軍が自ら考案して設置し、女性集めや陸路・海路での輸送、
慰安所規則・料金の決定などの管理を含め全面的に軍が監督・統制し、かつ、
内務省や外務省など国の機関も深く関与したことは実証されている。「軍の関与の下に」ではなく、
「軍が」設置し運用した制度であったと包み隠さず言うべきだ。”

“第二に、「女性の名誉と尊厳を傷つけた」というものの、
その人権侵害の実態についての明確な記述が欠けていること。

女性が集められた方法は様々であり、日本の植民地であった朝鮮半島の場合には、
「工場で働く」などと言って貧しい家の娘を騙して連れて行く場合が多かったが、
拉致・脅迫・甘言など徴集の方法にかかわらず、連れて行かれた先で、
監禁されて連日強かんされ続けたのであるから、それはまさに、「性奴隷」の状態そのものであった。

河野談話はこの点、募集や移送、管理について「総じて本人たちの意思に反して行われた」
としていたが、安倍内閣は、2007年の閣議決定で
「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述もみあたらなかった」としているように、
これまでほぼ一貫して、「人さらいのような強制連行」でなければ「強制連行」ではなく、
また、そのような意味での強制連行を軍や官憲がしたことを示す証拠はないという立場にこだわってきた。

入口の段階で「人さらいのような強制連行」がなければ
それはまるで自由意思で女性が性的奉仕を行ったものに過ぎないかのような、
そのような言い逃れをする態度こそが、被害者に対して、慰安婦としただけでなく
この期に及んでも繰り返しの侮辱を与えてきたのである。
日本政府、とりわけ安倍政権(第一次、及び現在の第二次)がこの問題に対して取ってきた態度こそが、
まさに「蒸し返し」なのであり、アジア女性基金を含む日本の取組みや謝罪に対しても
被害者が納得しない最大の理由である。
このような経緯をふまえれば、安倍政権がこれまでとってきた立場を明確に否定し、
徴集の形態はどうあれ被害女性たちは性奴隷状態におかれたという事実を認める内容を含めなければならない。


“第三に、慰安婦問題の事実を後世に語り伝えていくための歴史教育の問題。

河野談話は曲がりなりにも「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、
同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意」を表明するとしていたが、
その後この姿勢は(アジア女性基金デジタル記念館の作成を除けば)ほとんど実行に移されることなく、
むしろ、実際に起こったのは、この問題を何とか少しでも矮小化しようという日本政府の意向の顕在化であり、
NHKなどのメディアへの安倍ら自民党政治家の露骨な介入であった。
現在、子どもたちが学ぶ歴史教科書からも、慰安婦問題はほとんど消えてなくなっている。


“今回の合意は、歴史教育を含め、歴史の教訓を伝えていくことに全くふれていない。
重大な人権侵害について、事実を歴史の教訓として教え、語り継ぐことは、
事実の承認、被害者の名誉回復、さらには、同様のことを繰り返さないという再発防止の観点からも
きわめて重要だが、これが抜け落ちていることは大きな欠落である。
これを日本側でしないでおいて、少女像を撤去せよとか、
不可逆的解決うんぬんと言って被害者側の口を閉じようとしても、被害者にとって受け入れ難い。

この合意は、被害事実を真に認めて謝罪し、名誉回復や再発防止を図ろうということよりも、
後世の日本人に謝罪を繰り返させたくないという日本側の自己中心的な考えに立ってなされたもの
と言われても仕方がない。むしろ、日本こそが、(ドイツやオーストリアがそうしているように)
都心の一等地に記念碑 を建てるなり、歴史博物館を作るなり、自ら積極的に乗り出すべきなのだ。
 総じて、今回の合意は、戦後70年も経って結ばれたものながら、
当然に含まれてしかるべき内容が多く抜け落ちており、
当然ながら、納得できない被害者が再び抗議の運動を繰り広げる事態を招いていることがとても残念。



“後世の日本人に謝罪を繰り返させたくないという日本側の自己中心的な考えに立ってなされたもの”
であるだろうし,アメリカのアジア政策の一環への政治家としての打算ではないかと思われる。

“後世の日本人に謝罪を繰り返させたくない”よりもむしろ,
今までの言動から考えて,何より首相自身が謝りたくないのだと思われる。
さらに,自分の国が過去にどんなことを行ってきたか,
歴史教育できちんと認識させて,皆が常に自覚していることこそ,
同じ過ちを繰り返さないために必要なことだろうが,
国民に早く忘れさせて,同じ過ちを繰り返そうとしているのかと勘ぐりたくなる。

◆失言暴言大賞

2015-12-02 13:22:28 | 女性の人権
私は文芸評論家,斎藤美奈子さんの評論の大ファン。

12月から,朝日新聞から東京新聞に変えて一番の楽しみは,
斎藤さんのコラムだった。
(と,言いたい。実はあまり意識していなかった
でも,斎藤さんの評論は読むと,まず必ず納得してしまう!)

◆失言暴言大賞(東京新聞 2015.12.2)
東京新聞の斎藤美奈子さんのコラム「本音のコラム」より抜粋させていただきます。
今回はソフトな感じがするが,忘れてしまってはいけないものばかり。

1.字面に拘泥

衆院憲法審査会で憲法学者3人が安保関連法案を違憲と判断
 ↓
高村正彦自民党副総裁の発言
「憲法学者は九条二項の字面に拘泥する」
 ↓
斎藤さん
学者が字面に拘泥せず何に拘泥する?


2.たくさん
170名の憲法学者による法案反対声明に対して。
 ↓
菅義偉官房長官
「(合憲とする)憲法学者はたくさんいる」
 ↓
斎藤さん
「たくさん」の内実は3人だけというお粗末。


3.憲法を法案に

中谷元・防衛相
「現在の憲法をいかにこの法案に適応させていけばいいのか」
 ↓
斎藤さん
「てにをは」を取り違えただけで,こんなに意味が変わるという見本。
(本心だったんじゃない?)


4.法的安定性
 
礒崎陽輔首相補佐官
安保法案の合憲性について「法的安定性は関係ない」
 ↓
斎藤さん
自分が何を言ったのかわかっていたのかな。


5.利己的考え
自民党の武藤貴也衆院議員
SEALDsの活動に対して「『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心,極端な利己的考え」
 ↓
斎藤さん
民主主義のイロハをご存じなかったようで。


斎藤さん
こういう発言を経て成立した法律。爆ですよ,ほんと。


<由良理人のその日暮らし日記>というブログをたまたま見ると,
斎藤さんの以下の「本音のコラム」が紹介されていた。
(由良理人さん,すみません。勝手に引用させていただきました)

1901年に出版された、幸徳秋水「二十世紀の怪物 帝国主義」の、光文社古典新訳文庫の現代語訳(山田博雄訳)を紹介していっての結びの言葉がこれだ。

「秋水は主張する。政治家が軍備拡張に走る動機は『自国民の保護』なんかじゃない。『その動機とは、一種の熱狂、意味のない誇り、好戦的な愛国心であり、それがすべてである』。ほらね、まったくいまの政治家みたい」 
(2015.7.29のコラム)


<スポーツ・遊び・体・人間>というブログでは,
“中立って何”が書かれていた。
(スポーツ・遊び・体・人間さん,すみません。勝手に引用させていただきました)

「二十一日のNHK午後七時のニュースが『”政治的中立への配慮”が相次ぐ』と題して講演会や展示会に対する自治体の対応を報じていた」

「この件が暗に発するメッセージは『政治的な意見を持ってはいかんよ』『政府に楯突く意見などもってのほか』という言論統制が平気でまかり通っている現実だろう。
 笑っちゃうのは,この種の『配慮』には熱心な自治体が,選挙になると急に投票を呼びかけるバカバカしさだ。『政治的に中立』で,どうやって誰かひとりに投票するのさ。このように建前と本音を使い分けるダブルスタンダードが人々の政治離れを助長する。投票率が低いと嘆く資格はないよ。」
(2014.4.23のコラム)

いや,まったくその通り!!






女性の人権問題,普遍的な人権問題

2015-11-02 13:23:33 | 女性の人権
「慰安婦」問題で最も感じるのは,
もしも戦争になれば,
若いころの自分自身含め,
子どもや孫が同じ目に合うのではないかという,
リアルな想像が目の前に浮かぶことである。

その間接的な痛み(それでも苦しい)を,
直接的に心身に受けて生きざるを得なかった女性たち,
亡くなってしまった多くの女性たちが,
「慰安婦」とされた人々である。

その当事者の方々はもちろん,娘と生き別れになったご家族の方々の生涯は,
筆舌に尽くしがたいものであっただろう。
私個人としての一番の弱点は,子どもの生死に重大事が起こった時であることを,
私は自覚している。
多くの親が同様な気持ちを持っているのではないかと思う。

そういう認識のもとで,「慰安婦」問題に真摯に向き合うとき,
狭義の強制であって広義の強制性ではないとかで,
謝罪しようとしない日本政府の姿勢は,どうしても理解し難い。
朝日新聞が吉田さんという元軍人の証言は誤報だったと謝罪したが,
そのことで,すでに公文書で日本政府も認めている「慰安婦」そのものがなかった
というように言いつのるのは,
女性の活躍なんていう政府の方針にも合わないんじゃないだろうか。
女性の人権侵害を認めないで,女性の活躍って言われても,
そんなの見せかけとしか思えない。

吉見義明×申 惠丰×荻上チキ「慰安婦問題をめぐる国際的な議論を知る」2015.10.29

荻上チキさんのTBSラジオを聞くと,
そのあたりのおかしさがよくわかる。

「慰安婦」問題研究者として第一人者の吉見義明さん(中央大学)と,
国際法学者の申 惠丰(しんへぼん:青山大学)さんがわかりやすく話しているし,
荻上チキさんの聞き方もよく整理されている。

戦時下においてはいろいろな国において性暴力がある,
日本の研究が一番進んでおり,
いま世界の研究者たちも研究をしている。
普遍的な人権問題であるととらえるべきで,より議論を広げるべきだ

と話され,とてもよく理解できた。
なぜ政治家にはこういう理屈が通じないのかなあと,情けなくなる。

放送の中でも話されていたが,
大阪の教育委員会が,『「慰安婦」に関する補助教材』をつくったそうだ。
授業ではこれを使うこと,
授業をしたら教育委員会に報告することになっているという。
大阪府教育委が独自に作成「慰安婦に関する補助教材」

被害者の声も全く載っていないこんな一方的な教材が,
中高生にどのような影響を与えるだろうか。
先生方も大変だなあ。