凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

リバースクラッチホールド(逆さ押さえ込み)

2006年02月21日 | プロレス技あれこれ
 "無我"西村修が新日本プロレスを離脱して"フリーバード"として自由なマットに戦場を求めた(2006/2月時点)。この名レスラーが新日を離れたということは、地上波で西村の試合を見る機会が激減したということで残念ではあるのだけれども、西村修の今後の活躍にエールを送りたい。
 西村修というレスラーは、言ってみれば中堅レスラーである。派手なタイトル暦もないし(IWGPタッグくらいか)、メインを張ることも少なかった。しかしながら、外見も端正な顔立ちと均整の取れた身体、黒いタイツで個性を誇示することがなかったにもかかわらず、その実「超個性派レスラー」との印象が強い。それは彼の「頑固なレスリング姿勢」による。
 個性を発揮しているのは珍しい技を使うからではない。それどころか、スタイルは全くのところ前時代的である。得意技はスピニングトーホールド、コブラツイスト、エルボースマッシュ、ドロップキックとクラシカルな技ばかりである。そういった技を頑固に使い続けることが逆に個性を生むという効果を生み出している。入場シーンからして古臭い。ロングガウンをしっかりと着込み、コールされると両手を上げて前に進む。ドリーファンクJrをはじめいにしえのレスラーの佇まいを彷彿とさせるスタイルにこだわり、天敵・長州力を「ラリアートプロレス」と切って捨てる。プロレス博物館に展示したいほどの戦いぶりは、かえって今の若いファンには新鮮に映じたかもしれない。
 その西村修のフィニッシュホールドは、なんと「逆さ押さえ込み」である。

 この逆さ押さえ込みという技、相手と背中合わせになって両腕を絡め、そのまま前方にかがむようにして相手を背中の上に乗せ、そして両肩をマットにつける。一瞬のフォール技である。相手にダメージを与えてノックアウト、あるいは立ち上がる気力を失わせて3カウントを奪うというプロレス技の真髄とはかけ離れた、ただカウントだけを奪うことを目的とした技である。
 僕は、以前からこのブログで言い続けていることは、プロレスのフィニッシュ・ホールドというものは「ノックアウトを狙う技であって欲しい」ということである。なので、体固めで終わるのを至上としている。パワーボムもエビに固めてしまうのでは相手に余力があっても勝ってしまうように見えることから、叩きつけたあと体固めに移行して欲しいと思っている。あのプロレス最高の技と言われるジャーマンスープレックスホールドでさえ、そのまま固めてしまうということに少々の不満があり、バックドロップの方を上位に置く考えだ(バックドロップホールドは前述の理由で当然不満)。プロレスの必殺技というものは、相手をノックアウトするかあるいは立ち上がらせる気力を失わせるものであって欲しい。理由は、プロレスというものは相手の肩を3秒間マットにつけることを競うスポーツではなく、どっちが強いかを争う戦いであるからである。

 然るに、リバースクラッチホールド、逆さ押さえ込みという技はその「相手の肩を3秒間マットにつける」ことだけを目的としているので、プロレス技としては邪道であると思っている。
 こういう技は結構多い。ローリングクラッチホールド(回転エビ固め)。スモールパッケージホールド(小包首固め)。ジャパニーズ・レッグロールクラッチ(回転足折固め)。スクールボーイ(横回転エビ固め)。グラウンドコブラツイスト。ウラカン・ラナ。オースイスープレックス。いずれも相手がまだ戦う余力を残しているのに勝ってしまう。電光石火の決め技と言えば聞こえはいいが、「勝負に負けて試合に勝つ」的要素が強い、はっきり言えばつまらない技である。
 この逆さ押さえ込みで印象に残る試合がいくつかある。まず1975年のNWF世界ヘビ-、猪木vsビル・ロビンソンである。白熱した試合の中で、ロビンソンは一瞬の隙を衝いて猪木を逆さ押さえ込みにとる。確かに電光石火。3カウントを奪われた猪木は「いったい何が起こったんだ」と言わんばかりにあたりを見回し、それを見ながらロビンソンが勝ち名乗り、という場面はよく憶えている。これでこの試合が終りならこれは凡戦という評価だったかもしれないが、名勝負たる所以はこの逆さ押さえ込みが複線であったという点にある。
 試合は選手権試合であり三本勝負。猪木はこの"イレギュラー"で取られた一本を返さねばタイトルが移動する。ダブルアームスープレックスで負けたのなら観客も納得がいくのだが、こんな早技で決まってしまっては返す返すも残念、という気持ちを視聴者全員が持ったと思う。そしてタイムアップ寸前の猪木の卍固め。このドラマティックな展開は、猪木が逆さ押さえ込みで一本取られているからこそ生まれた。猪木よ、早く「逆さ押さえ込み」でひょいと取られた一本をなんとか返してくれ。こんなんでNWFが移動してはたまらない。人間風車やワンハンドバックブリーカーで猪木がフォールを奪われていたならこんな気持ちにはならなかったに相違ない。稀代の名レスラーであった二人が成し得た「逆さ押さえ込みの活かし方」であった。逆説的な活かし方である。
 もうひとつ印象に残る逆さ押さえ込みは、あの1979年のプロレス・オールスター戦の馬場・猪木vsブッチャー・シンである。これが何故逆さ押さえ込みで決まって良かったのかは村松友視氏の名著「私プロレスの味方です」に詳細があるので繰り返しは避けたいが、確かにあのとき、この複雑な状況を解決するにはこの技しかなかったのである。これもまた逆説的な「一瞬の決め技」の活かし方であった。

 こんな場合でないと「逆さ押さえ込み」という技は僕は評価できないと思っている。しかし、しかしこんな僕が、西村修の逆さ押さえ込みを心待ちにして試合を見るのである。いったいそれは何故か?
 こんな話がある。「西村修の逆さ押さえ込みは普通の電光石火の返し技と違って、パワーボムを食らったようなダメージがある。だから返せないのだ」と。誰がこの発言をしたのか今ちょっと忘れてしまったのだが、なるほど高角度から逆さ押さえ込みを"落とせ"ば、それなりの効果は期待できる。相手をハイジャックバックブリーカーのように背中に乗せ一気に落とす。逆パワーボムである。そういう技は過去にあった。確かダイナマイト関西の「通天閣スペシャル」がそうである。後頭部をしたたか打つのでフォールに説得力が生まれる。
 西村修の逆さ押さえ込みは単なる逆さ押さえ込みではない、ということなのか。いやしかし仮にそうであったとしても逆さ押さえ込みは逆さ押さえ込みである。その「後頭部を叩きつける」迫力は残念ながら伝わってこない。
では何故西村修の逆さ押さえ込みは映えるのか。それは西村の試合スタイルによるのだ。
 西村修は完全に「受身」のレスラーである。中堅どころというポジションがそうさせるのか、相手の技を受けに受けまくる。やられっぱなしの印象がある試合も多い。しかし西村のレスラーとしての資質が実に優れている。まず異常に身体が柔らかい(だから「いかレスラー」なのだが)。なのでそうそう技が極まらない。そうして攻めに攻められ、見ている側に「判官贔屓」の心情が生まれる。西村がんばれ! ! そういう気持ちに観客がなった時に「逆さ押さえ込み」を出すのだ。相手の技を受けまくり、相手を「悪役」に思わせる術を持っている。だから一瞬の返し技で勝っても「やったぜ」と思ってしまうのだ。この試合運びの巧みさ。これは「相手の5の力を8か9まで引っ張り出して10の力で仕留める」猪木の「風車の理論」の応用系ではないか。猪木のような絶対的強さを持たない中堅レスラーであればこそ、こういう「逆さ押さえ込み」でドラマを作り出せる西村修の凄さが見て取れる。逆さ押さえ込みを活かせる稀有なレスラーではないか。そういえばフルタイムドローという試合を何度もやってみせてそこにドラマを生じさせるのも西村の得意とするところである。

 西村にIWGPシングルを獲って欲しかった。そして、何度かリックフレアーばりに綱渡り防衛をして欲しかった。弱く見えても防衛に説得力を見出せるのは西村しかいない。こう言えば、人は僕を「お前は西村のマジックにかかっているのだ」と言うだろう。しかし、見ている人間をマジックにかけるレスラーなどそうはいない。
 新日は西村を活かしきれず、とうとう西村は新天地を求めることとなった。頑張れ西村修。そのファイトスタイルを活かせるマットはどこかに必ずあるはずだ。そして西村でないと活かせない「逆さ押さえ込み」を使い続けて欲しい。

 小技さんのHPに逆さ押さえ込みの掲載あります。イラスト参照してみてください。小技のプロレス画集に掲載されています。小技さん、またお世話になります。


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うまいか強いか (今日のジョー)
2006-02-22 19:58:15
西村修。

最近、プロレスみていないので知りませんでしたが、なかなかの戦略家ですね。この工夫が木戸修にあったなら・・・



猪木ロビンソン。

忘れもしない1975年の出来事。

あのロビンソンと猪木が対決する日が来るとは!後のハンセンとかブロディ、ホーガンはともかく、あの時点で絶対に負けてはならない相手だったと思います。パワーズやモラレスがいくら強いとは言え、負ける気はしませんでした。しかし、ロビンソンだけはやってみないとわからない実力を秘めていたと思います。そして、案の定やられた一本目。しかし、あんな技でスリーカウント取られるようなレスラーではないはずなのに、あっさり取られたところにむしろ不気味さが漂っていました。そして始った2本目。あんなに魅せた試合は他にないでしょう。しかし、時間は過ぎて猪木に敗戦の雰囲気が漂ったあの時、僕達は魅たのです。世界一の卍固めを!残り1分、遂にロビンソンがギブアップ。ロビンソンとてあんなところで参ったするような並みのレスラーじゃない。しかし、参ったのです。猪木の強さに参ったのです。(つづく)
だいぶ覚えました (Mami)
2006-02-22 20:55:23
こんばんは。



いやぁ、凛太郎さんのおかげで、プロレス技をだいぶ覚えました。



でも、間違った技を間違った相手にかけると、間違った方向に進みそうでちょっと怖い・・



ほら、前に、「この技は男性にかけると~」って教えてくださいましたよね、あれですよ、あれ。(笑)



そう言えば、佐々木健介ってまだ現役なのですか?

私の母がファンなのです。笑顔がたまらないんですって。
>ジョーさん (凛太郎)
2006-02-22 22:43:38
西村修はいいですよ。なかなか味わいのあるレスラーです。木戸修もいぶし銀ですがねー。



猪木vsロビンソンは、繰り返しますがあの逆さ押さえ込みが実に効いているのです。稀有な才能をもったレスラーは一瞬の返し技もドラマへと発展させてしまいます。そして残り時間あとわずか。こんな時間に卍固めをかけてもロビンソンが耐え切ってしまったら終り。もっとバックドロップやジャーマンでノックアウトして3カウントを狙わないといけないのに。しかし猪木はカールゴッチ直伝の技を、そして自らの力を信じて卍固めを掛けた。しかしロビンソンは耐える。あと一分でタイトル移動だ。おっと猪木が体重をぐっと後ろに乗せた。こんな完璧な卍固めは初めてだ。ロビンソンたまらない。ギブアップか? ここで放送時間が終了してしまいます。最後までお伝えできないことをお詫び申し上げます。ごきげんよう、さようなら。(なんで?)

>Mamiさん (凛太郎)
2006-02-22 22:48:31
いや、僕の記事を読んで技を覚えたと言ってくださるのは嬉しいことですが、人にかけるのはどうぞ自粛下さい(笑)

ただ護身用には打撃技がいいと以前も奨めましたね。やはりジャンピングニーパットが最適かと。かけてはいけない技に、以前コメントではコブラツイスト、卍固めをあげましたが、本当に男性にやってはいけない技は「ベア・ハッグ(サバ折固め)」です。どんな技かって? いやあそれは…。



健介はもちろん現役ですよー。笑顔がいいですね。最近は「鬼嫁」北斗晶の方が有名ですけどね(笑)。
藤原喜明の逆さ押さえ込み (稲毛忠治)
2017-09-23 16:06:03
私は藤原喜明にこの技をやってほしいと思っています。
但し一瞬の返し技として3カウント取るのではなく、相手の両肩と首を極めてギブアップさせる技に変えてほしいのです。
藤原の名を出しましたが、西村でも喜んでやってくれそうな気がします。
以上であります。

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