凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

ボディプレス

2010年08月31日 | プロレス技あれこれ
 小鉄さんが死んだ。28日の朝のことだったらしい。僕はちょっとネットを離れていて30日の朝刊で知った。思わず声を出してしまった。そんなバカな、としか言いようがなかった。
 
 一年とちょっと前の話。珍しく酒場でプロレスの話をしていた。
 棚橋が好きな人がいて、「ハイフライフロー」は今までのプロレスにあったボディプレスとは一味違う、という。あの空中での所作が、普通に落ちてくるだけではなく衝突力を倍加させるのだと。単なるボディプレスでないところが素晴らしいのだと。
 その人は(酒場でしか会わない人だけれど)僕よりも20歳ほど若い。その歳でプロレスファンであってくれることがもう嬉しいわけで、僕などは何でも頷くことにしている。また彼は、会場に繁々と足を運ぶので、僕の化石のような進歩の無いアタマの中とは違う。
 確かに、棚橋のボディプレスは近年見ごたえがあると僕も思う。「ハイフライフロー」などと勝手に自分で銘打つネーミングは僕は嫌いで、そんなところで独自色を出そうとするよりボディプレスという技とその名に刻まれた歴史に誇りを持って欲しいと願う部分においては多少の不満はあるが、技自体は、いい。
 ただ、あの空中で屈伸をするような所作、そして大きく四肢を広げぶつかる姿は、決して棚橋のオリジナルではない。もちろん、外道や田中将斗や諏訪魔が始めたわけでもない。あの、少しでも衝突力を上げようとするアクションは、山本小鉄に源流がある。それを若い人にも知ってもらいたくて、その時は少し余計な口ばしを挟んだ。

 ボディプレス。ビックバン・ベイダーらが倒れた相手にジャンプしてのしかかっていくのをダイビング・ボディプレス。助走をつければランニング・ボディプレス。そしてコーナートップもしくはロープから倒れた相手に落下していくのがダイビング・ボディプレス。分類すればこれくらいか。さらに、そのダイビング・ボディプレスが、ムーンサルトプレスやシューティングスタープレス、関空トルネードらに細分化されていく。
 以前僕はボディアタックという記事を書いたことがありその折にボディプレスについても言及したのだが、ここでもう一度書いてみたいと思う。
 
 ボディプレスという技は、そもそも重量級の選手が得意とする技であったはずだ。相手を押し潰すのが目的であるため、自分の体重が軽ければ効果がない。
 「おばけカボチャ」「人間空母」と呼ばれたヘイスタック・カルホーン。このアンドレよりも重いレスラーが繰り出すボディプレス(フライングソーセージとも呼ばれた)が本来のボディプレスであり、効果も絶大であったはずである。なんせ270kgが上から降ってくるのだ。
 その後、アンドレもボディプレスを得意としたし、キングコングバンディやバンバンビガロ、またビックバンベイダーらが後に続いた。正統派ボディプレスの系譜だろう。
 それとは別に、ルチャリブレからの系譜もある。これはつまりプランチャからの発展系。
 プランチャとは、ボディアタックのことである。そのため、基本的には相手はマットに倒れてはいない。スタンディングの相手に体ごとぶつかっていく技である。ミル・マスカラスの美しいプランチャはもはや伝説と言っていい。
 そのプランチャで、相手がダウンしているところへ飛び込めばそれはダイビングボディプレスとなる。そういう技が派生してもそれはおかしくはない。ルチャは軽量級のレスラーが多いため、より高くジャンプして落下したほうが、物理の法則にのっとってダメージが大きくなる。

 アメリカン・プロレスにおいては、やはり重量級の技であったと言っていい。そしてヘビー級が主体のマットにおいては、ダイビング・ボディプレスはそれほど珍重されなかったのではないか。危険度云々もそうだが、重いやつはたいていは飛べない。
 その常識を覆すレスラーが「スーパーフライ」ジミー・スヌーカであったろう。115kgの体重を誇りながらアンコ型ではなく(元ボディビルダーであるから当然だが)、その並外れた跳躍力で次々と敵を押し潰していく。コーナートップから飛ぶその姿も美しく、四肢が長いために実に絵になった。

 ところで、そのスヌーカと同世代の小鉄さんは、小兵レスラーである。公称170cmだが、もう少し上背はなかったようにも思う。160cm台ではなかったか(間違っていたらごめんなさい)。身体を鍛え上げ筋肉はパンパンに張りヘビー級で通用したが、アメリカではボディプレスをするレスラーのタイプではない。しかし星野勘太郎とタッグを組んだ「ヤマハ・ブラザーズ」で小鉄さんは、ダイビングボディプレスでアメリカを席巻した。スヌーカがデビューする数年前の話である。もしかしたらスヌーカは小鉄さんのダイビングボディプレスに影響された可能性もある(妄想)。
 小鉄さんのダイビングボディプレスは、その軽量ゆえに少しでも相手に与えるダメージを大きくしようと、空中でタメをつくる飛び方をした。実際はそういうアクションが相手に与えるダメージを左右するかはわからないのだが、コーナートップから飛び出すと一度手足をぐっと縮めて、そしてわっと広げて落ちてくる。小兵の小鉄さんが、身体を大きく見せようとの工夫であったのかもしれない。このダイビングボディプレスは「カエル式」また「ガメラ式」とも呼ばれた。
 今の棚橋のハイフライフローと、相似形であると言える。別に僕は棚橋を嫌いではないしむしろ応援している。あのカッコつけたナルシストキャラもそれはアングルとして成功しているかどうかは疑問だが頑張ってるなとも思う。ただ、そのハイフライフローなどというこまっしゃくれたネーミングのダイビングボディプレスに「それはガメラ式だ」と一言いってやりたい。小鉄さんの記憶をとどめさせるためにも。

 小鉄さんはサラリーマン経験を持ち、同時にボディビルで身体を鍛え、昭和38年に日本プロレスに入門した。力道山最後の弟子として知られる。その上背の無さから何度も断られたものの、鋼鉄の意志で入門を勝ち取った。
 その後星野勘太郎とのタッグ「ヤマハブラザーズ」で一世を風靡した後、猪木と新日本プロレス旗揚げに参加する。最初は所属レスラーも少なく、猪木とユセフ・トルコと新人の藤波、そして小鉄さんだけの寂しい旗揚げ写真が有名である。
 小鉄さんがいなければ新日本プロレスはなかった。まだ30そこそこで若かったにもかかわらず、猪木の片腕として八面六臂の活躍をした。現場監督、マッチメイク、鬼コーチそして興行の営業に至るまで。猪木はああいう大風呂敷の男であるからして、しっかりとした小鉄さんとマネージャーの新間寿がいなければ、早晩新日は潰れていたに違いない。有名な話として、あの新日本のライオンの社章、そして「KING of SPORTS」のコピーも小鉄さんが考えたとされる。
 小鉄さんは早くに第一線を退いた。なので、僕は小鉄さんの試合の記憶は実に少ない。前座を務めることが多かったせいもあるだろう。
 これについては本人はかなり不満だったようだが(まだ40歳くらいだったので)、猪木からの要請であったと聞く。道場主として、審判部長として、そしてTV解説者として会社を支えねばならなくなった。人材が小鉄さんしかいなかった、ということもあるだろう。
 小鉄さんが解説席に座った古館伊知郎とのTV実況は、新日本プロレスの黄金期を呼び込んだ。IWGP構想、そしてタイガーマスクの登場。金曜8時には皆がTVに釘付けになったはず。僕も、懐かしい。小鉄さんは一線を退いたとはいえまだまだ身体はレスラーのものであり、場外乱闘で放送席になだれ込むレスラーを一喝し、時に審判としてリングに立った。猪木vs国際軍団のハンディキャップマッチで、身体を張って一人で相手陣営の乱入を止める小鉄さんに、場内で「小鉄コール」がこだました。
 本人は、その著作やインタビューから想像するに、竹を割った性格であったようだ。若手レスラーを鍛えに鍛えたが愛情を伴うために今でも弟子たちは慕っていると聞く。その道場から前田日明や高田延彦が育った。
 プロレスに対する愛情は半端ではなく、その矜持も人一倍だった。武藤敬司のプロレスLoveも、棚橋の「愛してます」も中邑の「いちばん凄いのはプロレスなんだよ」も、小鉄さんに源流がある。新日本プロレスの元を辿れば、全てカリスマ猪木と、ゴッチイズムと、小鉄さんにその源を見ることが出来る。そして、プロレスの良心を担っていたのは、間違いなく小鉄さんである。

 タッグを組んだ星野勘太郎も今、脳梗塞を患い病床に。なんとか復活して欲しいと本当に思う。プロレスラーは現役時代に身体を酷使しすぎるがゆえに、みな早く逝き過ぎる。小鉄さんは例外だと思っていただけに、ショックが大きい。
 小鉄さんは、力道山、馬場さんそして猪木が日本のプロレスの表の象徴だとすれば、もうひとつの面の象徴だった。享年68歳。若い。まだまだ小鉄さんの活躍の場はいくらでもあったはずなのに。
 日本のプロレスの土台を支え続けた鬼軍曹・そして愛すべき人山本小鉄さんに慎んで哀悼の意を表する。
 小鉄さん、あまりにも残念ですよ。


2 コメント

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功績は大きい (おにぃ)
2010-09-01 22:17:40
彼が育てた多くの選手が活躍したことが全て

前田、佐山、藤原、高田、三銃士など

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>おにーちゃん (凛太郎)
2010-09-04 13:28:41
そうですね。小鉄さんの弟子たちの活躍はすさまじい。そして、みな敬っている。そこが人柄なのでしょうか。

って、久しぶりやなー。元気にしとるんかい?
あんたコメント短いさかいに全然様子が伝わらんよ(笑)。たまに顔出してやー。
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