凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

トペ

2012年03月31日 | プロレス技あれこれ
 TV中継においてアナウンサーが「出た!トペコンだ!」という、その言い回しにどうも慣れない。どうしても違和感が残る。略すことによって軽く聞こえてしまうからだろう。合コンとか糸コンなどと同系列の音に響く。
 もう既にプロレス実況も僕より遥か年下のアナウンサーがやっているこの時代となってはただのオールド・ファンの繰言になってしまうのかもしれないが、技の名は、長くてもちゃんとアナウンスして欲しいと本当に思う。寿限無ではないのだから、トペ・コン・ヒーロがそんなに長い名称とも思えない。もっとも、アナウンサー含め現在のファンは「あけおめ」「ことよろ」世代なのだろうからさほどの違和感を感じないのかもしれないが。
 
 トペ・コン・ヒーロという技は、場外にいる相手へ、リングから飛び出していって体当たりをかける技のひとつである。もう少し具体的に言えば、場外で立っている相手に対してロープを越えて前方回転し、背面から相手にぶつかる。いくつかバリエーションがあって、トップロープを掴んで、体操の後ろ回り大車輪のように回転しつつ場外に飛び出し背面から相手にぶつかるもの。またはロープを掴まず助走をつけてトップロープを飛び越えて前方回転し、相手に背面からぶつかるものがある。後者は、ノータッチ式トペ・コン・ヒーロと呼ばれることもある。
 これはルチャ・リブレ(メキシコプロレス)の技で、スペイン語である。
 コン・ヒーロというのは「回転して」という意味だということだ。初代タイガーマスク全盛期を知っている人であれば「風車式バックブリーカー」のことを古館アナウンサーが「ケブラドーラ・コン・ヒーロ」と呼んでいたのを記憶していると思う。その「風車(回転)式」という部分がコン・ヒーロである。もっと分解すればヒーロというのが回転という意味であり、そこを略してトペコンと言ってしまうと、何の技なのかわからなくなるではないか。
 以上のことは屁理屈であるが、何が慣れないかという本音は、トぺと言いつつ背面から当たる技であるということなのだろう。背面から当たる技は、ルチャ・リブレにおいてはセントーンではなかったのか。
 もちろん、セントーンは相手が寝転がっている状態のところへ放つ技だということはよく知っている(→セントーン)。この場合は同じ背面から当たる技でも相手が立っている。つまり、背面ではなく腹面からと仮定すれば、ボディプレスとボディアタックの違い。同じ背面を使用する攻撃であっても、名称が異なるのは理解できる。
 しかしトペという技は、ドラゴンロケットだったのである。僕にとっては。背面から当たる技ではなく、頭部からから突っ込んで体当たりする技。

 これは、僕のただの思い込みだということはもう承知している。子供の頃、トペという技の名を初めて聞いたとき、意味が分からず調べた。そしてトペ(tope スペイン語)とは、英語でいうトップ(top)のことだと知り、ああそれで頭からぶつかる技をトペと言うのだな、と合点したことに始まる。
 これは「頭から衝突する」と考えるより「頭から飛び出す」と解釈したほうがいい。なので、頭から飛び出してそのまま相手に衝突するのはもちろんトペだが、回転し結果背面から当たっても、それもトペの一種なのである。
 実はあまり納得していないのだが、そうして理解はしている。言うものはしょうがない。

 言うものはしょうがないので続けるが、つまりトペ・スイシーダという技とトペ・コン・ヒーロという技は、全く違うものである。トペ・スイシーダがドラゴンロケット。
 言葉の話から先にすると、スイシーダ(suicide)とは自殺のこと。英語でも読みは違うが綴りは同じなのでわかりやすい。まるで自殺するほど危険な技であるということか。場外へ飛び出すということは着地はリングのマットではないのだから、ある意味自殺行為ではある。
 ならば、同じく場外へ飛び出すトペ・コン・ヒーロもスイシーダではないのか。正しくはトペ・コン・ヒーロ・スイシーダと呼ぶべきだとまた言いたくなる。
 屁理屈だとわかっているので止めようとは思うが、もう少しだけ。
 場外へ飛び出さないトペというものも、実はある。リング内におけるフライングヘッドバットがそれに当たる。コーナートップから倒れている相手に向けて飛ぶダイビングヘッドバットとは異なり、立っている相手に仕掛ける。相手をロープに振ってカウンターで仕掛ければ衝突力が増す。相手に頭から飛び込んで頭突きをかますわけで、腕を前方に出すフライングクロスチョップなどと違って、勇気が必要なことが傍で見ていてもわかる。気をつけの姿勢で飛んでいくのって怖いよ。またかわされると受身がとりにくい。これは、星野勘太郎がやっていた。さすが男気の塊である勘太郎さんである。ただ、この技をトペと称していたかどうかは記憶にない。
 ならば、場外へ飛び出さないトペ・コン・ヒーロも存在する。前方回転して背面から当たればそうなる。相手が立っていればトペ・コン・ヒーロ。倒れていればサマーソルトドロップ(サンセットフリップ)。
 プランチャ(ボディアタック)も、リング内であればそのままプランチャであり、場外へ放てばプランチャ・スイシーダ(プランチャ・コン・ヒーロという技もあってややこしいのだが)。
 ここまで"拘泥"して実況しろとは言わない。しかし「トペコンだぁ」って言い方はヒドくないかい(まだ言ってる)。
 
 トペ・スイシーダをメキシコから初めて日本へ持ち込んだのは百田光雄であると言われる。しかし、僕は全く見た記憶がないなあ。昔は百田光雄はTVマッチにはほとんど出なかったということもあるかもしれない。前座の百田弟の試合は会場で何度かは観戦しているが、馬場さん時代の全日は前座で派手な技を使用することを嫌っていたため(メインを生かすという理由)、トペ・スイシーダなんて技は出す機会があまりなかったのではないかと想像する。この技を日本に膾炙させたのは、何と言ってもジュニア時代の藤波辰巳だ。
 当時は、メキシコの技をそのままスペイン語で呼ぶことは稀だった。僕の記憶だとウラカン・ラナはそう呼んでいたように思うが…記憶違いかもしれない。セントーンという名称もなかったのではないか。当然トペやプランチャという名称も浸透しておらず藤波のトペ・スイシーダは「ドラゴンロケット」と名づけられた。
 ジュニアの王者としての藤波の登場は、画期的だった。メキシコのルチャ・リブレというものは既にミル・マスカラスによって日本に広く紹介されてはいたものの、藤波の試合はまたそれとは違った。ルチャの要素を取り入れてはいたものの、それといわゆる新日本の「ストロング・スタイル」をうまく融合させた実に新鮮なものだった。藤波の使用する技も独特のものがあり、それらは「ドラゴン殺法」と呼ばれた。そしてこのドラゴン殺法の中でも、ドラゴンスープレックスとドラゴンロケットは、必殺技の双璧だったと言えるだろう。
 ドラゴンスープレックスは、日本ではひとつの普遍的な技の名称として定着した。これは一般的にはフルネルソンスープレックスであり、一時期新日と敵対関係にあった全日(後身のノアも含めて)は絶対に「ドラゴン」と言わなかったが、いつの間にか雪解けした。もはやフルネルソンスープレックスなどとは誰も呼ばない。
 他にもドラゴンスクリューをはじめ、ドラゴンスリーパーなど藤波の名を冠した技はいくつも残っている。だが、ドラゴンロケットは「ジャイアントコブラ」や「アントニオドライバー」などと同じく藤波一代で終わった。もちろん藤波の後輩としてタイガーマスクがデビューしたと同時にルチャのスペイン語名技がどっと日本に入り、トペ・スイシーダという名称が一般化したことによる。古館アナウンサーは、前述した舌を噛みそうなケブラドーラ・コン・ヒーロなどという技名もちゃんと伝えていた。そうした中、藤波もヘビー級転向とともに空中殺法を用いなくなってゆき、ドラゴンロケットという名は、消滅した。

 トペ・コン・ヒーロが日本に上陸したのは、いつかなあ…。
 藤波以来Jr.ヘビー級が日本でも盛んになり、タイガー以降はルチャ・リブレが日本にかなり浸透したため、いつ日本で披露されていてもおかしくはないが、どうもタイガーマスクやチャボゲレロがトペ・コン・ヒーロを日本でやっていたのを観た覚えがないのだ。資料的には日本人第一号はマッハ隼人だと言われるが、日本で披露したのかどうかはわからない。
 記憶で言えば、ザ・コブラがやったかもなぁ。これもただのぼんやりとした記憶なので信用しないでほしい。確実なのは、二代目タイガーマスク(三沢光晴)がそのデビュー戦において、トペ・コン・ヒーロを使用している。これは鮮明に憶えている(ビデオに録って繰り返し観たから。しかしそのテープもβで、実家で処分されちゃったかなあ)。
 全日本のTV中継の倉持アナウンサーはあまり技をよく知らないため(失礼^^;)、三沢タイガーがトップロープを飛び越え前方回転して相手にぶつかっていったとき「プランチャだ!」と叫んだ。解説の竹内宏介氏が「あれは背中からぶつかっていきましたね」と、プランチャではない旨の訂正を入れても「すごいプランチャ攻撃!」と言い続けた(倉持さんはよくこういうことがあった)。
 しかしゴング竹内氏も「背面落とし」とまでは言ったもののトペ・コン・ヒーロとまでは言わなかった。マスカラスヲタでルチャリブレに造詣が深い竹内氏が知らないわけはなく、当時は全くトペ・コン・ヒーロという名称が一般的でなかったことがわかる。
 そんなトペ・コン・ヒーロも、以来30年近く経ち「トペコン」などと略されるようになった。 

 この場外へ飛ぶという「スイシーダ」系の技でも、トペは頭から飛び出していくために勢いが必要だった。プランチャは場外に落ちた相手を見据えながらトップロープを掴んで反動をつけて飛び出すだけでよかったが、トペはそうはいかない。飛び出すスピードが必要なため、一旦反対側のロープへ走って助走距離を確保しなければならない。プランチャと異なり時間がかかる。しかも、相手に避けられれば一大惨事となる。
 であるために、場外に落ちた相手のダメージを見極めなくてはいけない。ダメージが強すぎて場外床にのびたままでは、トペは仕掛けられない。相手が立っていなくてはいけないのだ。また、立ち上がっても避けられるようであれば自爆してしまう。その、立っていてしかも避けられないという非常に難解な機微をとらえるのが実に難しい。
 藤波と戦っている相手が場外に落ちる。すると、ドラゴンロケットを期待する観客の歓声が一気に上がる。藤波はマット中央で一瞬間を持つ。行くか、行かないか。その間が、この技の肝である。相手の状態を見て(なんせ驚くべき難解な機微)、また走り出そうとする反対側を見る。そうして少し逡巡したのち、思い切って走り出す。観客の興奮の針が振り切れる瞬間である。
 藤波の「行くか、行かないか、さあどうするか」の一瞬の大見得は、トペ・スイシーダを出す場合のアクションとして今も受け継がれている。また初代タイガーマスクは、これに一味加えた。走り出したはいいが相手の体力の見極めに誤りがあり、相手が避けようとした。自爆必至。そのときタイガーは、飛び出そうとしたトップロープとセカンドロープの間でロープを掴み、くるりと一回転してマットに戻る。そんな離れ技も出した。

 トペ・コン・ヒーロともなると大変な跳躍力が必要とされる。ドラゴンロケットに代表されるトペ・スイシーダがトップとセカンドロープ間を抜けるのに対し、ノータッチ式などはトップロープを越えていく。しかも回転しつつ飛ぶので、相手の位置が確認できない。実に、危険である。まさにスイシーダ技だと言える。
 なのに、背面から当たる必然性があまり感じられないことが、惜しい。というか、背中に目がないためまずジャストミートすることはないし、当たったとしてもそれほど相手にダメージを与えられているのかどうかが観客に分かりにくい。頭からぶつかった方が衝突力がより鮮明に見える。派生技で三沢光晴が「エルボー・スイシーダ」をやるが、これがスイシーダ系技の中では最強であるようにも感じられる。トペ・スイシーダとて、リング内で出されるトペ(フライングヘッドバット)の如く、完全に頭突きをやれているわけではあるまい。頭方面からぶつかっているだけだ(手を前に出して飛ばないと怖い)。エルボーがおそらくもっとも破壊力があるだろう。
 ノータッチ式のトペ・コン・ヒーロは、確かに技としては派手である。だが、命を賭してまでやる価値が本当にあるのかは、わからない。

 興ざめするようなことを書くようだが、僕はこれら「スイシーダ系」の技が、あまり好きではない。プランチャもスイシーダでないほうがいい。
 それは、技はリング内で完結してほしい、という考え方からきている。だって、見にくいじゃないか。リング内の、ライトが当たっているところで技は出してくれ。
 そして、技にレスラーの肉体以外の要因が入るのも好きではない。リングのマットから場外には、落差がある。フラットではないため、異なるファクターが入る。それは、雪崩式や断崖式と呼ばれる技が好きではないのと同じ理由である。僕は、トップロープからの攻撃も好きなほうではない。利用していいのは、ロープの反動くらいにしてほしい。
 そして、危険すぎるということ。
 片山明の悲劇を、プロレスファンなら知っていると思う。彼は新日からSWSへと渡ったレスラーで、僕も新日時代は会場で試合を見たことがある。跳躍力があり、トペを得意技としていた。彼のトペ・スイシーダは、トップロープを越えて放たれる。それだけでも並みの跳躍力でないことがわかる。
 この片山の放ったトペ・スイシーダが乱れ、片山は頭から場外の床に突き刺さった。
 瞬間の動画はネット上にも上がっていたが、張らない。もう20年前のことだ。
 この事故は、何かが引っかかったアクシデントと言われていたが、金沢克彦氏の著作に片山明さんのインタビューが載っており、それを読むと、そのままトペでゆくかそれともコン・ヒーロでやるか一瞬迷った上でのことであるように語られている。片山さんは一命をとりとめたが、今も車椅子の生活である。歳は、僕とかわらない。
 こういうのは、嫌だ。

 スイシーダ系の技は、見にくいこともあり、しかも「難解な機微」問題もあって、それほどみんなが使う技でなくなっても、僕はいいと思っている。ただ、それでもレスラーたちは飛び出し続けるのだろうな。
 もう再び「事故」がおこらないことを切に願うしかない。そして「トペコン」なんて略して煽るのはもう止めたらどうか。軽々しすぎるようにも聞こえる。

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