とんぼちゃんをちゃんと聴いたのは、実は80年代半ばになる。知ったときには、もう解散していた。正確には「ひと足遅れの春」はラジオのエアチェックにより知っていたけれども、それ以上深入りすることはなく。
ひとつめくり忘れた暦が寒そうに震え柱に貼りついている
冬の間君からの手紙が何故かこないままで季節はめぐるよ
いい歌なのだけれども、そのときはそれ以上広げることは出来なかった。
これは言い訳ではないが無理もないことで、音楽を聴くのにはお金がかかる。「ひと足遅れの春」は僕がまだ小学生の頃であり、レコードなどほいほい買えない。親にねだってやっとのことで小椋佳のあのNHKライブ盤を手に入れたときは嬉しかったが、そこまでである。中学高校くらいでようやく周りに同好の士が現れ所持しているLPの貸し借りなどで底辺を広げ、またアルバイトなども出来るようになり、そして貸しレコード屋があらわれる。それまでは、完全にラジオに頼っていた。もちろんTVもあるけれども、フォークシンガーの多くは当時はTVに出なかった。
とんぼちゃんは、それほどラジオで頻繁にかかるわけでもなく、深められなかった。
さて。
フォークという音楽ジャンルに、男性デュオ、もしくはトリオが多い。何でなのかと思う。もちろん統計があるわけでもなし、僕の感じ方だけで言っているだけかもしれないけれど。
ひとつは、海外の影響か。キングストントリオの存在は大きかったのかも、と考えてみる。しかし、PPMだっていたはずである。日本で最初に世に出たフォークグループは五つの赤い風船なんだろうか。これは、女性ボーカルのフー子さんがいてPPMに近い。次は六文銭かな。これは最初男性ばかりだったけれども、後に女性ボーカルが入る。そもそもPPMフォロワーズがその前身であり、やっぱりPPMかな。
トリオで最初に出てきたのは…よくわからないけれどもフォーククルセイダーズがまず思い浮かぶ。デュオは、ブレッド&バターかビリー・バンバンか。もちろん、それ以前に星の数ほどのグループがいたはずだが、このあたりがごく初期なのかなとも思う。いずれも、吉田拓郎以前の60年代。
結局よくわからないんだけれども、ビリーバンバンを見ると面白いなと思う。構成は、兄ちゃんがベースで進さんがギター。最小限のバンドなのだなと。フォークは歌謡曲と違って、昔はメンバーだけで成立しなくてはいけなかった。フォークルはギター2、ベース1。以降、トリオだとかぐや姫もNSPも、ベースがいる。
昔はウッドベースだったから、運搬が大変だっただろう。よくこうせつおいちゃんが「タクシーが止まってくれないからパンダさんは隠れていて止めてから交渉した」という話をするけれども、電車移動と津々浦々ライブが当たり前だった時代は苦労が絶えなかったのだろうな。アリスなんて極めて特殊な構成のグループは、当然ドラムセットなど持ち運べず、キンちゃんはコンガだったらしい。それだって、移動は骨折りだっただろう。
それはともかく、フォークのデュオ、もしくはトリオというのは、ボーカルとバックバンドという関係でないのがいい。もちろんメインボーカルという存在は居たとしても、たいていはハモってくれる。それが心地いい。
そんなのフォークに限らんだろ、と言われそうだが、実は当時の歌謡曲などでは、案外こういうスタイルは少ない(と、思う)。ハーモニーということで言えばそりゃダークダックスなどのしっかりとしたコーラスグループはいたけれども、歌謡曲では少なかった。
基本、当時の日本の歌手はソロである。演歌のハーモニーなんか聴いたことが無い。こまどり姉妹なんて知っている年代ではない。クールファイブとか居たけれども、ああいうのも完全にメインボーカル制だった。まれにデュエットもあったけれども、ハーモニーという感じではなかった。
ポップスではグループもいた。GSなどはスパイダースみたいにツインボーカルもあったようだけれども、それを詳細に知る年代でもなく。せいぜいフォーリーブスか(スリーファンキーズやジャニーズは昔過ぎる)、女性だとゴールデンハーフかキャンディーズくらい。ザピーナッツはこれまた古すぎる。
だから、ビリーバンバンが少しハモるだけでおおっと思い、赤い鳥なんてのはものすごくきれいに聴こえた。
70年代半ばには、フォークデュオ、また三人組がどっと出てくる印象がある。
NSPがデビューしたのが73年。その翌年に、ふきのとう、グレープ、マイペース、三輪車、とんぼちゃんなどなど。男女デュオだとダカーポもこのあたり。
翌年、「風」が結成される。シグナル、俄などがデビュー。伝書鳩もこの年くらいかな。デビューではないけれども、クラフト、そしてバンバンがいちご白書で売れたのもこの年。古時計もこのくらいかなあ。女性デュオでは、たんほぽもいた。
その中で追いかけられたのは、風と、NSP、ふきのとうくらい。みなあまりTVに出なかったから、小学生だとなかなか耳に入ってこない。
例外的にグレープはよくTVに出ていた。賞レースにも参加していたのではなかったか。中条きよしと新人賞を争っていたような記憶があるぞ。まっさんが歌謡大賞を狙っていたというだけで面白いが、だから「精霊流し」はよく知っている。
当時の僕などは、フォークはTVに出ないものと決めてかかっていたので、こういうのは珍しかった。TVに出ていたのは、ガロと、海援隊とグレープくらいじゃなかっただろうか。あとはたまにかぐや姫。チューリップはフォークと言うにはあまりであるし。
これはもちろん、出ないと宣言されている方もいれば特定の番組だけ出ていた方もいるし、そもそもTV向きじゃないと呼ばれなかった方もいるだろうし、事情は様々だとは思うけれども、とにかく「あんまり」出ていなかった。
そのTVに出ていた数少ないフォークデュオの中に「ちゃんちゃこ」が居た。
ちゃんちゃこの「空飛ぶ鯨」はヒットしたので、ご存知の方は多いと思う。作ったのは、みなみらんぼう氏。
そのちゃんちゃこの鯨を今聴いてみると、「みんなのうた」に出ていてもおかしくないような童謡っぽさも持ち合わせつつ、実にフォークっぽいフォークだとも思える。なにせ、テーマは文明批判である。当時であれば公害問題、今で言えば環境問題を歌っている。反社会的な骨太のフォークに聴こえる。
ところが、当時の小学生の僕はちゃんちゃこを全然フォークだと思っていない。兄貴が購読していた「中一時代」か「中一コース」か何か忘れたけれども、そこにちゃんちゃこの特集が確か組まれていた(記憶による)。「好きな食べ物は何?」とか、そんな質問に答えている。扱いはアイドルや。実際それに並列するようにあいざき進也とか城みちるなんてのも同じ質問を受けて答えていた。知らないけれども、多分明星や平凡にも登場していたのではないか。
ジャンルってのは、わからんな。
結局「~っぽい」ということしか言えないのであって、それは弾き語りであるとか、自分で曲を書いているとか、編曲の雰囲気とか。そんな要素でしかなくて、そのうた自体は、うたでしかない。「神田川」なんて八代亜紀がうたえば演歌だ。「山谷ブルース」しかり「赤色エレジー」しかり。
そうやって思えば「とんぼちゃん」に郷愁をおぼえるのも無理ないような気がする。どうも70年代の歌謡曲っぽい。これは、何でだろうか。メロディーラインなのか、編曲なのか。以前「俄」の雨のマロニエ通りの話を書いたけれども、あれもそれに近い。NSPも、近い雰囲気を持つ曲が多い。
「ひと足遅れの春」は、曲だけで言えば当時ちょっと寂しそうな雰囲気を持つ、例えば豊川譲や片平なぎさがうたってもそれなりに聴けたような気も、一瞬してしまう。
この「ひと足遅れの春」については、友人のよぴちさんも考察をされていて、「歌謡曲の親しみやすいメロディーライン」とおっしゃる。同世代なので感じ方が近い。この融合が「ニューミュージック」なのかどうかはさておき、とんぼちゃんとちゃんちゃこを対比させると、当時の印象はとんぼちゃんがフォークでちゃんちゃこはアイドル的。しかし今うたを聴けば、ちゃんちゃこがフォークでとんぼちゃんが歌謡曲的。ジャンルって無意味だなと。
ただひとつ言えるのは、とんぼちゃんは(ちゃんちゃこも)デュオだったということ。この味わいは、当時のソロ中心の歌謡曲ではなかなか出せない。強いて言えばジャニーズジュニアスペシャルかな(異論受け付けます)。
いずれにせよ時代のなせる曲調と編曲であって、今では無理だろう。今の日本の音楽界はグループ全盛時代で、Kinkiなどは拓郎先生門下で本当に歌が巧いと思うけれども、やっぱりJ-POPだなあ。
そんなこんなでおっさんは、とんぼちゃんを聴く。たまらん。
名曲が揃っていると思うけれども、中でも「ひなげし」はいい。何度聴いても、いい。ネットで探したらライブ版もあって(これは僕は持ってなかった)、こっちのほうがいいかも。
風に吹かれて散る花びらをまとった君の花嫁衣裳 僕だけが知っている春は
遠い昔になったけれど約束どおりやってきました 汽車に乗り君を迎えに
また詩も哀しいわけで。亡くなっているんだからなぁ…。「微笑はもうかえらないけど」泣けますね。
とんぼちゃんは、秋田出身のデュオで「トヨ」と「ヨンボ」の二人。だから「とんぼ」ちゃん。お元気なのかな。
何か「ラブリーフォーク」とか呼ばれてなかったっけ(記憶です)。全国フォーク音楽祭で準優勝、作曲賞。そして「貝がらの秘密」でデビュー。このころはこういうコンテストはいっぱいあったようで、前年にはふきのとう、その前はみゆきさんが入賞している。初代グランプリはチェリッシュ。
80年代に入って解散されたが、後期の曲はわりにポップだ。もちろんそちらもいい。だが郷愁という点では、やはり初期の曲かもしれない。「ひなげし」はシングル「奥入瀬川」のB面だった。
ひっそりと咲く花の優しさを とても愛した君でした
薄日ざしの静かなお寺も今は 花盛りです
せつない。こういううたを、最近はまた聴き返しては浸っている。