凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

チューインガム「風と落ち葉と旅びと」

2006年11月03日 | 好きな歌・心に残る歌
 今はiPodの時代であって、デジタルデータで1000曲くらいの曲を取り込んで好きなように聴く、という大変なご時世であるが、僕たちの若い頃は「ウォークマン」の時代だった。カセットテープというものももはや前時代の遺物のようになってしまっているが、ああいうアナログの時代もまた味わいがあった。
 普段からイヤホンを耳に突っ込んで歩くということまではしなかったが、持ち運びが出来るプレイヤーというのはなんだか画期的で、旅に出る時には必携だった。夏の自転車旅行の場合はともかく、秋や冬に列車に乗り込むときには必ず携帯したものだった。

 当時、今ではほとんど見ることがない120分テープを用意して、旅に出る前に手持ちのレコードから編集してお気に入りの曲を収める。この作業は楽しいものだった。旅先を意識して、北海道ならこんな曲が合うだろう、とか信州なら、東北なら、沖縄なら、とかいろいろ思案する。そうして自分ならではのベストを作り上げる。そのときからもう既に旅は始まっていると言っていいだろう。
 旅に荷物は増やしたくないのでそのテープを僕は2本しか持参しなかった。だからつまり60分×4。この4sideに、クラシック、ハードロック、フォーク、そして今自分のお気に入りのジャンル(それはポップスであったりフォルクローレであったり様々だったが)を厳選して録音する。学生の頃は一ヶ月に及ぶ長旅も多々行ったので、飽きないように、本当に何度も聴きたい曲を選ぶ。こういうMybestを編集する作業というのは旅の愉悦の一部である。これから始まる旅、その風景や出会いを思い想像しながら、じっくりと順番を検討し曲の長さを計算して各ジャンル60分に収める作業という愉しさは、アルバムを何枚も入れておけるiPodでは味わえないに違いない(アナクロニズムの残党の発言)。

 そうして、風景と音楽が完全にシンクロした記憶をいくつも持っている。
 夜行急行「きたぐに」に乗って早暁新潟着、そのまま北上していくと、陽が昇り日本海が赤く染まってゆく、そのサンライズにマイケル・シェンカーがかぶる。「Into The Arena」のリードギターが赤々と昇る陽のBGMになる感動。
 また冬の北海道で、急行「まりも」で釧路着、そのまま根室本線の鈍行にのって東へ。釧路川を渡り冬枯れの釧路湿原が眼下に。真っ白な広がる平原。キタキツネが不思議そうにきょとんと僕の乗る列車を眺めている。氷点下の風景。耳には荘厳なバッハの調べ。あまりにも神々しい白い北海道。
 こういうのは「劇的記憶術(by村松友視)」とでも呼べばいいのだろうか。その音楽を後に聴けば風景が脳裏に甦りまた思い出が新たになる。

 そんなふうにしていくつもオーバーラップした記憶を持っている。カセットの中身は毎回とっかえるのでその旅ごとに音楽の記憶がある。ダブることはない。
 けれども、ひとつだけ毎回入れておく曲がある。チューインガムの「風と落ち葉と旅びと」。
 これだけはフォークsideのラストナンバーに必ずダビングして旅立つ。

  風はいたずら 旅ゆく人の 心の中を のぞいて通る

 非常に有名な曲で、おそらく大多数の人はご存知だと思う。チューインガムのデビュー曲であり代表的ヒット曲。
 ただ曲は知っていても、このチューインガムというデュオについては、知られているようで知られていない(僕の周りのひとはみな知らなかった)。ただ、僕の住む兵庫県の人であれば、ラジオ関西(AM KOBE)のジングル「海の見える放送局」もチューインガムやで、と言えば「ああ、知ってる」という人が多少は現れる。「♪こっこは~海のみえる~放送局ぅうぅぅ~」
 驚くべきことに、このチューインガムは姉妹デュオなのだが、デビューしたとき二人は中学生と小学生。作詞作曲の松田りかさん(お姉さん)はまだ中学1年だったと言う。天才か。
 逸話がある。松田りかさんはこの年で、既にヤマハのポピュラーソングコンテスト(ポプコン。ご存知ですね)に応募しようとして、デモテープ作成のために初めて作った曲を妹さんと二人で歌って録音したところ、そのデモテープが評判となってポプコン参加より以前にレコードデビューが決まってしまったらしい。それが「風と落ち葉と旅びと」である。
 デビューしてしまったのでもう「風と落ち葉と旅びと」でのエントリーは出来なくなった。しかし、彼女らのお父さんも同時にエントリーしていて、その曲「ゴリラの歌」を娘の二人が歌うことになった。そしてグランプリ。
 ポプコンのHPを見れば、1972年(第4回)にその名が見える。入賞曲に井上陽水の「紙飛行機」がある。陽水を押しのけている。
 まだ続く。第5回にも「動物たちの世界」で入賞(このときはグランプリなし)。同じ入賞曲に「あせ(N.S.P.)」「ひとりぼっちの部屋(高木麻早)」などの名前が見える。ひぇぇ。
 第8回には「チャップリンに愛をこめて」で2度目のグランプリ。ポプコンで2度のグランプリとは。このときも八神純子や庄野真代を押しのけて。記録を追うと凄い。もちろん世界歌謡祭にも出場している。

  歩きつかれた旅びとの肩を 落ち葉がひとつ優しくなでて

 もちろん「風と落ち葉と旅びと」を聴くと、そこには少女の声が現れる。最初にこの曲を知ったときはそんな天才少女たちのことは知らなかったけれども、とにかく心に残る。なんで中学生がこんなに旅人の心情を細やかに歌えるのか。
 そしてこの曲を知って数年が経ち、僕も旅人の仲間入りをすることになった。そしていつの間にか僕の旅のテーマソングとなった。カセットにはいつも「風と落ち葉と旅びと」。

  早く 早く帰れとささやくけれど 探し求める夢は まだ遠い

 出会いと別れを繰り返す旅。楽しさだけに彩られる旅も終わる日が必ず来る。故郷に否応なしに向かう列車の中で、「風と落ち葉と旅びと」が流れ出す。
 帰ってきちゃったんだよなあ。
 旅の終わり。流れゆく車窓を眺めつつこの曲を聴いていると、寂寞感と、そしてまた次の旅への思いがふつふつと湧く。

 今でも僕にとっては大切な曲だ。




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12 コメント

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Unknown (Unknown)
2006-11-10 00:29:07
カセットテープ
懐かしいですね~♪
昔はお小遣い節約の為に何度も繰り返し
いろいろ曲を入れ替え、録音もラジオからなんてこと
やってましたね。

MDやMP3プレーヤーも使いますが
アナログのよさをつくづく感じることがあります。

旅の友の曲
京都の嵐山に行くたびに蘇る曲は
中島みゆき(爆)

旅の風景にあった曲があることって幸せです。

カセットテープ
先日、事務用品を買いに行った100円均一のお店で
中学生くらいの女の子が
カセット買ってました
それだけでなんか、すごくうれしくなりましたよ。

デジタル全盛でもアナログがうれしい瞬間
両方を知ってる世代だからこそ…かもしれません。
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>アラレさん(ですよね? ^^;) (凛太郎)
2006-11-10 22:58:39
なんだかカセットテープなどと言っていると本当に古い人間であるかのように思われるご時世です。でも、エアチェックを一生懸命やっていたあの少年の頃は貪欲だったと思いますね。子供の頃に今のようなレンタルショップがあったら入り浸っていたかもしれませんけれども。

旅と音楽が結びついて相乗効果で追憶がより色鮮やかに甦ることは誰しも経験があると思いますが、そういう思い出をいくつも持っていることはやっぱり幸せなんでしょう。僕はみゆきさんの曲をやっぱりよく北海道に持ち込みました。いくつもの思い出があります。

こんなことを書いておきながら…カセットってずいぶん買っていませんね(汗)。100均で売っていることすら知りませんでした。まだうちではカセットデッキは現役なので(ほとんど再生専用になってますが)、一度のぞいてみようかしらん。
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そうでしゅm(__)m (アラレ)
2006-11-22 02:47:57
ごめんなさいっ!
コメント書くのに夢中になって…

よくわかりましたね~(爆)

我が家のカセットも現役ですが
再生専用です。
アナログのよさはDVDを再生していても思います。

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>アラレさん (凛太郎)
2006-11-22 23:06:29
もう長いお付き合いですので文体でどなたかは分かりますから(笑)。

ところで、うちのカセットデッキどうも調子がよくないです。針が磨り減ったレコードプレイヤーと共に前世紀の遺物となってしまうのか…。いやいやそれでは悔しいので買い替えを検討中。^^
返信する
チューインガム (わくさん)
2006-12-25 05:34:54
チューインガムは二十年ほど前に引退されましたが、
りかさんはイタリアで通訳・ガイドとして、マミさんはアメリカの男性と結婚されてアメリカ在住です。
彼女たちが1975年に「みんなの歌」で歌った
名曲「遠い世界に」がyoutubeで見られます。youtubeに
入って「遠い世界に」で検索すると二つ出ますが
最初のがチューインガムです。よろしくれば聞いてみてくださいませ。
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>わくさん様 (凛太郎)
2006-12-26 22:20:51
これはご教授ありがとうございます♪
早速youtube飛びました。やっぱり綺麗なハーモニーですね。聴き惚れますね。
今はお二人とも日本にはおられないのですか。引退されているとは思っていましたが。ちょっと寂しい気もしますが、お幸せに暮らしていらっしゃるのであればいいですね。うたは音源が残る限り永遠なのですから。
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こんばんは (わくさん)
2006-12-26 23:40:43

実は「チューインガム資料室」というファンサイト
があります。トップページだけ読むと、彼女たちの
消息不明みたいですが、お便りのコーナーをクリック
してみて下さい。とても感動的です。サイト発足後、
或る人物が、それを発見、姉妹に教えてくらたのです。そして、りかさんから管理人さん宛にメールが
届きました。現在ではりか&マミさんは、かなり頻繁に掲示板に書き込みをされてます。先夜もクリスマスのメッセージを、りかさんから頂きました。
それから、「岡田さんの手紙」の岡田さんの消息も
わかりました。彼女も常連です。
何か不思議な力が働いているようです。
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>わくさん様 (凛太郎)
2006-12-27 22:11:21
再びありがとうございます。「チューインガム資料室」拝見させていただきました。

ああいうことってあるのですね。全世界に通じるネットというものは。ファンとしてHPを開設し、そしてそこにご本人さんが来て下さるというだけで冥利に尽きるのに、さらに交流が深まりまた新たな出会いも生み出す。岡田さんまで。素晴らしいことだと思います。掲載されたメール、そしてBBSも読み漁ってしまいました。
いろいろ教えてくださってありがとうございます。当方はちょっとこんな記事で恥ずかしくなりました。あちらのサイトを拝読してから書けばよかったな(笑)。
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こんばんは! (わくさん)
2006-12-27 23:12:39

私はチューインガムのデビューをリアルタイムで知っていますが、クラシック、ジャズ等の難しい音楽
を聞くようになっていて、あまり熱心には聞いていなかっようです。「可愛いな」くらいは思いましたが・・
でも最近、ふと心を引かれて、あのサイトに行ってみて、彼女たちの魅力がわかりつつあるのです。
彼女たちが、年齢を重ねて、素晴らしい女性になられているのが、とても嬉しいです。

それにしても出来すぎた話ですね(笑)。主役=
松田姉妹が素晴らしいし、脇役も素晴らしい!
感動的と称する昨今のドラマよりも余程感動的です。

肝心のあなたのブログをまだ充分、読みきれていません。これから少しずつ読ませていただきます。

良いお年をお迎え下さいませ
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>わくさん様 (凛太郎)
2007-01-02 22:48:50
帰省していてコメント遅れました。失礼いたしました。お健やかな正月をお迎えになられたでしょうか。

教えていただいたチューインガムの松田姉妹とファンサイトを巡るさまざまな出来事と情景は、年の瀬の慌ただしい、気持ちがすさみがちな日々の中で心をほんわりと温かくさせていただける出逢いでした。教えていただいて本当に感謝しています。僕の記事はお恥ずかしい限りのものですが、それでもこういう出逢いをさせていただいて、書いてよかったのかとも思えます。

当方、長文ばかりの殺風景なブログなのですが、もしも読んでいただけるのならばこれほど嬉しいことはありません。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
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