夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

少子化を考える有識者会議分科会委員を務めて

2004年09月23日 | profession
私は、1998年9月に総理大臣の私的諮問機関である「少子化への対応を考える有識者会議」の二つの分科会の一つである「働き方分科会」のメンバーに選ばれ、12月に提言をまとめ新聞発表等により公表するまで、微力ながら活動を行った。本稿では、その活動についての感想と、少子化問題に関しての私見について述べることにしたい。
1. 分科会に参加しての感想
メンバーは、八代尚宏上智大教授を座長とする女15名、男10名の計25名で、会社役員から農家の主婦までバラエティに富む中、「男も女も育児時間を!連絡会」世話人や、在宅ワーク研究会主宰等の肩書を持つ人がいたのが特徴的だった。しかし、私にとって最もカルチャーショックだったのは、男性委員が、長年共働きだったり、自身が育児休業経験者だったり、育児ストライキや転勤拒否したことがあったりする、およそ日本の典型的なサラリーマンとはかけ離れた人ばかりだということであり、奥さんがフルタイムで働いている男性が一人もいない私の職場がいかに異常かということをつくづく思い知らされたのである。
そのような顔ぶれだから、12月に最終的に発表された提言の中で、「出生率上昇のために女性が家庭に戻ればいいというのは非現実的」という点が明記され、「男女の固定的な性別役割分業を隅々まで見直し、職場優先の企業風土を是正する」(この「隅々まで」というのは私の意見が採用された部分である)ことが必要という結論が出されたのは、必然であった。
しかし、年金の第三号被保険者制度や配偶者控除制度を撤廃すべきという意見は、複数の委員が主張し、会議の議事録にも何度も記載されたのに、できあがった提言を見たら「第三号被保険者制度などの議論を深め」という、かなりトーンダウンした表現になっていた。これについては、政治的配慮が働いた可能性があり、極めて遺憾である。

2. 少子化問題に関する私見
(1)少子化をめぐる問題点の整理をすると、以下のようになる。
(i)生まれるべき子が生まれないという弊害
A. 少子化の影響(マクロ経済的視点)=年金財政等への影響
B. 少子化の要因=なぜ子育てと仕事が両立できないのか
C. 少子化への対策=仕事と育児を両立できるような支援策
(ii)子供の数が少ないことによる子供そのものへの弊害(受験戦争、育児ノイローゼ等)
(2) ここでは、紙幅の関係で、(i)B.についてのみ私見を述べる。
男女の伝統的役割分担意識を労働効率のために国や企業が利用していることが問題だと考える。特に、専業主婦を優遇するのは、以下の理由で、企業戦士の再生産(妻としての内助)上も、安い労働力(パート労働力)の供給源としても、企業の論理に好都合である為である。
① 長時間労働、頻繁な転勤を前提とする日本の企業社会では、企業戦士である男性社員を企業の意のままに効率よく使うためには、家事・育児を全面的に負担し、転勤にもついてきてくれる、私的な秘書としての専業主婦の妻の存在は、便利この上ない。
② 実際に、残業が多いため、共稼ぎと育児は両立できず、育児を誰かが専業でやらなくては、立ち行かないようになっている。筆者の回りでも、育児と仕事の両立に成功している女性の9割は、夫婦どちらかの母親に全面的に依存している。つまり、祖母に専業主婦役を引き受けてもらっており、祖母の仕事や趣味等私生活は犠牲になっているケースが多い。結局誰かひとり専業主婦がついていないと仕事と育児の両立ができないようになっているという異常な労働環境。
③ 普通に働いて、数百万円の収入を得るくらいなら、専業主婦か、年収100万円以下程度の収入しかない方が、経済的に有利という不平等な制度の数々:
3号被保険者の年金保険料免除、配偶者税額控除、企業の配偶者・扶養手当て、扶養家族がいないと社宅に入れなかったり、家賃補助がもらえない企業も多い。特に、第3号被保険者と、第2号被保険者の女性の数は、1,200万人でほぼ拮抗。前者が保険料を収めないために後者の負担増は年間一人35,000円という試算があり(日経新聞1998.5.14)、この制度は撤廃すべきである。
④ 「パートに出ても、絶対に扶養家族適格がなくならないように収入抑制しよう」という動き→「パートの時給が安くても、どうせ収入調整したいのだから構わない」という主婦が大勢出てくる。
⑤ 企業はそうした主婦を、安い労働力として取り込み、利用しようとする。→収入抑制主婦を派遣社員として一般職の代替に使う大企業が増えている。こうした派遣主婦は、OGや類似職種の経験者が多いから現役の一般職と同じくらい優秀なのに、コストは4分の1くらいですむ。→派遣業法が改正されて派遣労働者の職種の限定がなくなったら、この傾向にはますます拍車がかかるだろう。
⑥ 「女性は安く使えるもの」という企業側の認識の広がり→母子家庭等、パートで生計を立てなければならない女性の時給まで安くなる。→出産後、本気で働こうとしても、時給が安いため、保育園等の経費を差し引くと赤字になってしまう。
⑦ 女性は、男性と伍して働くか、家で育児に専念するか(扶養家族の範囲でパート程度稼ぐ場合あり)という二者択一を迫られる。まともな仕事をしたければ出産は諦めるしかない。
(3) 私自身の選択
男社会度の最も高い業界で総合職として働く私には、子育てはハンディとしか映らない。そして、国や会社の専業主婦優遇策を見るにつけ、被害者意識が募るばかり(男性の同僚の専業主婦の妻はいわば、ライバルの私的秘書。その分まで税金や社会保険料を払うのは構造的に敵に塩を送らされているようなものである。)で、これ以上不利な立場になりたくないと意地になってしまう。夫は子供がほしいほしいというが、私の生殖年齢が安心して子供を産めるような社会の実現に間に合うかどうか、悲観的になっている今日この頃なのである。

私は昨年首相の諮問機関である「少子化を考える有識者会議」の「働き方分科会」のメンバーになっていた関係で、厚生省がポスターを送ってきました。なるべく多くの社員に見てもらいたいと思って、総務の許可を得て社員食堂の掲示板に貼り出しました。
ポスターとしては、なかなかよくできているんじゃないでしょうか。職場の男性に「きれいごとじゃなくてもっと大変なところをポスターにしてもらいたいとか、もっと足元を固めるような政策をやってほしいって声もあります」と言ったら、「かっこいいというイメージを持たせた方が男には利くんじゃないか」と言われました。

厚生省が本気かどうか、私も半信半疑なところは正直言ってあります。それは、少子化の有識者会議に出た経験からも言えることです。編集部の方のお勧めもあり、まず、会議の模様からお話します。(大学の同窓会の会報に寄稿したものの抜粋です)

【分科会に参加しての感想】
「家庭に夢を」分科会の方には、下積み時代専業主夫だった鈴木光司氏もいたが、私は「働き方」分科会のことしかわからないので、ここではそのことだけを記す。
メンバーは、八代尚宏上智大教授を座長とする女15名、男10名の計25名で、会社役員から農家の主婦までバラエティに富む中、「男も女も育児時間を!連絡会」世話人や、在宅ワーク研究会主宰等の肩書を持つ人がいたのが特徴的だった。しかし、私にとって最もカルチャーショックだったのは、男性委員が、長年共働きだったり、自身が育児休業経験者だったり、育児ストライキや転勤拒否したことがあったりする、およそ日本の典型的なサラリーマンとはかけ離れた人ばかりだということであり、奥さんがフルタイムで働いている男性が一人もいない私の職場がいかに異常かということをつくづく思い知らされたのである。
そのような顔ぶれだから、12月に最終的に発表された提言の中で、「出生率上昇のために女性が家庭に戻ればいいというのは非現実的」という点が明記され、「男女の固定的な性別役割分業を隅々まで見直し、職場優先の企業風土を是正する」(この「隅々まで」というのは私の意見が採用された部分である)ことが必要という結論が出されたのは、必然であった。
しかし、年金の第三号被保険者制度や配偶者控除制度を撤廃すべきという意見は、複数の委員が主張し、会議の議事録にも何度も記載されたのに、できあがった提言を見たら「第三号被保険者制度などの議論を深め」という、かなりトーンダウンした表現になっていた。これについては、事務局が厚生省だったことから、政治的配慮が働いた可能性があり、極めて遺憾である。

制度としての専業主婦優遇措置の働く女性への悪影響を挙げます。
1. 経済的な損失
① 3号被保険者の分まで年金保険料を払わなければならない。以前も投稿したように、3号被保険者が保険料を免除されている手ために2号被保険者女性の負担は一人年間35,000円重くなるという試算があります。
② 専業主婦の夫の配偶者(特別)控除のために、税金を余分に払わなければならない。
③ 本来は基本給に上乗せされるべき人件費のファンドが、配偶者手当として専業主婦の妻を持つ男性社員に支払われる。
④ 社宅や保養所等、本人か扶養家族でないと利用できないものが多く、共稼ぎだと利用できない。会社や健康保険組合の経費で賄われているにもかかわらず。
⑤ 扶養家族から外れない範囲でしか働きたくないから時給は低くても構わないというパート主婦の為に、女性全般のパート時給が低く抑えられ、パートで生計を立てなければならない女性はいくつも仕事を掛け持ちしなければならなくなる。私の知り合いは、年間3000時間働いても、年収300万円くらいだそうです。

以下の2と3は、優遇制度そのものの弊害というより、優遇制度があるために、もし妻の分も税金や社会保険料を払わなければならない制度だったら共稼ぎしなければならない家庭まで専業主婦でいられることの弊害です。
2. キャリア形成上の障害
専業主婦の妻を持つ男性社員は、基本的には家事・育児につき一次的な責任を負わなくていい。したがって、長時間残業や頻繁な転勤にも応じることができ、かつ、妻子を養っている以上、応じることを拒めない。そのように家庭責任からフリーの男性と伍して働かなければならない女性は、家庭の方を犠牲にせざるをえなくなる。男は馬車馬のように働きながらも人の子の親になれるが、女はなれない。
3. 子育ての上の障害
専業主婦は、子供を通じてしか自己実現できないから、子供の教育に血道を上げ、代理戦争に駆り立てる。そのために受験戦争がますます悪化し、働く母親が子供をのびのび育てたくても、周りの環境がそれを許さなくなる。



この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 情は人のためならず ―ミャン... | トップ | 東野圭吾『幻夜』『白夜行』(... »
最新の画像もっと見る

profession」カテゴリの最新記事