夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

裁判官の守秘義務

2008年11月27日 | profession
来年5月に始まる裁判員制度であるが、TVコマーシャルも始まり(古手川祐子は随分ふくよかに映っている。「ホームレス中学生」でガンで死ぬ母親役をやっていたのに…)、明日は、350人にひとりに、最高裁から裁判員候補者になった通知がいっせいに発送されるそうだ。

裁判員にはなってはいけない人と、辞退できる人がいる。前者は、弁護士や、大学で法律学を講じる教授・准教授(専任講師や非常勤講師は対象にならないというのが変だ)等の専門家、後者は、70歳以上の人や学生等である。

ということで、もし私に通知が来ても欠格事由に該当すると回答するだけなのだが。

しかし、もし法律の専門家が裁判員になったら、他の裁判員が彼/女らの意見に引きずられるから(確かに三谷幸喜脚本・中原俊監督の映画「12人の優しい日本人」でも、弁護士だと名乗ったトヨエツ(東京サンシャインボーイズ時代に舞台でこの役をやった野仲功(ドラマ「働きマン」で嫌味な長身の同僚役)が、「映画でもこの役を俺がやっていたら、今頃トヨエツくらいブレークしてる」といっているそうである)の発言で流れが大きく変わった)、ということだが、専門家中の専門家である裁判官が3名も合議するのに、そちらに引きずられるということは考慮しないのはどう考えても矛盾である。

最高裁の広報ビデオを見た学生が、「裁判長(榎木孝明)が裁判員を誘導していた」と感想を述べていた。

このブログにも書いたとおり、私は裁判員制度に反対である。
http://blog.goo.ne.jp/otowa1962/e/2c281cde9768e584ea315a5ff12b3efd

現在、1回生(関西ではこういうのである。未だに慣れない)の入門演習を担当している。必修科目なので、10人の教員が、それぞれ10人くらいのクラスを担当し、14回の講義で2-3冊の新書を読む、という講義である。

その1冊目として裁判員関係の新書を選定し、学生に分担して発表させながら読みつつ、最高裁の広報ビデオ、陪審制を扱った映画、「裁判官は訴える」「12人の浮かれる男」などの副教材を見たり読んだりし、最終的には、3班に分かれた学生のそれぞれの班に「あるべき裁判員制度」について発表してもらう予定にしている。

最初に発表した班が、「裁判員は、一生評議の秘密を守らされ、破ったら懲役や罰金があるのに、裁判官には守秘義務はない」といったので、「裁判官にももちろん守秘義務はありますよ」と指摘したのだが、よく調べてみたら、裁判官の守秘義務は在職中のみで、しかも、サンクションは弾劾や懲戒のみ。裁判官を辞めた後は守秘義務を負わないことがわかった。

だから、最近、冤罪事件について、退官した担当裁判官が「自分は無罪という意見だったのに、評議で多数決で負けた」などと発言しても何ら処罰はなかったのであった。

以下にまとめたものを記す。

裁判員裁判における裁判官の守秘義務
1.裁判官の評議の秘密を守る義務
(1)根拠条文
裁判所法75条
第七十五条 (評議の秘密)  合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聴を許すことができる。
○2  評議は、裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない。

(2)罰則   なし
ただし、弾劾裁判によって罷免されたり、懲戒処分を受けたりすることがある。
憲法第六十四条  国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
○2  弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。
裁判所法
第四十九条 (懲戒)  裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。

しかし、退職後の義務違反に対してはサンクションがない。

(3)国家公務員法
なお、国家公務員法100条は守秘義務について定め、109条1項12号はその違反について、1年以下の懲役または50万円以下の罰金を定めているが、裁判官は、国家公務員法の適用を受ける一般公務員ではない(国家公務員法2条3項13号、同4項)ので、これは適用されない。

(4)刑法
また、裁判官は、刑法134条の秘密漏洩罪の対象にもなっていない。
(秘密漏示)
第百三十四条  医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2  宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときも、前項と同様とする。

2.裁判官以外の者
(1)裁判員 終生の守秘義務。違反したら6か月以下の懲役または50万円以下の罰金 (裁判員法108条)
(2)調停委員
民事調停法
(評議の秘密を漏らす罪)
第三十七条  民事調停委員又は民事調停委員であつた者が正当な事由がなく評議の経過又は調停主任若しくは民事調停委員の意見若しくはその多少の数を漏らしたときは、三十万円以下の罰金に処する。
(人の秘密を漏らす罪)
第三十八条  民事調停委員又は民事調停委員であつた者が正当な事由がなくその職務上取り扱つたことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

家事審判法
第三十条  家事調停委員又は家事調停委員であつた者が正当な事由がなく評議の経過又は家事審判官、家事調停官若しくは家事調停委員の意見若しくはその多少の数を漏らしたときは、三十万円以下の罰金に処する。
○2  参与員又は参与員であつた者が正当な事由がなく家事審判官又は参与員の意見を漏らしたときも、前項と同様である。
第三十一条  参与員、家事調停委員又はこれらの職に在つた者が正当な事由がなくその職務上取り扱つたことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

3.なぜ、裁判官のみ特別扱いか
裁判官の独立は憲法上保障されている
第七十六条  すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
○2  特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
○3  すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
第七十七条  最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
○2  検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。
○3  最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
第七十八条  裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。

裁判所法
第四十八条 (身分の保障)  裁判官は、公の弾劾又は国民の審査に関する法律による場合及び別に法律で定めるところにより心身の故障のために職務を執ることができないと裁判された場合を除いては、その意思に反して、免官、転官、転所、職務の停止又は報酬の減額をされることはない。

国民の司法参加のような場面では罰則により評議の秘密を担保し、裁判官(相当程度継続して在職することが想定され、職責上守秘に関する理解認識も一般に高い。また、裁判官の独立ということもある。)については分限法による懲戒または弾劾という形で担保しようとする考えが背景にあるのでは?

もちろん、次の講義で解説しておいたが、「負うた子に教えられ」という気分である。

日本裁判員制度と米国陪審制度の相違

           日本裁判員制度  米国陪審制度
裁判官が評議に参加するか   する。  しない

合議体       裁判員6名裁判官3名が原則  12名とする州が多い

量刑まで評議で決めるか  決める。  決めない。事実認定しかしな                        い。(法定刑に死刑を含む犯                        罪の場合死刑にするか否かに                        ついては意見を述べることが                        できる。Cf.映画「12人の怒                        れる男」)
決議方法 多数決(但し多数意見には裁判官一人以上の賛成が必要)原則全員一致

民事事件にも適用されるか          されない    される。

被告人は裁判官以外の参加を拒否できるか できない。 できる。                              (陪審による裁判                             は憲法で保障され                             ている人権なので                              放棄可能。ただ                             し裁判所の許可が                              いる州もある)

証拠排除の原則が厳格か(素人の予断を排除するため)
          さほど厳格でない     厳格(例:轢き逃げ後犯人が車を                      修理に出したことも証拠として提                      出できない)

争点の事前整理が可能か(裁判員を長く拘束できないため。従来の重大な犯罪に関する刑事裁判は短くても数年かかる)
事前開示制度を最近導入した。争点の整理については、「情状として主張できることが限定されて被告人に不利益」という声あり。

事前開示制度が徹底されている。(cf.映画「いとこのビニー」)

犯罪の構成要件が細分化されているか(陪審員・裁判員がその有無を判断すべき事実が予め明確か) 十分にされていない。 殺人だけでもmurder,                            voluntary manslaughter,                          involuntary manslaughterなど                       に分類され、それぞれが、第1                       級から第3級くらいまで分類さ                        れている。
 
司法取引 刑法上の犯罪にはない。 ある。刑事事件の9割は司法取引                       で決着。


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緒形拳と織本順吉

2008年11月27日 | 演劇
Mishima: A Life in Four Chapters [VHS] [Import]
Paul Schrader,Alan Poul,Chieko Schrader,Chieko Schrader,Jun Shiragi,Leonard Schrader,Yukio Mishima
メーカー情報なし
風のガーデン DVD-BOX
中井貴一,黒木メイサ
ポニーキャニオン





前にも書いたが、倉本聰は、「北の国から」に代表されるその皮相な文明批判が嫌いである。
しかし、現在放映中の「風のガーデン」は緒形拳の遺作になった作品なので、見ている。

緒形は、主人公の東京の大病院で働く麻酔科医・中井貴一の父親で富良野で在宅医療専門の開業医をしている。

20日の放送分では、在宅のガン患者・織本順吉の最期を看取る場面が出てきたが、「いつかと逆だな」と思った。

映画「MISHIMA」で、織本順吉は、緒形演じる三島ら楯の会の隊員に人質として監禁され、三島の切腹死を至近距離で目撃する益田総監を演じていたからだ。

緒形は三島由紀夫の役をもらってから、ジムに通って胸囲を5センチも厚くし、また、三島が通っていた神保町の古書店・山口書店にも、あの達筆で「三島さんのことについて教えてください」という葉書を出していた(山口書店で私はそれを見せてもらった)。

ちなみに、三島の少年時代は、「金八先生」、「翔ぶが如く」の脚本で有名な小山内美江子の長男で自殺した鷺沢萌の元夫の利重剛(そういえば、「風のガーデン」でも親友の中井に妻の看護師長・伊藤蘭を寝取られる医師役で出ている)が演じており、イメージぴったりだった。

緒形といえば、「復讐するは我にあり」の演技がすばらしかった。

また、数年前、「徹子の部屋」に朝丘雪路が出ていたとき、若い頃、貧乏な駆け出しの役者と付き合っていた話が出た。最初名は伏せられていたのに、CMの間にばらしてしまったらしく、その相手が緒形であることが、CM後には語られていた。
(緒形の訃報報道で親友として津川雅彦が何度も出てきたのは、知っていたのかもしれない)

「はなまるマーケット」でさりげなくトヨエツの失礼さを天下にさらしていたのも、うまいなあ、と感心した。(以下のエントリーを参照)

http://blog.goo.ne.jp/otowa1962/e/90fb2d491448c366632d19dfbe5fa3d6

次男直人に比べ、長男幹太は全く売れないのがかわいそうだ。10年位前、渡辺えり(劇団300の命名もそうだったが美輪明宏に言われて改名したらしい)と黒木瞳の姉妹が主人公のドラマで黒木の年下の恋人役で出ていたりしたが、黒木が「CAで若いハンサムな恋人もいる」という勝ち組の役柄(それが渡辺と対照されるのがドラマの肝)だったのに、ちっともハンサムに見えないので「親の七光って怖い」と当時思ったものだ。

今回の「風のガーデン」でも、たぶん拳の口ぞえで、中井の友人で札幌で開業している医師・布施博の医院の勤務医役でちょっとだけ出ていたけど。

それにしても、「風のガーデン」の緒形は、終末医療で多くのがん患者を看取り、これから末期がんに罹った息子・中井の死も看取るであろう役柄だ。自分自身が末期ガンを抱え、それを周囲に秘密にして演じていた気持ちはいかばかりであったろうか。

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祝!オバマ大統領誕生!!!

2008年11月06日 | profession
ハローウィンでもある誕生日が過ぎ(確かケルトの古代信仰で、翌日神々が登場するから、その日に悪魔や妖怪が一斉に出てくるという日なので、ちょっと複雑である。蒋介石も同じ誕生日である。なお、アメリカに留学した年の誕生日をメキシコで過ごしたのだが、メキシコではこの日は故人の好物などで祭壇を飾りつけ、髑髏のオブジェをおくというまるでお盆みたいな祝い方をしていた)、三島由紀夫が亡くなった年齢を超えてしまった。

改めて、短い人生の間に残した作品の質・量のすごさがわかる。それにひきかえ、私は研究者としてまだまだ半人前なのが恥ずかしい。

アナウンス効果とか、ブラッドリー効果とかが心配されていたが、オバマが勝利して本当にうれしい。

アメリカは自由と多様性=Diversityに絶対の価値を置く国だが、本音と建前の違いも激しくて、人種差別主義者も多いのに、アフリカ系を選挙で選んだのだ。(惜しむらくは、彼が、大多数のアフリカ系アメリカ人のような奴隷の子孫ではないことだが)アメリカの民主主義は死んでいなかった。

ただし、イラク戦争は泥沼化し、未曾有の金融危機にさらされ、アメリカ型の政治・経済政策の失敗と限界がかつてないほど深刻に認識され、いわばアメリカ人全員が自信を喪失し、大きな変革を望む風潮がなければ、どうなっていたかわからない。

こういうところが、アメリカには批判すべき点が多いといいつつ、アメリカを憎みきれない理由である。(「そんなにアメリカが嫌いならなぜアメリカの弁護士資格を取ったのか」などと検討違いな放言をする輩もいるが、批判するためには、国の基本になる法律を十分知っておくべきだ、と思い、40を過ぎて過酷な受験勉強をしてニューヨーク州の弁護士資格をとったのは、きちんと批判する資格を得るためでもある。もちろん、資格をとった主な理由は、前任校の法科大学院で英米法を担当することに決まったからだが)

確かにアメリカは度し難い部分のある国である。しかし、たとえば、911で家族を失いながらも、憎しみの連鎖を断ち切るための平和運動に従事する人々がいて、ひどい迫害(何回引っ越しても家の庭に汚物を投げ込まれるなどの嫌がらせをされたり、子供が学校でいじめられたりする)を受けても尚、ひるまないという事実を知ったりすると、この国の底力をつくづく感じるのだ。


もともと私はもちろん、民主党支持派だが、オバマはHarvard Law Schoolの先輩でもある。Harvard大学全体では、ケネディをはじめ8人の大統領を輩出しているが、Law Schoolは、初めてではないだろうか。

新聞の経歴欄にあった、「アフリカ系で初めてHarvard Law Reviewの編集長になった」という件について、なぜそれがわざわざ経歴に出ているか疑問の人がいるだろうから、説明する。

日本の大学の紀要は、査読がある方が珍しい(なお、前任校の法科大学院は、業績の虚偽申告の不祥事のあと、査読制を取り入れた。私は就職してから辞めるまでに発行された全ての紀要に論文を掲載した)のだが、アメリカのロースクールの紀要には全て査読がある。Harvard Law Schoolには、Harvard Law REview 以外にも、Harvard International Law Reviewなどたくさんの紀要があるが、全世界から論文が投稿され、とくにHarvard Law Reviewに掲載されることは、ものすごいstatusである。

なお、4月1日はそのパロディ版"Harvard Law Revue"が別の学生グループによって出版されるのだが、私が在学していた1992年のそれは、Harvard大学の近くで惨殺された、New England Law Schoolのフェミニズム法学を専攻する女性教授でもあり、HLS教授の妻が書いた未完の論文"A Psostmodern Feminisit Legal Manifesto"(法廷で以下に白人男性のみが優遇され、女性が差別されたものを力説したもの)を"He- Manifesto of Post-Modern Legal FEminism"という題で、「私は男狂いだ」といういような内容に書き換え、揶揄する非常識なものだったので、関係した学生が処分を受けた.

なお、このパロディ版には、47名の教授によるものをはじめ、学生や様々な市民団体からも正式な抗議文がだされたのだが、このことは、大学に於ける言論の自由についての論争に発展した。ダショーウィッツ教授がロスアンゼルス・タイムズに「リベラリスト、フェミニストの多いキャンパスではそうでない者の言論の自由は抑圧される」という記事を発表したのに対し、トライブ教授が反駁し、二人の間に論争が展開された。

また、この学生の処分が、教授採用におけるマイノリティ差別に抗議して座り込みをした学生の処分よりも軽かったことも、大きな問題になった。

HLSでは、客員教授がテニュアをとるというコースが多かったのだが、候補者がいる間に投票するのは不適切だというので、彼女/彼が母校に戻ってから投票をするルールが樹立されていたところ、HLSでテニュアが承認されたときには既に母校でテニュアをとってしまっていた、という例が多く人材流失を招くので、このルールを「投票を延期できない特別な事情がある場合は」適用しないことになったのだが、この例外の適用の仕方が、マイノリティや女性については原則通りにし、Caucasianの男性については例外として早期に投票をするというように恣意的に運用されており、そのために現にたくさんのマイノリティや女性教員がHLSでのテニュアをとり損ねているということで、学生運動が、当時かつてないほど盛り上がっており、抗議のため座り込みをする学生がいたのだった。

この機運を受け、HLSでアフリカ系として初めてテニュアをとったデレク・ベル教授が、「HLSが有色人種の女性にテニュアを与えるまで、戻ってこない」と宣言して自主的にHLSを休職してNYUで教えていたところ、HLSに来て講演を行ったりした。その休職期間の満了が迫っていたので、ベル教授がHLSの職を永遠に失いそうになっている折も折、教授会が4人ものCaucasian男性の教授にテニュアを与えたので、学生の怒りは爆発し、連日のように抗議集会が開かれたり、「Deanの回答期限まであと○日」という宇宙戦艦ヤマトのようなポスターが貼られたりしたのである。

だから、パロディ事件が起きたとき、グループ15と称する学内有志が「この事件は、個人の中傷にととどまらず、HLS全体に巣食うsexismと racismという病気の一症状ととらえるべきで、教授の採用上の差別も同根である」という声明を発表した。

また、パロディ事件の犯人の処分が、先の差別に抗議して座り込みをした学生の処分よりも明らかに軽かったのに抗議して、9人の学生がDean室で、Deanの退陣を迫って、4月6-7日に徹夜で24時間の座り込みをする事件がおき、マスコミもかけつけるほどの騒ぎになった。彼らは、その部屋のある建物の名前をとってGriswold(HLSの建物の名前は過去の偉大な学者にちなむ)9と呼ばれ、英雄視され、そのうちの1人の女子学生は、その直後の選挙で次年度のHLSの学生代表に選ばれたほどだ。

そのGriswold9の処分のための公聴会にもたくさんの学生がつめかけ、大学側と学生側にそれぞれ教授等(大学側は私も会社法を習ったVagts教授、学生側は、財産法のフィッシャー准教授と学生人権連合代表の3Lの学生)が弁護人としてつくという手続が行われた。

5月に発表された処分はWaitingという処分の中で最も軽いものだったので、9人の中に、Asian Women Student Associationで仲良くしていた中国系のルーシーが入っていたので私もほっとした。
とはいえ、こうしたことで学生が処分されるのは、1970年代以来のことだった。

こうした学生の執行部への不信は卒業式まで続き、抗議のためにガウンの袖に白いリボンを巻く(私も巻いた)学生が多く、また、本来ならひとりひとりDeanから卒業証書を手渡されるところ、それを拒否して、Deanの前を素通りして事務員から証書を手渡される手続を選んだ(そういう手続を学生の要求に応じて用意するHLSもすごい)学生もたくさんいた。私は熟考した末、恥ずかしいが、企業派遣ということもあり、個人の判断だけでそうすることが躊躇われ、Deanから受け取ったが。

「予備校のような授業をしろ」などと要求し、教科書も買わずに予備校本を授業中読んでいる日本の法科大学院の学生との、何たる違いであろうか。

Law Reviewに話をもどそう、愕くべきことは、日本なら、教員が編集委員になって編集するのを、アメリカでは、学生が編集委員になって編集・査読を行うのである。編集委員には、よほど成績が良くないとなれない。law Schoolの学生時代に「Law Reviewのeditorだった」というのは、すごい経歴ということで、必ず履歴書に書かれるので、学生はみななりたいが、成績による厳しい選抜がある。編集長であったということは、事実上、オバマは首席の学生だったということだ。本当に頭の良い人なのだなと思う。

(なお、Harvard Law Schoolでは、1階でボランティアの学生が貧しい人に無料で法律相談に応じている建物の2階が、このHarvard Law Reviewの編集室だった。同じ建物の1階に弁護士報酬の払えない人々がいれば、2階には将来を既に約束された全米トップエリート中のエリートがいるという実にアメリカ的な構図だなと感じた)

アメリカのロースクールはこのように全てが成績で決まるシビアな世界だ。1年生と2年生の夏休みに学生が参加するSummer Internshipでどの法律事務所で働けるかが卒業後の進路を事実上決定するのだが、それも成績次第。この時期になると、友達のJD学生は、リクルートスーツで必死の形相で歩いていた。

オバマは、このInternshipで行ったシカゴの法律事務所で同じHLS出身の弁護士・ミシェルさんと知り合って結婚するが、首席のオバマが行くような法律事務所で弁護士をしていたミシェルさんもまちがいなく超優秀な弁護士だったのだろう。彼女(こちらは奴隷の祖先をもつアフリカ系)の両親は貧しく、奨学金を受けてHLSに行ったという苦労人でもある。演説も上手で、First Ladyとして、すばらしい仕事をするだろう。

とにかくめでたい。ついうかれて添付した写真は、9月に訪れた、若狭は小浜市のケーキ屋さん。(大統領候補者が市の名前と同じ発音だからといって、その政策なども知らずに応援するのは、いかにも植民地根性で嫌なんだが、町おこしの涙ぐましい努力に免じて。アフリカの多くの国のNativeの苗字は母音が多いものが多く、私が仕事上使っている旧姓のローマ字表記は結構同名の人がアフリカにある国にいる。また、スペイン語圏にも同じ名前があるらしく(イタリア系のスコセッシ監督の名前にも入っているが)、メキシコ旅行の際、メキシコシティの空港で、待ち合わせたガイドが、名前から私をヒスパニックだと思い込んでいてなかなか見つけてくれなかった)でも、小浜市は近来にない大名作朝ドラの「ちりとてちん」(虎様素敵!)の舞台になって十分知名度は上がったと思うのだが)

また、私を応援してくれているブログを今更見つけ、うれしかったのでリンクを貼っておく。
http://d.hatena.ne.jp/akehyon/20080428#

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