夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

不正入試事件・ばれないようにもっと巧妙な不正が行われていたのではないか?

2011年03月03日 | profession

大学入試に関する不正について連日報道されている。

私の勤務校では幸いそういう問題はなかったが、すぐ近くにある国立大学(夫の母校)・私立大学で起こったことだ。

入試は私の学生時代よりずっとチャンネルが増えていて、学部関係だけでもセンター試験、前期、後期、推薦、編入、大学院関係では博士前期が夏冬二回、博士後期が一回。

だから、出題・採点、口述試験官や監督業務が年に何回も回ってくる。

今年のことはまだ最中なので伏せるが、昨年度はセンター入試の監督が最も印象に残った。
初めて行われた英語のヒアリングのときは、一人モニターで受験生と一緒にリアルタイムで問題を解くのだが、今の私にはやさしかったが、自分が高三のときだったらかなり難しかったのではないかと感じた。英語のヒアリングについては高校教育のレベルが上がっているのだなと実感した。

男性の声で「夕食の準備ができたよ」女性の声で「ちょっと待って、もうすぐお気に入りのTV番組が始まるのよ」男性の声で「ちょっと勘弁してよ。さめるとまずくなるよ」という感じの出題があって、ジェンダー的にちゃんと配慮しているのだなと感じた。


今回のことで、いろいろと考えたことがある。

1.本当に不正に正答を得る目的なら、yahooの質問サイトに書き込んだりしないと思う。
予め頼んだ協力者(大学受験レベルの英語や数学だから、そんなに高度な知識はいらないだろう)に密かに問題を送信して解答をもらえばいいのであって、今回のようなばれやすい方法をとる必要はない。

だから、愉快犯の可能性もあるし、少なくとも、合格が目的ならけして合理的な行動ではない。

プロバイダ責任制限法では、警察から捜査のための正式な依頼があれば投稿者の個人情報をプロバイダが特定して警察に通報することが可能であるし、このような目立つことをしてばれないと思うこと自体がおかしい。

偽計業務妨害罪の構成要件に該当するのはまちがいない。

2.最も危惧されるのは、協力者に密かに問題を送信して解答をもらうという方法も可能だということが今回わかったし、その方法だとばれないので、その方法での不正なら、全国で既に多く行われていたのではないか?ということである。そして、そのような方法で合格した者はこれからも発覚することはないので、正義の観点からして非常に問題だと思う。大きな憤りを感じる。

3.携帯全盛時代になってから大学教員になって7年余、ずっと感じてきたのは、ここまで面倒なことをしなくても、もっと簡単にできる不正があるということだ。

試験中トイレに行き、個室内で携帯を使って英単語やわからない専門用語の意味を調べる,くらいなら、短時間でばれないようにできる。
携帯は電源を切ってカバンにしまってくださいと試験前に指示するし、試験中は監督官または監督補助者がトイレまで同行するが、ポケットや服の下に携帯を隠していたらわからないし、トイレの外つまり廊下(トイレ内の個室の外ではない)で待っているだけだ。多少「長いな」と思っても、「緊張しておなかの調子が悪い」可能性もあり、人権問題にもなるので理由など聞けやしない。(別にそう疑われるようなことが現実にあったという意味ではないので誤解なきよう。法学者はつい性悪説に立っていろいろな可能性を考えてしまう悪い癖があるだけ)

そこで、学部レベルで監督要領を決められる大学院入試では、今年度は会議で私が提案して携帯を机上に置かせる運用をした。

(性善説の同僚が多いので、私くらいしかそんないけずなことを思いつく者はいなかった。うちの大学は浮世離れしてると感じるほどまじめで素朴ないい子の学生が多いので致し方ないが。実際に合格して入ったうちの学生にはそんな不正をする子はいないと思う。本当に接していて癒されるなあと思うほど健気でまじめな子ばかりだ。非常に厳しい教員といわれる私だが、実は担当している学生全員がかわいくて仕方ないのである。信じてもらえないかもしれないが)

しかし、学部の入試は全学の入試委員会でそのように決めなかったため、少なくとも今のところはそうしていない。
(後期入試でどうなるかはわからないが)

今回の事件を受けてそのようにしている大学もあるようだが。

そのような不正が十分可能である以上、試験会場は、劇場のように携帯電話の電波を遮断するべきだろう。

教育機関が受験生を疑わなければならないのは悲しいことだが、まじめにやっている受験生に不公平感や不信感を抱かせないためにも、そんな牧歌的なことはもういっていられない。

現に中国や韓国は前からそうなっている。

4.最近は、受験生が情報開示請求によって、入試に関する一定の情報の公開を求めることができるようになっていて、今回の不正事件を受けて、当事者になった大学も、そうでない大学も、不正入試の有無や対策について開示を求められるだろう。それへの対処も当然大学には必要なことである。

5.「たかがカンニングじゃないか」という意見には違和感を覚える。
教育による階級上昇が可能だということが、rule of lawが浸透しているか、平等かどうかの一つの指標であり、どれほどその国の民度を高めているか、希望を与えているか、考えてほしい。

私も、貧しく、それだけでなくインテリを憎みむしろ勉強を妨害するような両親をもっていたが、「教育によって逆転できる」と信じ努力し、実際に受けた教育(米国と英国の大学院留学は勤め先から行かせてもらった)と職歴・その成果のみによって、家柄も金もコネもないのに希望する職業に就くことができた。高校卒業後親からは一切金銭的援助(自宅通学だったので大学時代食・住のみは提供されていたが,現金は学費を含め一銭もくれなかった。ほぼ毎日家庭教師をして学費・交通費・本代を稼いでいたのである)を受けていない。(世間的に大成功といえるような職業ではないかもしれないが)

最近は、ただでさえ、親の経済状況と学歴が連動するようになってきている。
学歴や格差が世代を超えて固定化される傾向になっているということだ。

橘木俊昭『日本の教育格差』に、私の出身地、東京都葛飾区が、貧困度が23区内で一番(他は足立区などが貧困度高い)、学力テストの結果も最下位という統計が出ていて、(他の区についてもその二つには有意な関連性がある)改めて自分の出自を思い知った。

ジャニーズ一演技力がある二宮和也も、「アイドルにしてはオーラがない」などといわれているが、葛飾区出身だ。私の亀有の知人の子供の通った中学の校長が昔の勤務校で彼を教えていて、「忙しい中少しでも時間があると頑張って学校に来ていて偉かった」といっているときいたが、出身地をきいて腑に落ちた。整った顔立ちで演技もうまいが今ひとつ垢抜けない感じがした寺島進も立石出身で「俺らどうせ川向こうですから」といっているのをみて「やっぱり」と思った。
勝間和代が高砂出身と知って驚愕したが、怖いくらいの上昇志向の意味がわかるような気がした。

東大生の親が金持ちなのは、私が学生だった80年代からで、とくに法学部の女子(一学年約700人中20人くらいしかいなかった)は、親が東大出、一部上場企業、キャリア官僚、医師、弁護士、教師、その中の少なくとも一つ以上に該当する人ばかりだったため(むろん、私の親はどれにもかすりもしない。その上、このブログにも以前書いたとおり、小林一茶と樋口一葉の区別もつかないほど無教養である)、そして、男の財力・知性と女の美貌が交換されるという法則に従い、その結果生まれた彼女らに美人も多かったので、私はコンプレックスの塊だった。

だから、入試が、学力に関しては、徹底的に公平に行われることの意義は、社会全体にとって非常に大きいのだということを忘れてはならないと強く思う。

6.在学生の試験等での不正についても、日本は甘いなあと常日頃思う。

試験でのカンニングとレポートの剽窃は不正という点で同等だろう。
欧米の大学では、昔から全く同等に扱われている。
後者はとくに、現在ネットなどでコピペで簡単にできるので、横行している。
にもかかわらず、学則では前者についてしか処分が明記されていないことが多い(その学期の単位全部剥奪等)。

学生による提出レポートが学者の論文まるまる全部の剽窃(もちろん出典記載なし)だったという不正を、処分するどころか、煽り、内部告発したと疑われた教員への口にするのも汚らわしい方法による嫌がらせのために利用するような卑劣なこと(だけでなく正義を担うべき法曹候補者への教育上著しい害がある)を行った法科大学院がある。

民法の授業で、判例百選に出ている関連判例を一人一件ずつ割り当てて、まとめを作成・提出させ、それを授業中に発表してもらう、提出物はレポートの一つとして成績評価の対象とする、ということをやっていたのだが、ある学生が、発表中しどろもどろになり、自ら「自分で書いたのではありません」と認めた。
教員は「他人が書いたものを引用した部分があるなら、出典を知らせるように」と簡潔に注意したが、その後何度督促しても知らせなかった。

その教員が担当する他の民法科目でも全く同じことが行われた。

教員が、調べたところ、彼の提出したレポートは、いずれも、同じ判例について,別の学者が書いた判例評釈を、TKCという学習支援用に大学院が無料で契約し使わせているデータベースから丸々コピペしたものだった。もちろん、出典については、全く書いていない。

彼は、「出典をしらせるように」と授業中いわれたことについて、「恥をかかされた」と憤り、「アカハラされた」と文科省にファックスしたり、大学にも訴えた。その学生は40歳近くで理科系の博士号をもつ研究職だそうで、論文引用ルールを知らないはずはないのに。

普通なら、当該学生の方が処分されるところだろうが、この法科大学院はむしろ、これを当該教員への嫌がらせのために悪用しようとした。というのも、その教員が、設置審査委員会への大学院設置申請において、研究科長や理事が虚偽申請(書いてもいない論文を書いたと申請)をしたことが朝日新聞に報道され、調査の結果、事実と判明し、研究科長が停職三ヶ月、理事は解任という大スキャンダルに発展した事件で、内部告発したと疑われ、それまでもありとあらゆる嫌がらせを受けていたからだ。

しかし、これがアカハラと認定されるわけがない。そこで、大学が考えた手は、ハラスメント規程にある仮処分的制度=被害者が訴えただけで、事実確認ができなくても、とりあえず加害者と被害者を隔離することが学長の独断でできるという、主にセクハラを念頭に置いた規定を使い、直ちにその教員を授業担当から外した。その科目はあと2回授業が残っていたし、次の学期にもう一科目担当しなければならなかったのにである。

担当を外すのは無期限と通告された。
こういう手口はお得意で、その数年前にも、他の国立の法科大学院に移ることになった教員二名を、割愛拒否するだけでなく、そういったとたん、教授会出席差し止め、授業やゼミも一切取り上げる、4月から移る予定なのに、無理矢理12月に辞めさせる、ということをしていた。ゼミは途中で他の教員が引き継いだので、民訴ゼミから無理矢理商法ゼミに学生は学期途中で変更させられたりしたのだ。

今度も授業担当を外されれば、いづらくなって辞めるだろうくらいに考えていたのだろう。
教員評価制度も導入されてたし。

しかし、実は、その教員はそんな腐敗した大学には絶対にいたくなかったので、完成年度終了になるその半年後に他の大学に行くことが、そのような不当な嫌がらせをされる約半年前に正式に決定していたのだった。ただ、すぐそれを大学にいうと、前記の二人の教員のような目に遭うので、次の任地校に、割愛願いを出すのを待ってもらっていたのである。ちなみに、割愛願いを出してもらうのは、授業担当を外れた10日ほど後と予定されていた。

当該教員は、最後まで授業をしたかったが、致し方なく、授業担当を外すと通告された直後、「実は4月から○○大学に行くことになっていて、もうすぐ割愛願いがくることになっているんですけど」と告げた。そのときの相手の驚き、がっかりした顔を今でも忘れられないということだ。
「それならこんな手の込んだ嫌がらせを仕組まなくてもよかったのに」というところだろう。確かに馬鹿馬鹿しい徒労である。
ハラスメントかどうかの認定については、結局調査委員会による事情聴取すら行われなかったことが、茶番であることを雄弁に物語っている。

おかげで当該教員は授業負担もなく、研究や次の職場に移る準備に専念することができたが、大学の方は、振り上げた拳を下ろすこともできず、外した民法科目の担当教員のめどはなかなかつかず、結局春休みに九州の私大から呼んだ教員に集中講義をしてもらったようだ。関係ない学生が一番迷惑だっただろう。

法曹を養成する法科大学院で、学生の不正行為を正すどころか、それを、内部告発したと疑われる教員の嫌がらせに悪用するなどということが、どれだけ悪い教育的効果があるのか、空恐ろしいことだ。


学部生が、「自分の学力ならもっといい大学に行けたのに、こんな大学にくるはずじゃなかった。全優以外では自分を許せない。期末試験に集中するため、レポートに割く時間はない」という理由で、友達のレポートを写させてもらって厳重注意処分(甘すぎると思うが)を受けたという事例も知人から聞いたことがある。(もちろん、私の現在の勤務校の話ではない)

今回の事件で逮捕された予備校生も成績は悪くなかったという。

これらの「聞いた話」を総合すると、できない子がやむを得ずというより、自分の学力に自信がある子の方が、入試や成績に関わる不正をする傾向があるようだ。

妙な全能感をもち、「できる人間は、一般ピープルの善悪を超える」とでもいうのだろうか?嘔吐を催す。


この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« テクストと身体 京都芸術造... | トップ | K2 »
最新の画像もっと見る

profession」カテゴリの最新記事