夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

小林賢太郎 劇作解体新書

2011年12月31日 | 演劇

8ヶ月ぶりの更新です。

4月に夫が東京の本省に転勤になり、ほぼ毎週末東京都行き来する生活になり、いきおい、京都にいるときはほとんど大学にいて仕事仕事、起きている時間帯に2時間以上続けて自宅にいる日がないほどなので、宅配便の再配達の指定もできない日々で、それどころではなかった。

昨年出版した中国法の研究書に続けて、来年3月に出版予定の『民法改正とアメリカ契約法』の執筆、大学から研究助成を受けての社会福祉協議会による高齢者の財産管理サービスの調査でも忙しく過ごした。

今年はだから旅行もあまり行けなかったが、夏休みに行ったコーカサス三国(アゼルバイジャン、グルジア、アルメニア)はすごく良かった。80カ国事情旅行に行き、たいていのことでは旅情も感じなくなっていたのに、日本とあまりに違う政治情勢や宗教のあり方に文字通りのカルチャー・ショックを受けた。

また、夫が香港の領事になって赴任していたときにパーティーで何度か着て以来、10年以上機会がなかった和服を着ようと、(せっかく京都に住んでいるのやし)着付け教室に通い始めたのも今年。しかし、着物は金がかかる。小金のある(実はあるわけではないのだが)キャリアウーマンがよく陥る落とし穴に自分もはまりそうだ。林真理子や群ようこのエッセイを読んで、自分だけは絶対着物に手を出さないと誓っていたのに、去年、奄美大島に旅行に行って本場の大島紬を買ってしまったことがきっかけになった。

演劇は60回くらい行ったが、なんといっても、イキウメという劇団に出会えたのが収穫だった。「散歩する侵略者」は内容はもちろん、シンプルな舞台装置の使い方の妙にもうならされたし、「太陽」の原発事故も想起させる差別の問題、異なる種類の人間が共存できるかという小野不由美の『屍鬼』とも通底するテーマ、その緊張感漂う演劇的空間の創出に圧倒された。
しかし、主演俳優の窪田道聡の偽装結婚による入管法違反・逮捕には、「こんなすごい芝居で主演する役者でも小劇団は食えない」という現実を思い知らされた。

また、演劇好きでよく情報交換する学生さんから勧められた小林賢太郎のポツネンを見に行って、その上品なユーモアのセンスにはまった。最近好きになって、夏に握手会にも行ってしまった斎藤工が移動中にラーメンズを聞いていると話しているのを聞いたのも関係あり。

秋には、彼も講師を務めた「劇作解体新書」を渋谷のゲキシネに見に行った。

○企画趣旨(cubit clubのHPより)
「劇作家本人が、自身の戯曲を徹底的に語り尽くす!
最前線クリエイターの劇作のヒミツに迫る公開講座です。

「あの劇作家のこの戯曲は、どんな経緯を経て書かれたのだろう」
「このセリフはどうやって編み出されたのだろう」
「なぜこの場面の次はあの場面なのだろう」
「あの脇役はどんな背景を背負っているのだろう」

お芝居を見ていてそんな興味が湧き上がったことはありませんか?また劇作を試みたことのある方なら、他の劇作家がどんな方法で書いているのか知りたくなることはありませんか?
この講座では人気劇作家の戯曲を毎回1本取り上げ、土田英生をナビゲーターに、ゲスト本人に徹底的に解説していただきます。1本の戯曲の生まれる過程を通し、その劇作術を解剖していきます。


ゲスト
10月17日(月)土田英生「なるべく派手な服を着る」(ナビゲーター:横山拓也)
10月21日(金)小林賢太郎「TEXT」
10月23日(日)倉持裕「鎌塚氏、放り投げる」
11月7日(月)長塚圭史「ラストショウ」
11月8日(火)ケラリーノ・サンドロヴィッチ「すべての犬は天国へ行く」
※本講座は上記各戯曲について作家自身が解説していくものです。
 事前にお読みになってご参加下さいますようお願い申し上げます。 」

通し券でないとチケットが買えなかったので、全部見に行ったが、小林さんと他の人では全然違うという感じがした。(小林さんのときは満席だったが他は空席が目立った)

その学生さんからのリクエストもあり、小林さんの回で取ったメモを以下に記す。
冒頭のような事情で、今日になってしまった。

今年の正月休みは、結婚して殆ど初めて、どこにも旅行に行かず、東京の家でゆっくりする。夫が4月には麹町・六番町に買ったマンションに引っ越すこともあり、和服を着て地元谷中を散策するつもり。

はじめに、TEXTのDVDのうち、対象になった『不透明な会話』(配布されているのもこの部分のみ)を上映。

司会(土田英生、以下、T):なぜこの作品を選んだか?

小林賢太郎(以下、K):劇作に興味ある人のための企画と聞いたので、シンプルで説明しやすく、基本的なスキルが入っているので有用。

T:ノープランで書き出すのか、緻密に計画を立てるのか?
(土田氏は今回全員にこの質問をして、小林以外はみんなノープランと聞いて自分と同じと安心していた。「小林賢太郎は完璧なプランを作るらしいですが」とその度にいって「そんなことできるわけない」とゲストと共感していた。)

K:設計図を作る。構造を頁で割る。
たとえば、このテキストだが、信号機のコントで途中で主客逆転するが、これは本当にやりたい透明人間の前振り。
理不尽な理論で説得される、というルールを先にしらせておく。なくてもいいが、脚本は説得できなければならない。

A 信号機 B透明人間

AとBの部分は、切って貼って並べると、きれいに対応するようになっている。

客にどのくらい思い出させるか、忘れさせるか(ある程度は忘れてくれないと困る)
転ドン、思い出させるというスキル。
かぶせ、角度替えでできているのがこの本

T:計算して作る?

K:自分の勘が信用できない。ボケ、かぶせ、角度がえの黄金比率がある。
実際に稽古して初めてわかることもある。台本は設計図、稽古は建築、本番はそこに住むこと。住んで初めて不具合に気づくことも。初日に気づいたことは翌日に直す。ポツネン・スポットは98公演やって98回目で初めて気づいたこともあった。完成するということはない。

T:設計図が周到すぎるのでは?

K:自分の作品は芸術作品でなく商品。金をとれるもの。①機能、②デザイン(センス)のうち、①をまず完成させる必要がある。だから、はじめは最低限のものを作る。機能美の塊。でもそれだけだと息がつまるので、前後に影響ない部分でアドリブで遊ぶ。
ノリで書くとか、何かが降りてくるとかはない。

T:降りてくるはずがない。はじめのとっかかりはどうやって考えるのか?

K:まず方向性は決める。本件は、「コントのふりした座っている漫才」というコンセプトから始めた。コントのスキルとして漫才は基本が全部詰まっていてrespectしているジャンル(次のライブは語感がテーマだった)。コントでありながら漫才の作りは今後もやりたい。発信と受信、AA'BB'表の図できる。アトリエに貼っておく。他のコントとかぶらぬようにする。

T:他のコントとの絡み方がすごい。セット無し二人だとどうしても似て見えるのに、ただの伏線ではない。納得させる力がすごい。条例のつながり方がにくい。後でつながってくるのに作家がついつい筆が滑ったように見える。

K:そう見せている。小笑いにして思い出してもらうようにする。

T:常盤=ジョバンニ、金村=カンパネルラで『銀河鉄道の夜』を下敷きにしているんですよね。同じ効果音でseparateし、透明人間と見えない金村がつながっている。

K:一人芝居が二人芝居に、二人芝居が一人芝居に、A面B面の関係、ガシャンガシャンという列車の連結音で分けている。
あえて、たとえば「今度は二人でやろうか」といった科白をあえて使わないのは、客を信頼しているから。その方が芸術性があがるという、本番直前に思いついたアイディア。

T:条例、言語禁止条例までやりきったのにパトカーの音であれ?と思うと強盗だった,どうやってそんなアイディアを?

K:そこから考えましたから。客の心の中で完成される情報を大切に。「2」といわず、「1+1」といって客の心の中に「2」を思い浮かばせる。科白はヒントに過ぎないから。

T:はじめからそうだったのか?

K:はじめの頃は、いいすぎていた。万能でありたいと思っていた。説明過多のものもやった。その中で自分に向いているのが今のやり方。

T:ペットボトルとかは、いらない脱線?

K:そうですね。起承転結の転みたいな?稽古場から発想して変えることもある。

T:どれくらいかわる?

K:台本は読み物として面白いところまでは作っている。それを大の大人が口に出せばおもしろさは上乗せされているはず。締切は守る。

T:書けない夢とか見ない?間に合わない夢。

K:見ません。(きっぱり!)夢は見るものじゃなくて叶えるものだからね。
(ここで客大いに沸く)
でも不安はありますよ。

T:自覚的なところは?

K:自分が何になりたいかはっきりさせること。二種類のTシャツや靴を並べてどちらが好きか、自分で理由を言語化する、この訓練が大事。迷ったときにパッと選べる。「何が嫌いか」と突き詰めるのは危険。大学で専攻した美術でも選択の連続だった。色の選択に理由はない。しかし、自分は突き詰めたかった。受けない理由をほじくり出す。自分の「何となく」は信用できない。

T:自分は1行目から行き当たりばったりだけど。

K:芸術家ですか?

T:全く計算無しの小林賢太郎が見てみたい!

K:面白くないぞー。

T:実生活との関連は?

K:全て作品に投影している。でも、一度納得できなかった生活上の実体験を作品に投影したら失敗した。

T:「色すらいらない」という科白は見事に透明人間に話題転換している。

K:のりしろ。不自然でなく話題転換。

T:「スーパージョッキー」も片桐君の存在必要ないよね。

K:僕の休憩時間です。

○会場からの質問コーナー(開演前に客が書いて出したものから土田氏が選択)
Q:あてがきするか?
A:する。役者の癖に合わせる。科白の音域、間、呼吸がより生きる科白回しにする。

Q:『銀河鉄道…』は最初に作ったか?
A:最後。しかし、タイトルははじめから頭にあった。『銀河鉄道の夜』を小林賢太郎がコントにしたらどうなるか、がテーマ。宮沢賢治もテキストにして、かつ、このコントがコントの手本になれという意味で、全体のタイトルTEXTを決めた。

Q:落ちを考える段階は?
A:仕組→オチ→中身

Q:スランプに陥ったことは?
A:(きっぱり)ないです。

Q:この企画になぜ参加したか?
(学生さんによると、めったに露出しないらしい)
A:土田さんですから。長いつきあいですから(私は片桐が土田の『初恋』(見に行ったけどあまり面白くなかった。平田敦子と福田転球の恵美須町のIndependent Theatreの二人芝居のホンが面白かったから見に行ったんだけど)に出たりしてるからだと思うが)

Q:その地方に合わせて考える?
A:いいえ。

Q:しゃべりすぎに気をつけているか?
A:一文字でも省けるよう努力する。

Q:これだけは譲れない創作上の条件
A:人を傷つけていないか?(でも、外国人差別ネタではNHKに苦情が殺到したのでは?)

Q:作者と演者の切り替えは?
A:30回以上やっていると舞台上にいても「明日こうしよう」と考えてしまう。

Q:短編中編長編の書き分けは?
A:してない。長編は教習所気分。

Q:今後の予定は?
A:KKPで初めて一人芝居。ラーメンズの台本を全部伏線と宛て書き先除して作り出す。


○最後の挨拶
僕はこうやるというだけの話です。ただの触媒の一つですから、皆さんは自分が一番いいと思う方法で作品を作ってください。



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